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お嬢様で、優しい副会長は女王さま(疑問)9

 いつもと変わらない朝を迎えた。

 しかし、昨日よりかは気持ちに余裕が出来てる気がする。


「よし! 行くか」


 朝食と着替えを済ませ、扉を開ける。

 気持ちのいい朝だ。


「やぁ廉君おはよう」

「おはようございます」


 いつものように途中で待ち伏せていた綾先輩のご登場。

 とりあえず返すものは返しておこう。


「すいません。昨日は弁当箱持ってくるの忘れて。一応二つ共持ってきたんですが、邪魔ですかね?」

「構わない。渡してくれ」


 断りを入れて二つの弁当箱を渡す。


「すまない。予備の弁当箱がなかったから今日は作れていないんだ」

「気にしないでください。別に作ってくれなくてもいいですし」

「いや、今の内に夫の好みの味付けを身につけるのは妻として当然の事、だろ?」


 優しく微笑んでいい話風にしても俺は騙されませんよー。


「……所で、この弁当箱は未洗浄か?」

「期待の眼差しで未洗浄の可能性があると何故思えるんですか?」


 相変わらずのテンションに辟易していると、綾先輩が横で俺の顔を覗き込んでいた。


「よかった、いつもの廉君だ」

「いつもの?」

「一昨日生徒会室に君が戻ってきてから様子が変だったんでな。何か悩んでいたのではないか?」


 よく見ていらっしゃる。全てではないが、生徒会長にはお見通しだったらしい。


「だとしたら、なんで何も言わなかったんですか?」

「君が私達に相談なしに黙って行動するのはよっぽどの事なんだろう。なら君から打ち明けてくれるまで待っていようとそう思っただけだ。無論、危うそうだったら無理矢理にでも吐かせようとはしていた。生徒会の仲間が弱っていく姿を見たい者など、あの中には誰もいないのだからな」


 普段俺の前では暴走っぷりを発揮しているのに、こんな場面で生徒会長らしい事を言うのはズルい。


「そしていつか私に、内に秘めた思いを君は打ち明けてくれるはずだ。そう! 『俺と結婚してください』の10文字を!」

「『感動を返してください』の10文字なら今伝えます」


 なんで最後の最後で暴走するんだこの人。

 ……でもありがとうございます。おかげで少しばかりの勇気が生まれました綾先輩。


「綾先輩。今日の放課後ってまた集まりますよね?」

「そうだが、また用事か?」

「まぁ、そんな所です。でも遅れるだけですから」

「そうか……なら君を待とう。そこで私達に伝えたい事でもあるんだろ?」

「よく分かりましたね」

「当たり前だ。廉君の事だからな」


 悪い意味でこの人は俺の事を知っている。でも、良い意味でもこの人は俺の事を知っているんだ。


「おっと、学校が見えて来たな。それでは廉君。また放課後」

「はい」


 小走りで校門をくぐっていく生徒会長を見届ける。

 もう迷いはない。今の俺にはそれをぶつける勇気も出来た。

 もしかしたら……じゃないな。確実に俺の考えを知られれば綾先輩達は必死になって止める。

 でも、俺はこんな事しか思いつかない。

 俺はスマホを取り出して水原先輩達宛にメールを一斉送信してから門を通った。



 放課後。俺は屋上へと上がる。

 昼休み中諸星先輩と宮本先輩から引っ切り無しにメールが来ていたようだが、わざと電源を切っていた俺がそれを知るのはホームルームが終わってからだった。

 水原先輩からは何も返信はない。

 扉の前で一度深呼吸をしてから手を掛け、勢い良く開けた。

 想像通り眉間にシワを寄せる諸星先輩と宮本先輩の姿が。

 水原先輩は俯きがちにベンチに座っていた。


「今朝のメール。何のつもり?」


 今朝のメールとは三人に共通して送ったもの。

 内容は、放課後に屋上に来てください。ただそれだけ。


「あんた、何私達に命令してるの? しかもメールガン無視とかありえないんですけど」


 詰め寄られるが恐怖はない。


「先輩……俺、伝えたい事があるんです」

「は?」


 二人を睨みながら俺は大きく息を吸い込む。


「俺は、あんた達の奴隷じゃねぇ!! 写真も勝手にしろ!!」


 ……言った、言ってやったぞ。

 ははっ、諸星先輩も宮本先輩も、さっきまで俯いてた水原先輩も鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してやがる。


「あんた、ねぇ」


 思い通りにならずに怒りを露わにする諸星先輩と宮本先輩。


「二人共……もう、やめよ」


 水原先輩が立ち上がって二人を止めようとしている。


「やめるって、何を?」


 仲間であるはず水原先輩に敵意を向ける二人。


「もう守谷を脅すのやめよ? これ以上は意味ないよ」

「舞、元々はあんたがチンタラ回りくどいのが悪いんだからね!」

「卓也君と仲良くなるためにあの部活の部員だったあんたに頼んだのに」

「あたしは、元々お願いを聞くつもりはーー」

「何? 香織かおりのお願い聞けないの?」


 と、裏事情が俺の前で暴露され、二人に追い込まれている水原先輩は震えていた。

 卓也が目的だとは知っていたが、それは好意があるものだと思っていた。

 しかし、話を聞く限りでは香織と言う人が頼んだが水原先輩は乗り気ではなかった?


「はぁ、舞がちゃんと取り持ってくれれば、あんなキモい集団のいる部室を何回も行かなくて済んだのに」

「本当、なくなればいいのにあんな部活」

「……でよ」


 先ほどとは違う理由で少しだけ体を震わせ、スカートを力強く掴んでいる水原先輩。


「何か言った?」

「あそこを悪く言わないでよ!!」


 仲間だった二人を睨みつけ、怒声をあげた。

 一方の二人は明らかに嫌な顔を浮かばせ、鬱陶しそうにしている。


「何ムキになってるの。……まぁ、いいや。とりあえず、あんたは後。先にこいつ何とかしよ」


 水原先輩から視線を外してまた俺を睨んでいる。


「そうね……。ねぇ、奴隷君。いいの本当に? ばら撒いちゃうよ?」


 確認するように尋ねられるが返答は決まっている。


「勝手にしてください」

「そんな事したら、あんただけじゃなくて、生徒会にも迷惑がかかると思わないの? ま、私達は全然いいんだけど」

「別にいいですよ。だって……」


 今朝から覚悟は決まってる。


「俺は生徒会を辞めるつもりなんだからな! まだ入って一週間も経ってないけど!……なんて、言ったら私は怒るわよ」


 セリフを奪われてしまい、開いた口をそのままに振り向く。

 そこには金色の長い髪を風になびかせる……女王様!? じゃなかった。姫華先輩(女王様)!? あ、変なルビが。


「あらあら。廉君どうしたの? 鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をして」

「え、いや、その、え? 何で姫華先輩が?」


 もしや綾先輩達も!?


「安心して。私だけよ」

「ちょっと! 南条がなんでこんな所にいるのよ!」


 今にも掴み掛かりそうな諸星先輩だったが、姫華先輩のあの冷たい目ーーいや、あの時よりも遥かに冷たく、敵意を含んだ視線に捉えられ、それ以上こちらに近寄ろうとはしない。


「なんで? 白蘭学園の生徒なのにそんな事も分からないほどおバカさんなのかしら?」


 姫華先輩が一歩近づけば、諸星先輩と宮本先輩が一歩退く。

 そんなやり取りが数歩と続き、姫華先輩は俺の真横で止まった。


「生徒会の仲間が酷い目に遭っているのを、これ以上見過ごすわけにはいかないからに決まってるじゃない!」


 声量があったわけでもないが、それを十分に補えるほど凄まじい気迫。


「だ、だから何よ。こっちには写真だってね」


 切り札とばかりに例の写真を見せられるが、姫華先輩はそれを嘲笑う。


「そんな写真。よく確認すればすぐに意図的に撮られたものって分かるわよ? そうなれば、逆にあなた達が迷惑なんじゃない?」

「そ、そんなの。どう判断するかはみんなよ!」


 嘘か真か、信じるか信じないかはそれを見た個人による判断だ。例え嘘でも、真実だと思われてしまえば結果は同じ。

 なのに姫華先輩はまだ笑っていた。


「いいのかしら、もしばら撒いたら」


 スッとポケットからスマホを取り出しある画像を開きながら二人に向けて見せた。

 俺も覗き込むようにその画像を見た。

 そこには一人の女子生徒が……あのー、そのー、えっと……ダメだ! この表情はどう頑張っても伏字必須の言葉を使わなければいけない! 

 なのでここは万能の言葉、『ご想像にお任せします』。


「か、香織!」


 ええぇぇぇぇ!? さっき言ってた香織って人かよ!


「この子もこの件に絡んでるみたいだったから昨日お仕置きしておいたわ。次はあなた達がこんな姿になるのよ? 嫌よね?」


 画像を見せられ、戦意喪失の二人は姫華先輩に怯えきってしまっている。


「こんな姿になりたくなかったら今すぐスマホを渡しなさい。パスワードも教えてね」


 高速で頷いてスマホを渡す諸星先輩と宮本先輩。

 受け取ったスマホを開いて、初期化してから二人に返す。

 被害者の俺だが、データ全削除はえげつない。


「二度と廉君には近づかないでね。あと、あの写真の保存データなんて持ってたら……フフフ」


 悪魔のような微笑。顔を青くして逃げるように二人は屋上を出て行った。


「さて、残ってるのは」


 姫華先輩が次のターゲットに照準を合わせる。

 怯えた表情の水原先輩。しかし、その中に覚悟も含んでいるように見えた。

 咄嗟に俺は二人の間に割って入り込んだ。


「あらあら。何してるの廉君? その子にもお仕置きしないと」

「み、水原先輩は関係ないです」

「あら? でも昨日ここでさっきの二人と一緒にいたわよね? 昼休みにも、放課後にも」


 くそっ、昨日の現場を見られてたのか。でも、この人はあの二人とは違うんだ。


「水原先輩は脅してなんかいません!」

「でも、写真を持ってるなら同罪よ。さ、スマホを見せてください」


 後ろにいる水原先輩は俺を退かして、ポケットから出したスマホを渡す。

 それを受け取った姫華先輩は操作を始める。


「……あら」


 姫華先輩はスマホをそっと水原先輩に返す。


「ごめんなさい疑って。写真は何処にもなかったわ」

「え?」

「当たり前。だって貰った日にすぐ消したんだから」


 よ……よかったー。

 力が抜けすぎて尻餅をつく。その姿を姫華先輩はクスクス笑っている。


「本当に、廉君は可愛いわね」

「男としてはその褒め言葉は喜びづらいです」


 でも、本当によかった。水原先輩は、根は悪い人じゃなかった事が素直に嬉しい。


「本当に、あんたって優しいと言うのか、お人好しと言うのか。一昨日だってあんな誘いにすぐのっちゃってさ」

「あ、あれは、卓也が困ってたからで」

「そう……ならもう安心しなよ。あたしはもうあの部活には近寄らないからさ」


 そう言う水原先輩の顔は安堵しているようにも、寂しそうにも思える。

 本当は水原先輩、卓也や竹村先輩と同じくらい、あの部が……


「水原先輩。ちょっと来てください」

「何よ、もうあんたと関係ないーー」

「いいから来てください!」


 俺は有無を言わさず、手を引っ張ってアニメ研究会に向かった。

 水原先輩が何か言っても俺は聞いてないフリをして突き進む。

 姫華先輩も俺の隣に並んで着いて来てくれた。

 俺が何をしようとしているのか分かっているのだろう。


「ちょっと、あんたここ」


 アニメ研究会の部室前に着くと、中に聞こえないようにしているからか声が小さい。


「すいませーん!」

「ちょっとあんた何やってるのよ!?」


 扉を開けた途端に猛抵抗されるが離さない。

 部室には一昨日と同じメンバーが揃っている。


「廉、なんだ急に……もしかして入部希望か!?」

「少年のようにキラキラ目を光らせてるとこ悪いが違う。今日は人を連れて来た」

「人?」


 すでに抵抗を諦めた水原先輩が見えないように俺の後ろに隠れようとしている。

 が、俺の背後を背伸びして覗き込む卓也に呆気なく見つかった。


「水原先輩!?」

「え、水原さん?」「水原だって?」

「ちょっといいかな」


 ざわつく部員の中から部長の竹村先輩が前へと出る。


「水原さん。こっちに来てくれ」


 真剣な眼差しで俺の後ろにいるであろう水原に諭すように訴えかけると、水原先輩が隠れるのをやめて姿を現した。


「ど、どうも……」

「なんで、ここに」「また三島か?」「いい加減にしてほしい」


 コソコソと話し声をあえて聞こえているようにしているのか内容がここまで聞こえる。


「水原さーー」

「今日はそのっ、退部する事を伝えに来ただけだから! あたしが来ない方がいいってみんな思ってるでしょ? だからあたしがーー」

「水原さん!」


 竹村先輩の怒号が水原先輩の声をかき消す。


「君がなんと言おうと君はこの部の部員だ。君が退部したとしても、自分はそう思い続ける」


 初めの頼りなさそうだった印象からは想像出来ないほど頼り甲斐のある竹村先輩の姿が、綾先輩の姿と重なった。


「竹村先輩……でもあたし」


 でもでもだってと本当は戻りたいくせに何かと理由をつけて辞めようとしているので、ここは俺が背中を押してあげよう。


「水原先輩は今でもアニメ好きですよね? だって昨日『あなたのハート(物理的に)いただいちゃうぞ!』のフィギュア欲しがってたじゃないですか」


 水原先輩の顔が赤くなるのを確認。

 爆発まで、3……2……1……


「タイトル言わないでよ! 恥ずかしいじゃない!」


 胸ぐらを掴まれ涙目で睨まれるが、ハハッと笑い飛ばす。


「先輩もあのアニメ好きなんですか!?」

「え?」


 よし、食いついた。

 卓也なら話に入ってくると信じてたぜ。


「俺も好きなんです! 良かったら今度時間があったらここで語りましょう!」

「え、う、うん」

「おい三島。あまり水原と関わるんじゃない」


 水原先輩が困惑していると、部員の誰かが忠告する。

 が、卓也は不思議そうな顔で聞き返す。


「なんでですか?」

「なんでって、三島なら分かるだろ? 今回で迷惑がかかった一人なんだからさ」


 水原先輩は俯いてしまうが、一方の卓也は気にしていない。


「確かにちょっと苦手だなとは思ってましたけど、でも今の水原先輩は全然そんな風には思えません。それに何より、俺が最も信頼してる廉がこうして連れて来たんですから間違いなく良い人です!」


 おいおい、よせやい。そんなに褒めてもフィギュアしか出せないぞ。


「と言うか、俺が入部してすぐに話してたじゃないですか。『最近来ていないけど、水原って言う絵が上手くて、みんなと仲が良い人がいる』って。それで『そいつがまた来るのを待ってる』って」


 その言葉に目を丸くした水原先輩は部員達を見つめると、バツが悪そうにしている。


「水原さん。君に何があったかは知らない。でも、自分達はずっと君が戻って来るのを待ってたんだ」


 その言葉で水原先輩の目尻には涙が溜まっていく。


「ごめん、なさい。あたしが、バカで、ごめんなさい……時間が掛かると思うけど、あたし、またみんなと」


 ようやく素直になった水原先輩が袖で涙を拭うと、一人の部員の前まで歩く。その人物はあの時の作者の女子だった。


「花田さん。作品をあんな風にしちゃって、ごめんなさい」


 頭を深々と下げている水原先輩とそれを見下ろす花田さん。


「……許しません。あれは私が頑張って描いたものです」

「……だよね。ちゃんと罰は受ける」

「はい、もちろんです。ですから……私に絵のアドバイスをしてください」


 思いもよらなかった返答だったらしく、水原先輩はすぐさま顔を上げた。


「私も水原先輩の事は聞いていたんです。絵が上手だって。だから会ったら絶対に読んでもらおうと思ってたんです」


 花田さんは近くの机から紙の束を取ると、それを水原先輩に渡す。

 一番最初のページに薄っすらと靴の跡が残ったあの漫画だった。


「水原先輩。これから指導もですけど、一緒にお喋りしませんか?」

「……ぅん」


 花田さん微笑みに、涙ぐみながら微笑みで返す水原先輩。

 もう俺がここにいる理由はないな。

 卓也と視線合わせると、俺の思いを感じ取ったのか、軽く手を上げたので、俺も片手を少し上げて部室を後にした。

 もうこれでこの部は大丈夫だ。

 俺は風を感じながら颯爽と帰っーー


「あらー? どこに行くのかしら廉君」


 ガシッと肩を姫華先輩に掴まれて前に進めない。

 あれれー? ここは流れ的に俺がかっこよく去る場面だと思うんですけど?


「いや、そのー」

「綾ちゃんと約束したんでしょ? そ・れ・にー。私の約束も。隠し事してたんだから」

「それは日を改めてと言う事で」

「ダメよー」


 くっ! ここは戦術的撤退をしよう!


「あ、話が変わるけど、さっきのやりとりはドラマみたいだったわね」


 突拍子もなくさっきあった事を話し始めた。俺はただ「はい、そうですね」と答えるしか出来なかった。


「それでね、そんな場面をいくつか写真に収めたんだけど、見てもらえるかしら?」


 そう言って俺に見せて来た写真は俺と水原先輩が手を繋いで部室の前にいる場面だった。


「こうして見ると、まるで"カップル"になりたての男女がみんなに報告しに来たみたいよね」

「すみません男が言った事は二度と取り消さないように努力するんでその写真は消してください」


 こんなの綾先輩が見たら俺が想像しないような事をするに決まってる!


「あらあら、ただ綾ちゃんと一緒に『仲良いわよね』って言いながら見ようと思ってただけなんだけど、そんなに頼まれちゃったら仕方がないわね」


 この人、絶対に結末分かった上での行動だよ。


「さ、生徒会室に行きましょうか」

「……はい」


 俺は女王様の後ろをトボトボついていった。

 これからは姫華先輩を騙す、あるいは怒らせるような事はしないでおこう。

感想などありましたら気軽に書いてください。

次回で副会長編最終話です。

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