高校生で、一人暮らししている俺のアルバイト生活(疲弊)3
裏の休憩室の扉を開ける。
その瞬間エアコンから生み出される涼しい風が体を包み込んだ。
部屋の中心には長机が向かい合うようにくっつけられ、パイプ椅子が数脚収まっている。
端に設置されているロッカーの列の中から俺専用のものを開け、しまっておいたスマホを取り出す。
休憩時間はこれと言ってやる事がないので基本スマホいじりだ。
他に人がいれば漫画だったりゲームだったりで会話が弾むのだが。
そんな事を思っていた矢先に休憩室の扉が開く。
「お疲れ様です」
藍色のセミロングに編み込みをした私服の女性が入室する。
釣りあがった目が俺を捉えると靴音を立てながら近寄ってきた。
「お疲れ様です百鳥さん」
「れっちゃん。距離を感じるからその呼び方はやめてって言ったでしょ」
無表情のまま俺を見下ろしている。
「えーっと、美鶴さん」
「れっちゃん。前に行った事覚えてない?」
無表情のままぐいっと顔を近づける美鶴さんはこう続けた。
「おねえちゃん、でしょ?」
じーっと俺が呼ぶまで見つめているが、これだけは言わせていただきたい。
「美鶴さん」
「おねえちゃん」
ノータイムで訂正されたがもう無視して話を進めよう。
「別にあなたとは血縁関係でもないですし小さい頃に遊んでいた年上の幼馴染でもないですよね?」
「血や時間は関係ない。問題なのは私がどうありたいか」
「カッコいい台詞ですけど俺は美鶴さんとはアルバイトの先輩後輩の関係でいたいですねー」
一応変な期待をされては困るので先に言っておこう。
この人俺に対する恋愛感情はゼロですからね。
逆も然り。
「なんでそんなに拒むの? ただ弟が欲しいだけなのに」
「だったら俺以外の人でお願いします」
「れっちゃんじゃないとダメだって話したでしょ?」
変な所で頑固だなこの人。
そもそも何故こんな事になってしまったのかだが、俺がアルバイト始めたての頃は指導役として手取り足取り教えてくれていた。
常に無表情で感情が読み取れない美鶴さんをとっつきにくい人だなと思っていた俺。
しかし一カ月も経てばそれなりに美鶴さんの事も理解が出来、表情が読み取れなくても美鶴さんとの漫画やアニメの談義はそれなりに楽しかった。
ここまでは良かったんだ。
俺が不用意なあの一言がここまで狂わせてしまった。
『美鶴さんみたいな人が姉でいたら良かったのに』
美鶴さんの内に秘めていた思いのたかが外れた瞬間がこの時である。
それからは必要以上にスキンシップを取られるようになる訳で。
本人に何故そんなに俺に構うのか聞いてみたのだが、
『私は弟がほしかった。カッコイイよりもカワイイ感じで、素直で、私と同じくらいかそれよりも小さい子が。れっちゃんは私の理想にぴったり』
と、無表情ではあるが本気な目で鼻先数センチまで顔を近づけられながらそう言われた。
後日笑い話風で店長の滝本さんにこの事を話したのだが、
『あぁ、だから土下座で懇願するほどれっちゃんの指導役をしたかったのか』
さらに爆弾を投下されて開いた口が塞がらなかった。
美鶴先輩のカミングアウトから驚きの連続。最近も驚かされた事がある。
俺が急に別の日に移動したはずなのに美鶴さんも同じ時間に入っていた事だ。
その最近と言うのが今この時の事なんだけどな。
「そんな風に言われても俺にとっては美鶴さんは共通の話題で盛り上がれるバイトの先輩ですよ」
「私、今の関係で終わらせたくないの」
「誤解しか生まれないんでその言い回しはやめましょう」
分かっててわざとらしく言ってる分にはまだマシではある。
「どうにかしてれっちゃんを弟に出来ないかな」
そんなどうでもいい事のために難しそうな顔をして頭を使わないでほしいです。
「美鶴さんに妹がいて、将来俺がその人と結婚すれば一応弟にはなりますよ」
とりあえず適当に答える。しかし今の俺では到底ありえない将来だが。
「なら大丈夫。私には妹的な存在がいるから」
「"的な"がついてる時点でその人実の妹さんじゃないですよね?」
まさかとは思うけど、その妹的な存在の人も俺と同じ目にあってないよな?
「あ、もうこんな時間。着替えないと」
まだ私服の美鶴さんは自分のロッカーへ。
中から制服を取り出すとその場で着替えを始ーー
「ストップストップストップストップ! 着替えは隣の部屋でしてください!」
「何をそんなに慌ててるの? 私達は姉弟なんだから」
そんな「何言ってるのかしらこの子は?」みたいな顔で年上特有の余裕感出しながら首を傾げないでください。あと前のボタンも閉めてください。柔らかそうな白い肌は思春期の男子高校生には目の毒です。
「だから俺達は実の姉弟でも幼馴染でもないじゃないですか! いやその関係だったとしてもここで着替えるのはおかしいですよ! 他の人が来たらどうするんですか!?」
「……それもそうだね」
大人しく隣の部屋へと移ってくれた美鶴さん。
休憩時間のはずなのに働いてる時と同じくらい疲れが溜まった気がする。
数分すると、指定の制服の上からエプロンをつけた美鶴さんが登場。
「れっちゃん。おかしな所はない?」
と言ってその場でくるっと小さく一回転。
特に汚れだったり服がめくれてたりはしていない。
「大丈夫ですよ」
俺は椅子から立ち上がり、スマホをロッカーの中へと閉まった。
「休憩はもういいの?」
「えぇ、そこまで疲れてもいませんし」
「そう。なら私も一緒に出る」
と言って俺の後ろについてくる美鶴さんと一緒に売り場へと戻った。
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