暑くて、熱い夏休みがやってきた(歓喜)2
「……杏花姉さん。私達の前にいるのは廉君で間違いないよね? いや私達が着替えさせたし、顔も体つきも匂いも廉君で間違いないけど」
「お前の言いたいことは分かる。だからこそ私も戸惑ってるんだ」
女子生徒の制服を着せられ、おまけにロングのウィッグを被された俺を頭から足先までじっくりと舐め回すようにじっくり観察される。
「……死にたい」
「「女(の子)にしか見えない」」
なんでこんな恥ずかしい格好をしなければならないんだ。
よく女子は恥ずかしがらずスカートでいられるな。こんなの布巻いてるだけだじゃん。
それに下半身スースーする。
着替え中は何度も太ももを綾先輩にまさぐられ、胸板あたりを何度もなぞられ、何より二人が密着するから色々とやばかった。
「多少化粧はしたが、こんなに変わるなんて。ここまでくるとやはり見えないところも着替えさせるべきでは」
「それは単にお前が見たいだけだろ。そもそも女ものの下着じゃはみ出る」
下着まで変えられたら自害しますからね。
「むー……せっかくこれを履いてもらおうと思ったのに」
そう言って綾先輩は真っ黒なパンティーを━━
「出さないでください! というかわざわざこのために買ってきたんですか!?」
「安心しろ廉君。君のことだからお金を気にして遠慮すると思ってな。私愛用のものを━━」
「今から三分間抱きついても何も言いませんし、抵抗しませんからその下着をしまってください」
「了解した!」
目にも留まらぬ速さで下着をしまうと、両手でがっちりと俺をホールドする。
「見た目は女の子だが、やっぱり廉君だ。抱き心地が最高。この髪と首筋の香り……私の大好きな香りだ」
鼻を俺の髪に埋めると、何度も深く呼吸をする。
その音が嫌でも耳に入ってくる。
「すー、はー……すー、はー……すまない廉君。気分が高揚した。襲ってもいいか?」
「いいわけないでしょ!」
「廉! 無事!?」
雫のダイナミックな登場で再び扉が蹴破られ、無造作に倒れる。
もうそろそろ扉を許してあげて。
「なんだ。もう解いたのか」
松本先生はつまらなさそうに見つめる。
「お姉ちゃん! 綾ちゃん! そこまでよ! すぐに廉を離し━━」
キッと睨んでいた雫は唐突にキョトンして周りを見渡す。
「廉はどこ? お姉ちゃん! 廉をどこに隠したの!」
おいおい、なにを言ってるんだ雫。
俺ならここにいるだろ。まさか女装して俺が女子生徒にしか見えないというのか?
そんなわけないよなー、ハッハッハッハッ……
「そいつが廉だ」
「嘘言っちゃダメ! どう見てもただの女の子じゃない!」
嘘だと言ってよシズクエル。
「本当だ。その証拠に綾を見ろ」
「ハァッ……ハァッ……もういいよね? ここまで抵抗しないってことは、そういうことなんだろ?」
違いますから! 一応約束守ってるだけですから! お願いだから助けてシズえもん!
「……まじ?」
「マジ」
「雫……ヘルプ」
「綾ちゃんストップ!」
助けを求める俺の声でようやく俺だと確信し、すぐに羽交い締めで綾先輩を引きはがす雫。
俺も一定の距離を取って避難する。
「な!? 離せ雫!」
「離すわけないでしょ!」
「これは同意を得て行ったものだ! なっ! 廉君」
「ええ、確かにしましたが三分経ちましたので、現時点をもちましてキャンペーンを終了させていただきます」
「そ、そんな……せ、せめてあと一舐め!」
「キャンペーン中だったとしても舐めることまでは許してませんよ」
「あ……姫華、もう、着替え、終わってる」
蹴破られた扉側から再び二人が登場。
「……すごく似合ってるね廉。いや廉ちゃん。流石男(笑)なだけある」
流調な言葉で俺の心を的確に仕留めにこないでください。
「あら廉君。とっても似合ってるわね。お人形さんみたい」
「とりあえず今撮った二十二枚の写真をすぐに消してください」
当然いうことを聞いてくれるはずもなく、消すそぶりも見せずに堂々とスマホをしまう姫華先輩。
「姫華、後でその画像を私に送ってくれ」
「貰おうとしないでください!」
「あらあら、そんなに大声出して。廉君、そんなに嫌だったの?」
「そういう趣味もないのに、誰が好き好んで着るもんですか!」
「そんなに嫌だったなんて……ごめんなさい廉君。こういう時、どんな顔をしていいのか」
「笑ってはいけないです」
俺の嫌がる姿を見てご満悦の様子の姫華先輩。
「それにしても……本当に女の子にしか見えないわね」
雫にジロジロ見られ、思わず体を隠すように腕でガードする。
「そうだね。見た目もそうだけど女の子の雫と同じ体つきだもんね。特に胸が」
「小毬先輩、喧嘩売ってるなら買いますよ?」
珍しく毒の矛先が雫に向けられ、眼鏡を異様に光らせた雫が小毬先輩を睨む。
「そんなことより、いい加減着替えていいですか?」
「そうだな。充分守谷の反応も見たことだし、そろそろ着替え──」
「生徒会のみなさーん。どこにいますかー?」
ここにいる誰でもない人の声が聞こえ背筋が凍る。
「も、もしかして……体育委員会?」
俺の問いに対して雫が時間を確認する。
「休憩に入ってから、結構時間が経ってる」
「ど、どうすんだよ!」
「別に見せればいいんじゃないか?」
さらっと黒歴史を増やせっていってますよね松本先生。
嫌です。
「とにかくここから離れなさい。こっちで適当に誤魔化しておくから」
「頼む雫!」
俺は窓を開けてそこから外へ出て隠れる。
「どこですか? ……あ、なんだ。いるじゃないですか。って、なんで扉が」
「ちょ、ちょっとぶつかったら外れちゃって!」
「そうですか、では直しておきますね」
ガシャンと扉のはまる音が聞こえる。
「もうそろそろ会議をしようと思ってみなさんを探していたんですが、始めてもいいですか?」
「え、えぇ! そうしましょうか。ね、会長」
「……あれ? 庶務の人はどこに?」
「あー……彼なら体調が悪くなったみたいで、保健室に行きました。申し訳ないですけど、彼抜きでもいいですか?」
「体調が悪いのであれば仕方ありません。では彼抜きで会議の続きをしましょうか」
必死に雫が誤魔化してくれたおかげで、教室の中から人の足音が遠ざかっていく。
こっそりと中をうかがう。
よかった、誰もいない。おまけに俺の服まで……え? 俺の服は?
急いで中に入ってすぐに探すがない。
まさかと思い教室からこっそり頭を出す。
集団の最後尾の人の手には男子の制服が。
そして女装グッズが入っていたであろう紙袋にそれを納めると、一度立ち止まって顔をこちらに向けてニヤリと笑った。
どんだけ鬼畜なんですか姫華先輩!!
「どうするどうす、あ、あわわてあわわわ時間ひゃない。ここは定番の円周率で心を落ち着かせよう。3.14……それ以外覚えてねぇ!」
教室に隠れ、深く何度も深呼吸をして落ちつかせる。
大丈夫だ廉。よく考えてみろ。
今は夏休みだ。部活をしている奴は基本部室に荷物を置くんだ。
それに見たところ教室に鞄らしきものはない。つまりここに来る人なんていないわけだ。
だから綾先輩達の会議が終わるまでここでジッとしてれば何の問題もない!
なんだ、焦る必要なんてこれっぽっちもな──
「夏休みの課題学校に忘れるなんて。最悪だ」
自分に言い聞かせてる最中、扉が開かれ気怠そうに入ってくる男子生徒。
しかもその男子生徒に見覚えがある。
眼鏡をかけた遊んでますよと言う雰囲気を醸し出しながらもアホさがにじみ出ているこいつは……祐太じゃねぇか!
よく見ればこの教室俺のクラスだし!
「ん? ……誰?」
声をかけられ思わず顔を向けてしまい、視線がぶつかる。
まずい、こんな姿見られたら一生ネタにされる!
「……あ、あの……君、ど、どどどうしたの? こ、この、クラスの子じゃないよね?」
……なんでこいつニヤついてんの? キモイぞ。
もしかして……気づいてない?
だったら……
「そ、その……忘れ物したんだけど、入る教室を間違えちゃったみたい」
高い声で小声で話すことで女性の声に近づける。
バレないためとはいえ、やってる自分自身が気持ち悪い。
「そ、そうなんだ……クソっ! どうしてこんなかわいい子をチェックしてなかったんだ」
後半の独り言が全部聞こえてるぞ。
「あの! よ、よかったらこの後、カフェでも……」
おい! 俺を誘うな!
「ごめんなさい。このあと用事があるの」
と言って、教室を出ようとしたが、祐太が道を遮る。
「じゃ、じゃあ! もう少しお話しよ!」
「それもちょっと……」
「じゃあ手だけでも握らせてください! 五秒だけでいいんで!」
おいまさか、気になった相手にはいつもこんなことしてるのか? 彼女出来なくて当たり前だ。
でもこいつの要望を通さないと教室出れそうにないし……そうだ。
「じゃあ……目……瞑ってくれる?」
「喜んで!!」
素直に目を瞑り、何か期待してるようだけど、この間に俺はスタコラサッサと教室を出ていった。
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