お嬢様で、優しい副会長は女王さま(疑問)10
と言うわけで、現在生徒会室前にいます。
中には綾先輩らしき人物が中で今か今かと俺の訪れを待っているようです。
中に入ってもいないのに何故分かるかって?
まぁ、まずは耳をすませよう。
「あぁ、廉君がわざわざ私達に話したい事があるなんて。もしかして……ついに!?」
「綾ちゃーん、"達"がついてる時点でその可能性は皆無だって気づこーよー」
と、また何か勘違いしている綾先輩と疲れている雫の声が聞こえるわけで。
「あの、やっぱり今日は。心の準備がまだ」
「もう、仕方ないわね。そんなに困った顔されちゃったら」
え、もしかして帰らせてくれるんですか!?
「生徒会室に入りなさい。これは私の"お願い"よ」
ですよねー。この人はドSなんだからむしろ困った顔したら姫華先輩はさらに困らせるよね!
しかもお願いなのだから断れない。約束破ったら怖いもん!
「はい、分かりました」
肩を落として生徒会室の扉をあける。
そこには案の定ウキウキの綾先輩と疲れ果てた雫に、ポテチをかじる小野寺先輩。
てか小野寺先輩いつもポテチかじってませんか?
「廉君!」
「はい、廉です」
「私の廉君!」
「違います」
「……私のれーー」
「否定したんですからもう一回トライしないでください!」
ダメだ、いつも以上に面倒くさいぞこの人。
「ほらほら綾ちゃん。廉君からお話があるから」
「そ、そうだな」
「ワクワクしてるとこ悪いですけど、告白とかプロポーズじゃない事を先に言っておきます」
「なん……だと」
そんな世界の終わりのような顔で膝から崩れ落ちられても俺には責任ないですから。
「ほら、私の言った通りでしょ」
「くっ! 少々残念だが」
さっきの反応をしておいて少々なの?
「廉君が私達に話したい事があるのは確かだ」
立ち上がり、膝を叩く綾先輩。
そしてキリッとした目つきに変えて、威厳のある生徒会長モードへ。
「さて、廉君。話とはなんだ?」
「いや、その……」
横目で隣を見るとニッコリと笑っている姫華先輩。
分かってます。全部話しますよ。
俺はここ最近の出来事を生徒会に全てぶちまけた。
卓也の部活がある問題を抱えていた事。それをなんとかしようとした結果、軽率な行動をしてしまい脅されていた事。そして、生徒会を辞めようとしていた事も。
綾先輩も小野寺先輩も雫も、静かに俺の話を聞いていた。
「……何か悩んでいたと思っていたが、そんな事があったとは」
「なんで相談してくれなかったの!?」
「いや、まぁ、新参者の俺のせいで生徒会に迷惑をかけたくないと思っちゃって」
「廉、私達、生徒会の仲間」
そう言ってくれるとありがたいが、おそらく俺は、あの写真を見せたら軽蔑した目を向けられると心の何処かで思っていたんだろう。
「で、今回の件どうする綾ちゃん?」
「もちろん、関与した三人には然るべき処置を取るつもりだ」
「あ、あの! 水原先輩だけは許してもらえませんか?」
俺の言っている事に事情を知らない三人は首を傾げていると、姫華先輩からフォローがはいる。
「水原さんは今回の件には確かに関わってはいるけど、写真を使ってはいないみたいなの。被害者の廉君もこう言ってるのだし、今回は許してあげましょう」
「そうだな。廉君が言っているんだしな」
綾先輩は納得したように頷いている。
「ところで、証拠としてその写真を見せてもらいたいんですけど、話を聞く限りデータはその場で消したんですよね?」
はい、写真は姫華先輩がその他のデータ諸共全部消しちゃってます。
「それなら大丈夫よ。念のため私のスマホにメールで送っておいたから」
用意周到ですね。
ですが何故写真の有無を尋ねた雫を避けて、綾先輩に渡したのか理由を聞かせてください。
「これが例の写真か……。確かにパッと見はそれっぽく見えるな」
……あれ? それだけ?
「あの、それだけですか?」
想定外の反応で思わず聞いてしまった。
「この写真は悪意があって取られたものだろ? ならこの写真は私にとっては偽物だ。こんなので君をどうこうするつもりはない」
綾先輩は写真から目を離さず淡々と言う。
確かにそうなんだが、てっきり「私も押し倒せ! いや、むしろ押し倒す!」ぐらい言ってくるものだと思っていたのだが。
今は生徒会長モードだし、そこまで暴走はしていないのか?
「所で姫華。この押し倒されてる女子生徒を合成でなんとか私に変えれないか?」
「一体その写真をどうするつもりですか?」
「いやな、既成事実を作ろうと思って」
「偽物に偽装が加わったものを既成事実とは言いません!」
前言撤回。この人暴走してる。
「綾ちゃん、いい加減にしてほしいんだけど」
呆れた雫がスマホを受け取り確認をすると、そのまま小野寺先輩に渡し、同様の手順で小野寺先輩は持ち主である姫華先輩に渡す。
「とりあえず、今回の件は、報告。多分、停学か謹慎、どっちか」
「その水原先輩には軽い処分になるようにお姉ちゃんにも協力してもらうから安心して」
よかった。これで何もかも全て丸く収まる。
「よかったわね廉君。"生徒会をほっぽり出して一緒に出かけた"水原さんは軽い処分になりそうで」
「はい! 本当によかーーえ?」
ちょっと女王様? 今何か落としものしませんでしたか? 例えば爆弾とか。
と言うかなんで知ってるんですか?
「一緒に出かけただと?」
「それはいつの話でーーいえ、廉は入ったばっかりですから、昨日の事ですよね?」
綾先輩は表情が強張ってるし、雫は眼鏡が異様に光って目が見えないし、姫華先輩は超笑顔だし、小野寺先輩はポテチかじってるしで、胃が痛いです。
「他の女とデートしたのか!?」
「デートではないです。ただお出かけしただけで」
「それ、客観的に見て、デートにしか思えない」
「いや、これには深いわけがあってですね」
「あらあら、それは深い関係って事かしらー」
「姫華先輩、お願いですから意図的にガソリンをぶちまけないでください」
もう収拾がつかない。
最後の希望は女神雫しかいない。
熱い視線を雫に送り続けていると、雫が動く。流石女神様!
「綾ちゃん、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!」
はぁ、と一息吐いてから雫は何故かスマホを開いて何か文を打ち始めた。
そして書き終えたのかスマホをしまうと、同じタイミングで誰かの携帯が鳴る。
綾先輩が左ポケットからスマホを取り出して何かを確認すると、パァーと満開の花の如く笑顔を咲かした。
「それで今日は手を打って」
「あぁ! もちろんだ!」
スキップして生徒会長の席に座るとスマホに夢中。
何をしたかは知らないが助かった。
「ありがとう雫。助かった」
「ううん、気にしないで。ただ、廉のメアドを教えただけだから」
「…………へ?」
突然俺のスマホが忙しなくメールが来た事を告げている。
恐る恐るメール受信画面を開くと、知らないメールアドレスから何件も届いている。
あそこでニマニマと高速でスマホをタッチしている綾先輩と無関係であろうか。いや、そんなはずない。
「ちょ、何してるの!? 渡したらどうなるかぐらいーー」
ちょっと雫さん。女の子がそんなヤクザ顔負けなメンチ切っちゃダメですよ。
「あの日私がどれだけ苦労したのか分かってる? なのに廉は女の子とお出かけですか。でも私は見捨てず廉を助けるわ。だから、これぐらいの被害は気にしないわよね?」
「はいもちろんです!」
あまりの威圧と恐怖で首を縦に振っちゃった。
「雫ちゃん。もうその辺にしてあげて。この後もまだお仕事はあるんだし」
「うん、早く、しよ」
「……そうですね。これ以上は時間の無駄ですね」
威圧的な雰囲気がふっと消える。
今日はもうこれ以上何か変な事が起きない事を祈ろう。
「綾ちゃん、もうその辺にして早く視察に行こうよ」
「ん? ああ、そうだな」
ようやくスマホが鳴き止んだ。
一体どんだけメールしていたのか。
「そうだ廉。この際だし小毬さんと姫華さん、それに綾ちゃんの連絡先交換しておきなさい。色々その方が楽だと思うから」
との事で俺は雫以外ともその場で連絡先を交換した。
連絡先を打ってもらう際に綾先輩が間違って名前を「妻」にしてたので親切心で「綾先輩」に直しておいた。
ついでに「ご主人様」と打たれた名前欄を「姫華先輩」へと変更。
俺の連絡先を打った後、綾先輩が速攻で「夫」に。姫華先輩が「可愛い後輩」としたのを見逃さなかった。
その後は一昨日と同じで部活を視察してから解散。
長く感じた二日間はこうして幕を降ろした。
あの二日間のその後について話そう。
結果的に宮本先輩と諸星先輩は二週間の謹慎処分を受けた。
水原先輩は被害者である俺の発言と松本先生の助力もあり、松本先生の下で奉仕活動。つまり、生徒会の雑用などをしばらくの間する事となった。
でも実際はちょっとした頼みを聞いてもらうだけで、あまり働かせるつもりはない。
あ、そうそう。卓也から聞いた話では水原先輩は無事に部員としてアニメ研究会に参加してるらしい。
花田さんとは仲良くなり、お互いの漫画を交換するほどとか。
これが結末の全て。俺からしてみれば見事ハッピーエンドとなったわけだ。
そして皆さんにご報告があります。
まず俺の背後に注目してください。柱の陰に女子生徒がいますね?
最近その人に校内でつけられてます。
「ねぇ、あの先輩こっそり覗いてるよ」
「本当だ。なんかカワイイ」
「なぁ、あの人ずっとこっち見てるんだけど」
「もしかしたら俺目当てとか!」
「バカ、俺に決まってるだろ!」
いやね、誰か分かってますよ。
確かにあの後じゃ会いづらいのは分かりますけど、いい加減にしてほしいので俺は今日は放課後に屋上に呼び出しています。
そんでもって時間が進んで放課後。
ちゃんと生徒会全員に少し遅れる事をメールで伝え、現在屋上には俺とその女子生徒がいます。
「ど、どうしたの、急に呼び出して」
「『ど、どうしたの、急に呼び出して』じゃないですよ! こそこそ陰から見てるの知ってるんですからね! 水原先輩!」
ウェーブがかかったクリーム色の髪をいじりながら髪と俺を交互に見ている水原先輩。
そう、あの後から学校内で俺を見つけるたびに水原先輩が後を追ってくるのだ。
「た、たまたまよ!」
「たまたまで男子便所の前で突っ立ってるんですかあなたは? 扉の窓からずっとシルエット見えてましたよ」
「トイレに行きたかったの!」
先輩は女の子ですよね!?
どうやら意地でもたまたまにしたいらしい。
だったらそれでいいです。この会話を延々と続ける気は全然ないんで。
「分かりましたよ。先輩は男子トイレに用事があったんですね」
「そうよ! ……あっ」
自分が無茶苦茶な事を言っている事にようやく気がついたらしいようで、顔が真っ赤になっている。
「ち、違う! あたしは女の子だから!」
「はいはい、分かってますよ」
逆にその身体つきと顔で女の子じゃないと信じろと言う方に無理がある。
「信じて! ほら!」
よく分からないが両腕を掴まれ引っ張られる。
「胸とかスカートの中を好きにまさぐっていいから! そうすれば分かってくれるよね!?」
「水原先輩ストップ! その確かめ方はダメです!!」
この人も綾先輩とは違うけど変な暴走するのかよ!
「廉君が体の隅々をまさぐってくれると聞いて!」
閉めたはずの扉がバンッと勢いよく開かれ、綾先輩が期待の眼差しで登場。
と言うか何故ここにいるんですかね。
「え? ……会長!?」
突然の乱入者で冷静さを取り戻した水原先輩が握っていた俺の腕を慌てて離す。
いや、本当に危なかった。あと数センチで平穏な生活とおさらばだった。
……誰か「今も平穏な生活じゃないだろ」と思ったでしょ。
その通りだよ! ちくしょー!
「廉君! さぁ! 遠慮せずまさぐりたまえ!」
「するわけないでしょ!」
「人前でするのは些か恥ずかしいが、なんだか見せつけているようで、それはそれで」
「話を聞いてください! お願いします! あと変な扉を開けようとしないで、厳重に鍵でロックしてください!」
最初からアクセル全開の綾先輩。
呆気にとられている水原先輩。
…………しまったああぁぁぁぁ!! この人まだ綾先輩のこの姿知らなかったああぁぁぁぁ!!
「え、会長と守谷は、そう言う関係なの?」
不安そうに尋ねられた俺は、まずどうすればいいんだ。
「もちろんだ」
「違います」
綾先輩に誤情報を流させないようにしよう。
「え、結局どんな関係?」
「好きな食べ物から身長、体重まで知ってる仲だ」
「ただ一方的に情報を知られているだけです」
水原先輩はどんどん混乱して目をぐるぐる回している。
もう見られてしまったのだ。変にごまかして面倒事が増えるよりかは、事情を話す方が良いのかも。
俺は生徒会に入った経緯など全てを話した。
「つまり、会長が守谷に執拗に関わろうとするから、生徒会に入ったってわけ? 確かに、生徒会役員なら会長と仲良くなるのはおかしくないわね。納得した。守谷、あんたも苦労してるんだね」
あぁ、どうしよう。水原先輩が雫に続く常識人枠で涙が出そう。
「でもあたしに言ってもいいの? もしかしたら言いふらすかもよ?」
「水原先輩がそんな事するような人じゃないって、俺信じてるんで」
「……そ、そうなんだ。へー」
平静を装うとしていますが、ニマニマしてるのが丸わかりですよ。
信用されてる事がそんなに嬉しいんですか?
「話は済んだな。なら続きを」
「話と一緒にさっきのくだりも俺の中では終わってるんで。と言うか、綾先輩はなんでこんな所に?」
「もちろん、廉君の後ろを付けていたんだが? 水原が君の後ろをついているのが気になってな」
「……ちなみにいつからです」
「今日君と登校してから授業以外ずっと」
ちょっと待ってください。俺全然気がついてないんですけど。
「水原も気を付けろ。私が見てる限り、一歩間違えればストーカーだぞ」
「うっ……はい」
水原先輩、そんなに申し訳なさそうにしなくてもいいですよ。あなたの目の前にその一歩を間違えた人がいるんですから。
「話は変わるが、水原。役員ではなくとも君は私達と一緒に行動する事があるんだ。親睦を深めるためにこれからは私の事を会長ではなく、綾と呼んでくれ」
「それは、別にいいけど。なら私も舞でいい」
少し気恥ずかしそうに顔をそらす水原先輩に綾先輩は微笑む。
「そうか。じゃあ早速生徒会室に行こうではないか。まず、顔合わせしないとな」
「え、ちょっと、そんなに引っ張られたら転んじゃう!」
綾先輩に腕を掴まれ、連れて行かれる水原先輩。
本当に嵐のような人だ。
俺は溜息を吐いてから、二人の微笑ましい後ろ姿を追った。
これにて副会長編は終了です。
感想などありましたら気軽に書いてください。
次回の「小動物で、癒し系の書記さんには毒がある(吐血)」をお楽しみに。




