小動物で、癒し系の書記さんには毒がある(吐血)6
日曜飛ばして月曜日。
昨日はおとなしく自宅で勉強をし、皆から教えてもらった事を基本に取り組んだ。
そして、いよいよ明日からテスト。つまり今日が最後の追い込みでもある。
全ての授業がテスト範囲を終らせ、自習の時間となった。その時間も有効活用して、苦手な部分を集中して復習。
昼休みの時間もなるべく教科書に目を通して過ごした。
さて、この後は図書館で勉強。しかも今回はテストのためではなく、それ以上に重要な事だ。
ちょうど鞄を持って向かおうかと言う所でメールが届く。
送り主は綾先輩から。「予定通りに事は進んでいるぞ」との事。
よかったと、胸を撫で下ろして、早歩きで図書館に向かう。
図書館の前にはやけに人だかりが出来ているが、まぁ原因は分かっている。むしろ、俺がその原因を作ってしまった。
「あ、廉」
それぞれの特徴がある美少女四人組が俺を待ってくれている。
その美少女達と言うのが、生徒会メンバーなんだけどね。
何故、みんながここに集まっているのか。それは土曜日に綾先輩に勉強会をするために頼んでおいたからだ。
綾先輩からの誘いならきっと小鞠先輩は参加すると思ったから。
しかし、こうして改めて見ると、本当に俺がこの人達と繋がりがあるのか自分でも不思議なぐらいだ。
「あ、廉君」
一早く俺の存在に気がつくとは、流石綾先輩……とは言いたくはないなー。だって、アレだし。
「お待たせしました」
「気にしなくてもいいのよ。楽しそだし」
「私もそう思うよ。ね、舞さんもそう思うでしょ」
「え、その、ま、まぁ、いいんじゃない」
少なくとも迷惑そうにしていなくて一安心。だが問題は小鞠先輩だ。みんなの後ろに隠れて、前に出てきてくれない。
「それじゃあ、早速図書館に入りましょうか」
率先して図書館に入ろうと先頭に立つ。
一刻も早くここから離れたい。生徒の嫉妬の目で穴が空きそうだ。
それに舌打ちのコーラスも聞こえる。
「そうね……きゃっ!」
俺の後を追おうとした姫華先輩はつまずいて、こちらに倒れてくる。
咄嗟に身を呈してなんとか受け止めた。
「大丈夫ですか」
「えぇ、ありがとう」
あぁ、よかった。
よかったけど、姫華先輩がしている笑顔から悪戯心が伝わってくるのはなんでですかねー。
「でも、抱きとめるなんて大胆ね」
あー、なんで言わざわざそれを言っちゃうんですかあなたは。
ほらー、綾先輩がこっちをめっちゃガン見してる。
他の生徒に限っては嫉妬から殺意に変わってるよ。
俺を困らせてどうしたいんですか。
そうでした。姫華先輩は俺を困らせるのが目的でしたね。
「あらあら、少し足をくじいちゃったみたい。廉君、肩を貸してもらってもいいかしら」
ヘルプ! 常識人二人組み!
水原先輩と雫を見るが、
「水原先輩、肌綺麗ですね」
「そ、そう? ありがとう」
面倒事になると確信しているらしく、女子トークを繰り広げていた。
必死に救いを求める眼差しを送ると、大きくため息を吐いた雫が姫華先輩に近づく。
「姫華先輩、私が手助けしますよ」
「ありがとう雫ちゃん」
姫華先輩を連れて、図書館へ先に入館していく雫。
「あー、私も足をくじーー」
「さ、邪魔になりますから中に入りましょうか」
綾先輩が言い終わる前に中へ。
あんな大勢の生徒の前で出来るほど、俺は勇者ではない。
入ってすぐに席を探すと、雫が本棚から顔を出して手をこまねいている。
俺達は静かに雫達のいる所まで歩くと、そこには大きなテーブルがあり、この人数でも十分に勉強が出来るほどの面積を持っていた。
「じゃあそっちの席は姫華、雫、舞、小鞠。向かい側に私と廉君で異論はないな」
「綾先輩知ってますか。6÷2の答えは3なんですよ」
「じ、じゃあ……あたしが座れば、バランス的に問題ないよね」
と申し出る水原先輩。しかし、すでに俺の中では席は決まっているので却下しなければいけない。
「すいません水原先輩。先輩はそっちに座って下さい」
「え……」
なんでそんな絶望した表情をしてるんですか。
「隣に座らせたくないほど、あたしの事嫌いなんだ。そうだよね。ひどい事したんだし、本当は守谷は仕方なく話してくれてただけで、あたしの勘違いーー」
「違いますよ。元々席をどうするかは決めていたんですよ」
「……本当?」
「ここで嘘言ってどうするんですか。それに水原先輩の事は好きな方ですよ」
「そっか……」
ようやく止まった。なんであんな不安そうに尋ねたんだ。
「廉君廉君。ちなみには私の事は? 嫌いか? それとも愛してるか?」
「なんで"好き"という選択肢が超進化してるんですか」
ちゃっちゃと席を発表しよう。
「じゃあ、俺と雫がこっち。後の人はそっちの席に座って下さい」
「廉、6÷2の答え知ってるよね?」
雫さん。そんなに睨まないで下さいな。
「まぁ待て。これには理由があってだな。とりあえずみんな座って下さい」
そう言うと、皆が俺の指示に従って席に座る。
「それで、どんな理由かしら」
「それはーーお、ちょうど来たか」
俺はキョロキョロしている二人組の男女に手を振ると、俺に気づいた男子が振り返して女子を引き連れてきた。
「やっと来たか卓也」
「ちょっと花田さんのクラスのホームルームが長引いちゃってな」
「遅れてごめんなさい」
一礼して謝罪をする花田さん。
顔を上げると、生徒会がいる事に気がついたのか、表情が硬くなった。
「おぉ、生徒会勢揃いか。あ、水原先輩もいるんだ」
「なんで花田さんと卓也君が」
「俺が呼んだんですよ。二人共、こっちに座ってくれ」
雫の右隣に俺、卓也、花田さんの順に詰めて座る。
ようやく全員揃った。
「それで廉君。私は君に頼まれた通りメールを送ったが、何か意図があって集めたのかな」
綾先輩からの唐突な質問に俺は素直にこう答える。
「一人で寂しく勉強するよりかは、みんなで協力して勉強した方が捗るかと思って」
「それって結局の所自分のためよね。この中でおそらく廉が一番成績悪いだろうし」
雫の容赦ない一言が俺を貫き、ガクリと肩を落とす。
「まぁまぁ。私はその方が楽しくていいと思うわよ。ね、小鞠ちゃん」
「う……うん」
気まずそうにそう答えて、俺をチラチラと盗み見ている。
一昨日の事を気にしてるのだろう。
「それでは早速だが始めるとしよう。なに、分からない所があれば遠慮なく頼ってくれ。力をかそう」
「私も微力ながらお手伝いするわ」
自信満々の綾先輩と姫華先輩は頼りになる。
もちろん、この人だって。
「小鞠先輩も頼りにしてますよ」
真正面にで俯いている小鞠先輩に声をかけると、顔を上げてコクリと頷いてくれる。
それを確認してから俺は机の上に勉強用具を置く。皆も各々好きな教科の教科書とノートを開き、勉強会が始まった。
「綾。この問題ってどうやるの?」
「あぁ、それはだな」
「副会長さん。ちょっとこの問題の解き方を教えて欲しいんですけど」
「私と三島君で一緒に考えてたんですけど、どうしても分からなくて」
「いいわよ」
最初は自分達で解いていたが、しばらくしてから皆が協力して出来ない問題を潰していく。
俺も分からない所は聞かなければ。
「小鞠先輩。ここで重要な所ってどこですか」
「ここと、ここ。見落としやすいけど、ここも、全体的に見れば、分岐点のような出来事。だから大事」
「そうなんですか」
「あ、世界史やってるのか」
質問を終えた卓也が割って入ってくる。
「俺もちょっと世界史は厳しいんです。書記さん。俺にも教えて下さい」
「わ、私も」
卓也の陰で小さく手を上げている花田さん。
困惑気味の小鞠先輩は俺を横目で見る。
「俺はもう十分ですから、卓也達をお願いします」
「う、うん」
卓也達に付く小鞠先輩。
俺はゆっくりと立ち上がる。
「どうしたの廉」
「ちょっと喉乾いたから飲み物買ってくる」
なるべく邪魔にならないように席を外し、少し歩いてから後ろを振り向く。
いつもと変わらないように見えるが、心なしか表情の柔らかい小鞠先輩。
そんな表情をしてくれただけで、この勉強会を開いた甲斐があった。
顔を元に戻し、再び歩いて図書館を出る。
一番近くの自動販売機に行き、缶ジュースを買う。
学園の図書館は飲食禁止なのでここで飲み干さなければいけない。
飲みきるのに少し時間がかかりそうだ。
蓋を開け、缶を傾ける。
甘さが身に染み込み、糖分を欲していた脳が歓喜の声を上げているようだ。
「廉」
余韻に浸っていると、声をかけられたので体を向ける。
そこには小鞠先輩が立っていた。
「どうしたんですか? 小鞠先輩も喉乾いたんですか?」
「ううん。廉と、少し話を、したかったの」
「そうですか」
近くの柱にもたれた小鞠先輩は独り言のように、しかし俺に聞こえるように呟く。
「今日は、誘ってくれて、ありがとう。この前は、ゴメン。勝手に、帰っちゃって。帰ってから、きっと廉も、あの子達みたいに、私から離れると、思った」
「そんな事するわけないですよ」
「でも、私、きつい事、言っちゃった」
泣きそうな顔で俯く小鞠先輩。
一度大きくため息を吐いてから目線を小鞠先輩に合わせるために屈んだ。
「小鞠先輩。俺小鞠先輩に言われた通りに勉強しました。小鞠先輩の言った『丁寧に書いて』ってのは、字を綺麗に書けって事じゃなくて、気持ちを込めて書けって事だったんですよね。そのおかげで結構覚える事が出来ましたよ」
小鞠先輩は俺の言葉で顔を上げた。
「確かにきつい事を言われたかもしれません。ですけど、小鞠先輩は何も間違った事は言っていません。その時だって、小鞠先輩はみんなのために言ったと思いますから。綾先輩達だって、小鞠先輩のそういう所を好きになったと思いますよ」
「でも、私は、綾達に釣り合わない」
自信が持てず、卑屈な小鞠先輩。
今こそ言うんだ。あの時言うべきだった言葉を。
「友達に釣り合うも釣り合わないもないですよ。問題はその人のいい部分も悪い部分もひっくるめて、好きかどうかです」
そう言いながら、俺はそっと小鞠先輩の頭の上に手を乗せる。
小鞠先輩はまた俯くが、今度は少し頬を赤らめていた。
「バカ……アホ……ロリコン」
なんとなく小鞠先輩の毒舌になるタイミングが分かった。
一つは誰かを思って行動する時。
もう一つは、照れ臭くて誤魔化している時。
そう考えると、今の小鞠先輩はどうしようもなく可愛いわけで、今ならどんな毒で耐えれる自信がある。
「低身長、若干短足、貧弱、ナンパ野郎、愚図、etc…」
調子乗ってごめんなさい無理でした。
膝からくずれ落ち、地面に両手を付けていると、小鞠先輩続けて言葉を発した。
「だけど……私の……大好きな、仲間」
「……今、なんて」
顔を上げるが、すでにそこには誰もいない。
もう戻ってしまったのか。
いつの間にか落としてしまっていた缶は、中身をぶちまけてしまい、土の色を濃くする。
勿体ない事をしてしまったが、小鞠先輩からあんな言葉を聞けたのだから、よしとしよう。
缶を捨ててから俺はみんなのいる図書館へと戻った。
数日後、全てのテストを終えた。
テストの最中は手を止める事なく答案用紙を九割近く埋めていたので、赤点を取る事はないだろう。
これもみんなのおかげだ。今度は何かしらお礼をするべきだろうか。
テスト期間中は生徒会室に行っていないので、およそ二週間ぶりにこの庶務の席に座っている。
いつも通りの学校生活に戻った……のだが、一つだけ変わった事が。
「小鞠先輩、なんで俺の膝の上に乗ってるんですか」
「落ち着く、から」
小鞠先輩が俺の膝の上に何故か乗っている事だ
「あのー、俺にも仕事がーー」
「そんな仕事なんてないくせに一丁前に仕事人アピールすんなパシリ」
泣いてもいいかな?
今ここで男が号泣するけどいいかな?
「小鞠ばっかりずるいぞ! 私も廉君の腰の上に乗りたい!」
「よーく見てください綾先輩。小鞠先輩が乗っているのは膝です」
「……あ」
「小鞠先輩、なんで拳を振り上げてるんですか!? 硬いのはポケットに入ったスマホですから!」
「守谷って、もしかして……」
「何で不安そうにしてるのか知りませんけど、違いますからね!」
「あらあら、楽しそうね」
「全然楽しくありません!」
「あー、頭痛い」
なんだかより一層俺が望む『普通』から加速して遠ざかってる気がする。
いや、気がするんじゃなくて、実際に遠ざかってるなこれ。
「騒がしいぞお前ら」
ようやく松本先生の登場で、ようやくこの場も治まーー
「もう少し静かにしろ。それさえしてくれれば何も言わん」
「止めてくださいよ!」
「私は放任主義なもんでな」
体裁を守りながら丸投げ出来る便利な言葉を使われて納得出来るわけないでしょうが。
「前に自重するって言ってたじゃないですか。なら、助けてくれても」
「何言ってる。もうテストは終わっただろ」
そうだった。自重してたのはただ単にこの人が忙しかったからだ。
「それより、今日は生徒会に頼みたい事があるんだ。図書館に新しい本や机が届くらしいんだが、人で不足で今日中に終わるか怪しいらしいから運ぶのを手伝って欲しいとの事だ。なんでも、前に図書館を利用していた生徒達が一斉に鼻血を出して、そのせいで色々ダメになったらしい」
あぁ、あの流血事件のツケが今になって回ってきたのか。
「そう言えば、そんな事があったな。何かのウィルスかなんかだったのか?」
あなたが原因ですよ。
「と言うわけでお前ら、さっさと図書館に行った行った」
と、松本先生に急かされて、綾先輩達が次々と廊下に出ていく。
「あの、小鞠先輩。立ち上がりたいんで退いてもらえますか」
「うん」
今度はすんなりと聞き入れてくれ、俺の膝から飛び降りる。
そして俺も立ち上がり、伸びをした。
「……廉」
「はい、なんでしょう?」
「廉のおかけで、自分に、自信が、持てた。だから……ありがとう」
初めて見る小鞠先輩の満面の笑み。
それは子供のように純粋なものだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
今回で書記編は完結です。
次の話から生徒会メンバー最後の会計編です。
感想などありましたら、気軽に書いてください。
次回「真面目で、常識人の会計さんは俺の女神様です(真剣)」




