青春の汗と、欲望乱れる球技大会(蒼白)3
「て、手も足も出ないなんて……俺達の練習はなんだったんだ」
そりゃシュートが上手くても運べなきゃ意味ないからな。
「お前達もこれで分かっただろ。ドリブルとパスの重要性が。見てみろ女子バレー部を」
松本先生がバレー部を指差し、裕太達は振り向く。
いつのまにかバレー部のほとんどがこちらを見ていた。
と言うより、俺をチラチラ見ている。少し目立ちすぎたか。
「ただシュートが上手いだけで、ここまで注目されるわけがない。守谷のボール捌きに目を奪われたんだ。私からして見れば、お前達がやってたのはただのボールを投げて遊んでるだけ。バスケをしているとは言えん。そんなんで……モテるわけないだろ!」
うーん珍しく良い事言ってるなと思ったのに、最後で失速したな。
でも、裕太達に向けてって考えるとそれがベストな答えなんだよな。
だって目に見えて感銘を受けてるんだもん。
「あんーー松本先生……バスケが、したいです」
見たことある名場面をとんでもない所で再現しやがったこいつ。
「いや、勝手にやれよ」
しかし松本先生は普通に返した。
「あ、そうだ。勝者の守谷には賞品があったな」
賞品? ……そう言えばあいつらをやる気にさせるために、松本先生が提案したんだっけ。
確か内容は……
「さぁ廉君。汗をかいただろう。私が拭いてあげよう」
「汗かいてないんで大丈夫でーす」
いつのまにか背後に立っていた綾先輩が、広げたタオルを両手で持って汗を拭きにくる。が、咄嗟に両手で綾先輩の両腕を掴んで進行を止めた。
どうやらあの三人のやる気を出ささせるためだけじゃなく、ここまで想定した提案だったらしい。
松本先生がニタニタ笑って俺達を眺めてるし。
「いやいや、遠慮するな。汗をかいてるじゃないか」
力を入れてタオルを近づける綾先輩。
「いいですよ。それに会長のタオルを汚すなんて俺には出来ませんよ」
と言って押し返す。
「タオルなんて、汚れる前提のものだろ」
さらに綾先輩に力が強まる。
「いやいや。それに俺もタオル持ってますし」
押し切られないようにさらに対抗する俺。
「さっさと大人しくされろ!」
痺れを切らした松本先生の怒号と共に脇腹をガシッと掴まれ、くすぐったさで思わず手を離してしまった。
その瞬間顔に柔らかい布があてがわれ、洗い立てのいい香りが鼻腔をくすぐる。
「ふふっ。もう大人しく拭かれるしかないな」
綾先輩の言う通り、捕まえられてしまったら大人しくされるがままになるしかない。
ここで無理矢理引き剥がせば、あいつらの反感を買うかもしれない。なら、
「廉のやつ……羨ましすぎる!」
こうやって嫉妬の眼差しをぶつけられた方がマシだ。
ただ、女子バレー部からも嫉妬の眼差しを注がれるのは何故だろうか。
「よし、これでいいな」
タオルが顔から離れた。
垂れていた汗は綺麗に拭い取られている。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
にこりと笑う生徒会長。
なんだが言いようのない気恥ずかしさで、視線をそらす。
「廉! 練習を始めるぞ!」
耐えられなくなった裕太がキレ気味に俺を指差す。
「分かってるって」
綾先輩と松本先生をコート外に誘導し、裕太達の元に駆け寄る。
参加していなかった卓也も混ざり、この後の練習を話す。
「お前ら、ドリブルとパスの重大さは分かったな」
「あぁ」
「痛いほどに」
「浅はかだった」
うん、素直で結構。
「確かにシュートは大事だ。入らなきゃ意味ないけど、運べなきゃそれもダメだ。見てるとドリブルがなってない」
転がっていたボールを手に取り、その場でドリブルを始める。
ただし、ドリブルの方法は先程の裕太をまねた。
「これがさっきの裕太のドリブル。腰もドリブルも高い。これじゃあ、すぐに取られる。だから」
今度は腰を落とし、ドリブルも低い位置で始める。
「ボールが常に手にくっついてるイメージで素早く。体は横にして、ボールを相手から遠ざける。これで奪われる可能性はぐっと下がる……と言う説明を前回したな」
一通りドリブルを見せ、今度はボールを持ったままサイドラインギリギリで立つ。
「んで、ドリブルがある程度出来ると、こんなシュートが出来る」
右手でドリブルをし、左にカーブしながらゴール目指して走る。
ゴール手前でボールを持ち、右足で一歩。次に左足で一歩。そのまま勢いでジャンプし、右手を伸ばして、ボールを押し上げた。
ーーカカカカカカカカカカカカカカカカカシャン
ボールはバックボードに当たり、跳ね返ってゴールに入る。
綺麗に決まったのはいいが、俺がジャンプしたと同時に、連続でシャッター音が聞こえた気がしたんだけど。
ゴール近くには生徒会が集まっており、撮影担当なのか綾先輩がデジカメを持っていた。
「……おっと、うっかり連続で写真を撮ってしまってこれ以上写真が撮れないじゃないか。仕方ない、別のSDカードに入れ替えて撮影しないとな。このSDカードは私が責任を持って後で編集しよう」
「会長にそこまでやらせるわけにはいきません。ここは私に任せてください」
取り出したSDカードを懐にしまう前に、笑顔の雫がそのSDカードを掴む。
「いやいや。これは生徒会長である私の失敗。これは私がやるよ」
「いえいえ。会長の失敗は私達の失敗でもあるんです。それに会長にこれ以上雑務をさせるわけには」
「いやいやいやいや」
「いえいえいえいえ」
雫がいてくれて助かった。変にツッコまなくて済む。
撮影係も綾先輩から水原先輩に変わってる。
これが姫華先輩だったら、変な写真を撮って綾先輩に引き渡す可能性があるし、小毬先輩はそもそも背が小さいから見上げるようなアングルにーー
……なんか小鞠先輩からプレッシャーを感じるが気のせいであってほしい。
とりあえずSDカードを取り合う二人を放っておき、ボールを持って戻った。
「と、まぁこんな感じのシュートなんだが」
「うん、まぁそれはいいとして、会長さんと会計さんは何してるんだ?」
SDカードを取り合っている二人を指差して卓也が尋ねる。
「写真の編集をお互い率先してやろうとしてくれてるだけ」
「流石生徒会!」
「普通だったら誰かに押し付けたくなる仕事なのに」
「あんな風に率先してやろうとするなんて」
裕太達が感動を覚えてるが、俺からしたら綾先輩には率先してやらないでほしいわけで。
「はいはい。練習に戻るぞ。ここからは徹底的にパスとドリブルの練習だ」
残りの一時間を上手く使い、パスとドリブルをバスケ部員レベルまでーーとは行くはずもなかったが、それでもドリブルとパスの精度は充分上がったはずだ。
だが、本音を言えばもう少し練習する時間が欲しかった。
いや、そもそも俺が練習に参加出来なかったことに問題がある。
土日を使って練習に参加させたいのだが、ある意味俺が一番練習していないのに、バスケが上手いからといって、俺の提案であいつらの休日を潰す権利なんてない。
「よし、今日はこれでいいだろ」
今日の練習を終え、俺はゴール下に転がるボールを拾う。
隣のバレー部も練習が終わったらしく、「お疲れ様でした!」と体育館に声響く。
「せっかく廉君のヘソチラ写真を手に入れられそうだったのに……あっちも終わったようだな」
SDカード争奪戦に敗れ、少し不貞腐れていた綾先輩が急にバレー部へと赴く。
そして顧問の先生と何か話しをつけると、その場で制服を脱ぎ、下に着ていた体操服が露わになる。
脱いだだけとは言え、目の前で生着替えをする綾先輩に釘付けとなるアホ三人組。
あいつらの手が止まったし、一度雫に事情を聞こうと耳打ちをする。
「なぁ、雫」
「写真なら私が死守したわよ」
「それは心の底からありがとう。でもその事じゃなくて、綾先輩は何してるんだ?」
視線を綾先輩に向けて尋ねる。
「バレーの練習をするのよ。今年はバレーをするみたいで、生徒会の仕事で中々練習出来なかったから、顧問の先生に頼んでたらしいわよ」
と、雫が言っている間に、バレー部が使っていたコートには綾先輩を含め、六人が立っており、ネットを隔てて三人ずつに分かれていた。
「さぁ! 遠慮せず全力でこい!」
綾先輩の要望に応えるように、相手は力強いサーブを打つ。
素人なら触ることも怯えてしまいそうなサーブを綾先輩は容易く受け止める。
同じチームの一人がボールを高く上げると、助走をつけた綾先輩が高々とジャンプ。
相手陣地に突き刺すような鋭いアタックを叩き込む。
部員に引けを取らない身のこなし。綾先輩の凄さを改めて知った。
三十分にわたる練習を行うと、綾先輩は顧問の先生と練習に付き合ってくれた部員達に頭を下げ、またこちらに戻ってくる。
結局、みんな綾先輩の練習姿に目が離せず、片付けが進んでない。
「お疲れ様綾ちゃん。はい」
「ありがとう」
姫華先輩からタオルを受け取ると、壁にもたれかかる綾先輩。
涼しい顔をしているが、額からは汗が滴り落ちている。
汗を止めようと受け取ったタオルで顔を覆った。
もう練習は終わったんだ。さっさと片付けを済ませよう。
まだ綾先輩の体操着姿に惚けているアホ三人組の頭を叩いて片付けを再開させた。
十分後にはほとんど片付けが終わらせ、後は着替えるだけだ。
「なぁ廉」
床掃除で使ったモップを片付けていると、肩を叩かれ振り向くと、卓也が綾先輩を見ている。
「どうした?」
「会長さんって、色々と出来るイメージがあったけど、体力ないのか? ずっと壁にもたれてるけど」
そう言えばそうだな。
ずーっとタオルを顔に当てて壁にもたれている。
「ちょっと見てくる。他の奴と先に更衣室に行っててくれ」
流石に心配になった俺は駆け足で綾先輩の元へ。
俺が来ても微動だにしない。
「綾先ぱーー」
声をかけようとしたが、耳が嫌な音を拾ってしまい、言葉を引っ込めた。
嫌な音と言うのが……
「スーハー、スーハー」
何度も聞いたことのある、この荒い息遣いだ。
そして綾先輩がこんな息遣いをする時は何か変態的な事をしているわけで。
よく観察してみると綾先輩の持っているタオル、姫華先輩から渡されたから姫華先輩のものだと思っていたが、あれは綾先輩のタオル。
少し詳細に言えば、"俺の汗"が付いたタオルだ。
姫華先輩を見ると、片手を頬に当てながら首を傾げて「あらー」と言っている。
「廉君の汗の匂い……ふふっ……フへへへへ」
タオルの下でだらしない顔をしているのが嫌でも分かるこの笑い声。
早々に対処する必要があるので、雫に報告しておこう。
「あのー雫さん」
「どうしたの?」
「あなたの従姉妹止めてくれませんか」
綾先輩を一瞥して不思議そうに小首を傾げる雫。
パッと見じゃ普通に休憩しているように見えるよね。
「何もしてないじゃない」
「あのタオル俺の汗が付いてます」
「ちょっと止めてくる」
それだけで全てを理解した雫は、自前のタオルを持って綾先輩の所へ。
「会長。新しいタオルをどうぞ」
綾先輩のタオルを取り上げた。
「いや、そのタオルでーー」
「汗吸ってるんですから、新しいもの使ったほうがいいですよ」
無理矢理タオルを押し付け、取られないように近くにいた水原先輩に綾先輩のタオルを渡す。
言い合っている二人の横で受け取ったタオルを何故かぼーっと眺めている水原先輩。
「どうかしましたか?」
「な、なな、なんでもない!」
急に声をかけられた事に驚いた水原先輩は、持っていたタオルを投げてしまった。
そしてタオルは弧を描いて小鞠先輩の頭上に落下し、小鞠先輩を覆う。
「きたない!」
ベシッと床に叩きつける小鞠先輩。
そのタオルを松本先生が拾い上げる。
汗だからしょうがないとは言え、まるで俺が汚いと言われているように感じて、心が痛みます。
「きょうーー松本先生。それは私のです。だから私に返してください」
「おねーー松本先生。それを私に渡してください」
必死な二人にため息を吐く松本先生。
「これは私が責任を持って水洗いしておくから、綾と守谷は着替えてこい。他の奴らはさっさと体育館から出ろ。これは顧問として命令だ」
肩を落とす綾先輩と、安堵する俺と雫、そして他の三人は言われた通り体育館を後にし、俺は更衣室に向かった。
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