淑女で、紳士な二人は生徒会長の両親です(絶望)10
元次さんの宣言通り、晩ご飯は元次さんが全て払い、自宅まで車で送ってくれた。
車を降りた俺はお礼とお辞儀をしてから自室に入る。
そしてすぐに元次さんに教わった、盗聴器や隠しカメラがありそうな場所を徹底的に調べた。
幸い変な機械は見つからなかったのでとりあえず一安心。
その後はこれといった特別なことはせずに就寝し、次の日を迎えた。
朝からアルバイトが入っていたため朝食と身支度を済ませて出かける。
もう七月ということもあり太陽の光が過剰に俺の体を熱し、さらにセミの合唱が暑さを倍増させた。
一刻も早く避暑地へ避難するべく、アルバイト先に駆け込む。
店の中はすでに冷房が効いており、熱くなった体を冷気が包み込み、冷ましてくれる。
「れっちゃん、おはよう」
「おはようございます」
誰よりも早く作業を始めている滝本さんに挨拶をしてから休憩室へ。
中には着替えが済んだ美鶴さんが椅子に腰を掛けていた。
「おはようございます美鶴さん」
「ん、おはようれっちゃん」
ロッカーから制服を取り出し、隣の部屋で着替える。
その後、服と荷物をロッカーにしまってから一旦椅子に座り、移動の疲れを癒す。
「外暑かったでしょ」
「ええ、歩きにはつらいです」
襟元をパタつかせ、まだ汗で濡れている体に風を送る。
「美鶴さんは車で来てるんですよね。いいですねー」
「なら私が送ってあげようか?」
「いいですね。そうしてくれるとありがたいです」
「じゃあ早速送り迎えの相談だけど今週のれっちゃんの出勤日は私と同じ曜日だったよね。ということはこの時間とこの時間の講義を受けてるとれっちゃんを迎えに行けないから自主休講して。あ、この日テス──ま、いっか。単位よりも弟のれっちゃんと過ごす時間の方が大切」
「いや冗談ですから!」
なんでこの人は他人の俺中心で予定を組もうとするの!?
「遠慮しなくていいから。お姉ちゃんに任せて」
この人目がマジだ!
「遠慮とかしてないです! そもそも自転車買うつもりなんで大丈夫です!」
引っ越してから数ヶ月、自転車がないことの不便さは何度も味わってきた。
でも結構お金がかかるし、まだ大丈夫と考えていた。
しかし暑くなってからは体力の消耗が激しくなるわけで。
そして数日前、とうとう我慢の限界を超え、今日のバイト終わったら自転車屋に行こうと考えていた。
「そう……なら私が買ってあげる」
「えっ!?」
こちらとしてはありがたい! ……と言いたいところだが、自転車は安くはない。
「いいです! 自転車は自分で買いますよ!」
「遠慮しないで大丈夫。お姉ちゃんが払ってあげる。だから一週間、私のこと『おねえちゃん』って呼んで」
「ならなおさら結構です」
どうせそんなことだろうと思ったよ。
交渉が失敗するとは微塵にも思ってなかったのか、美鶴さんは目を見開いて驚いていた。
「なん、だと……」
「いや、今までの俺とのやりとり思い出せば予想出来ましたよね」
「じ、じゃあ……一緒に自転車屋に行かせて」
「一緒にですか?」
弟と買い物する疑似体験したいのだろうか。
それぐらいならまだ──
「それで防犯登録の名前を私にして、姉のお古を弟が使ってるような気分にさせて!」
「警察官に呼び止められるたびに美鶴さんに連絡しないといけなくなるんで、絶・対、嫌です」
「お願いれっちゃん! 頭撫でてあげたり、膝枕してあげたり、耳かきしてあげるから!」
「それ全部美鶴さんの願望でしょ!」
美鶴さんとの会話の攻防がヒートアップし始めたその時、休憩室の扉が開く。
「おはようございま──何してるんだお前達」
同じ時間のシフトに入っていた男女の先輩が呆れた様子で俺達を見ている。
「美鶴さんが!」
「れっちゃんが!」
「百鳥、あんまり守谷に迷惑かけるな」
「そうだよみーちゃん。れっちゃんが可愛いくて弟にしたいからってワガママは」
「事情聞かずにこの言い方。私、信用されてないんだね」
俺と会うたびに似たようなこと言ってたら、そりゃみんな同じ対応になりますよ。
それに事実じゃないですか。
と、こんなやりとりをしているうちにもう出勤時間になるわけで。
すぐに業務に取り掛かる。
「お疲れ様でした!」
本日の退勤時間である十五時を迎えたので、滝本さんに挨拶をする。
「お疲れさまれっちゃん!」
「この後は自転車屋に行くんだよね。さ、おねえちゃんと一緒に──」
「こらー、みーちゃん? まだみーちゃんの退勤時間じゃないでしょ?」
首根っこ掴まれ引きづられていく美鶴さんを尻目に休憩室へ。
着替えたらそのまま自転車屋へと向かう。
外はまだ暑く、目的地まで行くとなると少し躊躇いが生じる。
が、帰りには風を感じながら疾走出来る。そう思うと躊躇いも消えた。
スマホのマップで確認しながら歩き始める俺。
マップ通りに進み、次の角を曲がれば自転車屋が見えるはず。が……
「きゃっ! ……」
角を曲がると女性とぶつかってしまった。幸いお互い転んではいない。
「す、すいません! 大丈夫──」
謝罪しようとしたが、相手の顔を見た俺は言葉を飲み込み、顔が強張った。
「あら? あらあら! 守谷君!」
昨日会ったばかりの明美さんが俺を見るや否や嬉しそうな表情を浮かべる。
「あ、明美さん……」
「そんな他人行儀な呼び方じゃなくて、『お義母さん』って呼んでもいいわよ」
呼びません! 呼ぶ予定すら作りません!
「守谷君はアルバイトの帰り? でも、綾から聞いた話だと帰り道はこっちじゃないはずだけど」
すでに俺の個人情報共有済みかよ!
「ちょ、ちょっと自転車を買いに……」
「あらそう……ねぇ守谷君。用事が済んだらお茶でもしない? もちろん私の奢りで」
正直言って誘いに乗るのはリスクが高すぎる。
だけど、綾先輩のことはもちろん、明美さんがどんな人なのかを知るにはいいのかもしれない。
俺はこの誘いを受けることにした。
「いいですよ」
「よかった」
まずは用事を済ませるために自転車屋に。
「すぐに済ませるんで待っててください」
「ゆっくりでいいわよ」
と言われたが、待たせるのも悪いのでやはりすぐに済ませよう。
そもそも派手な自転車を買うつもりはなく、カゴがついているママチャリを買うつもりだ。
色もよく見かけるシルバーのものを選ぶ。
「すいません、これください」
「はいはい、ちょっと待ってねー」
奥からこの店の店主らしきおじさんが陽気な口調で対応する。
「えーっと一万二千八百円だね。それと防犯登録の手続きが五百円」
「お願いします」
財布から二万円を取り出しそのまま店主に渡す。
「確かに」
二万円を持って店の奥に行き、レジを打ち始める。
一気に二万円が財布からなくなるのは心臓に痛すぎだな、と思いながら俺もレジに。
「はい、お待たせしました。お釣りの六千七百円。それでこの枠線の中全部記入してね」
お釣りを受け取り、言われた通りに用紙の枠内を記入し、その用紙を渡す。
「あと身分証も見せてくれる?」
身分証明出来るものは……学生証で大丈夫かな?
「えーっと……おっ! 君、白蘭学園の子かい!」
「え、えぇ」
「そうかいそうかい! ウチは修理もやってるから、何かあったら持ってきて! サービスするから」
「あ、ありがとうございます」
店主のテンションにイマイチ合わせられないまま自転車を受け取る。
「また来てねー」
気さくな店主にお辞儀をし、店外へ。
「もう済んだの?」
「そんなにこだわりないんで。それでどこでお茶するんですか?」
「ふふっ、もう決めてあるわ。さ、行きましょう」
「はい……あ、待ってください!」
歩き出そうとした明美さんを呼び止め、明美さんが肩にかけているバッグを見る。
「その前に。よければカゴの中にバッグをいれてください」
バッグに視線を落としてからにっこりと明美さんが笑う。
「気遣いが出来る子なのね。さすが私の娘。見る目があるわ」
そう言って型崩れしないようにカゴの中にバッグを入れ、改めて歩き出す。
しばらく歩いていると、見覚えのある道に出た。
その道は以前に綾先輩と通った道。確かその時は喫茶店に……
「ここよ」
明美さんが立ち止まったのは、アンティークな喫茶店。前に綾先輩と来た店だ。
「ここって……」
「前に綾と来てるんでしょ? ここ、あの子のお気に入りのお店だから」
明美さんが入店し、俺も続いて入る。
前回と同様に席に案内され、注文を聞かれると、前回と同じくカフェオレを頼む。
明美さんはブラックを頼んだ。
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