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お嬢様で、優しい副会長は女王さま(疑問)2

「礼」


 学級委員の号令に続いてありがとうございましたと言いながら頭を下げる。


「守谷、この後は生徒会に来いよ」


 松本先生から念押しをされ、すぐに生徒会室に向かった。

 生徒会室の扉を開けるとすでに綾先輩と姫華先輩が待っている。


「今朝ぶりだな廉君」


 スッと両手を広げて俺に近づいてくる綾先輩。俺は防衛本能で後ろへと下がった。


「何故後ろに下がる?」

「何で両手を広げてるんですか?」

「もちろん。ハグするためだが?」

「させると思ってるんですか?」


 あからさまに大きくため息を吐いているが、何であなたがヤレヤレみたいな態度出来るんですか。


「廉君、君はおそらく勘違いをしている」

「勘違い?」


 綾先輩が自分の欲望のままに行動をしているのは勘違いではないと思うんですけど。


「これは生徒会なりの挨拶だ」


 そう言って近くで立っていた姫華先輩をぎゅっと抱きしめる。

 姫華先輩も受け入れて綾先輩を抱きしめた。

 その動きに不自然さはなく、すぐに離れて俺の方に向き直る。


「グローバル化が進む中、私達も海外の文化を取り入れ、かつ親睦が深まるようにと、こうしてハグをしているんだ。君が思っているほど下心があるわけではない!」


 綾先輩の言い分に俺は何も言えない。

 てっきり綾先輩がしたいからしてくるのかと思えば、蓋を開ければちゃんとした理由があった。

 欲望のままに動いていると思っていた自分が恥ずかしい。


「すいません。そんな理由とは知らずに」

「別に気にしなくていい。ただ、君は生徒会の一員だ。私と親睦を深めてくれないか?」


 気恥ずかしさもあったが、俺は無言で頷く。


「そうか。ありがとう」


 綾先輩の手が俺の背中に回った。

 隙間がなくなるほど強く抱きしめられ、綾先輩の温くて柔っこい部分が押しつぶされる。

 挨拶とは言え、これは恥ずかしい。


「遅くなってごめんなさい。先生にちょっと頼まれちゃーーって何やってるの!?」


 声からして雫だろうか。入ってすぐに大声を上げてどうしたのだろう。


「どうしたんだ雫?」

「え、どうしたって、え、え?」


 混乱しているのが声からして分かる。しかし、どうしてそんなリアクションを。


「……何で、抱き合ってるの?」


 後から来た小野寺先輩が不思議そうな声色で尋ねてきた。

 それには俺もクエスチョンマークが浮かぶ。


「え、海外の文化を取り入れて挨拶はハグするんじゃ……」

「するわけないよ!」

「……親睦を深めるため」

「元々私達……生徒会に入る前から、知り合い……」


 整理すると、このハグに何の意味はないと。


「あぁ……廉君の匂い。何ていい香りなんだ」


 荒い息遣いが嫌でも聞こえてくる。そして息が吐かれるたびにそれが耳元にかかった。


「離してください!」

「ふふ、こんな至福の時を私が離すわけないだろ!」


 くっそ、嵌められた!

 少し自分の考えを改めようかと思った俺が馬鹿だったよ!


「綾ちゃん離しなさい!」


 雫が割って入り、何とか解放された。

 今度からは綾先輩の言葉をむやみやたらと真に受けないようにしよう。


「仲がいいのですね」


 俺達のやり取りを姫華先輩がニコニコと笑って見ている。

 と言うか、この人も協力していたよな。


「姫華先輩も協力してましたよね」

「……あらー」


 小首を傾げ頬に手を添える姫華先輩。可愛らしくは思うが、だからと言って恨んでいないわけではない。


「何だ、騒がしいぞ」


 一番最後の松本先生が眉をひそめながらの登場。

 現状を見てため息を吐きながらこう言った。


「綾が暴走したのか」


 はいその通りです。だからガツンと何か言ってくださいお願いします。


「後で何処かの部屋開けておくからそこで好き放題してくれ」

「うむ。了解した!」

「松本先生ー!」

「冗談だ」


 冗談には言っていいものと言っちゃいけないものがあります。そして、間違いなく先生の発言は後者である。何故なら綾先輩が舐め回すように頭から足先まで俺を見て、更に興奮しているから。

 すぐに逃げられるように俺は通路を確保するため扉側に寄った。


「所で松本先生。今日は何をするのですか?」

「それはだな。こいつの事を改めて話そうかとな」


 俺を指さして姫華先輩の問いにそう答える。


「そもそも生徒会は去年からいる綾、姫華、小毬だけでも十分に回っていた。そして今年は雫も加わって他に生徒会役員を増やす必要なんてなかった。まぁ、簡単に言うと……こいつの仕事をどうしようか」


 つまり、俺はする仕事がないと。流石にそれは気が引ける。


「私の仕事……手伝わせる?」


 小首を傾げて小さく手を上げながら答えた小野寺先輩。しかし松本先生は唸っている。


「……試すか」


 そう言って紙の束と真っ白な紙を俺と小野寺先輩に渡す。

 紙にはパソコンで打たれた文字がずらりと並んでいる。そんな紙の集合体が厚さにして2センチの束になっていると思うと、すでにげんなり。


「今から三十分間。可能な限り見本の紙を書き写してもらう。じゃ、始め」


 慌てて近くの椅子に座り、文字を見ながら書き写していく。

 とにかく一枚当たりの文字数が多すぎる。さらに文字も簡単な漢字やひらがなだけでなく、かなり複雑で密な漢字を使われているという鬼畜仕様。それらに加えて線すらない真っ白な紙のせいで字の大きさが変わったり、大きく傾いたり、字の間隔がつかめない。

 四苦八苦は当然。経験した事のないほどに酷使された右腕は力が入らなくなり。だんだん、自分が何を書いているのか分からなくなる始末。

 ただただ、終了の合図を待った。


「やめ!」


 終わりが訪れた事に思わず歓喜してしまい、シャーペンを投げる。

 しかし、我ながら三十分と限られた時間内で三分の一の量をこなす事が出来たのだから十分に書記の手伝いをする事が出来るだろう。


「守谷、書いた紙見せろ」

「はい! どうぞ」


 俺は自信満々に松本先生に渡す。それを受け取った先生はパラパラとめくって眉間に皺を寄せ、後ろで覗く雫は苦笑していた。


「ぜんっぜん、出来てないな」


 まさかのダメ出し。


「な、何か問題でも……」

「書いた量が少なすぎる。字の大きさが滅茶苦茶。字が傾きまくってる。誤字脱字が多すぎる。一枚当たり三カ所はあるって正気か? あと漢字間違ってるぞ。写すだけなんだから漢字ぐらい間違えるな。最後に字が汚い」


 全て俺の心を抉ったけど、特に字が汚いがグサッと来た。

 と言うか、これぐらいの字の大きさや傾きは普通でしょ。字だって言葉にするほど汚くはないはずだ……多分!


「少ないって、たった三十分でどれだけ書き上げればいいんですか? 全部は無理ですよ……」

「小野寺は十分前に終わってたぞ。そこにあるから見してもらえ」


 嘘でしょと思いながら小野寺先輩が書いた紙を探す。が、どこにも見当たらない。


「どこにあるんですか?」

「何言ってるんだ、小野寺の前にあるだろ」


 いや確かに紙の束が二つあるけど、どっちも印刷した物――ん? 何で小野寺先輩の前に見本が二束あるんだ? 

 よく目を凝らしてみると、一方は確かにインク特有の質感で文字が移されている。しかし、もう一方は黒鉛で書いたような跡が残っていた。

 まさかと思い黒鉛の方を手に取って凝視。


「……嘘でしょ」


 語尾が消えてしまいそうなほど声がかすれてしまう。模写と言いたくなるほど緻密に書かれた紙に俺は膝を付いた。


「これじゃあ訂正するだけで時間がかかりそうね。廉には別の仕事をしてもらった方がいいんじゃないかしら」


 悪気はないと思うが、雫の言葉が一番キツイ。


「じ、じゃあ、雫の仕事を手伝わせてくれないか。予算とかは分からないけど、単純な計算なら何とかーー」

「最低でも5桁の掛け算割り算が暗算で出来るならいいわよ」

「すいません何でもありません」


 もう次元が違い過ぎる。


「うーん、困ったな。姫華の仕事もあるが、会長の綾の補佐役だからな。そもそも今の守谷を見てる限り手伝う事自体無理だろうな」


 本当の事だけどもう少しオブラートに包んでほしい。


「……なら雑用関係任せたらどう? お茶を汲んだり、足りなくなった消耗品を買いに行ってもらったり。後は私達のちょっとした頼みを聞いてもらうの」


 雫の提案に皆頷く。

 でも知ってるか雫。そう言う人の事なんていうか。

 パシリって言うんだぜ。


「それはつまり、抱きしめてくれと言えば抱きしめてくれるんだな!」

「んなわけないでしょうが」


 綾先輩が予想通りの解釈をしたのでテンション低めでツッコム。


「もちろん、さっきみたいに度が過ぎた頼みは廉が断ってもいいから」


 当たり前です。そうしてもらわないと俺が食われる。


「じゃあ、庶務の廉の仕事はこれからはパシリ役って事で」


 おい、そこの教師。何でオブラートを剥がした。


「この後はどうするの?」

「特に急ぐ仕事、ない」

「綾ちゃん、どうするの?」


 腕を組んで悩む綾先輩は俺を横目で見た。


「廉君はどうすればいいと思う?」

「え、俺ですか!?」


 新参者の俺に意見を求めてくるとは思わなかった。皆の視線が一気に集まる。


「俺入ったばかりだし、意見を出すなんて」

「何を言ってるんだ。私は今まさに君を頼ってるんだぞ」


 俺は最初何を言っているのか分からなかった。しかし、すぐに綾先輩の言葉の意図を理解した。

 今綾先輩は俺に頼んでいるんだ。生徒会庶務としての最初の仕事を。

 そして他のメンバーもそれを理解しているらしく、俺の答えを待っている。

 なら俺がここで意見を出さないなんて御門違いも甚だしい。


「えっと、それなら部活の様子を見に行くなんてどうですか? 実際に生徒達の頑張りをこの目で見ないと分からない事もあると思うので」


 綾先輩は生徒会長らしく凛として微笑む。


「良い案だ。確かに私達は彼らの成績は知っている。そしてそれは予算の振り分けに反映しているが、成績はなくとも私達の見えない所で血の滲む努力をしている生徒達は大勢いるはずだ」

「そうね。努力している人が報われないなんて嫌だものね」

「成績は、大事……でも、努力は、もっと大事」

「そうだな。私も仕事を始めてから思うよ。学校にとっては成績が大事。だが、努力した事は一生役に立つ。だからこそ、部活動に対する努力はかけがえのないものだって」

「会議ばかりしてた私達には気づかなかったわね。ナイスな意見よ、廉」


 ここまで俺の意見に賛同してくれるなんて。本当に俺はこの人達と同じ生徒会のメンバーだと実感した。そして賛同してくれた事が単純に嬉しかった。


「では早速視察に行くとしよう」

「あ、私はこの後作業があるからあんた達で行きな」


 松本先生はここで生徒会室を後にし、続くように俺達生徒会も視察をするため生徒会室を出た。

 膨大な部活数を持つ白蘭学園。今日だけでは回れる事は不可能な事から今日は四つほど回る事に。まず始めにと、柔道場に赴く。

 外からでも聞こえるほど生徒達の雄叫びと畳に叩きつけられる音。

 入る前から俺は萎縮してしまった。


「ほら、シャキッとする!」


 俺の心情を読み取ったのか、俺の背中を平手打ちする雫。そのおかげで体の緊張はほぐれた。


「さ、入るぞ」


 綾先輩が俺達にそう声をかけるとすぐに扉を開く。


「失礼する!」


 綾先輩の声が武道場内に響き渡ると練習中の柔道部員達が一斉に動きを止めた。


「これはこれは生徒会長殿」


 一際ガタイの良い男子生徒が俺達の前に立つ。確か彼は主将の山本岩哲がんてつ先輩。


「今日はどのような要件でここに?」

「お邪魔でなければ少しばかり見学をしたいのですが」


 やはり目上にはしっかりと敬語を使う綾先輩。一方の山本先輩はその頼みを快く聞き入れた。


「いいですよ。どうぞ中へ」


 柔道場に招き入れられた俺達は目の前で行われる活動風景に目を奪われる。

 何度も投げ飛ばされる部員達。しかし、何度も立ち上がり相手の襟をつかむ。

 柔道部は成績を数多く残す部活だが、実際にこうして目にするとどれだけ苦労してその成績を残しているのか伝わってくる。実際は俺達が思っている以上の苦労をしているんだろうけど。


「流石柔道部。活気がありますね」

「生徒会長殿にそう言ってもらえると皆の士気が上がります」


 山本先輩は大きく口を開けながら笑い声をあげた。

 男と言うより漢と表記した方が正しいぐらいに豪快な人物のようだ。


「所で、そこにいる男子生徒が噂の庶務君ですかな?」

「ええ、そうです」


 話題は俺へと変わり、俺は山本先輩に挨拶をする。


「守谷廉です」

「山本岩哲だ」


 熱い握手を交わす。勢い余ったせいなのか、かなり強く握られ若干痛い。


「では、山本先輩。これで失礼します」

「ん? もうですか? 折角ですからもう少しだけでも」

「いえ、時間もありますから」

「いいじゃない綾ちゃん。もう少しぐらい」


 もう十分見学したのに姫華先輩が俺達を引き留めた。


「廉君、ちょっと受けてみたらどうかしら?」

「……へ?」


 この人は突然何を言い出すんだ。


「それはいい! さぁ、庶務君。柔道着に着替えようではないか!」


 邪気のない笑顔の主将。

 や、やばい。俺の本能がこの展開はまずいと言っている。


「い、いやーそうしたいのはやまやまなんですが、中学の授業以来で柔道着の着方を忘れちゃったんで遠慮しておきます」


 自分ながら苦し紛れにもほどがあるいいわけだな。

 だが断りを入れたはずなのに山本先輩は肩に手を置いて二カッと歯を見せて笑った。


「授業でやった事があるなら受け身は取れるな! 着替えは安心しろ! 我が部員達が着替えを手伝ってやろう!」


 いつの間にか俺の背後に数人の部員達が回っている事に気がつくがすでに遅い。

 女子の目の前で制服を脱がされ、あっという間に柔道着を着せられた。


「さぁ! いくぞ!」


 気合満々の山本先輩。俺は未だに俺の身に起こった事の整理がついていないのに、襟を掴み勢いよく一本背負いをした。

 景色がぐるりと一回転したかと思えばいつの間に畳に叩きつけられている。

 やはり主将だけの事はあり、投げ方が上手く、痛みはそこまでない。


「さぁ、次々いくぞ!」


 この後俺は数種類の方法で投げられる事になった。

読んでいただきありがとうございます。

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