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青春の汗と、欲望乱れる球技大会(蒼白)2

 更衣室でさっさと着替えを済ませ、タオルとスポーツドリンクを持って体育館へ。

 授業や集会で何度も体育館を使った事があるが、生徒の数が多いとは言え、やはり何度見ても広い。

 中ではすでに女子バレー部が活動を始めていた。

 端のコートにはバスケットボールのカゴと得点板が置いてあり、女子部員がアタックするたびに揺れる胸に釘付けとなっているアホ三人組がいた。

 残念な事に俺と同じクラスの奴。言ってしまえば、裕太達だ。


「……帰っていいかな」

「うーん、それはダメだな」


 だよな。

 大きく息を吐いてバレー部の邪魔にならないよう、大きく回り込んで裕太達の元へ。

 俺達が来たというのに、まだ気がついていない。


「し、知らなかった。コートの中にはバレーボールは一つだけだと思ってけど、場合によって、三つ、五つと増えるんだゴフッ!」

「増えるわけないだろアホ」


 カゴからバスケットボールを取り出し、裕太の背中に向かって強烈なパスをしたが、無論そのまま直撃し、背中を押さえながらうな垂れた。


「あ、廉と卓也が来た」


 メンバーである隆志たかしつよしもようやく俺達に気がつく。


「何やってんだよお前ら」

「いやー夢と希望が弾んでたから」


 と、言いながら隆志が胸のあたりで両手を上下に動かしていたので、パスが欲しいのかと思い、胸に目掛けて鋭いパスをする。

 すると、キャッチを上手く出来ずに膝から崩れ落ちた。


「それで、ちゃんと練習する気はあるのか?」


 と言いつつ、新しいボールに手を伸ばすと、剛が忙しなく首を縦に振る。


「よろしい」


 倒れていた二人も立ち上がったので、練習を進めよう。


「さ、始めるぞ」

「廉、お前、バスケット、ボールを、人に、ぶつける、のは、まずいだ、ろ」


 全部パスのつもりだからセーフ。


「まぁまぁ、時間もない事だし早く始めちまおうぜ。それにこの後、生徒会全員が来る予定なんだろ」


 生徒会の単語を聞いた途端に、三人の目に闘志の火が灯り、背筋を伸ばす。


「そうだった。生徒会が来るんだったな。しかも、俺達の練習している姿を撮りに来るんだ。隆志、剛。俺達の練習の成果を見せる時が来たぞ!」


 裕太の気合いの入った言葉に二人は「おー!!」と叫んでいるけど、練習の成果は本番に出してくれ。


「何してるんだ廉、卓也! 早く練習始めるぞ!」


 本当、欲望に忠実な奴だ。

 でも体育館を使う時間だって限られてるんだ。

 それに、こいつらがどこまで上達したのかを一刻も早く確認したい。

 一応最初の練習で、運動場の片隅に置かれたバスケットゴールなどを使って実力を確認した。

 卓也はその日の内に試合に問題ないほどの上達を見せ、流石の運動神経と言わざるを得ない。

 一方残りの三人は、毛も生えないど素人。

 ボールを見ながらのへっぴり腰ドリブル。鋭さのないパス。常にトラベリングと、この時点で頭を抱えたものだ。

 だけど、諦めずパス、ドリブル、シュートの基本を叩き込んだ。

 それからは忙しくてちゃんと見れていない。

 飲み込みの早い卓也に、どんな練習をすればいいかの指示は出していたし、問題はないはずだ。


「じゃあまずはパスからだ」


 俺以外がペアとなってパスを始め。俺はそれを観察する。

 卓也はリズムよくツーステップでパス。

 ボールの速さもコントロールも申し分ない。

 次に裕太がパスを返すが、速いと言えず、それに加えてコントロールも不安を覚える。

 他の二人も似たような感じで、ボールがあちらこちらへ飛ぶ。


「つ、次。ドリブル」


 もしかしたらパスが苦手なだけかもしれない。

 最悪ドリブルが出来ればなんとか、と思いドリブルをさせる。

 が、これも卓也以外は最後に見た時と変わらず、たまに足にボールをぶつけて転がしてしまっていた。

 この後の展開が簡単に予想出来るぞ。


「……シュート」


 少し離れた所からシュートをしてもらう。

 みんな俺が教えた通りの綺麗なシュートフォームを身につけていた。

 さらに卓也にも引けを取らないゴール率を叩き出す、三人の姿があった。


「どうだ廉! 俺達成長したぞ!」


 開いた口が塞がらない俺を見て、裕太は驚いて何も言えないと思ったのか、更にこんな事を言い出す。


「まだ驚くのは早いぞ廉!」


 さっきよりもゴールから距離を取り、足元に十球のボールを置くと、スリーポイントシュートを試みる。

 ハズレ、ハズレ、ハズレ、ゴール、ハズレ、ハズレ、ハズレ、ハズレ、ハズレ、ゴール。


「どうだ! 十球中二球スリーポイントが入るようになったぞ!」

「お前ら何シュートだけ練習してるんだよ!?」


 もう我慢が出来なかったので、大声を上げてしまった。


「何言ってるんだよ廉」


 俺の肩に手を置いて爽やかな笑顔の裕太。


「シュートは花形、だろ?」


 とりあえずお前らが典型的な勘違いをしている事は分かった。まぁ、それは許そう。

 でもその笑顔で言われると腹が立つ。

 殴っていいよな。助走つけて殴ってもいいよな!


「ストップ廉。落ち着け」


 俺の心情をいち早く察した卓也が俺と裕太に割って入る。

 そもそも卓也に練習を頼んでたはずなんだが。


「卓也、なんでこんな事になってるんだ」

「なんというか、その……あははー」


 どうせ強く言えなかったのだろう。

 こいつが誰かに怒鳴りつける事など、あまり見た事がないし。

 これは一度こいつらに、バスケのなんたるかを教える必要があるな。


「廉は……あ、いたいた」


 入り口で五人の女子生徒と女教師が俺達を見つけるなり、バレー部に邪魔にならないようこちらにやってくる。

 もうそんな時間なのか。


「廉君、練習はどうだ?」


 綾先輩が尋ねられ、「まずまずですかね」と答えようとしたが、俺をぐいっと退けてアホ三人組が前に出た。


「もちろんです!」


 盛大にこかした俺になど目もくれずに、目を輝かせ、綾先輩にお近づきになれた事を嬉しそうにしている。


「おーい、大丈夫か?」

「あぁ、大丈夫だ」


 歯を食いしばりながら、覗き込む卓也に笑みを浮かべる。

 そして、上体を起こして立ち上がった。


「ちゃんとした練習をする前に、あいつらの鼻をへし折る必要があるな」

「あまりやり過ぎるなよ」


 それは保証出来ないな。


「生徒会長! 当日はかっこよくゴールを決めますから、見ててください!」

「ほう、それは楽しみだ」

「会計さんも当日は俺達の応援を!」

「私、自分のクラスの応援があるんだけどなー」


 ぐいぐいくる裕太に愛想笑う雫。

 雫を助けることも含めて、俺は裕太の肩に手を置いた。


「なら今から、実戦に近い形でその実力見せてやろうぜ。松本先生、審判をお願いします」

「……いいだろう」


 唐突な頼みだったが、裕太達が調子づいてる事を察し、快く引き受けてくれる。


「でも人数が奇数だぞ?」


 と剛が聞くがそんな心配する必要がない。


「卓也は入らないから大丈夫だ」

「じゃあ、じゃんけんでチーム分けを」


 と隆志が言うと、三人は円になってじゃんけんの体制に入る。

 どうやら勘違いしているようなので、先に訂正しておこう。


「違う違う。お前ら三人対俺一人」


 これには三人はポカーンと口を開けたまま俺を見つめる。


「いや、流石に三体一は……」


 少し気が引ける様子だが、ここで松本先生からの助け舟が出た。


「勝った方には生徒会長が自前のタオルで汗を拭いてくれるぞ」

「廉! 手加減なしだからな!」


 最初からそのつもりだよ。

 三人をコートの真ん中に立たせ、対面に立つ。

 ちょうどよくバレー部も休憩のようで、何人かこちらを伺っている。


「俺が三回ボールをカットしたら攻守交代。逆に俺は一回カットされたら攻守交代。先にシュートを決めた方が勝ち。いいな?」

「おいおい、そんなんで大丈夫か? ワンプレーで決めちゃうぜ?」


 勝利を確信してる裕太が、笑みを浮かべてまるで実力者のごとく振る舞うが、俺は不敵に笑う。


「ああ、いいぞ」


 徹底的に折ってやる。


「廉、すごい、やる気」

「ねぇ、なんだか守谷いつもと違わない?」

「そうですね。何かを企んでるようにも見えます」

「あらあら、廉君は困ってる時の顔の方がかわいいのに」

「ふふっ、ヤキモチ焼きだな廉君。私が他の男に触れるかもしれないから躍起になってるのだな」


 何か聞こえた気がするが放っておこう。


「ほら、先にそっちからだ」


 ボールを裕太に渡し、少し距離を取る?


「ふっ、舐められたもんだ。いくぞ剛!」


 離れた場所にいる剛に、両手で突き出すようにパスを出す。

 さっきよりかは速いパスではあるが、渡す先が見え見えのパスをするなんて、俺を舐めてるのか?

 走り飛び、ボールを叩き落とす。

 簡単にカットされ、裕太は目を皿にする。


「え、今、え?」

「おーい、まだお前らの番だぞ」


 俺たちの代わりにボールを拾った松本先生が裕太に向かって軽く投げ、それを裕太が受け取った。


「ま、まぐれだな。今度はドリブルで攻めてやる」


 と、今度は俺とサシで勝負しようとする。

 いい度胸じゃないか。

 しかしドリブルの位置が高く、おまけに腰も高い。

 こんなの取ってくださいと言っているようなものだ。

 ボールが裕太の手元に戻る瞬間、手を横に一閃。


「あれ?」

「次がラストだ。頑張って足掻けよー」


 もう結末を知っているかのような口ぶりで、松本先生がまたボールを裕太に渡す。


「だ、だだ、大丈夫だ。パスさえ通れば」


 チラリと隆志を見ると、その後はずーっと剛ばかりを見ている。

 なんとなくやりたい事は分かった。

 そんな作戦、浅はかな考えだと思い知らせてやろう。

 剛に向かってパスするモーションをすると同時に体を使って遮る。

 待ってましたと言わんばかりのドヤ顔の裕太。


「かかったな!」


 そう言って剛を見たまま逆方向へパスを投げた。


「いけ隆志!」


 声を張り上げているとこ悪いけど。隆志はもっと前にいるし、ボールは弾んでコートの外に出て行ったぞ。

 ノールックのパスをするなら、ちゃんと仲間の動きを把握しとけ。


「アウトオブバウンズ」

「へ?」


 松本先生が笛を鳴らした事で、ようやく裕太は自分が投げた方向に顔を向ける。

 ボールはバレー部員の足元まで飛んでいた。


「攻守交代」


 バレー部からボールを返してもらい、攻守変更。

 松本先生からボールをもらう。


「さ、さっきは調子が悪かった。だが、すぐに廉からボール奪って、次で終わらせてやる!」


 いいのか裕太。今のお前小物臭しかしないぞ。

 流石に長引かせるのは可哀想だからサクッと終わらせるか。


「始め」


 松本先生が笛を鳴らす。

 俺は勢いよく右に向かってドリブルーー


「いかせるか!」


 しようとすればこうやって裕太が釣れるので、瞬時にボールを引き戻し、左に向かってドリブルで進む。

 フェイントに引っかかった裕太は盛大にこける。

 後は二人だが、裕太よりかはディフェンスに隙はない。しかしそれでも抜くのは容易い。

 ボールをついて右手へ変え、すぐさま左手に戻して一気に走り抜き、最後の一人は相手の前で回転して走り去る。

 ゴール下までついた俺は悠々とシュートした。

 邪魔者がいないゴール下で外すわけもない。

 松本先生の笛が終わりを告げる。

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