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青春の汗と、欲望乱れる球技大会(蒼白)8

 練習を終え、アルバイトに勤しむ俺。

 軽い作業をこなしながら明日はどうするかと考え、振り返ると、


「どうしたのれっちゃん」

「うへぁ!」


 美鶴さんの顔が目の前に。

 危うく転びかけた。いつの間にこの人は背後に忍び寄ってたんだ。


「驚かさないでくださいよ美鶴さん」

「おねえちゃんなんだから、弟にいつもニコニコ這い寄るのは当然」

「どっかのニャルラトなんとかさん風な台詞を無表情で言わないでください」


 しかもちゃっかりポーズ決めてるし。


「で、どう?」


 どう、とは? ただ仕事に戻ってほしい以外何もないんですが。


「おねえちゃんとの触れ合いでSAN値回復した?」

「驚きはしましたけど、俺は正気ですよ」


 返答するが、首を傾げ頭にクエスチョンマークを浮かべる。


「SANってSISTER、ANEKI、NEーCHANの頭文字でしょ。SAN値はつまり姉成分」

「それだとTRPGの探索者全員シスコンじゃないですか」


 いやだぞ、神話生物目撃するたびに姉を求める探索者とか。


「そんなことよりれっちゃん。今日、花村公園で球技大会に向けて練習してたらしいね」

「そうですけど……なんで知ってるんですか」


 美鶴さんに言った覚えないんだけど。


「薫ちゃんとメル友」


 いつの間に仲良ーーいや、前回ので充分仲よさそうだったな。

 俺の知らないところで連絡先を交換してたか。


「ついでに仲良さそうに男の子と肩組んでる写真も送られてきた。画面の端に血がついてたけど、何かあったの?」

「特にないですよ。ただ友人と仲良くしてたら人が倒れただけです」


 起きた現実をそのまま伝えても言っている意味がよくわかっていない様子の美鶴さん。


「まぁいいや。それよりも、明日も練習するの?」

「そのつもりですけど」


 それを聞くとじーっと見つめてくる美鶴さん。

 この人は何がしたいのだろうか。

 意図が読めずないのでしばらく放置していると、再び口が開く。


「れっちゃん。私は明日暇」

「は、はぁ」


 別に美鶴さんの予定は聞いてないのに。

 遊びに誘えというのか?

 だけどさっき練習があるって言ったし。


「……れっちゃん」


 今度は両肩をがっしりと掴んで俺の瞳を覗く。


「おねえちゃんは、明日、暇!」


 あー、やっと理解した。


「絶対に連れて行かないですからね」


 俺の返答にショックを受けると、膝から崩れ落ちる。


「そ、そんな……れっちゃんのおねえちゃんだよ!?」

「自称ですけどね」

「周りの人にも言ってるよ!?」


 え!? いつの間に俺と美鶴さんの兄弟関係(設定)が広まってるんーーよく聞いてみたら「周りの人"にも"」って言ってたわ。

 やっぱり自称じゃないですか。


「そもそも俺の練習についてきてどうするんですか」

「そんなの頑張ってるれっちゃんを応援して、休憩時間はれっちゃんの友達に学校にいる時のれっちゃんについて聞くの。そしたられっちゃんは少し恥ずかしそうにしながら私から視線をそらすけど、『お前、いっつもねえちゃんの自慢してるよな』って言われて『ね、ねえちゃんの前でやめろって!』って怒るけど、自慢してたことは否定しなくて。それで帰りには全然話してくれないけど、私の隣にぴったりとくっついて一緒に家に入るの」

「現実と妄想は区別してください。控えめに言ってドン引きです」


 ツッコミどころ多すぎなんですよ。いつの間に俺と美鶴さんが同じ家に住んでるんですか。


「むしろ起こりうる現実しか述べてないけど?」


 もう手遅れだこの人。真顔で言ってるよ。


「みーちゃん」


 聞き慣れてはいるが、いつもよりワントーン低い声。

 美鶴さんの背後にいる滝本さんは微笑んでいるが、青筋を立てているようにも見える。

 少し怯えながら後ろを振り向いた美鶴さんの表情は強張る。


「滝本、さん」

「れっちゃんと仲良くするのはいいけど、手も動かしてほしいな。それとれっちゃん。もう時間だから上がっていいよ」


 美鶴さんの首根っこを捕まえて連れて行く。

 助けて欲しそうな顔をされたけど、自業自得なので見捨てて帰った。

 帰り道で、ふと見上げれば邪魔な雲一つない満天の星空。これならきっと明日も晴れだな。

 明日も早いし帰ってからすぐに寝よう。


「あ、守谷君。今帰り?」


 道中で大家さんと出くわした。

 両手にビニール袋を一袋ずつ持っている。


「はい。大家さんは買い物帰りですか?」

「そう、スーパーの帰り。ちょっと足りないものがあったから買い足しに行ってたの」


 そう言って袋を見せつけた。

 パンパンに膨らんだ袋は見るからに重そう。

 ましてやスリムな大家さんが持って帰るのは危なげだ。


「よければ荷物持ちますよ」

「いいの? 結構重いわよ」

「大丈夫ですよ。男なら女性の荷物ぐらい軽々持たないと」

「それじゃお願いしちゃおっかな」


 大家さんから袋を全て受け取る。

 ……思ってたよりも重い。


「大丈夫守谷君?」

「 平気ですよ」


 自分から申し出ておいて「思った以上に重いんで、一袋持ってくれませんか?」なんて男として口が裂けても言えない。

 それにしてもどれだけ買ったんだ?

 袋中が少しだけ見えるけど、ほとんど食材みたいだ。

 でもちょっと前に買い出しに行くのを見かけたんだけどな。

 それに大家さんは一人で暮らしてるはずだ。こんなに買ってきて使い切れるのか?

 あ、もしかして近いうちに友達でも呼んで飲み会みたいなことするのか。


「たくさん買ってるみたいですけど、誰か来るんですか?」

「ううん、違うわよ」


 呆気なく俺の予想は外れた。

 じゃあ、なんでこんなに買ってるんだ?

 ……もう考えるのはやめておこう。

 食材をどれだけ買おうが大家さんの勝手だし、それについてあれこれ考えるのはよろしくない。

 大人しく荷物を持って大家さんと一緒に帰る。

 もう夜遅いからか帰り道に人をあまり見かけない。

 今ここで顔も知らない誰かが来たら、その人は俺と大家さんがどんな風に見えるだろう。

 彼氏と彼女? 

 いや、まずないな。まだまだまだガキな俺と落ち着いた大人の大家さんではそんな風に見えるはずがない。

 それじゃあ、親子?

 それもないな。年齢よりも若々しい大家さんが俺の母親に見えるわけがない。

 姉と弟?

 ……これを口に出せば、どこからともなく美鶴さんが飛び出しそうだ。そんで真っ向から否定して自分が姉だと主張するだろう。

 でも一番これがしっくりくる。

 大家さんの計り知れない包容力が雰囲気から滲み出ている。

 例え俺でなくても、大家さんの隣に並べば弟に見えるだろう。


「ところで守谷君」


 長々と考えていると、大家さんが声をかけてきた。


「今日は練習してたんでしょう。どこでやってたの?」

「花村公園です」

「あー、あの公園ね。たしかにあそこならスポーツするのにぴったり。明日もそこで練習するの?」

「ええ、まぁ。夕方ぐらいまでやろうかと」

「じゃあ、スタミナたっぷりのもの食べないといけないわね」


 両手で可愛らしくガッツポーズをとる姿は恐ろしく似合ってる。

 これを大家さんより歳が若い松本先生がやっても、思わず「キツッ!」と口に出してしまいそう。

 大家さんに「学校楽しい?」とか「好きな子出来た?」とか、俺について色々聞かれた。

 それが鬱陶しいと思わず、むしろ楽しくて重い荷物を持っていたはずなのに気がつけばアパートの前にいた。

 もしかしたら大家さんは気がまぎれるように話を振ってくれていたのかもしれない。


「ありがとうね守谷君」

「いえいえ、いつもお世話になってますから」


 大家さんの部屋に荷物を入れ、大きく息をつく。


「よかったらお茶でも飲んでく?」

「ありがたいですけど、明日も早いんで」


 丁寧に断って玄関から出ようとすると、肩を二回叩かれる。

 振り返れば、大家さんがタッパーを俺に突き出している。


「まだご飯食べてないでしょ。今から作るのは大変だから、よかったら食べて」

「いいんですか!?」


 ありがたく受け取り、タッパー越しに中身を覗く。

 これは……唐揚げ!


「それで体力つけて明日も頑張ってね」

「はい! ありがとうございます!」


 深々と頭を下げて、足早に自分の部屋へ。

 入ってすぐにご飯をよそって唐揚げをいただきたいところだが、辛抱たまらずタッパーの唐揚げを一つ頬張る。

 醤油と生姜、それにニンニクが効いてて最高の二文字しか浮かべれない。

 食欲が二つ目を要求しているが、グッとこらえて靴を脱いで荷物を置く。

 そして、炊飯器の中で輝く米を茶碗一杯よそって唐揚げと並べる。

 もう我慢する必要もなく、俺は一心不乱に唐揚げを味わった。

 十分もかからず平らげた俺はシャワーを浴びてから泥のように眠った。

読んでくださり、ありがとうございます。

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