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高校生で、一人暮らししている俺のアルバイト生活(疲弊)8

 途中休憩を挟み、山本先輩からいただいた梅と塩飴をしっかりと摂取してから売り場に戻る。

 不思議と疲れが抜けた気がした。

 例え気のせいでも今なら仕事をやり切れるはずだ。残り数時間張り切っていくか。

 バイトの先輩が「いらっしゃいませー」と言ってお客さんが来た事を知らせる。

 俺も山彦のように続けて「いらっしゃいませ」と声を発した。

 ……もうそろそろ来そうだな。俺の感がそう呟いている。

 山本先輩、犬井先輩と来たんだ。恐らく次は……


「あ! お前は!?」


 ああ、やっぱりきたか。

 声がして方に体を向ける。

 黒のハーフパンツに吸水性に優れていそうな青い半袖シャツを着た茶髪の男性が指をさしていた。

 程よく筋肉がつき、体が少し黒く焼けている事から容易にスポーツをしているのだと分かる。

 しかしそんな情報がなくてもこの人が日頃からサッカーをしている事を俺は知っている。

 なぜならこの人は俺と同じ高校の先輩、真島翔先輩だから。


「前に東雲綾と一緒にいた男! ……えーーっと、名前なんだっけ」


 そういえばこの人には自己紹介していなかったな。


「一年の守谷廉です。庶務やってます」

「あ、ご丁寧にどうも」


 自己紹介をすると丁寧に頭を下げる真島先輩。

 見た目から少し遊ぶイメージがあったが、スポーツマンだからか礼儀正しい。


「って、それよりも! お前と東雲綾はどういった関係だ!」

「俺庶務って言いませんでしたか?」


 興奮すると言葉が耳に入らないタイプか。


「あ、ごめん。そうだった」


 でもちゃんと謝るところを見ると悪い人ではない。


「だけどお前と東雲綾を見ていると、生徒会の仲間とは思えないんだが」


 くっ、少し感が鋭いようだ。


「そ、そんな事ないですよ」

「まぁそれはいい。お前と東雲綾がどんな関係であろうと、いつか東雲綾は俺のものにする! 覚悟しろ!」


 そんな堂々と宣戦布告されても困ってしまう。

 と言うかこの人はまだ諦めてなかったんですね。


「まだ綾先輩の事諦めてなかったんですね」

「当たり前だ! あんな美少女を放っておく方がおかしい」


 確かに白蘭学園の生徒は綾先輩を神か何かと思って信仰しているように思える。

 実際はただの女の子だと言うのに。

 そう考えるとこの真島先輩は綾先輩を対等に見る事が出来る数少ない人物なのかも。

 ……それでも32回告白をどうなんだろうか。いや、あの時も告白してたから33回か。


「真島先輩の言う事は分かりますけど、それでも33回の告白はどうかと」


 俺が率直な意見を述べるとそれを鼻で笑われた。


「知らないのか? 女ってのは1回目の告白よりも2回目の告白の方が意識してるから成功しやすいんだ。つまり何度も告白してれば意識されていずれ成功するって事だ。その証拠に最初は敬語で断られたが、50回目の告白の時には気軽に『消えろ』と言われる程フレンドリーだ!」


 ノットフレンドリーです。

 と言うか俺の知らない所で記録を着実に伸ばしてたんですね。

 それにしても綾先輩がそこまで言うとは。

 相当鬱陶しかったのだろう。


「でもそんなに告白してると前みたいに姫華先輩から制裁が加わったんじゃ」

「ああ、南条姫華には何度も邪魔されたよ」


 やっぱりそうですよね。


「俺は人前で辱めを受けたよ。とてつもない興ふーー屈辱だった!」


 別に隠さなくてもいいのに。真島先輩がドMって事は知ってますから。

 ふと、ある疑問が頭をよぎった。

 綾先輩の告白は本心ではあるが、同時に姫華先輩を呼び出すための口実だと俺は思っている。

 それってつまり真島先輩は……


「真島先輩って、実は姫華先輩の事が好きなんじゃないですか?」


 その瞬間真島の右手がカウンターを力強く叩く。


「は? お前何言ってんの? 女王様に恋するなんて冗談でも笑えないんだけど。俺達は子豚なんだ。豚が人を好きになるのはおかしい……よな?」

「は、はひぃ」


 こええぇぇぇぇ!

 俺はてっきり顔を赤くして「そ、そんなんじゃねぇよ!!」って言いながらも実はめちゃくちゃ意識してますよって感じの反応するかと思ってたのに、真顔でぐっと顔を近づけて俺だけに聞こえるように呟くとは思っていなかった。

 どんだけ躾けられたんだよ。いや、姫華先輩はどんな躾をしたんだよ!


「俺達は別に女王様から愛を感じたいわけじゃないんだ。例えゴミのように扱われても俺達はそれでいいんだよ」

「わ、分かりましたから! もうやめましょうこの話」

「…まぁいい」


 ようやく距離を取ってくれた。

 場合によっては真島先輩も厄介な存在になる事が分かった。

 今度から言葉を選ばないとな。

 ……さっきから視界の端で誰かが俺を待つように近くの本を物色している。誰なのか予想は出来てるけど。


「卓也。何やってるんだ?」


 俺の親友である卓也が紙袋を持ってチラチラと横目で俺を観察していた。

 俺が声をかけた事で持っていた本を戻して卓也も会話に参加する。


「廉がいたから声かけようと思ったんだけど、仲よさそうに話してたから入りづらくて」


 あれが仲よさそうだと?

 あんな一方的に心の闇を見せられた会話がか?


「初めまして真島先輩。三島卓也って言います。クラスのサッカー部員から話は聞いてます。二年生ですでにサッカー部のエースでみんなが尊敬してるって」

「そ、そんな風に言われると照れるな」


 視線を卓也から外して頭の後ろをかく真島先輩と。

 卓也のおかげで真島先輩の雰囲気が和んだ気がする。


「あ、先輩も本買いに来たんですか?」

「そうだった忘れてた」


 卓也の一言で目的を思い出して手に持っていた本をカウンターに置く。

 素早くレジに通して会計をテキパキと済ませる。


「どうぞ」

「どうも。俺はもう帰るが、今度時間があったらじっくり教えてやるからな」


 俺は人でいたいので嫌です。

 真島先輩の後ろ姿を見送りながらため息を漏らした。


「真島先輩ってお金持ちなのか?」

「急になんでそんな事聞くんだ」

「いや、真島先輩が買ってた本のタイトルが『御主人に仕えるための極意』とか『主従関係の教え』とかあってさ。専属のメイドでもいるのかと思って」

「……真島先輩の家事情は知らないけど、多分自分用だ」


 理解出来ていないのか首を傾げている卓也。

 知らなくていい。姫華先輩(ご主人様)のために勉強しているなんて事。


「なんで真島先輩が読むのか知らないけど、人それぞれだしまぁいいか。でも意外だったな。真島先輩が本を買うほど豚が好きだったなんて」


 あぁ、真島先輩(子豚)だからな。


「それよりお前が来たって事は」


 俺が尋ねると親指と人差し指でL字を作り、顎に当てながらキメ顔で答えた。


「彼女を迎えに来たぜ」


 無駄にイケメンボイスで何言ってんだこいつ。


「ただ限定版の漫画を取りに来ただけだろうが。ちょっと待ってろ」


 カウンターの下から限定版の漫画を取り出してカウンターに置く。

 中身は卓也が好んで読んでいる作品とその作品のヒロインの小さなフィギュア。

 それを見るなり卓也は歓喜した。


「心の友よ!」


 ガシッと俺の手を握る卓也。

 近くにいた女性客から花田さんと同類の視線が送られるのを感じた。


「お礼なら滝本さんに言ってくれよ。いつも快く引き受けてくれるんだから」

「分かってるよ。だからいつもこうしてお礼の品を持ってきてるんじゃないか」


 そう言って持参した紙袋を俺に渡す。


「近くの和菓子屋で買ってきた饅頭。みんなで食べてくれ」


 袋を渡されたので中身を確認する。

 包装からして中々上等な和菓子とみたり。


「ありがたく頂く。滝本さんも気軽に頼んでいいって言ってるから、また何か取り置きしてほしかったら俺に言ってくれ」

「サンキュー。その時も献上品は忘れずに持ってくる」

「そうしてくれると滝本さんも喜ぶ」


 この和菓子なら滝本さんも満足するだろう。

 と、こんな言い方をしてしまうとまるで滝本さんが献上品目当てで取り置きしているみたいに聞こえてしまうな。

 本当は見返りなしだったが、卓也がそれでは悪いという事でこうしてお菓子を持ってきてるだけで、取り置き自体は滝本さんの善意だ。


「んで、今日はこれだけでいいのか? 他に本は?」

「いや、少し今月はピンチでな。少し自重を」

「それだったら饅頭なんて買わなくていいのに。買ってこなくても滝本さんは気分を悪くはしないぞ」

「頼みを聞いてくれた人へのお礼はしなくちゃいかんだろ」


 こんな事を当然のように言い切れる卓也は人が出来ているな。


「それもそうだな。じゃあ次はもっと値が張る物を頼む」

「やめて! 財布のライフ(所持金)はとっくにゼロよ!」


 卓也に向かって素直にいい奴と言うのは気恥ずかしく、ついつい意地の悪い事を言ってしまうが、卓也もそれを分かってかノリノリでのってくる。

 しかし、男の裏声は気持ち悪いな。


「お、卓也君じゃない」


 ようやくひと段落ついたのか滝本さんが伸びをしながら売り場に戻ってきた。


「滝本さんこんにちは。これお礼の饅頭です」


 渡されたばかりの袋を滝本さんへ。


「わざわざすまないねぇ。無理して買わなくていいから」

「いえ、これは俺の感謝の気持ちですから」

「そう? じゃあ遠慮なく」


 顔をほころばせてまた裏へとさがる。

 休憩がてらお茶にするつもりなのだろう。

 みんなよりも働いているんだからそのぐらい誰も文句は言わない。むしろもう少し休憩してほしいぐらいだったりする。


「よかったな喜んでもらえたみたいだぞ」

「そうみたい。用事も済んだし、会計してくれ」


 他の皆と同様に会計済ませて渡すと、卓也はすぐに帰った。

読んでくださりありかとうございます。

感想・誤字などありましたら気軽に書いてください。

次回でこの話は終わりの予定です。

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