青春の汗と、欲望乱れる球技大会(蒼白)4
更衣室に入ると、卓也達が雑談をしながら着替えをしている。
「あ、廉。もう会長さんはいいのか?」
「大丈夫。少し張り切りすぎて息が荒くなってただけみたいだ」
嘘は言ってないな。
「ならよかった。ちょっと心配だったんだ」
「廉! 生徒会長は何か言ってなかったか!? 例えば、あの眼鏡の男子がかっこよかったとか! その男子のメアドを教えてほしいとか!」
「あるわけねぇだろ」
何をどうしたらそんな期待が出来るんだよこいつ。
「ないの? 本当に? 言ってなくてもそんな素振りとかは? 生徒会長じゃなくても、他の人は? 副会長は? 会計さんは? 書記さんは? 一緒にいたかわいい先輩は?」
「ない! それと裕太、今のお前この上なくキモいぞ」
俺の答えに落胆した裕太は、半裸のまま地面に手をつけた。
「そんな、バカな」
バカはお前だよ。
「いや、流石にそれは望み高すぎ。身の丈を考えろよ」
「生徒会長と少しでも話せただけでも奇跡だと思うぞ」
他の二人も裕太を冷ややかな目で見つめている。
「くっそ! こうなったら土日で特訓して、見に来た女子全員を魅了してやる!」
意気込むのはいいけど、ちゃんと勝ちにこだわーーん? 土日? 特訓?
「え、土日に練習するのか?」
と、聞くと、四人が互いの顔を見ると、不思議そうな顔を浮かべて俺に視線を向けた。
「するつもりだったんだろ」
裕太が代表で尋ねてくる。
「いや、その。出来ればしたいけど、全然練習来なかった俺が、その……みんなの時間を奪ってまで練習させようとするのはどうかと思って」
動揺しながらそう答えると、四人が一斉に笑いを堪えられず吹き出す。
「はははは! お前そんなこと思ってたのか? 普段は俺達に強気なのにな」
「わ、笑うな!」
しばらく笑い声は続き、ようやく落ち着いた裕太が話を続ける。
「はー、笑った笑った。でもそんな事考える必要なんてないぜ。友達なのにそれぐらいの事を気軽に言えなくてどうすんだよ」
……あー、うん。平然と、こう言うことを言えるのがこいつの良い所だよな。
だから普段変な発言をしても、裕太との友人関係を続けているのかもしれない。
「なんだ、そのー……」
恥ずかしさを飛ばすため両手で頬を力一杯叩く。
「明日は今日よりも練習するから覚悟しろよ!」
「おう!」
みんな思いは一つのようだ。
ただ、ここで問題がある。
「で、どこでやるんだ?」
卓也の質問に口を噤む。
問題と言うのが練習場所だ。休日は他の部活が使うから使用出来ないだろうし、この付近に体育館もない。
越してきて数ヶ月経ったが、あまり遠くに行かないから情報もない。
情けないが、場所に関しては裕太達に頼まなければならなかった。
「すまん。意気込んだのはいいけど、練習出来る場所のアテがない。裕太達は知らないか? 練習出来そうな場所」
その質問を待ってましたと言わんばかりに胸を張る裕太。
「いい場所があるぜ旦那」
スマホで何かを検索し出す。
目的のものがヒットしたのか、画面を俺へと向ける。
そのサイトには何処かの公園について書かれており、テニスコートやグラウンド、お散歩コースなのもあるし、子供が遊べるような遊具も設置されている。
近くに体育館もあるようだ。
サイトを見ている限り、広大な敷地面積を持っているのが分かる。
「ここは?」
「花村公園って言うでかい公園。体育館は有料だし申し込まないといけないけど、外にバスケのコートがあるからボールさえあればすぐ使えるぜ」
コートが使えるなら屋内でも屋外でもどこでもいい。
場所を確認すると、学校の最寄駅から数駅先。
二、三十分はかかるが、駅に着いてから歩いて五分程度だから足が運びやすそうだ。
「練習するにはもってこいの場所だな」
「だろ! な、ここでやろうぜ!」
「他は遠そうだし、ここでいいんじゃん!」
「廉、ここでやろうぜ!」
「みんなこう言ってるけど、どうする廉?」
他の奴らもここでいいようなので否定する必要もない。
土曜はアルバイトのため夕方に帰らなければならないので、これ以上移動時間を伸ばすことも出来ないし、なるべく歩く時間は短くしたい。
「よし……明日と明後日ここで練習するか。明日は夕方からアルバイトもあるし、10時から14時まで練習ってことで」
「決まりだな!」
明日のことだと言うのに、すでに裕太、隆志、剛の三人はやる気に満ち溢れている。
さっきまで悩んでいた俺がバカバカしい。
「おいお前ら、いつまで着替えてるんだ。さっさと更衣室から出ろ」
さっさと帰らそうと、タオルを持った松本先生がノックもせずに扉を開ける。
「きゃー! 松本先生のエッチ!」
半裸だった裕太が、自分の胸元を両手で隠す。
それを見た松本先生は数秒固まると、息を一つついてから持っていたタオルを両手で広げ、グルグル回すと鞭のように裕太の横腹に叩きつける。
バチンッと言う音と共に苦痛で顔を歪ませた裕太が横腹を抑えて蹲る。
「ちょ、先生……それは、ヤバイ」
「ちょっと汚い虫がいたもんでな」
その虫って本物ですか? それとも裕太のことですか?
あとそのタオルは綾先輩のじゃないですか?
「松本先生。そのタオル使ってよかったんですか? そのまま来たならそのタオル綾先輩のってことになるんですけど」
「生徒会長の?」
蹲ってたはずの裕太が立ち上がり、急に興奮しだした。
「てことは生徒会長の汗とかが」
顔が気持ち悪い。
「安心しろ。これは床に零れてたスポーツドリンクを拭くために、さっき掃除道具から取ってきた使用済みの布だ」
「なんちゅうもんで叩いてるんですか! きったねぇ!」
道理で黒ずんでるはずだ。これには同情するよ。
「そんなことはいいんだ。お前ら、男ならサッサと着替えろ」
みんなで揃えて「はーい」と返事をすると、松本先生が部屋を出たので、すぐさま着替えを済ませて正門に向かう。
「じゃ、明日は9時半には現地集合ってことで」
再度集合時間を確認してからその場で解散。
俺は途中でコンビニに寄って、明日と明後日で飲むスポーツドリンクを数本買ってからアパートに帰った。
ブロック塀の門を通った所で、錆びた外階段から降りてくる見慣れた女性が目に飛び込んだ。
エプロンをつけ、綺麗な黒髪は遊びも飾り気もないセミロング。
一切メイクを施していないが、肌は透き通るように白い。
少し細めで、垂れた目が足を踏み外さないように、次に足を置く位置を捉えている。
地味と言えば聞こえは悪いかもしれないが、その女性から与えられる安心感は計り知れない。
「あら、守谷君。お帰りなさい」
「た、ただいまです」
母のような優しい笑顔を振りまく大家さんに、思わず戸惑ってしまった。
「今日は遅かったのね。生徒会のお仕事?」
「いえ、球技大会が近いんで練習してたんです」
「まぁ、それは頑張らないといけないわね」
この人の笑顔には人の心を落ち着かせる成分でも入ってるのだろうか。
それに三十代ということが信じられない若々しさ。
松本先生と同級生、と言われても納得してしまう自信がある。
「ところで、大家さんは何かしてたんですか?」
「ちょっと荷物を運んでーーきゃっ!」
話しながら降りたことで注意が散漫していた大家さんは、足を滑らせてしまった。
咄嗟に体で受け止めようとしたが、勢いは止まらず二人一緒に倒れてしまう。
幸いなことに俺が下敷きになったことで大家さんに傷一つない。
「う、あれ? ……あ、守谷君! ごめんなさい! 怪我してない!?」
すぐに俺から退くと、心配そうに身体中を手で触る大家さん。
「だ、大丈夫ですって。血は出てませんから」
「そ、そう? よかったー」
大家さんは胸に手を当て、安堵する。
俺は立ち上がり、服やズボンに着いた土を手で払う。
「でも、もうあんな受け止め方はダメよ。守谷君が怪我しちゃうわ」
「女性が危ない目にあったら男として助けないと」
「男の子だから危ない目にあっていいわけじゃないわよ」
人差し指を俺の額に押し付ける大家さん。
叱られているのだからここは素直に謝っておこう。
「すいません。次から気をつけます」
「そうしてください。でも、ありがとうね」
叱られたものの、感謝の言葉をもらった。
「いえ。俺はこれで」
「練習頑張ってね」
手を振られたので振り返し、自分の部屋に入る。
一本だけスポーツドリンクを冷凍室に入れ、他は冷蔵室へ。
学校とは別の鞄に明日使うものを入れて準備を終えた。
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