暑くて、熱い夏休みがやってきた(歓喜)1
前回はシリアスが混ざりましたが、今回はゼロ。終始ギャグオンリーです
今日から待望の夏休みが始まった。
白蘭学園ではセミが忙しく鳴き、太陽がグラウンドやコートで練習に励む部員達に熱を持った強い光を放つ。
比較的涼しい校舎ではあるが、それでも汗を止められないわけで。
出来ることなら学校には行きたくはなかったけど、初日から生徒会の仕事があるのだから仕方がない。
近づく体育祭のことを体育委員会と話を進め、ある程度区切りが付いたということで今はちょっとした休憩タイムというわけだ。
水分補給のため自動販売機の飲み物でのどを潤し、まだ時間があるからと俺はちょっとばかし校内を散策していた。
ふらふらと一階の廊下を歩いていると、半袖の制服に袖を通した金髪の女子生徒が目に留まった。
「姫華先輩?」
こちらに気づかないのか、外を眺めている。
ゆっくりと近づき、姫華先輩の後ろから視線の先に目を向けた。
元気よく育った雑草達があちらこちらに生い茂っている。
夏だから仕方ないとはいえ、これは育ち過ぎだろ。
「……ん?」
俺の気配に気づいた姫華先輩が振り向く。
「あら廉君」
「どうしたんですか? ぼーっと外なんか見て」
「ちょっと考えごとよ」
「考えごと?」
視線をまた雑草にやり、話を続ける姫華先輩。
「ジョソウさせたいと思ってるんだけど、でもこんなこと頼んでも誰だって嫌がるわよね」
「そんなことありませんよ!」
悩ましげな表情を浮かべている姫華先輩に俺はすぐに否定した。
この学校を支えてる生徒会の頼みを断わる人はいないだろう。
俺だったとしたら断られる可能性はあるが、人気のある他のみんなならまずそれはない。
「そう?」
「そうですよ!」
「でも、廉君は嫌、よね?」
「そんなことありませんよ。姫華先輩の頼みなら断りません」
「本当に?」
「もちろん!」
「じゃあ廉君。ジョソウしてくれる?」
早速ですか。でも言った手前断わるわけにもいかないし、そもそも断るつもりもない。
だから俺は元気良くハッキリとこう答えた。
「はい! 喜んで」
その瞬間、悩ましげだった姫華先輩は黒いオーラを纏いながらニタリと笑い、大きく息を吸い込んだ。
「廉君がジョソウしてくれるって!」
急に大声を上げられ状況がつかめないでいると、後方の教室から扉を盛大に開ける音がした。
振り向きたくはなかったが、音につられて振り向いてしまう。
「よくやった姫華!」
「計画、通り」
教室から現れたのは目を輝かせた綾先輩と自前のポテチを齧る小毬先輩。
どうして二人が? 計画通りって?
まだ状況がつかめないでいると、『ピッ!』と機械音が鳴る。
『じゃあ廉君。ジョソウしてくれる?』
『はい! 喜んで』
数十秒前の会話が流れ始め、嫌な予感がした俺は体をガチガチに緊張させて、錆びた人形のように顔を向ける。
そこには天使のような満面の笑みで、悪魔のような羽と角を生やした姫華先輩がボイスレコーダーを握っていた。
「姫華先輩。これは一体どういうことですか?」
「どういうことも何も、私が廉君にお願いをして、それを廉君が快く引き受けてくれただけよ」
じゃあなんで俺の不安を煽るような笑顔をしているんですか! 俺はただジョソウを頼まれただけ……。
「……姫華先輩」
「なぁに?」
「ジョソウって……草を取り除くって書いて『除草』ですよね」
「女の子を装うって書いて『女装』よー」
は……嵌められたああぁぁぁぁ!
「さて、自分が言ったことは守る男らしい廉君。早速着替えましょうか」
や、やばい。逃げないと。
周りを見渡すがすでに包囲網が出来てる。
希望はないのか……。
いや、俺には希望が残っている。俺は知ってるぞ! 雫が助けに来てくれるって!
「ん゛! ん゛ー! ん゛んんんん!」
教室の奥で縄に縛られ、口をガムテープで塞がれた雫を抱える松本先生を見るまでは、そんな希望を抱いてました。
「雫ー!」
「残念だったな守谷。この通り雫は手が出せない。おとなしく着替えるんだな」
自分の妹をそんな扱いにしていいんですか!?
「き、着替えません! それに男の俺が着たらただ単にキモイだけでしょ!」
「廉、大丈夫。廉は男とか言ってるけど女装すればただの女の子にしか見えないほど見た目に男らしさないから」
さらっと毒舌モードの小毬先輩に言われてしまい、足がふらつく。
「何を言う! ちゃんと廉君には子を宿すために必要な男の部分があるんだ! きっとそこは男らしい!」
「女の子がそんなこと言っちゃだめですよ!」
勝手に自信ありげに答えられ、恥ずかしい。
「守谷さっさと着替えろ」
「嫌です!」
「なら仕方ない」
雫を綾先輩に渡し、俺の首根っこを掴む。
「力づくだ」
「いやああああぁぁぁぁぁぁ!」
俺は教室に引きずり込まれ、床に投げ飛ばされる。
「いってえ! もっと優しく置いてくださいよ! というかなんで止めないんですか!」
「決まってるだろ。面白そうだから」
「面白そうってだけで自分の生徒を女装させるんで━━ちょっと服から手を離してくれませんか?」
「するわけないだろ? 今から着替えさせるんだから」
「いやああぁぁぁぁ! 教師に襲われるー!」
「人聞きの悪いことを言うな。綾みたいにお前の体なんか見て欲情するわけないだろ。だから私がお前の着替えを手伝う役になったんだからな」
「だったら止める役に立候補してくれませんかね!?」
「それでは面白くないだろ。さぁ、おとなしく私に着替えさせろ。もっとも、お前が私に力で勝てるとは思えんがな」
悔しいけど現実なんだよね。
「おや? もう抵抗しないのか?」
「もう、好きにして」
「張り合いがないな。守谷の反応を見るのが楽しいのに」
「さっさと済ませてください!」
「強気で言ってるが、緊張してるのが分かるぞ。ほら、体はガチガチだぞ」
「ちょっと待てぇい!!」
扉を蹴破るよう━━違うな。実際に扉を蹴破り、レールから外れた扉が俺達に向かって倒れてくる。
が、ギリギリ届かず、無造作に床に横たわった。
「な……なにしてるんだ綾! 危ないだろ!」
「何をしてるのか聞きたいのは私の方だ! 廉君の着替えは私がしたいと言ったのに、私じゃ廉君の初体験(女装)を忘れて別の初体験を済ませるからダメって言ったくせに! 杏花姉さんの部屋にある彼氏とイチャイチャするエッチなDVDみたいなことするつもりだったんだろ!」
「なっ!? あ、あれは、いつかくる時のための参考資料であって……待て、なぜ内容を知っている? 別のパッケージの箱と変えたから内容までわからないはずだ! なぜ知っている!?」
「廉君との実技のためだ!」
やめてください。男の前でアダルトDVDがどうこうの話はやめてください。
俺の中にある幻想の女性像がどんどん崩れていってます。
「そんなことより松本先生退いてください」
「え、あ、そうだな」
松本先生が離れ、ようやく立ち上がれる。
「松本先生、綾先輩。あまりそういうことを男の前で言わない方がいいですよ。二人共綺麗なんですから悪い男に付きまとわれます」
「あ、あぁ……」
「廉君ったら嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
松本先生は頬を少し赤らめ恥ずかしそうに頬を掻く。
一方の綾先輩は両手を頬に当て嬉恥かしそうにしていた。
「そういうことですから今後は言動に気を付けてくださいね」
俺は扉の外れたところから教室を出ようとした……が、
「こらこら。どこへ行くんだい廉君?」
「お前はこれから新しい可能性を見つけるんだぞ?」
そう言われて肩に手が置かれた。
出来ればそんな性癖が歪む可能性は一パーセントも見つけたくないんだけどなー。
「いや、これはあれですよあれ……その……あはは、は……」
俺は力いっぱい走り出した。
しかし、素早く反応した二人は俺の体にしがみ付き、耐えれない俺は再び床へ。
さらに悪いことに二人は隙間を埋めるように体にしがみ付いているせいで、布ごしから二人の立派な柔らかいものが伝わってくるわけで。
「ま、松本先生に綾先輩! は、離れてください! そのっ! む、胸が……」
「なんだ? 胸が当たっただけでそんなに反応するとはムッツリだな」
「恋愛にはトラウマ持ってますけど、一応俺も男ですからそれなりの反応はしますから!」
助けを求めようと廊下を見る。
扉が外れた場所で顔だけ出した姫華先輩と小毬先輩、それに廊下に横たわっている雫の姿が。
「た、助けて!」
藁にもすがる思いで手を伸ばすと、姫華先輩と小毬先輩が教室に入り俺の前へ。
そして姫華先輩が手を俺に伸ばす。
その行動に思わず涙を流し笑みを浮かべた俺はさらに手を伸ばした。
が、姫華先輩の手は俺の手をするりとかわし、代わりに俺の横の教室の扉に触れる。
「よかった。扉は破損してないようね。小毬ちゃんそっち持ってくれる?」
「うん……」
せっせかと扉を運び、レールに乗せて正常に動くか試すと納得した顔でまた廊下に出る。
「廉君、ガンバッ」
両手で握りこぶしを使って応援の言葉を送ると、静かに直した扉を閉めた。
絶望に抱きながら後ろを振り向く。
松本先生は不気味に、綾先輩は妖艶にニタリと笑っている。
「さぁ……お楽しみの時間だ」
「ちゃんと廉君を可愛くしてあげよう。ついでに君のホクロの数も数えてあげる」
「は、はは、ハハハハハっ! ……はぁ…………いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
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