小動物で、癒し系の書記さんには毒がある(吐血)4
そして次の日。
前回、前々回と同じ場所で一人で勉強を進めていた。
今日は姫華先輩も雫も忙しいらしい。
それならばと、俺は割と解きやすい現文を勉強する事に。
「ん? なんか騒がしいな」
うるさいわけではないけど。しかし、日頃の館内と比べると、話し声が多い気がする。
喉も渇いた事だ。飲み物を買いに行くついでに様子を見に行こう。
そんな軽い考えで席を離れたのが間違いだった。
「こ、これは一体」
机に座っている男子生徒達は鼻血を出して突っ伏し、女子生徒は本棚にもたれかかる様に気絶している。
そして共通して、幸せそうな顔をしていた。
その光景はとても異様で、司書の方がまだ動ける生徒に指示を出して、倒れている生徒を運び出している。
「そこの君! 君も手伝ってちょうだい!」
「は、はい!」
慌ててすぐ近くでうつ伏せに倒れている男子生徒を起き上がらせる。
だがこの生徒、どこかで見覚えが……
「お前、裕太か!」
鼻血で顔面真っ赤に塗られているが、間違いなく俺のクラスメイトだった。
「れ、ん……」
「待ってろ! すぐに保健室に連れて行ってやるからな!」
「俺は、今日……死んでも、後悔……はな、い」
「ゆーたー!!」
と、こんな茶番してる暇じゃない。
さっさと連れて行かねば。
急いで裕太を背負って保健室に向かった。
「ふー、マジでびっくりした」
とりあえず裕太はベッドに寝かした。
それにしてもなんていい笑顔なんだ。一体あそこで何があったんだ。
予想もつかず、だんだんあそこに戻るのが怖くなっていく。
いっその事帰ってしまおうと思ったが、ある事に気がついた。
「荷物置いたままだ」
戻りたくはないが、戻らねば勉強が出来ない。
しばらく悩んで、意を決して取りに行く事に。
そうだ。別に俺に何か起きるとは限らないんだ。
と、無意識にフラグを立てて俺は図書館に戻った。
そんなわけで再び館内。
司書の方達が必死に清掃しているが、床やら机やらに(鼻)血の跡がベッタリと付着している光景は、殺人現場の様。
余計に帰りたくなったが、ここまで来たんだから取り行こう。
パッと取りに行けば大丈夫だ。
「よし……」
奥へと向かうが、もう少しで到着という所で、俺の耳が荒い息遣いを拾う。
「な、なんだ?」
忍び歩きで近寄り、本棚から俺が座っていた席を覗く。
そこには俺の席で、俺の鞄を抱えながらそれをハスハスする女性が。
「はふぅ……廉君の匂いがする。たまらん」
「何しとるんですかあなたは!」
一心不乱に鞄の匂いを嗅いでいる綾先輩がそこにいた。
「あ、廉君! やっと見つかった。姫華に頼まれて君の勉強を手伝いに来たんだ」
「姫華先輩が?」
スマホを取り出してみると、新着メールが一件届いている。
姫華先輩からで、「今日は綾ちゃんが指導してくれるよ。よかったわね」と書かれていた。
これがご褒美か。嬉しすぎて、(乾いた)笑みが溢れそう。
「図書館いるという情報しかなかったから探したよ」
「よく俺がここを使ってたって分かりましたね」
「簡単な事だ。君の匂いがしたからな!」
「そこは見覚えのある鞄があったからではないんですね」
まぁ、それはひとまず置いておこう。さっきから気になってる事が一つあるんだ。
「なんで赤縁の眼鏡をかけてタイトスカートのスーツを着ているんですか」
「女教師が廉君の好みだと姫華から聞いて、杏花姉さんから許可を貰って借りた」
本当にあの二人は何考えてるんだ!?
そして、生徒達の不可解な集団被害はあなたのせいですね!
「どうだ? 似合ってるかな?」
少し照れながら聞かれるが、出来れば普通の服装で聞いて欲しかった。
しかし、実の所恐ろしいほど似合ってたりする。
元々プロポーションが良く、高校生と言われなければ気づかれないくらいに大人っぽい。
何より、綾先輩の雰囲気と服装がピッタリ。
「すごく似合ってますよ。でも、そういう事じゃないんです」
「もしかして、スーツよりも上は白いシャツの方がいいのか? それとも眼鏡がダメか? もう少し、胸元を開けた方がーー」
「俺の嗜好を探ろうとしない」
早く終わらせよう。でなければ、俺の精神がもたない。
「綾先輩、勉強始めませんか」
「そうだな。では」
俺が席に座ると何故か綾先輩が隣に座る。
「……あの、なんでこっちに?」
「本が逆さになって読みづらいんだ。そこは了承してほしい」
それなら仕方がない。
「ちょっと近くありませんか?」
「一緒の本を見るんだ。これも仕方がない」
なるほどなるほど。確かに仕方がない。
「じゃあ、何度も足を組み替えてるのも、俺の太ももをさすってるのも何か理由が?」
「君を誘ってる」
「即刻やめてください」
綾先輩と合流した時点で大方予想は出来ていたが、まったく勉強が進む気がしない。
「綾先輩。今日は真剣に勉強がしたいんです」
俺が今出来る真剣な眼差しをすると、ようやく綾先輩は分かってくれたらしく、声のトーンが下がった。
「すまない。君と勉強する事につい浮かれてしまっていた」
そこまで落ち込んでいる様子をされると、ちょっと心が痛む。
「さぁ、勉強を始めようではないか! まずは保健の実技から手取り足取りーー」
「保健に実技はありませんし、テスト科目でもないです」
どうやらまだこの人は浮かれているようだ。
「現代文の勉強がしたいんで、現代文でお願いします」
「そうか。では、まずはこの本のこのページを読んでもらおうか」
そう言ってブックカバーを付けた自前の小説を開いて俺に渡す。
「えーと、『スーツの下からでもわかるほど豊満な胸とタイトスカートから伸びる艶かしい脚に太郎は昂りを抑えきれず、教師である恵美子の肌へ押し付けるように熱くなった男性』ーー」
"き"を声に出して読む前にバタンと閉じた。
おかしい。俺は現代文の勉強しているはずなのに、保健の勉強をしているぞ。
「なんで官能小説を読ませるんですかあなたは!?」
「何故か杏花姉さんにスーツと一緒に渡されてな。ならば是非現代文の勉強にと」
ここで主人公の心情は。と問題で聞かれても、ムラムラした以外の感情が読み取れないんですけど。
「お、やっぱりここにいたんだな」
書き慣れた声の方に顔を向けると、卓也とその隣には少し前に見た覚えのある女子生徒がいた。
「卓也。それに、花田さん?」
「はい! そう言えば、ちゃんとした自己紹介してなかったね。花田薫。私も一年生なの。よろしくね、守谷君」
ま、眩しい。
同じ眼鏡属性を持つ雫とは違い、清純の言葉が彼女にあるためにあるようだ。
彼女はまるで……そう、百合の花。
「やぁ、三島君、花田さん」
「こんにちは会長さん」
「こ、こんにちは! あの時は感想ありがとうございます!」
いつもの調子を変えずに挨拶する卓也と対照に、緊張気味の花田さん。
こうして対応の違いを見るのは中々面白かったりする。
まぁ、普通なら卓也みたいなタイプが少数人なのだが。
「会長さんに勉強見てもらってるんだな」
「ま、まぁな」
現在、会長が来たから実質勉強時間が0なんだけどな。
「俺達も一緒にしてもいいか?」
「え、俺はいいけど」
チラリと横目でみると、綾先輩は頷いている。
「ついでだ。一緒に見てあげよう」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「い、いいんですか!?」
「構わない。そこに座りたまえ」
対面の席へと二人を促し、座らせた。
「それにしても会長さん。その格好にあってますね」
「そうだろ」
「はい! 会長さんは形から入るタイプなんですね」
流石卓也。本来ツッコム所を褒めるとは、やりおる。
「廉は現代文か。確か、そこそこ出来るんじゃなかったっけ?」
「念のためにな。花田さんは得意科目ある?」
「私?」
頰に人差し指を添えながら考えるそぶりをする花田さん。似合ってるな。
「そうだなー。数学……」
ほうほう。眼鏡属性持ちは皆数学が得意なーー
「と言うよりかは計算? 掛け算に興味があって」
おっと雲行きが怪しくなって来たぞ。
「むしろ、掛けても0にしかならない非生産的な掛け算にしか興味がなかったり」
それに腐敗臭もしてきたな。
「……話が変わるけど守谷君。今度暇だったら一緒に野球部の見学に行きませんか?」
「何を期待してるか知りたくないけど、遠慮しとく」
どうやらこの花は百合に擬態したラフレシアだったらしい。
「残念。でも、この光景も中々……腐ヘヘ」
お願いだから俺と卓也を交互に見ないで!
と、頭の中で懇願していると、隣にいる綾先輩からメールが届く。
開くと「廉君×私なら1どころか10にも20にもなるぞ!」と書かれていたので、そっとスマホを閉じた。
するとすぐさまに次のメールが届く。
なんとなく内容が分かる気がするが、念のために開くと「私×廉君のほうがよかったか?」と書かれている。
だからそうじゃないんです。
「すいません会長さん。ここ教えてもらってもいいですか?」
「あぁ、ここはだなーー」
本当に卓也はあまり動じないな。
美男美女だからお似合いだし、このままくっ付いてくれないかな。
そうすれば俺の苦労もなくなるし。高校生活を謳歌出来るのに。
などと願望しているとまたメールが。
今度はなんーー「廉君以外考えられないから」ーー……。
画面から視線を綾先輩の横顔に向ける。
「ん? どうした廉君」
「いえ、何も」
「あ、あの。私もいいですか?」
今度は花田さんが質問し、それに答える綾先輩。
綾先輩と花田さんは対角線に座っているので、どちらかが少し体を前に出すか、横にたらないといけないわけで。
「近いです綾先輩」
「気にするな」
気にします。と、強く言いたい所だが、二人がいる手前だ。あまり強くは言えないし、表面上は生徒会長モードの綾先輩だからいつものようにツッコム事が出来ない。
何よりタチが悪いのは、飽くまで"表面上"は生徒会長モードなんだ。
つまり何が言いたいかというと……絶賛太ももを撫でられ中です。
無論、左手で防ごうと下ろすが、今度は指をからませようとしてくるので、貝のように力強く握って拒んだりと、机の下では攻防が繰り広げられている。
「綾先輩。席変わったほうが教えやすいですよ」
「一々誰かに教えるたびに席を変わっては君の勉強の邪魔になるだろ」
だったら今やっている事を即刻やめるべきですよね。
こんなやり取りを繰り返しながら現代文の勉強をした。
俺も綾先輩に聞いたが、やはり学年一位と言うべきか。教え方は上手い。
ただ、セクハラ行為は一向に止めようとはしなかったけど。
「……もうこんな時間か」
一区切りつけた卓也が時計に目を向ける。
「綾先輩今日はありがとうございました」
「私もありがとうございました」
「気にするな。当然の事をしたまでだ」
もう卓也達は帰るらしい。ならば俺も便乗しよう。
「俺も今日は帰ります。今日はありがとうございました」
「廉君もか。ならば私も帰ろう」
と言うわけで、全員で帰り支度をし始める。
「結構暗いけど、花田さんは帰り大丈夫?」
「家近いし、大丈夫。ありがとう守谷君」
支度を終えて、図書館を出る俺達。
「俺は念のために花田さん送ってくから」
「別にいいのに」
「それじゃあ廉、会長さん。さよなら」
「二人共気をつけて帰るように」
校門を出てすぐに二人と別れる事となり、綾先輩と二人っきりの状態に。
「それじゃあ、綾先輩。家まで送ります」
俺の申し出に首を傾げる綾先輩。
「別に送ってもらわなくてもいい。私は護身術を習っているからそこら辺のゴロツキなら簡単に倒せる」
いや、確かに綾先輩なら倒せるとは思いますけど。
俺は深くため息を吐く。
「綾先輩は女の子でしょうが。暗い道を女の子一人で歩かせるわけには行きません」
俺の返答に少しばかり驚いた表情をするが、すぐに微笑み返す綾先輩。
「廉君のそういう所が大好きだ!」
「ちょ! 綾先輩!?」
いくら学校にはほとんど人がいないとは言え、すぐ近くで抱きつかれるのは色々まずいわけで。
「離れてください!」
「いいではないか。私はか弱い女の子なんだ。抱き付いてるのは暗い道が怖いからだ」
「(他の生徒に夜道で刺されそうで)俺も怖いんですよ!」
「なーにやってんだお前ら」
げっ、生徒じゃないだけマシだけど、教師陣に見られるのもーー
「って、なんだ。松本先生か」
「なんだとは失礼だな。私じゃない方がよければ今すぐにでも他の先生をよーー」
「いやーよかった! 先生に会えて俺はなんて幸せなんだ!」
「そんなに喜ばれると困るなー」
自分が出来る限りの感激をアピールして、なんとか先生のご機嫌を取った。
「そうだ綾。今度そのスーツ返してくれよ。一応使ってるんだから」
「分かった」
そうだ。俺この人にクレームがあったんだ。
力づくで綾先輩を引き剥がして、松本先生に視線を向ける。
「なんで松本先生は綾先輩に服一式とあんな小説を貸したんですか」
不満げに睨んむが、あっけらかんとしている松本先生。
「そんなの、綾のエロさに我慢できなくなったお前が襲ってくれればいいなと思ったからに決まってるだろ」
「最近よく思うんですが、あんたそれでも教師ですか!?」
親戚の恋を応援するとは言え、これは度が過ぎてるだろ。
「まぁ、流石に少しやり過ぎた感があるから一週間は自重しようと思う」
「短かっ! って、それってただテストで忙しいだけじゃ」
「よく分かったな」
分かりたくもなかったですよ!
「本当に松本先生みたいな人がなんで教師になれたのか不思議です」
「確か教室にまだ残ってる生徒がいたっけなすぐに帰らせないと」
「松本先生ほど立派な教師はいません!」
目をキラキラと頑張って光らせながら、心にもない事を言って再度ご機嫌取り。
一人でも生徒に知られたら高速伝達されるに決まってるからな。
「と、冗談はこれくらいにしておくか」
冗談にしては心臓に悪過ぎですよ。
「杏花姉さんはこの後帰るのか?」
「そのつもりだけど」
「だったら家まで送って欲しい」
「いいけど、何故急に?」
「何、可愛い後輩が私が一人で帰る事に不安を覚えているようなのでな」
ああ、なるほど。と言いたげな顔で、ニヤニヤと笑っている松本先生。
途端に俺の顔が熱を帯びる。
「構わないぞ。守谷も乗ってくか? ゆっくり話でも」
「いいです! 俺は歩いて帰りますから!」
一刻も早くこの場から離れたくて、俺は全速力で逃げ去った。
ああ、本当にずるいよな。なんで、俺が気恥ずかしくなるような事を言った時に限って、いつものように「夫」とか使わずに「後輩」って言うかな。
そのせいで恥ずかしいのを誤魔化す事も出来なかった。
涼しく吹く風が顔を冷やそうとしてくれるが、一向に冷める気配のない熱に嫌気がさす。
「あーあ、あんなに慌てて帰らなくてもいいのにな」
「もう、廉君は可愛いな。流石私の夫」
「そう言うお前も、顔を真っ赤にして可愛いな」
図星を突かれ、少しばかり動揺した綾は慌てて頰に手を添える。
廉に恋心を抱いた時と同じか、それ以上の鼓動の高鳴りに、また一層好きと言う感情が強くなった綾。
「は、早く帰ろう! お父さんとお母さんが心配する」
「はいはい」
車を取りに行く杏花。
一人残った綾は涼しく吹く風で顔を冷やすが、一向に冷めない熱に喜びを感じながら鼻歌交じりに杏花を待つ。
読んでくださり、ありがとうございます。
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