真面目で、常識人の会計さんは俺の女神です(真剣)3
「ん? ここは?」
気がつけば真っ白な天井が。
なんだか頭がーー前にもこんな事があったような気がする。
ループしているのか?
い、嫌だ! ほとんど変わらない内容をアニメで8話ぐらいループさせられるのは嫌だ!
「気がついたのね守谷君。友達が心配してたよ」
ま、待って! そのカーテンから手を離してください! もう鬼ごっこは嫌なんです!
俺の願い虚しくカーテンが開かれる。
「おっす廉!」
そこには心の友である卓也がニカッと笑って立っていた。
「水原先輩から連絡が来てたから心配したぞ」
あぁ、悪意のない視線がここまで心地よいものなのか。
「先輩も心配して来てくれたんだからな」
先輩? 卓也は生徒会のメンバーの事は役職で呼んでるし、俺の知り合いで卓也が先輩呼びしているのは水原先輩ぐらいか。
じゃあ水原先輩なのか?
などと、思いふけっていると、卓也の後ろいにいた人物が俺が見える位置に立つ。
「やぁ守谷君。気分はどうだい?」
俺の目の前でユニフォーム姿の犬井先輩が爽やかに微笑んでいた。
「い、犬井先輩。なんでここに?」
予想してもいない犬井先輩の登場。
俺は内心を読まれないように必死に笑み作るが、無駄に力の入っているため引きつっているのが自分でも分かる。でもこれが俺の出来る精一杯の作り笑いなんだ。
「部活の休憩で水を飲みに来たらたまたま守谷君が運ばれていくのが見えたから、心配で様子を見に来たんだよ」
布団の下に隠れている俺の体を嘗め回すようにねっとりと見ている犬井先輩。恐怖以外に持てる感情がありません。
まだ清水先生がいるだけマシだけど。
「あ、そうだ。私ちょっと職員室に行ってくるからお留守番してくれるかしら?」
「はい。いいですよ」
卓也が返事をすると、清水先生は少し申し訳なさそうな顔で職員室に向かった。
…………さて、ここの危険度がさらに上がったぞ。
「ところで守谷君。荷物は何処にあるんだい?」
「え、に、荷物ですか?」
突拍子もない質問に言葉を詰まらせる。
一度息を吸って心を落ち着かせた。
「生徒会室にありますが……」
「それなら持ってきた方がいいかもしれない。大事を取ってこのまま帰宅した方がいいかもしれないからね」
「なら俺が取って来ますよ。廉の鞄なら知ってますし」
「お願いするよ」
卓也を見送りるため扉の前まで一緒に行く犬井先輩。
「それじゃあ犬井先輩。廉をよろしくお願いします」
「任せて。恋人と同等に、大切に扱うよ」
卓也も保健室を出た事で俺と犬井先輩の二人っきり。
見事犬井先輩は人払いに成功し、これ以降の邪魔者の侵入を阻止するためにガチャリと鍵をかけた。
「二人っきりだね守谷君」
そう言う言葉はかわいい女の子に言った方がいいと思います。
「おや? ひどく汗をかいてるようだね」
かいてますよ、冷や汗を。
「風邪を引いたら大変だ。服を脱がしてあげよう」
「ほんっと! 大丈夫ですから! って、何で犬井先輩が脱いでるんですか!?」
「少し暑いからね」
上を脱ぎ捨てた犬井先輩の上半身は男の俺でも見惚れるほど、細身ながらも逞しい体つきだった。
しかし飽くまでそれは俺もこんな体になりたいと言う事であって、決して興奮材料ではない!
「守谷君。君に聞きたい事があるんだけど。君はタチとネコどちらが好きかな?」
は? 太刀? 猫?
意味が分からないけどそりゃ猫の方が個人的な好きなわけで。
「猫……ですかね」
「奇遇だね。僕はタチが好みなんだ」
なんで今の質問を終えた途端に目をギラギラさせて荒い息遣いでにじり寄ってくるんですか!?
「先輩? 目が恐いんですけど」
「怖がらないですぐに気持ちよくなるから」
怖がらなくてもいい要素が微塵も感じられないんですが!
「させるかー!!」
何故か分からないけど、ベッドの下から綾先輩がにゅっと登場し、スカートである事を気にせずに蹴り上げるがギリギリの所で犬井先輩は退いてかわす。
「な、なんで綾先輩が!?」
この際その辺はどうでもいいか。とにかく助かーー
「気づかれないようにベッドに隠れてまた二人っきりになれないか伺っていたんだ。生徒会室の続きをするために」
ってねぇ!
「また君か。いい加減僕の邪魔しないでくれるかな。これから守谷君と僕は甘美な時間を過ごすんだから」
「違いますよ犬井先輩。これから私と廉君が結ばれるんです」
どっちも不正解なんで帰ってくれないかな。
「クソ! 時間がないというのに。さっさと君を片づけてあげるよ」
「それはこっちのセリフです。まぁ、私なら一分あれば廉君との間に子供を作る自信がありますけど」
綾先輩。今一体何に絆ってルビを振りましたか?
お互いにらみ合っている。ここは冷静になってこの状況を整理しよう。何か突破口があるかもしれない。
まずは綾先輩が勝つとどうなるか。
俺は童貞を失い、子供で硬く結ばれる。
なら犬井先輩がこの場を制したらどうだろう。
俺の処女が消え去って、心に深い傷を負う。
……前門の女豹、肛門の狼じゃねえか! 誰か助けて!
俺の声が天に届いたのか、ガタガタと扉をスライドさせようとする音が聞こえる。だが鍵がかかっているために扉は動かない。
『あれ? さっき開いてたのに。犬井先輩いますか?』
予定よりも早い到着の卓也だった。
何か忘れたのか? いや、今はそんな事どうでもいい。
「バカな。早すぎる……仕方ないここはお互い手を引こう」
「そうですね」
犬井先輩が脱いだ服を着ている間に綾先輩が鍵を開けた。
「あ、生徒会長さんも来てたんですか」
「綾ちゃん。やっぱりここにいたのね」
卓也の後ろで呆れた声が聞こえる。ベッドからではその姿を確認できないが、声の主は予想は出来ている。
「やはりバレたか」
「十分前の綾ちゃんの行動を見ておいて、バレないと思ってるの」
そう言って雫はベッドの上に俺の荷物を乱雑に置く。
どうやら、雫が俺の荷物を運んでいる時に卓也と会ったようだ。
そのおかげで卓也の帰りが早かったのか。
「はい。流石に二度も気絶したら体調が心配だから今日はもう帰った方がいいわ」
それはありがたい。ただその二度とも雫のせいなんだけど。
などと考えていると俺の言いたい事が伝わったらしく、明後日の方向に顔を背けられた。
「なら僕が送っていこう。誰かに襲われたら大変だ」
「いやいや。犬井先輩はまだ部活がありますよね。ここは私が」
この二人以外の選択肢プリーズ。
「綾ちゃんもダメ。今回は私がついていくから安心して。一応お姉ちゃんにも頼んであるから」
久しぶりに「安心して」と言われて安心出来た気がする。
「なんだかよく分からないけど、廉って会長さんと仲良しだな!」
「え……あ、うん。ソウダナ」
事情を知らない卓也は気楽なもんだ。
目の前でホモとストーカーが俺を取り合っているなんて思ってもいないだろう。
「雫、準備出来てるか?」
「あ、お姉ちゃん」
ガラガラと扉を開けて顔を出す松本先生。
すぐにでも帰る事が出来るようだ。
「立てる?」
雫は心配してそう言う。
少しおぼつかないが歩くには支障はない。
「大丈夫だ」
「ならすぐに行くぞ。私もまだ仕事があるからな」
松本先生を先頭に俺と雫は校舎を出る。
「乗れ」
近くに置いてある車の後部座席を開けた松本先生が促すので、大人しく乗車した。
雫は助手席側から乗り込み、松本先生はもちろん運転席に座った。
「さて、自宅は何処だ? ああ、綾には言わない。もうそろそろ見つけるだろうし」
最後に不穏な言葉を聞いた気がしたが、とりあえず素直に住所を伝えると、松本先生はエンジンをかけて発進させる。
「それにしても守谷、災難だったな。雫に二度も気絶させられて」
「お、お姉ちゃん!」
「は、はは……」
この件に関しては雫を擁護出来ないので苦笑いで誤魔化す。
それにしても二度も一撃で気絶するなんて、俺がひ弱過ぎるのか、それとも雫が達人なのか。
「この後大丈夫か? お前は自炊だろ。まぁカップ麺があれば話は別か」
「それじゃあ栄養が偏るって」
雫が説教口調で松本先生を叱るが、俺の件もあり強くは言えていない。
「先生の言う通りカップ麺で済ませようーーあっ!」
俺は重大な事を思い出してしまった。
昨日でカップ麺を含めて食料がほとんど尽きてしまっていた。
だから今日は帰ってからスーパーで食材を、買うつもりだったのだが。
時間的にセール品を買う事も出来なくはないが、俺の足取りを考えると自宅からスーパーに行くのも危うい。
「どうしたの廉?」
「いや……なんでも、ない」
深くため息吐いて肩を落とす。
こうなっては仕方ない。今日は我慢するか、しっかりと歩けるようになったらコンビニでも行くか。
ふとルームミラーに視線を向けると、運転している松本先生と一瞬だけ目が合う。
松本先生は俺と同じようにため息を吐くと本来曲がるべき道を曲がらず、真っ直ぐ車を進めた。
「松本先生。さっきの道をーー」
「買い物しないといけないんだろ?」
「そうなの?」
雫に振り向かれバツが悪い。
「ま、まぁ」
「なら大人しく座ってろ。どうせ私も買いだめしないといけないからな」
そのまま数分走り続け、俺がよく使うスーパーに車を停める。
俺達は車を降りて入店。
買うものがある俺と松本先生はカゴを持った。
「雫。お前は守谷に付き添ってやれ」
「言われなくてもそのつもりだよ」
と言うわけで俺は雫と一緒に買い物をする事に。
適当に野菜やら肉、魚などのコーナーを回りながら手頃なものを買うつもりだったが、
「あ、これよりもこっちの方が安いよ。それにそっちは賞味期限がこっちよりも早いみたい」
雫のおかげで迷う必要もなく買うものが決まっていく。
流石お金を管理する役職なだけはある。
「卵安いけど、一人一パックか」
「私もいるから二パック買えるじゃない」
「いいのか?」
「いいのよ。私のせいでこうなったんだし」
そう言って一パック雫が持つ。
いつも以上に充実した買い物が出来た気がする。
「そこのお兄さん!」
と、加工食品を横切ろうとすると店員のおばちゃんに呼び止められ、おいでおいでと手を振られる。
「ひとついかがかしら? 美味しいわよ」
皿の上に小さく切られたソーセージが乗っかっていた。
こんな風に試食を勧められると思わず手が伸びてしまう。
焼き立ても合わさって美味い。でも自分で焼くとなんか違うんだよな。
「お隣の彼女さんもひとついかがかしら」
飲み込もうとしていたソーセージが気管に入りそうになりむせる。
「そういうのじゃないですよ。ただの友人です」
「あらそう……彼はどうかしたのかしら?」
「廉、何やってるのよ」
俺が両腕で顔面をガードしていると、奇妙なものを見るような目をされる。
「あれ、殴らないの?」
「……あなた達、本当にただのお友達?」
「も、もちろんですよ! あはは!」
声では笑ってるが、横目でガンを飛ばしながら俺の腕を引っ張りその場から離れる。
一通りの少ないコーナーまで連れてかれ、そこでようやく解放してくれるが、その代わりに雫の顔には鬼が宿っていた。
「説明してもらおうかしら」
「だって、俺が似たような事言ったら気絶させられたんだぞ。警戒してもおかしくはないだろ。逆になんでさっきは殴らなかったんだよ」
「男女が二人で歩いてたら恋人に見られるとは思ってたからよ。廉の場合は聞いてるこっちが恥ずかしくなるような事を唐突に言ったからつい手が出ちゃったの」
それほど恥ずかしい事は言って……たな。うん、今思えば言ってるな俺。
女神だの夫婦だの色々と。
「で、まだ買い物は続けるの?」
「あー……」
カゴの中身を一通り確認する。
しばらくは買い物に行かなくても良いいぐらいには入っていた。
財布の中身も一応確認……大丈夫だな。
「もう大丈夫。後は松本先生と合流を……と、噂をすれば」
商品棚の陰からカゴにいっぱいインスタント食品を運ぶ松本先生がいたので見失わない内に合流。
しかしほとんどカップ麺って……どんだけ好きなんだ。
「お、もう終わったか?」
「終わりましたけど……」
「お姉ちゃん。野菜とかお肉はどこにあるのかな?」
あー、笑顔だけどまた鬼が付いてますねこの人。
「ちゃんとあるぞ。もやしとかキャベツとかチャーシューとか」
それは全てカップ麺に入ってるかやく類じゃないですか。
もう屁理屈はいいんで、素直に生鮮コーナーで買ってきてください。
「あはは! 面白い冗談だけど、ちゃんと買うよね」
雫のにらみつける。眼鏡の奥で鋭い眼光が松本先生を捉える。
しかし松本先生には効果がない。
「雫。さっきから野菜やら肉を買えと言っているが、そもそも私はこの後学校に戻って仕事をするんだぞ? つまり買ったものを車に置いておく事になるが、今日の気温じゃすぐに痛んでしまう。それを考慮してのインスタント食品なんだが、反論はあるか?」
屁理屈のようで筋の通った反論に、静かに雫は黙った。
あ、さては先生。俺の事情を汲むついでにインスタント食品を買っても雫を言い負かせる反論材料にしましたね。
「……そう……分かった。確かに今回はお姉ちゃんの方が理にかなってると思うから私が引くよ」
「そうだろそうだろ」
立派な胸を張り、勝ち誇った表情を浮かべている。
「だからせめて、明日は私が作ったお弁当を食べて欲しいの。私だってお姉ちゃんの体が心配なんだから」
「雫……分かったよ。明日はお前の弁当を食べるよ」
「本当?」
「あぁ」
「じゃあ私頑張るね」
お互いがにっこりと笑いあっている姉妹の姿はそこら辺のドラマより感動的だ。
思わず涙が出そう。
「なら守谷も明日は弁当を作ってこい。ここ最近は綾に頼りっぱなしだろ」
いつの間にか入ってるものをどうやって受け取らないように出来るんですか?
「明日はお前が弁当を作る事は、私から綾に伝えておくから」
「あ、なら『もう作らなくてもいいですよ』ってついでに伝えてください」
「え、なんだって?」
突発性の難聴を患った主人公ですかあなたは。
「お姉ちゃん。時間大丈夫?」
「時間? ……あ、結構時間が経ってるな。急ぐぞ雫、守谷」
少々慌ててレジに並び、会計を済ませた俺達は車に乗って目的地である自宅へ向かった。
自宅前で降ろしてもらい、感謝を込めて一礼した後は車が見えなくなるまで見送った。
読んでくださりありがとうございます。
二度目の登場、犬井先輩でした。
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