淑女で、紳士な二人は生徒会長の両親です(絶望)7
「もうこんな時間」
初めに時間に気が付いた雫に続き、俺達も時間を確認する。
「もうそろそろお開きだな」
「えーもう少し遊べないの?」
水原先輩はまだ遊び足りないようだが、他の人はそうもいかない様子。
「もう、つか、れた」
「ごめんなさい。この後家族で外食する約束してるの」
「私も早く帰ってくるように言われてて」
と、申し訳なさそうに言われてしまい、水原先輩はおとなしく引き下がる。
「しょうがないか」
今日は帰ることになり、ユオンを出て、駅に向かう。
しばらく歩くと各々が今日の感想を呟き始める。
「映画見て、昼食食べて、クレープも食べて、ゲーセン、ショッピング……意外と遊んだわね」
「そうね。とても楽しかったわ。ありがとうね舞さん」
指折りしている水原先輩の両肩に手を添える姫華先輩は満足した表情を浮かべている。
「クレープ、美味、だった」
「みんなとこうして遊べて楽しかったです。また遊び――あっ!」
何かを思い出した雫が声を上げ、俺達は歩くのを止める。
やってしまったといった表情で雫は額辺りに掌を当ててた。
「どうしたんだ?」
「今日、私達がここに来た目的は?」
そんなの遊びに――いや待てよ。違うな。遊びはついでだったような……
思い出せないでいると、全員が一通のメールを受信する。
送り主は松本先生。
内容は「みんな楽しめたか? 買った備品はレシートと一緒に袋に入れておけ。あと課題もしっかりやるように」とのこと。
しまった。完全に忘れてた……
今回の課題結構多かったんだった。松本先生ももう少し減らしてくれればいいものを。あ、今はこの心配をしてる場合じゃなかった。
「そうだった。備品の買い出し、忘れてた」
すでに駅の前。今から戻るのも正直怠い。
みんなも遊び疲れたのか、メールを確認してから苦い顔を浮かべている。
「どうする綾ちゃん? 戻る?」
雫が聞くと、買い物リストをポケットから取り出し、にらめっこをしてから綾先輩が口を開く。
「……仕方ない。私が買いに戻る」
「なら私達も……」
姫華先輩もついていこうとするが、綾先輩に片手を突き出され、立ち止まった。
「姫華達は早く帰るんだろ?」
「ならあたしが」
水原先輩も残ろうとするが、これも綾先輩は拒否する。
「疲れているだろ。それにリストに載ってるものも多くない。一人で充分だ」
それ以上俺達の声を聞こうとはせず、来た道を戻っていった。
あの人はどうして自分を犠牲にして俺達を楽させようとするかな。まったく……
「水原先輩達は先に帰っててください。俺が手伝ってきます」
綾先輩の後を追う。
すぐに追いつくと、綾先輩は溜息をついて俺を見つめている。
「廉君。来てくれるのは嬉しいが、私一人でも充分だと言っただろ」
リストをひらひらさせて主張しているので、綾先輩よりも深い溜息を吐く。
「……知ってますからね? 買うものが両手が塞がるほどあること。目安箱作るのに少ないわけないじゃないですか」
「……バレてたか」
もう追い返そうとはしないのか、また歩き始める綾先輩の後ろをついていく。
「なんで一人でやろうとするんです。みんなに協力してもらえばいいじゃないですか」
「忘れていたのは私の責任だ。それに……」
「それに?」
一呼吸おいてから聞こえるか聞こえないかの声量で呟く。
「みんなと遊ぶのに……その、夢中になって。生徒会長が、目的を忘れてたなんて……恥ずかしくて、一緒に、帰れない」
表情は見えないが、耳まで真っ赤になっているのが分かる。
その姿は可愛らしく、俺の心臓は大きく鼓動した。
「そ、そうですか」
いかんいかん。綾先輩だぞ。ストーカーなんだぞ!
しかし、一向に収まらない胸の高鳴りのせいで気まずくなってしまい、無言で歩く。
ようやく治まったのはちょうどユオンに着いた頃だった。
「綾先輩、ちょっとリスト借りてもいいですか?」
「いいぞ」
入店してすぐにリストをスマホで撮影する。
「俺が文房具類と目安箱の材料買ってくるんで、綾先輩は残りのものを買ってきてください」
「分かった。なら買い物が終わったらまたここに集合。それでいいな?」
綾先輩と手分けして買い物へ。
すぐに文房具エリアで物色を始める。
スマホでリストを確認しながら、ここで買えるものを探す。
シャーペンの芯、ホワイトボードのペン、消しゴム、クリップ……リストの六割はここで買えそうだ。
さっさと見つけてレジに通し、支払いを済ませた。忘れずレシートも受け取った。
別の場所で目安箱にちょうど良さそうなプラスチックの箱と、札を買う。
俺が担当したものは全て買い終えたので、集合場所へと向かうと、すでに買い物を済ませた綾先輩が手を振っている。
「すいません。待ちましたか?」
「さっき来たばかりだ。それに、君の方が買うものが多いんだから、遅れるのは当然だ」
俺が持っている袋と、綾先輩が持っている袋を見比べながらそう言う。
「私も少し持とう」
「いえ、男の俺が持ちますよ」
「……いいのか?」
「はい! 任せてください!」
「なら、お言葉に甘えて、君に任せよう」
そんなやり取りを交わして俺達は帰路につく。
「家まで運んでくれなくてもいいんだぞ? これくらいなら家に持ち運べる」
「いえ、最後まで手伝わせてください」
最寄り駅で降り、後は帰るだけだったが、荷物をどうするかという問題があった。
駅からも、学校からも近い綾先輩の家に荷物を置くことになったわけで、今こうして綾先輩の家に向かっている最中だ。
買ったものをどうやって学校に持ってくるかだが、道中で松本先生と連絡を取り、備品は月曜の朝に先生が取りに来る手筈になった。
「綾先輩の家ってこっちなんですね」
「ああそうか。私は廉君の家を知っているが、廉君は私の家を知らないのか」
教えてないのに綾先輩が知ってることが不思議なんですけどね。
あと、綾先輩の家って、本当に俺の家とは真逆の道じゃないですか。わざわざ学校通り過ぎて、俺の登校ルートに待ち伏せてたんですか。
「ここだ」
綾先輩が止まった一軒家に視線を動かす。
世間一般よりも大きな家は真っ白に塗られた洋風な佇まい。
門には当然だが、綾先輩の苗字である「東雲」と書かれた銀色の表札が郵便受けの真上に取りつけられている。
「ありがとう。廉君。よかったらお茶でも飲んでいくか? 暑かっただろうし」
おそらく善意からの言葉であるが、綾先輩の前歴を考えると、暴走する確率が大。
俺が出来る最善手は即刻帰ることだ。
「すいません。これから夕食をつく――」
言い終える前に東雲邸の玄関の扉が開かれ、中から綾先輩とそっくりだが、綾先輩以上に大人でグラマラスな女性が桜色のエプロンをかけて出てくる。
「綾? 帰ってき――あら、その子は?」
俺に気が付いた女性が綾先輩に尋ねる。
「お母さん!」
……え? お母さん!? お姉さんじゃなくて!?
「この子は前にお母さんとお父さんに話した子だよ」
ちょっと待てい! 俺のこと両親になんて伝えてるんですか!? もちろん庶務って伝えてますよね!?
「まぁ! そうなの! なら是非上がってください」
きらきらした目で俺を見ている綾先輩のお母さん。
ここから逃げなければ。
「どうした」
「あら、元次さん。今噂の子が来てるの」
扉の奥からさらに鋭い目つきの男性が現れた。
綺麗に髭を剃り、ほうれい線があるものの、おそらく俺の目では実年齢よりも若く見えている。
「君か、綾が言っていた子は」
ど、どうしよう。 どう考えても綾先輩のお父さんだよね!
「お、俺は荷物を運んできただけなんで……帰ります!」
「待て」
よく通る低い声で呼び止められ、帰りたいのに体が勝手に動きを止めた。
「家に上がりなさい。お茶ぐらいなら出せる」
この誘いを断わることは許さんという凄みがある。そんな凄みに抵抗できる度胸はなく、
「はい」
イエスマンになるしかなかった。
「ほら上がって! すぐに紅茶を用意するから」
綾先輩の両親が奥へと消えてから、渋々綾先輩と一緒に家の中へと入ったのだった。
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