真面目で、常識人の会計さんは俺の女神です(真剣)1
会計編です
どうも守谷廉です。
現在俺は動けない状態です。
なんでそんな事になっているのか不思議に思うと思いますが、姫華先輩のたった一言が現状の原因。
「廉君って……女の子の服似合いそうね」
一度静まった生徒会室。
最初に動き出したのは俺の膝に乗っていた小鞠先輩。
乗ったまま椅子を掴んで俺が立ち上がるのを阻止。
次に動いた綾先輩が背もたれごと俺の腕を抱きしめ、この展開を分かった上で前もって用意したとしか思えないブラウスとスカートとカツラを姫華先輩が鞄から引っ張り出し、脱がされそうになっている俺を覆った手の隙間から覗く水原先輩。
最後に、呆気にとられていた雫が我に返って、声を出して止めに入っている。
凄いだろ。これが十秒そこらの出来事なんだぜ。
「綾ちゃん! 廉の服を脱がさない!」
「大丈夫。代わりの服を着てもらうからなんの問題もない」
「その服は女性用でしょ! 小鞠さんも廉を解放してください」
「今ちょっと、手を離したく、ない」
「大丈夫よ雫ちゃん。最初は廉君も恥ずかしいかもしれないけど、クセにさせるから」
"なる"じゃなくて"させる"って事は……ハハーン、俺を調教するつもりですね。
「お前ら。ちゃんと仕事してるーー何やってんだ」
松本先生が俺を冷ややかな目で俺達を見ている。
「先生! 助けてください!」
「今度は何があったんだ」
「綾ちゃんと小鞠さんと姫華さんが廉に女装させようとしてるの」
「なんだと」
お、今回は珍しく先生らしい事をしてくれるのか。
「綾、姫華、小鞠……ここは学校なんだから、制服にしないと違和感があるだろ」
「「「確かに」」」
「俺が女性の服を着る時点で違和感があると思うですが、それについてどう思います?」
「え、ないだろ」
「疑問系ですらない!?」
いつも通り俺の味方をしてくれないんですね。
「ダメ! 絶対廉に女装させないんだから!」
あぁ、本当に雫はいい奴だ。雫がいなかったら俺は今ここにいないだろう。
流石女神雫。
……なんか文字にすると、漢文っぽくなるな。
うん、これからは女神シズクエルと呼んでみるか。
「まぁ廉に女装させるさせないは一旦置いておけ。綾、学園長がお呼びだ」
「なんでまた」
「どうやら来賓したお客が中々のお偉いさんみたいでな。是非この学園の生徒会長に会いたいんだとよ」
「仕方ない。と言うわけだから廉君。さっさと女装してくれ」
「綾先輩がここを離れるのと俺の女装にどう言う関係があるのか教えてください」
だからと言って納得するつもりはありませんけど。
「綾、いいから早く来い」
「はぁ……じゃあ、私は行ってくる。後は任せた」
と言って、綾先輩と松本先生が退室。
綾先輩がいなくなった事で面白みがなくなったのか、姫華先輩は女装用具一式を鞄に戻す。
クゥー、と可愛いお腹の虫がなった小鞠先輩は自分の席に戻って、引き出しから袋お菓子を取り出してポリポリとかじり始めた。
終始傍観者だった水原先輩はホッとしたような残念だったような複雑な顔を浮かべて、そっと生徒会室を出る。花でも摘みに行ったのだろう。
男のプライドを守り抜いた俺はさっさと外されたボタンを留めた。
「廉、大丈夫? 変な事されてない?」
……雫って、やっぱり女神だよね。だってこんなに俺の心配してくれてるんだよ。
「ちょ、ちょっと! なんで泣いてるの!?」
「雫の優しさが身に染みるからだよ」
嫌々な態度の時もあるけど、それでも俺を助けてくれてるんだ。一度ここは心を込めて感謝しないと。
だから雫の手を両手で包み込みながら真っ直ぐ見つめて、
「いつもありがとう雫。雫は俺の女神だ」
と日頃思っている事を伝えた。
するとどうだろう。拳が一瞬見えた後、何故か俺の意識が途切れてしまった。
「……ん? ここは?」
気がつけば真っ白な天井が
なんだか頭が痛い……あ、違う。痛いのは顔面だ。
「よかったー、気がついたのね」
女性の声と共に近くで足音がしたので顔を横に向けると、俺の周りを囲むようにカーテンを閉める養護教諭の清水先生が安堵した表情を浮かべていた。
「何があったか覚えてる?」
「女神シズクエルが聖母の微笑みをしながらメリケンサックで殴られた事しか」
「病院に連絡しなきゃ!」
え、今の本気にしたの!?
「ごめんなさい冗談ですから本気にして救急車を呼ばないで先生!」
だが俺の言葉はすでに届かず、携帯に耳を当てている。
どうしよう。ここに来る救急の人になんて説明すれば。
「もしもし! うちの生徒が大変なんです! …………ごご、ごじ、にじゅっぷん、をおしらせします? 意味が分からない事言わないでください!」
「先生ー、117じゃなくて119ですよー」
清水先生って、天然だったのか。
「とりあえず落ち着いてください。ちゃんと覚えてますから」
「そ、そうなの? よかったー」
俺もよかったです。呼ばれなくて。
「みんな心配してたよ。運んで来た松本さん、西園寺さん、小野寺さんはもちろんだけど、後から来た水原さんなんて少し泣いてたのよ」
「そうなんですか、それで、他の人達はどこに」
「さっきまで介抱していたんだけどね。私が面倒を見るって事で戻らせたの」
それがいい。俺のためにここに残る必要はない。
もしかしたら急に仕事がくるかもしれないし。
「それにしても、守谷君は羨ましい」
ん? 羨ましい? 何が羨ましいのだろうか。
「こんなにも沢山の友達がいるなんて」
言い終えると同時に俺の周りのカーテンを開けられ、男子生徒の集団が目に飛び込んだ。
「みんな心配して来てくれたのよ。よかったね」
先生ー。後ろの生徒達が血の涙を流してます。明らかに体に異常をきたしてるとしか思えないんで先に診てあげてください。
「心配したよ森本君」
あなたは絶対俺と初対面ですよね。
「守谷。俺達心配したんだぞ。なぁ、みんな」
そこで頷いている集団は、俺のクラスメイト達か!
「あぁ、心配で、心配で。一瞬たりとも目が離せなかったよ」
お前ら微塵も心配してないだろ! してるんだったら嫉妬丸出しの表情なんか出来るはずがねえ!
「ま、待ってくれ! 介抱なんて、俺じゃなくても、誰だってしてくれるはずだ」
「へぇー、そうなのか」
そうだよ! 生徒会のみんなは皆いいの人なんだ。だから、俺だから介抱したとかではないんだ!
「じゃあ俺も気絶すれば、いつも冷静そうな会計さんが動揺するほど心配してくれるのかー」
……は?
「書記さんが不安そうな顔を浮かべながら、離れるまでずっと頭を撫でてくれるのかー」
ひ?
「俺達を掻き分けて保健室に入った可愛い水原先輩が、子供みたいに泣きじゃくりながら『しんじゃやだー!』って言ってくれるのかー」
ふ?
「毛布をしっかりと肩までかけてくれて、ベットから出た腕をしっかりと戻してくれたり、まるで母親のように副会長が世話をしてくれるのかー」
へ?
「そうだ。さっき会長が肩で息をしながらお前の事聞かれたんだけど、教えてあげたら『そうか、よかった』って心の底から安堵してたんだけど、これもしてくれるのか?」
ほおおぉぉぉぉ!?
ちょっと待って! みんな心配しすぎでしょ!
いや、心配してくれるのはありがたいよ。俺なんかのためにそこまでしてくれるなんて。でも、こうなる事ぐらい分かるよね!?
特に雫は気づいてくれよ!
「みんな、守谷君はまだ起きたばっかりだから、そっとしてあげて」
おそらく何も分かっていない清水先生が割って入ってくれた事で、少しばかりみんなは冷静になってくれた。
「さ、元気な子は戻ってね。お願い」
清水先生のお願いに大人しく保健室から出ていこうとする野郎の集団。
もうこれ以上は何も起こらない事を祈ろう。いや、絶対に何も起こらない!
「守谷君も、もう少し寝てた方がいいよ」
「大丈夫ですよ」
「ダメ! あの子達と約束したんだから。『私が付きっきりで守谷君をお世話します』って」
ちょっ、ま、先生! 今それを先生が言っちゃーー
「付きっきりで?」「お世話?」「清水先生が?」「守谷に?」
説明しよう!
清水先生は保健室に住む白衣の女神と呼ばれるほど人気の先生である!
就任当初は先生目当てで仮病、または自ら怪我をして診てもらおうとする野郎どもが後を絶たなかったらしく、終いにはその行為を厳しく罰するほどなのだ!
つまり、俺に再び殺意が向けられるのだ!
と言うわけで、「おぉ、神よ。あなたはフラグをことごとく拾われるのですね」と思いながら俺は近くの窓を開けてその場から逃げ去った。
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