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お嬢様で、優しい副会長は女王さま(疑問)5

 最近日課となり始めた綾先輩との登校を終え、俺は下駄箱で靴を履き替えながら昨日の事を思い出していた。


「よ! こんな所で突っ立ってどうしたんだ?」


 事情を知らない卓也がいつものように俺の背中を軽く叩く。


「ちょっとボーっとしただけだよ」

「そっか……悪かったな」


 昨日の事を謝っているのだろうが、それ以上に自分の現状の方で頭が一杯になってるせいでそれに対して何も言えなかった。


「部の問題なのに廉も巻き込んじまって。でも、これ以上関わる必要はないからな。もし、何かこの件で巻き込まれる事があったら俺に言ってくれ。すぐに助けるから」


 俺の心を見透かしているのかと思えるほど、最も言ってほしかった言葉。今ここで打ち明ければ打開する事が出来るかもしれない。

 俺の口が開きかけた。が、俺は歯を食いしばって言葉が出るのを止めた。

 アニメ研究会で起こっている事がきっかけではある。でも、今の自分の立場にしたのは浅慮だった俺が原因。

 今ここで卓也に打ち明ければ俺は楽になる。だけど、それは卓也の足枷でしかならない。俺はこれ以上誰かの足枷にはなりたくはない。


「どうしたんだ?」


 様子がおかしい俺を不審に思ったのか覗き込まれるが、俺はいつもの俺を装う。


「何でもねぇよ。さっさと行くぞ」


 歯を見せて笑う姿でようやく納得したのか卓也も笑い、俺達は教室へと歩いた。

 何事もなく教室に着いた俺達は余った時間で共通で見ているアニメや漫画で話に花を咲かしていると、机の上に置いたスマホが振動する。もしかして……


「メール来てるぞ」

「……あぁ」


 一度深呼吸してからメールを開く。送信者の欄には「松本雫」と表示されている。そう言えば、前一緒に昼食をとった時に綾先輩の件で相談出来るように、と言う事で交換していたのをすっかり忘れていた。

 内容は、昨日と同じく昼放課に生徒会室に集合との事。


「生徒会の連絡だ」

「あぁ、なるほど」


 心の底から安堵していると、再びスマホが振動した。

 伝え忘れがあったのかと再びメールを開くが、新しく届いたメールの送信主が「水原舞」になっている事に俺の背筋は凍る。

 内容は、昼休みに屋上に来いとの事。


「どうした?」

「……いや、伝え忘れがあったみたいだ」


 卓也に覗かれないように鞄の奥にしまった。

 特に気にした様子ではない卓也は話を続ける。


「学級委員、号令」


 時間通りに松本先生がやってくると、同時に朝のホームルームが始まった。

 だがそれほど大事な報告はないらしく、手短に伝えるべき事を伝え、別クラスで行われる授業の準備のため早急に教室を出て行く。

 俺も最初の授業である英語の教科書を机の上に――


「あれ」


 置こうとした。しかし教科書を忘れてしまっていた。こんな事、入学どころから小学生以来だ。

 仕方なく、隣の女子に教科書を共有させてほしいと頼む。

 嫌がる素振りもされず、机をくっ付かせてもらうと、俺にも見えるように真ん中に教科書を開いて置いてくれた。

 とりあえず一時限目は終わりまで問題もなく事なきを得る……が、まさか他の授業の用意も忘れているとは思ってなかった。

 そうだ。鞄の中身が昨日のままだ。

 何度も同じ人から教科書を見せてもらうはめになり、流石に苦笑いを浮かべられたのは言うまでもない。

 そんなやりとりがあってなんとか授業は四時限目までは乗り切った。後残っているのは教科書をあまり使わないものだったり、昨日と被っている教科なので隣に見せてもらう必要はない。

 胸をなでおろすが、メールの事を思い出し心境は一変して陰った。


「なぁ、昼飯買おうぜ」


 前の席に座る卓也から誘われる。


「すまん、ちょっと呼ばれててな」

「生徒会は忙しいんだな」

「まぁな」


 卓也が勘違いしている間に俺は廊下に出た。

 廊下には購買に向かう生徒や場所を探す生徒達が行き交う。

 人を避けて屋上へまっすぐに行こうとしたが、二階に上がった直後に黄色い悲鳴が聞こえた。

 気になって廊下を覗き込むと、生徒達が一人の生徒のために道を開けている。

 その生徒とは綾先輩の事だ。

 堂々とした振る舞いはやはり全校生徒の代表である生徒会長。人を束ねる人物と言うのがひしひしと伝わってくる。

 少し観察していると、綾先輩と目が合う。その瞬間、綾先輩の足取りが早くなったのは気のせいではない。

 これはまずいと思いすぐに逃げようと試みようとしたが、よくよく考えれば見つかった時点で逃れる事なんて出来ないな。

 ならせめて人が寄り付かなさそうな倉庫や生徒指導室、屋上などに誘導するべきか。

 しかし、屋上は水原先輩がいるから論外。

 倉庫は遠い上に人が来なさすぎて俺が食われる。後戻り出来ない道は嫌なので却下。

 なら生徒指導室のある棟の踊り場に行くのがベスト。あそこの棟は職員室が一階にあるが、それ以外の階には生徒指導室や学校の歴史が分かる資料室などあまり利用機会が少ない部屋が固まっている。生徒はおろか、教師ですら訪れる機会は職員室を除けば、他の棟と比べて極端に少ない事は把握済み。

 え、なんでそんなどうでもいい事を知ってんのかって? 俺の今後の高校生活を守るための最重要情報だからだよ!

 歩調を合わせて綾先輩を見失わないように。かつ、追いつかれないように連絡通路を活用して生徒指導室のある棟へ移動。

 生徒指導室近くの階段を使い、踊り場まで上ってから後ろを振り向いた。


「あれ、いない……」


 確かに直前の角を曲がる前にはまだいたはずなのだが。


「ふぅー」

「うわひゃっ!」


 耳元に吐息をかけられ飛び上がり、かけられた方向に顔を向ける。

 そこには嬉しそうな綾先輩が。


「ふふ、まさか君がこんな人気のなさそうな場所に来るとは思わなかった。私がついてきているのは分かっていたのだろ?」


 綾先輩ににじり寄られ壁際に追い込まれた。


「お、俺に用があって近づいたんじゃないんですか?」

「……まぁ、そうだな」


 右手に持っていた弁当箱を俺へと差し出す。俺は素直にそれを受け取った。やっぱり、俺の教室に行こうとしてたのか。


「今朝渡し忘れていた。渡しに行こうと思ったらちょうど君を見つけてな」

「そうですね。弁当箱も返すの忘れていましたし」


 と言っても洗ってすらいないのだが。


「すいません、弁当箱を洗い忘れているんで、また後日に――」


 言い終える前に俺の両頬を何かがかすめ、後頭部に振動が伝わるほど大きな音が鳴る。


「い、いや。別にそのままでも、私は構わないぞ」


 キャッ! 女子なら一度は憧れる壁ドンをされちゃったよ!

 でも残念。俺は男だ。目の前にいるのは綾先輩だ。ロマンもクソもない。

 と言うか、この人は弁当箱をどうするつもりだ。


「いえ、汚いんで俺が洗います」

「汚くはないぞ! 少なくとも私にとっては宝物だ! 是非じっくりと味わってだな」

「食中毒起こしますよ」


 と、的外れなツッコミをしていると誰かの駆け足が聞こえてくる。

 いや、俺にはその人物が誰なのか見当はついていた。

 ここにくる前にある人に『綾先輩 生徒指導室 踊り場 help』と送っておいたのだ。

 しかしあんなメールでよく来てくれた。


「あーやーちゃーんー!」


 廊下をズザザッと滑りながら登場した雫が踊り場にいる俺達を下から見上げている。

 雫の登場により、綾先輩は俺から離れた。


「雫、廊下は走るな」

「ご、ごめん……じゃなくて綾ちゃん! また変な事しようとしたでしょ!」


 勝手に決めつけられた事に少し機嫌を損ねたのか、頰を膨らませる。

 でも雫の言った通りでしょ。


「勝手に決めつけるな! ただ廉君のエキスがついた弁当箱が欲しいだけだ!」

「それを変な事っていうの! 廉、後はこっちで任せて」


 綾先輩の手を取ると、引っ張って何処かへ連行していく。

 女神様。もとい雫に助けられ、俺は知り合いに見つからないように元の棟に戻って屋上へと駆け上がった。

 少し動悸を感じながら屋上を隔てる扉のドアノブに手をかける。そして意を決して捻った。

 建物自体が大きい事もあり、屋上も広々としている。しかし、生徒達に解放されているはずなのに利用者はほぼいない。

 学食や他の施設が設けられたこの学園では、風にさらされ、時には雨にも打たれる屋上をわざわざ利用しないのだろう。

 こんな広い場所で人目を気にせずいられるというのに。などと思っている自分だけど、実際ここに来るのも初めてであって。


「守谷、遅い」


 ご機嫌斜めな水原先輩が腕を組んで凄んでいる。

 威圧に押されて俺はゆっくりと扉を閉めた。


「……用はなんですか」


 水原先輩は凄むのを止めると近くに設置されたベンチに腰を下ろすと、隣をポンポンと叩く。


「まぁ、座りなよ」


 俺は聞き入れて隣に座る。若干距離は空けて。


「それって、お弁当?」

「えぇ、まぁ」


 手に持っていた布で包まれた弁当箱に気がつかれ、素っ気なく返事をした。


「ふーん。一人暮らしとか?」

「そうですけど……そんな事を聞くために俺を呼んだわけじゃないですよね」


 少しでも反抗する意思を示すために睨むが平然とした態度で持参していた購買のパンを袋から開けた。


「違うわよ。あ、お弁当食べながらでいいから答えてね」


 水原先輩に許可されたわけではないが、腹の虫から空腹である事を必要以上に知らされては気が散ってしまうのだから仕方がない。布を解いて弁当箱を広げた。


「聞きたい事ってのは卓也君の事よ。好きなタイプとかさ。何度も聞いてるんだけどいつもはぐらかされちゃうのよ」


 この問いは想定内。俺から聞きたい事はそれぐらいしかないからだ。


「嫌だって、言ったら?」

「別に、何も」


 と言われたが、写真がある以上信用出来ない。

 それに卓也の秘密を暴露ならまだしも、好み程度なら問題はないはずだ。

 だが前にも言った事があると思うが、あいつは二次元にしか興味がない。はぐらかされた理由もそれが関係していると友人である俺が断言しよう。

 しかしここで俺が本当の事を言ったとしてもこの人が納得するとは思えない。

 むしろそんな答えなど一蹴りされて写真を流される可能性あり。だから嘘は言わずにそれっぽく言う必要がある。


「それぐらい、別にいいですよ」


 続けて答えようとしたちょうどその時、閉めたはずの扉が勝手に開く。

 奥から現れたのは諸星先輩と宮本先輩の二人だった。


「ここにいたんだ舞」

「あ、奴隷君もいるよ」


 隣で一緒に昼食をとる俺にも当然気がつき、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。


「舞は何で奴隷君と一緒にいるの?」

「卓也君の事を聞いていただけよ」


 囲むような配置で座っている俺を見下ろし、さっさと話せと訴えているようにも見える。


「私も聞きたい聞きたい!」

「聞かせてくれるよね」


 宮本先輩があの画像をチラつかせてあからさまな脅迫。答えるつもりではあったが、こうまでされては嫌な気分になる。


「あいつは少し強気だけど、ちょっとした気配りが出来て、世話好きな子が好きみたいですよ。髪型は両側を縛った髪型が好きとも言ってました」

「へー、お姉さんみたいなのがタイプか」

「それでおさげがタイプかー」


 と、自己補完をしている。

 俺は嘘は一つも言っていない。卓也と言う人物がどういう人物か知っている者なら分かるが、典型的なツンデレツインテールです。


「ちょっと、それってツ――いや、やっぱり何でもない」


 水原先輩だけ何か言おうとしたが、すぐに顔をそらした。

 どうしましたか? と聞こうとしたがそれよりも先に諸星先輩の要求が飛ぶ。


「あー、のど乾いた。ちょっと飲み物買ってきてくれない?」


 スマホを軽く振ってお願いされては俺は何も言わずに引き受けるしかない。


「もちろん奴隷君のおごりだから。飲み物は紅茶ね」

「あ、私はカフェオレ。舞は?」

「あたしはいらない」


 それぞれの注文を聞いてすぐに一番近い自動販売機まで行って飲み物を買う。

 幸いにも知り合いに会わずに戻る事も出来た。

 買った飲み物を先輩達に渡す。勿論支払った分の金額が戻る事はなく、感謝の言葉すら送られず、ごくごくと勢いよく飲まれた。

 その後は何も命令はなく、先輩達が盛り上がっている横で予鈴が鳴るまで俺は静かに箸を進めていた。




「…………」

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