高校生で、一人暮らししている俺のアルバイト生活(疲弊)10
アルバイト編・最終話
「松本先生も滝本さんも見た目は十分綺麗な人なのに」
「結婚するためには見た目以上に大切な事もあるって事だよれっちゃん」
あの二人が典型的な例でしたね。
「美鶴さんは付き合ってる人とかいるんですか?」
「なんでそんな質問をーーダメだよれっちゃん! 私達、姉弟なのに……」
「だから俺達姉弟じゃないです」
「頭に義がつくから問題ないって言いたいの?」
「ただの世間話ですよ!」
相変わらずの美鶴さん。
俺の唐突な質問に対して、首を横に振る。
「いない。何度も告白されてるけど、作ろうと思ってないから全部断ってる。それに今は色々と忙しいし」
「大学のレポートが多いって聞きますし、やっぱり大変なんですね」
「ううん、私はそれほど」
美鶴さん頭いいですもんね。前も課題で分からない所があったから試しに聞いたら、分かりやすく、事細かく教えてくれたし。
ただ、終始俺の頭を撫でながら教えるのは勘弁してほしかった。
しかも答えが合っていると、ご褒美と言わんばかりに俺を抱きしめて、モフモフしてきたし。
まぁ、この話一旦置いておこう。
「じゃあ、アルバイトですか?」
しかしこれも首を横に振る。
「れっちゃんと舞ちゃんをどうやってくっつけるか、水面下で考えてる」
「今水面に浮上しましたけどね」
いや、元々浮上してたか。
と言うか、まだ諦めてないのかこの人は。
「ねぇ、舞ちゃんと結婚しよ?」
「本人の意思もなく結婚させようとするのはどうかと思います」
「大丈夫。舞ちゃんは押し倒せばなんとかなる子だから」
「するわけないでしょうが!」
この人は本気で俺と水原先輩をくっつけようとしてるな。
「廉君が押し倒すと聞いて!」
もう良い加減にしてくれ! このタイミングでなんでガソリンが持ち込まれるんだよ!
レジの前には、今朝会った(侵入した)綾先輩が息を荒くして、カウンターに手を付いていた。
「綾先輩。どうしてここにいるんです」
美鶴さんには聞こえないように小声で話す。
「いやな。今朝君の部屋に私物を忘れてしまって、廉君がいつ帰ってくるか聞こうかと」
「それはメールじゃダメなんですか?」
「妻として夫の仕事ぶりを見たいのは当然だろ?」
前提条件から間違ってるいる事を当然と言われても俺は困るんですが。
「れっちゃん。この人は?」
初めて綾先輩と対面した美鶴さんは品定めするかのように綾先輩を観察している。
とりあえず誤解のないように俺が紹介するべきか。
「この人はーー」
「初めまして。守谷廉君の恋人で東雲綾と言います」
何また平然と嘘言ってるんですか!?
「れっちゃんの姉、百鳥美鶴です」
こっちもかよ!?
「廉君に姉がいるなんて情報はなかっーー初耳だぞ。しかも名字が違うなんて」
「舞ちゃんがいるのに彼女いたんだ」
二人の視線が俺で交差する。
「いや、二人とも真実かのように虚言を吐かないでくださいよ。恋人でも姉でもないです」
「そうだな。"今は"な」
「そうだね。"まだ"ね」
もうやだこの(自称)恋人と(自称)姉。
「で、この人とはどういう関係」
正直に「あはは。この人はストーカーで、いつの間にか部屋に入ってたんですよね」なんて口が裂けても言えない。
「廉君。さっきこの人が言っていたが、まいちゃんというのは、まさか舞の事か?」
素直に「いやー、実はこの人、俺を弟にしたいらしくて、水原先輩とくっつけさせようとしてるんですよね」なんて言えるわけがない。
「えーっとですね。順番に説明させてください。まずは綾先輩から。この人は俺のアルバイトの先輩の百鳥美鶴さん。水原先輩の幼馴染らしいです。間違っても実の姉ではありません」
簡単な補足説明を加えて綾先輩に紹介し、今度は美鶴さんに向き直る。
「で、美鶴さん。この人は俺の学校の生徒会長、東雲綾先輩です。俺も生徒会に入ってるんで、仲はいいと思いますが、彼女ではありません」
訂正するべき所は訂正し、当たり障りのない紹介をした。
二人が不満げな顔をしていたが、事実を述べただけなので無視だ。
「改めて東雲綾です。白蘭学園の生徒会長をしてます」
「まいちゃんがお世話になってます。百鳥美鶴です。気軽に美鶴って呼んで」
「美鶴さんは大学生ですか?」
「うん、大学二年生。大学に通いながらここで働いてる」
「そうなんですか。今度大学生活について聞かせてください」
「うん、いいよ。私も舞ちゃんがどんな学校生活を過ごしてるか教えてね」
性格は違うがある部分では似た者同士の二人。
問題もなく仲良さげに話すのはありがたいが、共通している部分が全然嬉しくない。
「でも大変ですよね。実家から大学に通うのは」
「私一人暮らししてるの。だけど最近寂しいと思う時期があって。かわいい弟みたいな人が、たまにでいいから遊びに来てくれれば嬉しいんだけど。ね、れっちゃん」
ね、れっちゃん。じゃないですよ。
水原先輩で我慢してください。
「私もたまに寂しさを感じます。出来れば誰かと私の家に遊びに来てくれたらありがたい。な、廉君」
あなたは実家ぐらしでしょうが。
「家に親いますよね」
「いるにはいるが、出来れば抱きしめいんだ。身長165センチで、体重57キロ、血液型はO型の後輩で、生徒会庶務している系男子を」
そんな具体的な「〜系男子」聞いた事ありませんよ。
「……ん? なんだ、杏花姉さんもいたのか」
俺の背後に視線を向けている綾先輩の声につられ、後ろを振り向く。
疲れたように手をぶら下げる松本と滝本さんが。
まるでゾンビだな……なんて言ったら殺されるだろうか。うん、もちろんさ。
「もう大丈夫なんですか?」
そう問いかけるが返事がない。
「れっちゃん。店長命令」
「な、なんでしょうか」
そのままゆらりと近づいてくるので、思わず後ろに足を運ぶが、カウンターが阻む。
「私と結婚して」
……オーケーオーケー。滝本さん、あなた疲れてるのよ。
「流石に無理ですよ!」
「お願い! 重いって言われるのもう嫌なの! 親から結婚催促が怖いの!」
知りませんよそんな事。
「ダメです滝本さん。れっちゃんは舞ちゃんと結婚する予定だから」
「れっちゃんの裏切り者!」
何でややこしい事言うのかな!
「先生! 何とかしてください!」
だが松本先生の返事がない。
「ふ、ふふ……フフフフフフフフ」
……かわいそうに。精神崩壊したんですね。
「綾」
「どうかしたか、杏花姉さん」
滝本さんと同じように、ゆらりと体を揺らして綾先輩へ近づくと、綾先輩の肩に手を乗せた。
「お前と守谷を付き合わせるために、これまで以上に協力してやる」
「本当か!?」
何でみんな話を面倒臭い方へと進めようとするかな!
「今そんな事言う必要ないでしょうが!」
「守谷、これは今後に関わってくるんだ。考えてみろ」
諭すように話しかけてくる松本先生。
この時点でもう嫌な予感しかしない。
「私と綾は似ている。綾とお前が付き合う。つまり私も付き合う事が出来る。子供でも分かる三段論法だ」
「数学教師が論理的思考を放棄してどうするんですか」
もう誰もまともな人がいない。
お願いだから雫来てくれないかな。
「れっちゃん! 説明して!」
「だかられっちゃんは舞ちゃんと結婚するんです」
「何? 舞と結婚!? 廉君は私の旦那だ!」
「そうだぞ! 守谷は綾の彼氏だ! だから私にも彼氏が……」
もういい加減にしてくださいよ!
しばらくして他のアルバイトの先輩達が止めに入ってくれたおかげで、なんとか収拾がついた。
滝本さんも松本先生も頭を冷やしてくれて、謝罪とお詫びの印にお菓子とカップ麺を貰った。
しかし、何故すぐに先輩達は止めてくれなかったのか。
女性の先輩に聞くと、
「みんなの目が怖かった。特に滝本さんともう一人の女性は、まるで私の未来を見ているようだった。私もすぐに彼氏作らないと」
と話した。
そして男性の先輩にも聞くと、
「リア充爆発しろ」
と素直に答えてくれた。
こうして、いつもよりも濃い二日間の出勤を終えたのだった。
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