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青春の汗と、欲望乱れる球技大会(蒼白)11

 雫からの伝言通り松本先生が俺のボールを使って一人でバスケをしていた。

 動きにキレがあり、ドリブルはまるで吸い付いているかのよう。

 イメージの中の相手と戦っているのか、フェイントしてから切り返して一気にゴール下へ。

 ドリブルシュートではなく少し後ろに跳びながらのジャンプシュート。しかも絶対に入ると思わせるほどの完璧なフォームだった。

 宙を舞うボールはリングに触れずゴールの中へと吸い込まれ、バウンドしたボールは松本先生の元に戻る。


「ふぅ……なんだ戻ってきたなら声をかけろ」


 松本先生のプレーに思わず見惚れてしまい、声をかけられたことでようやく我に返った。


「バスケをしてたって聞きましたけど、凄いですね松本先生」

「なんだ雫から聞いたのか? まったくおしゃべりだな」


 恥ずかしいのか頭をかいている。


「ボールは返すよ」


 放り投げられたバールはワンバウンドすると俺の胸に飛び込んだ。


「なぁ廉」


 卓也が俺に耳打ちをする。


「素人目なんだけど松本先生って上手いんじゃないか?」

「ああ、かなりな」


 それを聞いた裕太が何かを思いついたようだ。


「なら先生に俺達の練習を指導してもらうのはどうだ?」

「指導か」


 たしかにいい考えだ。

 球技大会は明日だ。少しでも質の良い練習がしたい。


「松本先生。相談があるんですけど」

「練習を見てほしいんだろ?」


 流れ的にわかっちゃいますか。


「別にいいぞ」


 あっさりと引き受けてくれた。これで少しは内容の濃い練習が出来そうだ。


「……後悔するなよ」


 うーん、聞こえるか聞こえないかの声で何か呟いた気がするけど気のせいだな。


「じゃあまずはストレッチからだ。長い休憩の後だから念のためだ。しっかり伸ばすために二人一組を作れよ」


 二人一組かじゃあ早速組もうか。

 五人しかいないから一人は少し悲しい気持ちを味わってもらおう。

 ペアを作ろうと思い振り返るとすでに他の奴らはペアが出来上がっていた。

 つまり俺が一人か……目頭が熱いな。


「守谷がボッチか」


 松本先生は教師なんですからそこら辺の言葉選びは大切にしましょうよ!


「じゃあ私が代わりにペアになろう」


 そう言って俺とペアになる。

 こんな経験は中学で終わりだと思ってたんだけどな。


「最初は一人が足裏を合わせて座る。そして相方がそいつの膝を地面に向かって押す。痛いから一気にやるなよ。試しに私と守谷が実践を見せる」


 そう言って俺を座らせ、必然に受ける側へと誘導した。


「守谷、痛かったら言えよ」

「わ、わかりました」


 少しは緊張しながら靴底を合わせて座り、松本先生が俺の両膝に手を添えて少しずつ力を加える。

 もしかしたら一気にやるのではと警戒していたが、松本先生もそこまで鬼ではなかった。


「大丈夫か?」


 ちゃんと気遣って聞いてくれるし、スポーツする時は真面目なんじゃないかと感動を覚える。


「大丈夫です」

「そうか」


 まだ余裕があるのでそう答えると、少し松本先生の力が強くなる。

 もうそろそろキツイな。


「先生、痛いです」

「そうか」


 …………ん?

 おかしいな。力が強まったぞ。


「痛いです先生」

「そうか」


『そうか』じゃなくてですね。それ以上はーーイタっ!


「ちょっ、本当無理です!」

「大丈夫大丈夫。守谷の股関節には可能性を感じる」

「勝手に可能性感じないでください! 結局痛いって言っても押すならなんで言わせたんですか!」

「お前が痛がってるのが分かるだけだ」

「だったら言わせーーイタタタッ! 待って、俺の股関節の可動領域にそこまでの可能性は持ってーーああああぁぁぁぁぁぁっ!」



「と、友人だからってふざけて力を強くするとこんな風になるからペアストレッチは慎重にしろよ」

「「「「はーい」」」」


 俺の中で何か(靭帯)が切れた気がする。

 その後も、


「待って心の準備がまだ!」


 ペアストレッチは続き、


「靭帯が! 靭帯が伸びる前に切れる!」


 運動する準備を整える。


「これ本当にストレッチですか!? 何かのプロレス技じゃーーあふっ……」


 そうして十五分のストレッチ(地獄)が終わった。


「どうだ? 体が動かしやすくなっただろ」


 おかげさまで体が軽くなって動かしやすいですよ。

 どれだけ軽くなったか具体的な重さでいうと21g体重が減ったぐらい。


「次は一通りドリブル、パス、シュートをやれ」


 言われた通りに全て行う。


「……よし集合。そこに並べ」


 集めた俺達を横一列に並ばせた松本先生はまず始めに剛の前に立つ。


「そこそこ出来てるがまだドリブルの時にボールを見てるな。それを直せ」

「は、はい!」


 横に一歩ずれて隆志の前へ。


「お前はちゃんと相手を見ろ。パスがブレてるし遅い。もっと速く投げろ」

「えー結構速く投げ――」


 口答えは許さないとばかりの眼光を向けられ口を噤む隆志。

 松本先生はまた一歩横に。


「三島は全体的に良し。当日はお前が得点を取りにいくことになるはずだ。シュート練習に集中しろ」

「わかりました」


 次に祐太の前へ。


「お前はプレーがうるさい」

「プレーがうるさいってなんすか!?」


 いや、正直お前プレーがうるさいよ。


「ドリブルで不必要に股下を通す。フェイントにならないフェイントを何度も何度もする。無駄に動き回る。カッコイイプレーしようとする気持ちがビンビンに伝わってきてイライラする」


 先生。それ以上は祐太君が死んじゃいます。


「それで最後に守谷」

「はい」


 俺の前に立つ松本先生。しかし何も発せずジッと見つめられる。


「あの松本先生?」

「……お前はそのまま好きにしろ」


 何か言いたそうにしていた松本先生からようやく伝えられたのはそれだけだった。


「お前らがこれからどうするべきかは伝えた。後は練習あるのみだ」


 松本先生の指導の下で練習を始める俺達。本番に近い形でなおかつお互いの問題点が改善されるように練習が進む。


「ふぅ……結構いい感じじゃないか?」

「そうだな。なんかちゃんとバスケしてるって感じ」


 二時間の内容のある練習を終えたことで剛と隆志はそれなりに実感してきた様子。


「廉、もうそろそろ、練習、終わらないか?」


 息が上がっている祐太がそう提案してきた。

 明日は本番だ。練習を続けて筋肉痛で動けないなんてしょうもない理由で負けたくはない。


「そうだな。練習はここまでにして――」

「何を言ってるんだ? まだ練習するぞ」


 バスケットボールを小脇に抱えた松本先生がニタリと不気味な笑みをこぼす。


「せ、先生? 俺達結構練習しましたし、これ以上は筋肉痛になると思うんです」


 卓也が冷や汗をかきながら正当な理由を告げるが松本先生の表情は変わらない。


「私はそいつの動きやストレッチした感じで大体の限度が分かる。まだまだ筋肉痛になるような運動量じゃないから安心しろ」


 俺達は松本先生をコーチにしたことを今さら後悔した。


「……まぁ私も鬼じゃない。人間なんだから疲れたらゆっくり休みたいだろう。帰りたい者は帰ってもいい」


 その言葉にみんな顔をほころばす。でも俺は知っている。この後絶対何かを付け足す!


「ただ……」


 ほらね!


「私も同じく人間だ。良かれと思って提案した練習を断わられてしまったら傷ついてしまうな。どれだけ傷つくか具体的に言うと期末テストの答案用紙の名前をうっかり消しゴムで消してしまってそいつの点数が0……なんてことになったり。さらに具体的に言えば五枚ぐらいの答案用紙を」


 もうそれはうっかりじゃなくて意図的ですよ!


「すまない今のは忘れてくれ。私の心の弱さを見せびらかしてお前達を引き留めようとは思っていない」


 へー、俺にはこれ見よがしに権威を振りかざしているように見えたんですが。


「……それでさっきの話は聞かなかったとして、お前達はこの後練習するか?」


 俺達は無言で頷いた。

読んでくださりありがとうございます。

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