素直で、ヤンデレな幼馴染は天然です(安堵)8
鬼ごっこの結論から言うと捕まらずに済んだ。
たまたま運良く通りがかった松本先生が間に割って入ってきてくれたため、みんな止めざるをえなかった。
これで一安心。かと思ったが、廊下を走っていたことに怒っていたため俺ももれなく拳骨を食らったわけだ。
あの人は手加減を知らないのか。おかげで触ってわかるほどのタンコブが出来てしまい、アルバイト中も気になってしょうがない。
「れっちゃんどうしたの?」
「ちょっと頭を打っちゃって」
流石に担任の先生に殴られたと言うと、お客さんが体罰と勘違いして連絡入れられそうなので、あえて言い換えておく。
体罰ではあるかもしれないが、ある意味俺達と松本先生のコミュニケーションみたいなものなんだし。
それで周りにとやかく言われたくはない。
「そう。ならおねえちゃんに任せて」
そう言って美鶴さんは患部に触れると優しく撫でる。
「いたいのいたいのとんでけー」
触れていた手を高く上げて虚空を見つめる。
その姿を俺はあえて黙って観察した。
「……れっちゃん」
「なんですか?」
「恥ずかしい」
でしょうね。
相手が小学生ぐらいなら微笑ましいが、大学生が高校生にまじないをする姿は痛々しい。
「いつもなられっちゃんがツッコんでくれるのに。私に飽きちゃったの? 私達の関係を終わらせちゃうの?」
「俺が塩対応だからって誤解する言い回しするの止めてもらえますか! それに関係って、先輩後輩以上の関係になったつもりはありません!」
「ようやくツッコんでくれた。そうでなくちゃ」
無表情でサムズアップしている。
この人が女性でなければ、先輩だろうが殴ってたよ。
「それとれっちゃん」
「今度はなんですか。弟にはならないですよ」
「いずれなるからそこは問題ない」
その発言は俺にとって大問題。
「私が何が言いたいかわかってるんでしょ?」
そう言ってレジ横のカウンターを指差しているのだろうが俺は顔を動かさない。
「あの子は何? ずっとこっち見てるけど」
やっぱり無視してくれないですよね。分かりましたよ。ちゃんと見ますよ。
レジ横のカウンターに視線を向ける。
指先をカウンターに引っ掛けながら顎を乗せている沙耶未。
小動物を彷彿とさせる姿で俺が構ってくれるのを待っていたのか、俺がちゃんと目視しただけでパァーッと笑顔の花を咲かせて目を輝かせている。
その喜びようは幻覚で犬の尻尾らしきものがブンブンと振っているのが見えるほどだ。
「知らない子ですね」
「でも」
「れーん! れーん! 遊びに来たよ!」
「子犬みたいにすごく懐いてるように見えるよ」
美鶴さんは指差すのはやめるがチラチラと沙耶未の様子をうかがっている。
一方の俺は無視を決め込もうかと思ったが、
「れーん! れーん! ヤッホー! ウチだよ! 沙耶未だよ! れーん! れーん! るぅぅええええん!!」
お客さんの目が痛い。
さっさとこいつを追い出したほうがよさそうだ。
「うるせぇ! 店の迷惑になるだろ!」
「やっと反応してくれた!」
君は嬉しそうだね。俺は目に見えて怒ってるはずのに。
「綾さんの言う通りだ。ここで働いてたんだね。つい廉の働く姿が見たくて来ちゃった」
「ああ、そりゃよかったな俺がここで働いてるのが確認出来て。さ、目的は達成したんだ。あと一分で村に帰還しますってアナウンスが流れてるのが聞こえてるはずだからさっさと帰れ」
「よく分かんないけど……ヤッ!」
子供かこいつは。
「れっちゃん。今はクエストが終わっても継続してフィールドにいられるんだよ」
わざわざそんな細かいとこ修正しないでください。
「で、この子は? 知らない子ってさっきは言ってたけど」
「知らない、子?」
美鶴さんから聞いた言葉を復唱する沙耶未は次第に目が潤んでいく。
これはまずい。
「知ら、ない、子。ウチは、廉にとって、知らない子なの? ウチと幼馴染が、そんなに嫌なんだ」
「あ、いや。違くてだな」
「れっちゃん」
なだめようとしたところで、後方からプレッシャーを放ちながら低い声で美鶴さんが俺を呼ぶ。
恐る恐る振り向くと、無表情のまま青筋を立てた美鶴さんが睨んでいた。
俺よりも少しだけ背が高いだけのはずなのに、今はとても大きく感じる。
「私はれっちゃんを弟にしたいほど溺愛してるよ。だからといって、まったく怒れないわけじゃないから」
はいそれは今とても実感しております。
「それでれっちゃん。女の子を泣かせておいて何もしないわけじゃないよね?」
「ち、ちゃんと謝ります!」
「よろしい」
美鶴さんって、怒ると怖いな。
泣くのを必死にこらえてる沙耶未に寄り、優しく話しかける。
「沙耶未、悪かった。別にお前と幼馴染が嫌とかじゃないから」
「本当?」
「あぁ、お前は大事な幼馴染だ。嫌なわけないだろ」
「そっか。よかった」
安心したらしく、沙耶未は涙を拭ってニコッと笑ってみせる。
「仲直り出来て良かった。あまり女の子泣かせちゃダメだよ」
さっきまでのプレッシャーが抜けた美鶴さんがいつもの調子で話しかけてきた。
「改めて、その子は?」
「こいつは━━」
「初めまして! 佐竹沙耶未です! 将来は廉のお嫁さんになる予定です」
元気よくそう答える沙耶未。
俺の周りはどうしてこんなにもややこしいことになるように話を進めるのかな。
「お嫁さん? れっちゃんどういうことなの? 前は彼女と言ってた生徒会長。今度はお嫁さん予定の幼馴染。このままだと舞ちゃんが愛人枠になっちゃう」
どこの心配してるんだこの人。
そしてそれでいいのか自称姉。
「廉、舞ちゃんって、舞さんのこと? どういうことかなー」
あれー? 今度は別の方向からのプレッシャーを感じるなー。
「勝手に美鶴さんが言ってるだけで、水原先輩は俺のことは仲のいい後輩程度にしか思ってないから」
「「え?」」
「え?」
俺は事実を言っただけなのに、なぜか二人は首を傾げた。
俺もそれを見て首を傾げる。
「……まぁいいや。今のところ舞さんとは何もないんだね」
「今も何も、そんな予定はない」
「はぁ、これはまずいね舞ちゃん」
美鶴さんは呆れた様子。
どうして呆れているのか俺に分かるはずもなく、疑問符が浮かぶばかり。
「それならもういいよ」
「そうしてくれるとありがたいよ。それといい加減ちゃんと立て。下着が見えるぞ」
「それは心配しなくてもいいよ。見られても変なやつじゃないから。今日はお気に入りの白のレー━━」
それ以上言葉を発せさせないため沙耶未の頭上から垂直に拳骨を振り落とす。
「いったああああい!!」
「アホかお前! 店の中でいきなり自分がはいてるパンツを公開すんじゃねえ!」
「アホじゃないもん!」
お前みたいな奴がアホじゃないなら、この世にアホって定義がされないからな。
怒ったついでに周りの野郎どもを睨みつける。
鼻の下を伸ばして沙耶未の尻を見ていた奴らは俺に気がつき、そそくさと俺の視界から消えていく。
「れっちゃん。あの人達も一応お客さん」
「分かってます。これ以上何かしませんよ」
美鶴さんから軽い注意を受けたので、心を入れ替える。
「俺も仕事があるんだ。買うならさっさと買ってこい」
「分かってるよ」
ぶすっとしている沙耶未は教材のあるコーナーへと進む。
「中々面白い子だね」
「俺は大変ですけど」
予約された本の整理や、取り置きしたお客の来店時間の確認、小銭の補充など、溜まった仕事を片付けながらしばらくレジ内いると、二冊の本を抱えた沙耶未が満足気にやってきた。
「なんだ、買う本が決まったのか」
「うん! この二冊があれば英語は完璧!」
そう言って沙耶未は本を二冊レジカウンターに置き、俺が受け取る。
「……沙耶未。これのタイトル声を出して読んでみろ」
「え? なんで?」
「いいから」
「廉が言うなら」
本を返し、沙耶未がタイトルを読み上げる。
「『これでバッチリ記憶! 英単語を覚えるコツ』。それでこっちが『英単語なんて覚えるな! 英語力を鍛える新たな方法』」
「何か違和感はないか?」
……オーケー、その目は全然気がついてないんだな。
別にいいんだ、お前がいいなら。
「れっちゃん。この子、結構変わってるね」
俺から言わせてもらえば、あなたも充分変わり者です。
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