淑女で、紳士な二人は生徒会長の両親です(絶望)5
ユオン内でも休憩出来るようにか、ベンチが所々に設置されている。
綾先輩達はクレープ屋に最も近いベンチに座っていた。
「お待たせしました。チョコが綾先輩でしたよね?」
「ああ、そうだ。ありがとう」
「サンキュー守谷」
チョコを綾先輩に。水原先輩には苺のクレープを手渡す。
姫華先輩も持っていたバナナのクレープを雫に渡した。
「守谷は買ってないんだ」
「俺は飲み物だけで充分なんで」
えーっと、座る場所は……。
綾先輩達が座ってるベンチはあと一人は座れそうだな……っと、思ってる矢先に小毬先輩が座っちゃったな。
隣のベンチも空いているし、そこに座るか。
「どっこいしょっと」
「隣、失礼するわね」
姫華先輩がすぐ隣に座り、クレープを頬張る。
他の人達も各々のペースでクレープにかぶりつく。
「あまーい。やっぱシンプルに苺よねー」
「チョコだって美味いぞ」
「本当? ちょっと一口」
右隣の綾先輩のチョコクレープを水原先輩がかみつく。
「あっ!」
「うーん、チョコもおいしー」
「舞! よくも私のチョコを!」
「ごめんごめん。ほらお詫びに苺をどーぞ」
水原先輩が苺クレープを差し出され、不機嫌ながらもそれを頬張ると、顔を綻ばせる綾先輩。
「うん。苺も甘酸っぱくて美味いな」
「私も一口あげるんで、味見させてください」
「いいよ。はい、あーん」
今度は雫に向けると、雫も嬉しそうにクレープを食べた。
「おいしー。では水原先輩。お返しのあーんです」
「あーん。んー、バナナもおいしー」
「……私のも、食べて、みる?」
「「「それはちょっと……」」」
苦笑いを浮かべられてしまい、しょんぼりとしている小毬先輩。
普段は生徒の代表として凛々しく振る舞う生徒会だけど、こうしてプライベートになれば、そこら辺にいる女子高生と何ら変わらないんだよな。
それにしてもおいしそうにみんな食べるな。
俺もちょっと食べたくなってきた。
「ねぇねぇ廉君」
「はい、なんで――」
振り向いたと同時にクレープが俺の口目がけてがけて飛び込んでくる。
「どう? おいしいかしら?」
口の中で生地の香ばしさとクリームの甘さが広がり、後からつづく抹茶アイスの苦味がクリームの甘ったるさを程よく抑えてくれる。
「……はい、おいしいです」
「それはよかったわー」
姫華先輩は何事もなかったように俺が齧った部分を躊躇いなく食す。
一方の俺は妙に意識してしまい、クレープから視線を逸らす。
「どうかしたの? 廉君?」
「いえ、なにも」
「えー、本当に? てっきり私との間接キスに動揺していると思ったんだけど」
ああ、やっぱり俺をいじるためにわざと同じ場所を食べたんですね。
「そ、そんなことは」
「ふふっ、動揺しちゃって。廉君は可愛いわねー」
くっそ。この人にはかなわないな。
まぁでも、クレープが食べたい欲求は満たされたし、よかったよかっ――あのー、皆さん? そんな真剣な目でなんでこっちを見てるんですか?
「廉。あなたねぇ」
呆れた様子の雫と無言ではあるが、期待した眼差しでジーッと見つめてくる小毬先輩。
「廉君……」
「守谷……あんた平然とそんなことを……」
俺を凝視している綾先輩と水原先輩。
「姫華が許されるなら私もいいってことだな!」
「なら友達のあたしもいいよね!?」
「ふ、二人共。落ち着いて。これは不意打ちで食べさせられたわけで」
「……あーん」
「小毬先輩? 俺は食べるって言ってませんよね?」
三種類のクレープが俺に突きつけられる。
頼みの綱の雫はもう知らない、と言いたげにクレープを黙々と食べている。
「れ・ん・く・ん」
そして背後からは俺を惑わす悪魔の囁きが。
「女の子のほんの小さなお誘い。男の子なら受けるわよね? まさか男の子の廉君が、女の子に恥をさらさせるわけ……ないわよねー。うふふー」
この人、悪魔みたいな角と羽根生えてるんじゃないですか? 普通の人がこんな巧みに人を惑わせるはずないですもん!
改めて、三種類のクレープを確認。
チョコと苺はまぁいいとしよう。一番の問題は小毬先輩が持つ巨大なクレープ。
他二つのクレープが霞むほどの存在感。
でも待つんだ俺。別に一口って言っても小さい一口でもいいん――
「ほら廉君。男の子らしく、大きな口でガブッと」
なーんでこの人俺の考えてることお見通しなんですかねー。
「それじゃあ綾先輩達の分が少なくなって……」
「そんなことでとやかく言わないさ。遠慮せずガブッと食べてくれ!」
「あたしも別に気にしないし」
「いっぱい、あるから、食べて、いい」
もう逃げられないんですね。わかりましたよ! 食べればいいんでしょ! 食べれば!
「い、いただきます」
まずはチョコクレープにガブリ。
チョコと絡まったクリームが口いっぱいに広がる。
今度は苺クレープを。
甘いクリームが苺の甘酸っぱさを引きたてる。
「「おいしい(か)?」」
正直姫華先輩に貰った分だけで充分だったから、クリームがさっきよりも甘ったるく感じる。そして気持ち悪い。
しかしここで吐き出すことなんて出来るわけもなく、嫌な汗をかきながら胃へ送る。
「お、おいしいです」
「廉」
小毬先輩の呼びかけに背筋が凍る。
「はい、あーん」
小さな手から差し出される巨大なクリームの塊。
無理だ。もうこれ以上クリームは。
断わろう。でないと俺の体が持たない!
「廉?」
一瞬だけ小毬先輩と目が合った。
その目は依然として期待したような眼差し。
こんな目の小毬先輩を裏切っていいのか? 男を見せろ俺! さぁ! さっさと口を開けるんだ!
「……小毬先輩。いただきます」
「うん、どう――あっ……」
俺の口に入れようと小毬先輩が立とうとしたが、足がもつれた小毬先輩は勢いよく俺の口の中にクリームの塊を突っ込んだ。
幸い小毬先輩はこけずなかったけど……く、苦しい!
なんとかクレープを噛み千切ったが、クリームが多すぎて溺れそう。
どうにか飲み込もうと咀嚼する。
クリームの奥から苺が、チョコが、バニラが、バナナが……多種の甘さの暴力が俺の体の隅々まで行きわたった。
これ以上は口の中に留めておくのは限界だ。
痛みを感じるほどゴクッと大きく喉を鳴らし、無理やり胃の中に収めた。
「こ、小毬先輩……お、おいしかったです」
「よかった」
口の中が甘すぎる。口直しに、お茶か、コーヒーを……。
「ちょっと、飲み物、買ってきます」
「口直し? それなら私の抹茶クレープあげる」
「いや、本当。そういう冗談は、勘弁、してください」
か細い声で抵抗し、俺はベンチを立つ。
クレープ屋はダメだ。ちょっとでも甘い香りを嗅げば、悲惨な結末を迎える。
自動販売機を探すしかない。
口元を押さえ、震える足で前に進む。
「守谷、大丈夫? あたしもついていこっか?」
「なら私も……」
水原先輩と綾先輩は俺の心配をしてくれているが、二人の持つクレープが視界に入った瞬間、俺は条件反射で手の平を向けて近寄ってくる二人を止める。
「大丈夫です! 一人でなんとかなりますから!」
一刻も早く離れたい一心で走り出した。
たしかエスカレータの脇に自動販売機とベンチが置いてあったはずだ。
記憶をたどりながら大急ぎでエスカレータに向かう。
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