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青春の汗と、欲望乱れる球技大会(蒼白)13

 体育館に着くと扉は半開きになっており、そこから中を覗く。

 中では女子がドッジボールをしているようで、今は雫のクラスが試合を行なっている。

 幸い対戦相手が自分のクラスでないし、どちらを応援するべきかなどと葛藤する必要がない。

 ただ応援に来ている男子は少なく、居心地が悪いのか隅の方でまとまって見ている感じだった。


「松本さん! 頑張って!」


 おっと、応援応援。

 どうやらお互い内野に一人ずつ。しかも残っているのは雫だった。

 ボールを持った雫が次の一投で決着をつけるためタイミングを見計らっている。

 相手もボールを奪うために避けようとはしていない。

 無言のやり取りの最中、雫が俺に気づいたらしく視線がぶつかった。


「頑張れよ雫」


 聞こえたかは分からないが雫は視線を戻し、力一杯相手の足元を狙う。

 キャッチ出来ないと判断した相手は避けようとしたが判断が一瞬遅く、足先にボールが当たってしまった。


「やった!」

「松本さん! ナイス!」


 雫が嬉しそうにしていると、クラスメイト達がこぞって雫を囲み称賛する。

 流石に声はかけづらいので治まるのを待っていると、雫がこちらにやってくる。


「どうしたのこんなところで」

「応援に来たんだけど、いらなかったか?」

「そんなことないよ。ちゃんと廉の応援は聞こえたから」


 微笑みながらわざわざ声に出されると照れるな。


「ねえ松本さん。その人って噂の庶務の人?」


 雫のクラスメイトらしき三人ほどの女子グループが興味津々に俺達に近づく。


「そうよ。一年三組の守谷廉」

「ほうほう……」


 なんだこの人達。品定めするように頭から足先まで見られてるんだけど。


「男子にしては少し背が小さいかな」


 おい、ほんのちょーっとだけ気にしてることをさらっと指摘しないでくれ。


「顔は悪くない。可愛い系かな」


 本当にさっきからなんなんだよ。


「ちょっとみんな。困ってるでしょ」


 雫が割り込んでくれたおかげで三人は下がる。

 そしてヒソヒソと何か会議を始めた。


「やっぱりそうだよね」「それ以外ないかと」「うんうん」


 何か結論を出したらしい。


「ねぇ松本さん」

「何?」

「その人って松本さんの……コレ?」


 小指を立てて恋人か聞いてるが、聞き方がおっさん臭い。


「違う違う。ただの生徒会メンバー。でも、結構仲はいいと思ってるよ。ね」


 さらっと否定し、同意を求めてくるので素直に首を縦に振る。


「なんだ。松本さんを茶化せると思ったんだけどなー」

「もう! そんなこと考えてたの?」


 両手を腰にあてて、眉間に皺を寄せる雫。


「おっと怒られそう」

「退散退散」

「じゃあね庶務君! 松本さんのことよろしく!」


 そう言ってスタコラサッサと三人組は逃げ出す。


「まったく」

「ははっ、仲良いんだな」


 雫はため息を一つつく。


「でもああやって私をいじろうとするのはどうかと思うけど」

「友達なんてそんなもんだろ」

「そんなもんかしら。それはそうと他の人の応援にはいったの?」

「花田さん達の方は卓也達に任せてるから俺は生徒会の応援」

「なら小鞠さんの応援に行ったら? バレーは二、三十分後だし。卓球場もそんなに遠くないし」


 卓球場ってことは小鞠先輩は卓球をしてるのか。


「そうしとく。雫も来るか?」

「まだ試合が残ってるから」

「そっか。それはしょうがないな。じゃあまた後で」

「うん。後でまた応援に行くね」


 雫は手を振り、それに返すように手を上げて卓球場へ。

 あまり使ったことがないから道があってるかはわからない。

 でもこの辺だったような。

 卓球場を探しているとピンポン球が飛び跳ねる音が聞こえる。

 音がする方へ行くと卓球場の札が付いた建物に着き、足を踏み入れる。

 中では卓球をする生徒で溢れ、その中で一際背が低い知り合いの女子生徒が。

 体の半分以上が卓球台の下に隠れてしまい、ギリギリ卓球出来ている感じだ。

 しかし小毬先輩は卓球が上手のようでボールを全て打ち返している。

 ……いや待て。なんか様子が変だ。小毬先輩が打ったボールは相手のいない左右に飛んでいるけど、相手が打ち返すボールは全部小毬先輩の方へ。


「あっ……」


 たまたまか? と思っていると小毬先輩は打つのに失敗し、相手のチャンスボールにしてしまった。

 これはスマッシュを決められてしまうな。

 しかし相手はスマッシュをするそぶりをせず、小毬先輩が打ちやすい所に打ち返す。

 小毬先輩が打ち返すと相手は締まりのない顔でラリーを続ける。


「はいそこまで。今の得点で勝敗を決めるから」


 審判らしき教師が小毬先輩達の試合を無理やり止めた。


「待ってください! まだ1ゲームも終わってないです!」


 必死に試合続行を申し出る。でも得点的にはその人が勝っているため勝つためなら続ける必要はない。


「時間が押してるんだ。仕方がない」

「そ、そんな……」


 膝から崩れ落ちる相手をよそにてくてくと俺の元に小毬先輩が歩いてきた。


「廉、来たんだ」

「ええ、一応応援しようと思ったんですけど」

「今、ちょうど終わった、ところ。あと、二試合」

「そうなんですか」


 またこんな試合が二試合続くのか。まぁみんながみんな癒したいがためにわざと試合を引き伸ばすなんてありえないか。

 そう思っていた矢先の試合だ。明らかにアウトボールになるはずの球をノーバウンドで打ち返し続行しようとする対戦相手。

 ルール上卓上内での返しではなかったため相手の得点になるのだが、なぜかその得点を無効扱いで進めたいと駄々をこね始める。

 次の試合では真面目にやっているかのように見えたが巧妙に得点を操作し、あたかも拮抗しているかのように演出をして長引かせていた。

 結局教師の指示で二点先取で勝利のルールに変更。

 先に一点取った相手は、今度は小毬先輩に勝たせる気満々。

 これはまだ長引くと思ったが試合は小毬先輩のサーブミスで幕を閉じた。

 そしてまた相手選手が何かと理由を付けて試合を続けようとするのはまた別の話。

 結局終わった時にはバレーが開始する時間だった。早く応援に行かなければ。


「廉」


 俺の袖を引っ張る小毬先輩。どうしたのか。


「どうしました?」

「おんぶ」


 ……え? なんすかその可愛らしい頼み――じゃなくて。


「なんで急に」

「疲れた。でも、自動販売機、行きたい。綾と、姫華の応援、行きたい」


 つまり俺にここにいる何人かから恨みを買いながら足になれと。


「小毬先輩……それは流石に」


 断わろうとしたがつぶらな瞳でジッと見つめられる。おそらくそうすれば俺が断らないと思っているのだろう。


「……わかりました」


 そしてその思惑は正解だったりする。断ることなんて出来ない。

 だが卓球場でおんぶすることは命を捨てることと同等なので一度出てから人が少ない所でおんぶする。

 幸運なのはおんぶするのが色々と小さな小毬先輩であることだ。これが綾先輩だったり姫華先輩だったり水原先輩だったら背中の感触で動揺――


「廉。今何か失礼なこと考えてるでしょ? 分かってるんだからね」


 耳に小毬先輩の滑らかな言葉が吹き込まれる。

 プレッシャーがすごくて振り向けないし、振り向きたくない。


「また変なこと考えたら廉の数少ない男性象徴を潰していくから」


 そう言ってガッと喉仏を掴まれた。


「すいませんでした」

「……分かれば、いい」


 いつもの口少ない小毬先輩に戻ってくれて俺は嬉しいです。


「廉、出発」


 生殺与奪の権利を握られながら無欲で自動販売機に寄り、小毬先輩が缶ジュースを飲むのを待つ。

 飲み終わるとすぐに第二体育館に戻る。試合をしていたり、応援だったりで人通りが比較的少なかったため人目にあまりつかなかったのはせめてもの救いだった。

読んでくださりありがとうございます。

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