(他称)アニキと、(自称)姉貴の兄姉バトル1
音に反応して横を見ると藍色のセミロングに編み込みをした女性がいた。
普段は無表情なはずなのに、口元を両手で押さえて目に見えて狼狽ている。
「れ……れっちゃんに、アニキ? そんな! 嘘だよねれっちゃん! ねぇ! れっちゃん!!」
「取り乱しすぎじゃありませんか?」
今日は美鶴さんの出勤日だったか。
厄介だな。
「なんだ、守谷の姉貴なのか?」
「多少どころか微塵も血縁関係のない人です」
「そ、そうなのか」
「そこのあなた!」
ビシッと指をさす美鶴さん。
さされた本人は自分のことだと分からずに周りをキョロキョロと見渡す。
「見た目は明らかに不良に見えるけど、何故だか良い人という気がしてしょうがないそこのあなたに言ってるんですよ!」
「アニキ、呼ばれてます」
「今の俺のことなのか? それで、なんだ」
煩しそうにしているアニキに対し、美鶴さんは一歩も引かずに、興奮気味に問いただす。
「あなたれっちゃんのなんなの? れっちゃんに兄はいないはず」
「なんなのって、言われてもな……最近知り合った、それなりに仲が良い奴?」
俺とアニキの関係に頭を悩ませているが、美鶴さんにとってどれだけの関係かはどうでも良いようだ。
問題なのはもっと別のこと。
「じ、じゃあ……血縁関係もなければ、幼馴染みでもないのに『アニキ』って、呼ばせてるの? 頭おかしいよ!」
ブーメランって、知ってます?
「いや、俺が呼ばせてるわけじゃなくて、守谷が勝手に呼んでるんだけどな」
「な! れ、れっちゃんが自発的に、呼んでるですって……長い付き合いの私ですら『おねえちゃん』って呼ばれたことないのに」
「……あ、もしかして昔廉がお世話になってた人とかそういうのか? そうなんだろ? な?」
分かりますよアニキ。
目の前の現実を受け入れたくないときって、何度も尋ねたくなりますよね。
だから俺はちゃんと真実を伝えよう。
「今年知り合ったバイトの先輩です」
……あぁ、アニキが頭を抱えてしまった。
「れっちゃん! この人は誰なの!」
「えーっと、宮口飛鷹さんで色々相談に乗ってもらってるんです。アニキ、この人がバイトの先輩で百鳥美鶴さんです」
「姉の美鶴です!」
俺の紹介を訂正しないで。
それとアニキ、諦めた表情を浮かべないでください。
「飛鷹だ。よろしく」
「それで、どうやってアニキなんて呼ばせられるようになったの!? 教えて!」
「いやさっきも言ったが、守谷が勝手にだな」
「嘘よ! 何かしたんでしょ! 私がここまで苦労しても呼ばれないのに! お菓子でも買ってあげたの? ガチャガチャを何回も回させたの? それともちょっとお高い変身ベルトでもあげたの!?」
俺を何歳だと思ってるんですか!
「だから相談に乗っただけだ。そしたら何故か『アニキ』って呼ばれるようになっただけだ」
「そ、そん、な……」
膝から崩れた美鶴さんは、そのまま項垂れて動かなくなった。
これ以上は面倒なので、さっさと退店しよう。
「アニキもう本は決めましたか」
「あ、あぁ」
「じゃあ帰りましょうか」
「いや、だが」
動かない美鶴さんを心配しているようだ。
「大丈夫です。いつものことですから」
「ならいいんだが」
美鶴さんの横を通り過ぎ、レジに向かう。
「そうだ守谷。明日は時間あるか?」
「ありますけど、どうしました?」
「いや、海なんて久々だから水着がなくてな。それに用意しないといけないものだってあるだろうし、日もないから明日にでもまとめて買おうかと思ってな。よかったら明日一緒にユオンに行かないかと」
「それでしたら喜んで。あ、ついでに俺の友人も呼んでいいですか? そいつも来る予定なんで」
「たしか、三島だったか? 構わないが、俺を見てビビらないか?」
「大丈夫ですよ。卓也は人を見た目で判断するような奴じゃないですから」
さて、レジまでもう少し……というところで、俺の肩を誰かが掴む。
まぁ、この話を始めた時に「しまった」とは思っていたよ。
絶対に反応すると思ってたから。
「れっちゃん」
ゾンビのように蘇った美鶴さんの手に力が入るのを肩で感じる。
「れっちゃん。私に何か話したいことない?」
「いえありません」
「いやあると思うよ。今は夏だしさ」
「そうですね」
「じゃあ、やっぱり話すことが」
「いえありません」
「……最近特に暑いよね?」
「そうですね」
「そうだよね! つまりれっちゃんは私を誘う用事が」
「ありませんね」
「れっちゃーん!! 私も誘ってよー!!」
すがりつく美鶴さん。
そんな美鶴さんと俺を交互に見てはどうするべきかと悩んでいるアニキ。
「お、おい守谷。いくらなんでもかわいそうじゃないか? 誘ってやればいいだろ。それとも生徒会とは顔見知りじゃないのか?」
「面識はありますよ。なので誘うのは問題ないです」
「だったらなんで」
優しいアニキならきっとそういうと思ってましたよ。
でも事情を知ってるこっちからしてみれば、現在進行形で迷惑をこうむってるんですよ。
「美鶴さん、水原先輩から海に誘われてますよね?」
「もちろんだけど?」
「しかも俺が来ることも知ってますよね?」
「もちろんだけど?」
ここまでくると一応擁護していたアニキも目に見えて混乱し始める。
「ど、どういうことだ? すでに誘われてるのに、え?」
美鶴さんと初対面のアニキじゃあその反応も無理もないですよね。
でも被害者の俺は美鶴さんの考えが手にとるようにわかるんです。
まぁ、一応答え合わせも含めて尋ねるとするか。
「なら俺が誘う意味はないですよね?」
「いやれっちゃんからも誘われれば、私が知らないところで舞ちゃんと『おねえちゃんは私から誘っておくからね』『いや俺が誘っておくから任せて』『いやよ! 私がおねえちゃんを誘う! それで明日一緒に水着を買うんだから!』『俺だっておねえちゃんと一緒に買い物に行きたいんだよ』とか言って微笑ましい喧嘩をしている可能性が生まれるでしょ?」
「さ、帰りましょうかアニキ」
「そうだな」
「あれ? れっちゃーん? おねえちゃんまだ海に誘われて━━」
「みっちゃーん? お仕事せずに何してるのかなー?」
「あ、いやこれは」
俺とアニキは振り向きもせず、レジで会計を済ませて退店した。
後方で「れっちゃーーん!! 助けてーー!!」と聞こえた気がするが、きっと気のせいだ。
帰り際に拓也へメールを送信。
すぐに「OK」と返信がきたことで明日ユオンへ行くことが決まった。
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