強くて、男気溢れるアニキは俺のアニキ(尊敬)3
「……なんというか、その……卒業おめでとう」
「してませんから! ちゃんと死守しましたから!」
最初の数十分は隙間がなくなるほど強く抱きしめられ、首や髪の毛の匂いを嗅いだかと思えば、耳元に息を吹きかけて俺の反応を愉しむし、終始綾先輩は手の平を俺の上半身に這わせてた。
だがそれらが可愛く思えるほど強烈だったのは残り時間十分を切った付近だ。
小鳥が突くようなキスを顔に何度も何度もされた。
一応俺を好きにする条件の中には唇を奪わないという条件もあったらしく、ファーストキスだけはまぬがれた。
が、首や耳までそんなようなキスをされるものだから、男として色々な限界を迎えそうになるわけで。
正直よく耐えた俺。
最後に盛り上がった綾先輩が脱ぎ始めた時はもう諦めたね。
でもちょうどそのタイミングで時間切れになったことで、どこかで待機をしていた雫がゴツいチェーンカッターひっさげて突入。
恐ろしく早い手刀で気絶させたのだ。
その後はしばらく寝ていた綾先輩だったが、恐ろしいことにその時のやりとりを夢として記憶しているようで、一部記憶が欠落していたとか。
今思い出すだけでも頭痛がひどい。
「で、話しましたけど、なんとかなりそうですか?」
「なるわけないだろ」
当然の回答だ。
だけどこうもはっきり言われると傷つくというかなんというか。
「何にせよ、海で一人でいるのは避けて、男と一緒に行動した方がいいな。万が一にも一人になったら早歩きでライフセーバーや海の家の前に行くようにな」
「完全にアドバイスの内容が女子がするナンパ防止対策。でもそれが一番の手ですね」
「なんにせよ、俺も気を配っておくから当日は楽しめ」
「ありがとうございます。でもアニキも楽しんでくださいよ?」
「わかったわかった。それじゃあ、長居も店に悪いし、そろそろ出るか」
席を立ち、会計を済ませた俺とアニキ。
「この後どうします?」
スマホで時間を確認しながらそう尋ねる。
「本でも買いに行こうかと思ってたが」
「あ、なら俺が働いてる店に行きますか?」
「そういえば、書店で働いてるんだったな。少し興味があるし、そこにするか」
「少し距離があるんで、バスを使うことになるんですけど」
「それぐらい構わん」
とのことなので、バスを使って店の近くまで移動する。
運良く席が空いていたので俺とアニキで隣同士に座った。
「アニキって、あの側近の人とはどういう風に知り合ったんですか?」
「側近? ……あ━━アツヤのことか? 俺もよくわからんが、俺が人助けする姿に痺れたとか言ってたな」
「もしかして、あの人が舎弟一号ですか?」
「舎弟にしたつもりはないんだが、まぁ『アニキ』と呼ばれてるしな。一応俺を慕う奴は弟みたいなもんだと思ってる」
「へー……あ、それじゃあ、俺もアニキの弟みたいなもんですか?」
「まぁ、そうなるな……ん?」
とあるバス停にバスが止まると、腰の曲がった白髪の
お婆さんが杖をつきながら乗車する。
アニキはそのお婆さんから目が離せないようだ。
お婆さんは立ってるのが辛いのか、席を探すがどこも空いていない。
近くで座っている人は全員がそのことに気づいているはずなのに、誰かが席をかわろうとする気配はない。
「守谷、席を頼む」
そんな中アニキはスッと立ち上がり、そのお婆さんの元へ近づき声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「え、えぇ! 大丈夫です」
気を使わせないようにそう言っているが、見るからに辛そうなお婆さんをアニキが放っておけるはずもない。
「よかったら俺の席を使ってください」
「いいんですか?」
「えぇ、どうぞ」
「そ、それじゃあ、お言葉に甘えて」
アニキが席へ連れて行こうとしたその時だ。
おばあさんと同じタイミングで入ってきた、いかにもチャラついたお兄さんがアニキの席に我が物顔で座った。
「あの、その席俺の知り合いが使ってるんですけど」
と、席から立ち上がるように促すが、そいつは不機嫌に俺を睨みつける。
「あぁっ? 誰も座ってなかっただろ? 俺も疲れてんだよ。あ、それと五つ目のバス停に着いたら起こして。俺は寝るから」
「は? いやちょっと!」
「んじゃ、よろしく〜」
身勝手な振る舞いをされ正直かなりイラついた。
そもそも五つ目って、俺達その前に降りるんだけど。
「起きてください!」
身を揺すっても、鬱陶しそうに手を振りほどかれる。
どうしたものかと考えていると、この光景を一部始終見ていたアニキの瞳に鬼が宿った。
アニキが近づくと、チャラ男を鋭い目で見下ろす。
「おい」
「んだよ。さっきから」
目を開けてアニキを見上げると、チャラ男の体が凍る。
「そこは俺が使ってた席だ。見るからにお前健康そうに見えるが」
「い、いや、そのー。じ、実は足を怪我してて、立ってるのも辛いんですよー」
嘘つけ。
さっきステップ交じりにその席に座っただろうが。
「そんな嘘までついて席に座りたいのか?」
その質問に答えられないほど萎縮したチャラ男はマナーモードみたく震え出す。
「なら……その嘘を現実にしてやろうか?」
「ひぃっ! ご、ごめんなさい! 席を譲ります!」
脱兎の如く席を離れ、俺とアニキから距離をとる。
「どうぞ」
アニキは空いた席にお婆さんを座らせると、お婆さんは頭を下げた。
「ありがとうございます。私なんかのために」
「気にしないでください。元気のある奴が立てばいいんですから」
「お兄さんもありがとうございます」
「いえ俺は何も」
「そんなことないぞ。お前もこの人のためにあいつをどかそうとしてくれただろ」
なぜか俺までおばあさんに褒められ、さらにはアニキからも褒められた。
気恥ずかしさで目が合わせられず、窓の外を眺める。
それから十数分バスに揺られ最寄りのバス停に到着。
そこからは店まで歩いて移動。
「ここが俺がアルバイトしてる本屋です」
「ここがそうか」
到着してすぐに店の中に入る。
「お! れっちゃんじゃん! 今日はどうしたの? 漫画の新刊発売日じゃないはずだけど」
「この人が本を買いたいらしいので、だったらこの店でと」
「そうなんだ。それはありがたい。れっちゃんの紹介で来たなら今日は店員割引で売ってあげる」
「いえ、そこまでしてもらうわけには」
アニキは遠慮しようとするが、滝本さんは曲げようとはしない。
「いいのいいの。あ、買うときになったら私を呼んでね」
そう言って滝本さんは業務に戻った。
「……守谷の周りは、いい人ばかりだな」
「はい、俺にはもったいないくらいです。じゃ、本を探しますか。それで、どんな本を探してるんですか?」
「手芸の本だ。下の妹の誕生日が近くてな。小さなぬいぐるみでも作ってやろうかと思ってな」
アニキが手芸か……不思議とやってる姿に違和感がない。
「ならこっちですね」
店内を把握している俺が案内し、手芸のコーナーに連れていく。
コーナーにはちょうどよくぬいぐるみに関する手芸の本が並んでいた。
「思っていたよりも色々あるんだな。どれを買えばいいのか」
「これなんかどうです? 付属に布がついてるみたいですけど」
本を勧めるが、アニキは顔をしかめる。
「うーん、布があるのは助かるんだが、千佳が好きそうな柄ではないな」
パラパラと本をめくって内容を確認し始めた。
表情を見る限り、納得した様子ではない。
「ちょっとデザインが思ってるのと違うな」
「そうですか。あ、ならこの本はどうですか?」
新しい本を勧めると、その本も内容を確認する。
さっきとは違って満足そうな顔を浮かべた。
「お、これは良さそうだな。まぁ心配なのは、俺の手作りで千佳が喜んでくれるかだが」
「大丈夫ですって、きっと喜んでくれますよアニキ」
「え……」
俺とアニキが話している横でバサバサッと本が落ちる。
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