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素直で、ヤンデレな幼馴染は天然です(安堵)1

「……それで、なんでこんなことしたんだ?」


 俺は腕を組みながら、道の上で正座させている幼馴染の佐竹さたけ沙耶未を見下ろす。


「ゔええぇぇぇぇん! 廉がぶっだああぁぁぁぁ! 小石が膝にめり込んでいだいよおおぉぉぉぉ!」


 小さな子供のように泣きじゃくる沙耶未。

 久しぶり会って、大人びていると感心していたが、やはり人はそうそう変われないらしい。

 なに一つ変わらない俺の知っている沙耶未だった。


「いいから答えろ。久しぶりの再会で、なんでこんなこと、し・た・ん・だ!」


 語尾を強めて改めて聞くと、必死に泣くのをやめて答えようとする。


「だって、廉はヤンデレが好きだって言ってたから。だから廉と離れ離れになってから()()は頑張ってヤンデレの子のこと勉強して、今度廉に会ったら喜んでもらおうと……」


 たしかに中学で一時期ヤンデレの子は可愛いと思ってた時期はあったけど、今は特に好きというわけではない。

 むしろそれ一歩手前ぐらいの人に付きまとわれて、「可愛い女の子に一途に思われていいなー」と考えた過去の俺にやめておけと忠告したいほどだ。

 漫画の主人公が逃げたくなるのも無理はない。


「まさかそのために一人称まで変えたのか?」

「だって……どの子もウチみたいに自分のこと『ウチ』って呼んでなかったから……」


 律儀なのか、ただのアホなのか……


「とりあえず、お前がヤンデレになろうとしたのはよく分かった。だが現実でナイフを突き刺さすなアホ!」

「だから痛くないように刃が引っ込むおもちゃのナイフを使ったじゃん!」


 おもちゃのナイフだろうが、全速力で懐に入り込んで突いたら痛いんだよ!


「もう一つ質問。お前なんでここにいるんだ」

「それはこっちのセリフだよ。昨日たまたま廉がスーパーから出てくるのを見つけて驚いちゃった。それで、もしかしたら近くの学校に通ってるんじゃないかと思って、探しちゃったの」


 ということはたまたま偶然、沙耶未が引っ越した先に俺がやってきたわけか。

 どんな確率だよ。


「……ねぇ、もう反省してるから、立ってもいい?」

「あぁ、いいぞ」


 俺が言うのもおかしいが、別に俺が正座しろと言ったからって、素直に聞き入れる必要なんてないと思うぞ。

 一応この時間帯は人があまり通らないから、俺への冷ややかな視線はない。

 ……なんで知ってるかって? 知ってるとストーカーの対策に役立つから。


「うー……小石が、痛い。せっかくヤンデレの勉強して廉を喜ばせようと思ったのに」


 そう言って、脚に付いた小石を払う沙耶未。

 幼稚園からの付き合いだからこいつのことはよく知っている。

 勉強はそこそこ。運動も特別苦手というわけでもない。

 ただ、素直で天然アホだった。

 明るい性格で、クラスメイトとから可愛がられていたのをよく覚えている。

 中学に上がってからも変わらない性格のままだったが、親の都合で転校した。

 ちょっとした理由で連絡をしていなかったが、それでも明るいこいつがどちらかというと暗いイメージのあるヤンデレになるなんてありえない。


「言っとくけど、今はそんなに好きじゃないからな。そもそもお前にそんな素質は微塵もない」

「そんなことないよ! だってヤンデレって、好きな人のためならなんだってするほど、その人が好きになっちゃうんでしょ?」


 うーん……まぁ、間違ってはいない。


「つまり! 廉が大好きなウチはヤンデレ! 廉の理想の女の子!」


 うん、それは違う。


「なんで俺の理想になろうとしてんだよ」


 そう言うと、沙耶未は不思議そうに小首を傾げた後、笑顔の花を咲かせた。


「だって、廉の彼女になりたいんだもん!」


 あぁ……やっぱりか。いややっぱりも何も、最初からそんな態度だったけど。

 出来ればその思いだけは変わっていてほしかった。

 沙耶未に告白されたのは中学一年の終わり頃だったかな。

 でも当時の俺は気になる子がいたために告白を断った。

 そして俺達が進級する前に、沙耶未は転校。

 そんなこともあり、俺は今日まで沙耶未との連絡をしていなかった。


「もしかして、彼女……いるの?」


 不安そうな顔でこちらを見つめる沙耶未。

 ここで嘘でも「そうだ」と言えば、きっと沙耶未は引き下がる。

 でも、男としてそんな不誠実なことをしていいのだろうか?


「……いや、いない」


 そんなことしていいはずもない。だから……


「なら!」

「でも、俺はお前と付き合えない」


 俺の本心を話す。


「小さい頃から一緒にいるから、お前を兄妹のようにしか思えないんだ。それに、彼女を作る気もないんだ。だから……ごめん」

「そんな……」


 仲が悪いわけじゃない。

 近すぎたために俺は異性として沙耶未を見れなくっていた。

 沙耶未には悪いけど、これが俺の本心だ。


「まさか、廉がウチのことを……しっかり者のお姉ちゃんとしか見れていなかったなんて!」


 おーい、誰もそんなこと言ってないぞー。

 それに当時のお前、俺の妹よりも精神年齢低かったぞー。

 中学生の頃、沙耶未が泣いた時の対処方法が飴玉をあげるだったぞー。

 まだ美鶴さんが俺の姉という方が納得が──なんだ、今の悪寒。

 これ以上考えたら誰かの弟にされそうな感覚は一体……

 と、いけない。今はシリアスな場面だ。


「……それに、廉は彼女作りたくないんだよね?」


 その問いに俺は首を縦に振る。


「じゃあ……しょうがないね」


 泣きそうな顔で笑顔を作る沙耶未。

 あの時もそうだ。

 俺に断られて、同じように沙耶未は答えたんだ。


「でも、一つだけお願い。久々に会った記念に、抱きしめてほしいな」


 俺が沙耶未にしたことと比べれば小さなお願いだ。

 断るなんてことはしない。

 俺はそっと沙耶未を腕の中に収めた。


「ありがとう。もうこれで、廉のことはあき──」


 何かを言おうとしたが沙耶未は言葉を止める。


「……ねぇ。たしか彼女を作る気はないって、言ったよね?」

「え? あ、まぁ、言ったな」

「なんで廉の服から女の子の匂いがするの?」


 少し身体を離し、俺と視線をぶつける沙耶未。

 その瞳は先ほどまで明るく、透き通っていたはずなのに、今は光を飲み込みそうなほど濁っている。


「いや、そりゃ、学校に行ってたんだから、それぐらいは……」

「ふーん……でも、四人……いや、五人の女の匂いがする」


 沙耶未? ねぇ沙耶未さん? さっきまでの感情豊かで太陽みたいな沙耶未さんはどこに行ったのかな?

 声色も表情も氷みたいに冷たいよ?


「沙耶未、どうしたん──」

「一人は大人っぽい匂いだから……先生かな。でも他の人は違う。一人は特に匂いが強い。抱きつかないとこんなに匂いは付かないよ?」


 綾先輩だ。絶対そうだ。

 生徒会室に入った時に、不意打ちで抱きしめられたし、綾先輩に違いない。


「彼女はいらないって言ったのに、なんでこんな匂いしてるの? なんで? なんでなんで? ねぇなんでなんで? 怒らないから教えてよ。なんでなんで?」


 沙耶未、俺はお前のことを見誤っていたよ。

 君はヤンデレになれる。

 ……だから俺の袖を強く握らないで! 揺らさないで! 虚ろな目のまま笑わないで! 

 俺の幼馴染が怖いよー!

 事情話したら何かされそうだよー!


「落ち着けって沙耶未。な?」

「どうしてどうしてどうしてどうして──」


 ダメだ。行ってはいない世界に入り込んでる。

 どうすれば……ああ、心を落ち着かせたい。小毬先輩撫でたい。

 ……小毬先輩?

 小毬先輩……お菓子……そうだ! 今日小毬先輩にあげようと思って、あげ忘れた飴玉があったはず!

 俺は鞄の中に手を入れ、袋を開けて小袋に入った飴玉を摘む。

 そしてそれを指ごと沙耶未の口の中に入れ、親指と人差し指で袋の側面を押す。

 圧力による、パンッ! という破裂音と共に飴玉が沙耶未の口の中に発射された。


「むぐっ!?」


 誤飲しないように袋を口から引っ張り出す。

 どうだ? 治ったか?

 でももう飴玉で喜ぶ歳じゃ──


「おいひい〜」


 喜んじゃったよ。さっきまでの表情が嘘のようだよ。

 って、呆れてる場合じゃない。

 さっさと逃げよう。


「じゃあな沙耶未お前に会えてよかったよまたどこかで会おうな!」


 一息で早口で別れを告げて全速前進だぁ!


「ふふっ……あ、廉、ちょっと」


 沙耶未の制止する声が後方で聞こえるも俺が止まることはなかった。

読んでくださりありがとうございます!

感想・誤字等ありましたら気軽に書いてください!

「面白かった」など短くても結構です!


「容姿端麗、文武両道な生徒会長は俺のストーカーではない(願望)」はダッシュエックス文庫で発売中!


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