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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第56話 天ぷら料理人と、イヴ皇女様 Ⅱ

 第56話 天ぷら料理人と、イヴ皇女様 Ⅱ


 視点:凪紗南イヴ

 場所:クイーン王国 イクサの森

 日時:2033年 4月4日 午後 5時48分



 少し、失敗したが、仕切り直し。

 深淵の刀を構えて、予を叩き飛ばしたパワーヘイトベアに向き直る。獲物が弱っていないのが気に入らないと喉を鳴らすパワーヘイドベアに予はびびったりしない。

 何故ならば――――


 イヴ「ただの大きな熊さんの攻撃が未来お姉様のお尻ペンペンよりも強烈なわけないのだ」


 メイシェ「ええー、マジで。未来様って凜々しいイメージがあるんだけど……レイ様?」


 レイお兄様はメイシェの事を知っているようで、直ぐさま、メイシェの言葉を否定する。


 レイ「自分の姪に対しては厳しくも、優しい方だ」


 メイシェ「イメージに合わない。孤高の武士、厳格な軍将みたいなイメージがあるんですけど……」


 セリカ「未来天皇代理様はイヴちゃんから鬼未来って呼ばれていますわ。お父様から聞いております。伝説の料理人 ナリス・ブランの娘さんですね。何でも昔、お父様がお世話になったとか、その節はどうもですわ」


 セリカがメイシェに向けて言葉を紡ぎながら、冷厳なる雪月花槍を一回転させた後、ソニックバードに向かって跳躍する。


 セリカ「ふっ!」


 身体を中空で反らせた。

 身体を自然体に戻す筋肉のバネと共に冷厳なる雪月花槍を振り回して、ソニックバードの細い首を切り落とす。

 あまりの勢いの為、隙が生じる。その隙とは着地する際に地面にしゃがむ形になってしまい、冷厳なる雪月花槍を瞬時に構えられないことだ。

 それを察したスモールゴブリン 2匹がセリカを目指して殺到する。しかし、予はパワーヘイドベアと対峙しているので、セリカをフォローできない。


 イヴ「真央、ナイス!」


 真央「当たり前よ。ゴブリンは人間並みに狡猾だから動きが解りやすいのよ。喰らえ――――」


 セリカの背後から、腰を落として拳に力を込めていた真央が竜族特有の恵まれた身体能力に任せた突進をする。勿論、目指すはスモールゴブリン 2匹である。

 アイアンソードで真央の頭部をかち割ろうと画策するが、真央の方が一手どころか、三手くらい素早い。

 一匹目は、


 真央「――――爆裂突き。こっちには――――」


 開かれた拳から繰り出された強烈な突き 爆裂突きが腹部に貫通した。スモールゴブリンは真央の突きが自分の腹部に刺さっている状況を見て、生きることを諦めたように……アイアンソードをゆっくりと手放した。

 虚しく、アイアンソードは地面に落ちて鈍い音を上げる。

 同時に二匹目は、


 真央「――――ロッククロー。これにて――――」


 イデアワードに応じて、砂の礫が真央の爪先に集まり、それは凶器の五本指と化す。その凶器は直ぐさま、もう一匹のスモールゴブリンの心臓を貫いた。真央を上段の構えで捉えようとしていたから、スモールゴブリンの身体はガラ空きだった。

 それを反省した処でスモールゴブリンが再戦のチャンスを得ることはできないだろう……。もう、息絶えているのだから。


 真央「――――経験値となりました、とさ。上から来るわよ、セリカ!」


 セリカ「はい、解っていますわ。ウィンドハンマー!」


 急降下して、鋭い嘴でセリカを仕留めようとしていたソニックバードに対して、風で構築されたハンマーが振り下ろされる。自身の翼による落下とハンマーによる強制落下が合わさって抵抗する暇も無く、ソニックバードは地面に頭から突っ込んだ。

 暴れることもなく、頭部が地面にめり込み、そのまま、息絶える。


 真央とセリカの見事なコンビネーションを見た予は自分も後に続かなければ! と右足で地面を力強く蹴る。


 イヴ「凪紗南流 猛虎連撃殺」


 堅いパワーヘイドベアの筋肉を力では遙かに劣る自分では貫くのは難しい。ならば、と目には止まらない7つの斬撃で対応する。

 その7つの斬撃は容赦なく、頭、首、右胸、左胸、右胸と左胸の中央、腹部、股間に降り注いだ。あまりの速さにこの技の性質を理解していなければ――――


 メイシェ「同時の斬撃……。凪紗南流……。弱いイヴ様でもここまでの強者に仕上げるなんて、まさに修羅の剣」


 ――――というふうな見解になるだろう。


 この技は強力であるのだが、極端に予の体力を削る。1度、放っただけで息が上がる。思わず、その場に膝を折った。

 深淵の刀を鞘に収めて、軽く咳き込む。


 視界に留めていた茶色の地面に大きな影ができる。

 まずい、もう一匹いた。


 咄嗟に予は心理詠唱式のみの竜族特有の魔法 竜魔法を唱える。

 サンダードラゴンブレス。

 振り向いて、相手の姿を認識する前に予の口から、竜の稲妻が放たれる。予の股間部にした真央の口づけ(竜の祝福と呼ばれる儀式行為)により、手にした竜魔法。生涯1度の竜の婚約の証により、手にした力はパワーヘイドベアを吹き飛ばし、頭部を炭焼きにした。


 メイシェ「竜魔法! あっ、真央様と竜の祝福……」


 真央「べ、別にイヴが好きだからしたんじゃないんだからね! 王族の義務よ。義務、義務」


 顔を真っ赤にして真央が抗議する。

 予は知っている。真央の本当の気持ちを。


 今も嬉しそうに尻尾がふりふりと勢いよく、動いている通り、竜の祝福は本当に心から祝福する相手を愛していないと発動しない。

 つまりは真央がどんなにツンデレしても、その気持ちは周囲にバレバレなのだ。


 それを解ってます解ってますと言うかのようにセリカが真央の頭を撫でる。


 セリカ「まぁ、真央ちゃん、ツンデレ。デレデレですわ。撫で撫で」


 真央「そこ、頭を撫でるなぁ!」


 いやいや、と頭を真央は振る。

 しかし、セリカは止めない。

 本当に嫌がってはいないと知っているからだ。予達はそれが解るくらい、長い付き合いだ。


 レイ「若いと良いな。さて、俺も貢献するか、危険種動物退治に」


 丁度、ワイルドウィングが一列になりそうなのを確認して、レイお兄様は走り出して、伸縮の杖を地面に突きつける。

 その勢いを利用して、中空に舞う。

 完全にワイルドウィングが一列になった処をレイお兄様の強力な伸縮の杖の一撃がヒットした。

 ワイルドウィングの頭部は陥没して、脳を損傷した為に落下した。


 レイ「まぁ、ざっと、こんなもんか……まぐれだったが。運も実力のうちか」


<危険種動物の群れを倒した>

<凪紗南イヴはLevel 14に上がりました>

<北庄真央はLevel 25に上がりました>

<セリカ・シーリングはLevel 19 に上がりました>

<レイ・リクはLevel 42に上がりました>


 メイシェ「竜の祝福。ということは……イヴ様は経験者ですか?」


 イヴ「なんの?」


 メイシェ「えーと、えーと、イヴ様、エッチは20歳になってからです!」


 人を外見で判断するのはいけないのだが……コギャル風の小麦色竜族っ子に言われるとは思わなかった……。

 何も言い返せず、ただ、固まる。エッチ? してないのだ。エッチってどのLevelがエッチなのだろうとしばし、思案する。


 真央「し、してねぇーし。あたしはイヴとは舐め合いだけよ!」


 セリカ「そうですわ。真央ちゃんとイヴちゃんとアイシャちゃんとわたくしの4人で舐め合いですわ」


 レイ「身内の性事情を聴くのは恥ずかしいものがあるな」


 イヴ「ん? 何処がエッチなのだ? 舐め合いは婚約者同士だけに許された敬愛を示す方法だとリイーシャから習ったのだ」


 メイシェ「なんか、違う。なんか、健全な百合ハーレムに聞こえる……」


 真央「そう、健全。健全なんだからね。今は結婚資金を貯める段階よ! 産まれてくる子どもにあたしは貧乏な思いをさせたくないわ。人生は計画的に生きるのが一番よ」


 セリカ「真央ちゃん……いい加減に気づいた方がいいですわ」


 メイシェ「北庄の王族って日本の皇族やクイーン王国の王族に次ぐ資産家……ですよね、真央様」


 さすが、竜族のメイシェ・ブラン。

 全ての竜族のルーツの地 北庄を治める王族がどの位置にあるか? 知っていたようだ。尤も、異世界 リンテリアでは常識だ。真央以外……。

 幾ら、予達が北庄の王族は主に武器関連で利益を上げていると言っても……真央は否定する。


 真央「嘘でしょ、それ。うちは貧困者が出るくらい、貧乏な国なのよ。イヴを通して、子猫のしっぽっていう国際的なボランティア団体に助けてもらってるんだから。いくら、パパでもそんなお金があれば、民を救済するに決まっている。腐った根性の持ち主だけど、それくらいは……きっと」


 そうであって欲しいと願うように言う真央にメイシェは口を閉ざす。

 竜族の国 北庄の現王 北庄源は自分と自分に従う高官にだけ贅沢な暮らしをして、民にその利益を分配しない独裁者だ。


 その事実を娘である真央は知らない。

 ただ、娘が望まれている役割は予と結婚して、北庄に従う者だけを繁栄させることだ。


 勿論、予も、真央も、そんな幅の狭い繁栄を認めない。

 いずれ、予は強引にでも、真央に真実を理解させて、王座に就かせるつもりだ。例え、内政干渉と言われても。

 それが優しい世界構築の一部を担うのならば。


 メイシェ「ナナクサ村の方角に……。みんなが、村のみんなが。母が。父が……そんな」


 震える唇からメイシェが言葉を紡ぎ出す。何故、そんなに震えているのか……予がメイシェの指差した方角を眺めると、そこには赤い狼煙が天高く、上がっていた。

 確かに、あの位置はナナクサ村。


 るーちゃん「黄色い狼煙はLevel C、なるべく屋内に留まること。赤い狼煙は……Level B。危険種動物の氾濫が人の集落に近づいていることを示している。おそらく、目視できる位置にあるじゃ」


 魔剣のるーちゃんが予にそう、深刻な状況を説明してくれた。


 イヴ「レイお兄様」


 レイ「……お前達だけで盗賊王の下には行かせない」


 イヴ「レイお兄様、予達、王族は民の為に在るのだ。玉座に座って豊かな生活だけをしている無能者には勤まらん。命令です」


 レイ「ふざけるな。妹君を危険な目に」


 イヴ「いずれ、予は必ず、華井恵里と決着をつけなければならない。そのリハーサルなのだ」


 予がお母様と約束した優しい世界を築く理念とは真っ向から対立したテロ活動を行う華井恵里……予のまだ見ぬ妹のお母様との闘いは避けられない。

 極論を言えば、予にとって華井恵里とはラスボスなのだ。

 ラスボスに勝つには膨大な経験値が必要だ。そう言った意味を込めた言葉はレイお兄様に正しく伝わり、レイお兄様は渋々、頷く。


 レイ「メイシェ! 急いでナナクサ村に戻るぞ。皆と協力すれば」


 メイシェ「皇女様が!」


 と、メイシェが躊躇するが、予は首を横に振った。


 イヴ「ルルリ 1人を助けることすらできない皇女に世界を変えることはできないのだ。これは予の試練。行け、メイシェ。救うのだ、自分の村を。産まれ故郷を。両親を」


 メイシェ「イヴ様……」


 イヴ「予には幼すぎて、両親を救えなかったのだ。メイシェは間に合うのだ」


 メイシェ「はい。レイ様、危険種動物や盗賊は無視して進みます。イヴ様、美味しい天ぷらを用意してお帰りをお待ちします」


 そう言って、メイシェはレイお兄様とナナクサ村を救うべく、イクサの森から出る道を歩む。


 予はセリカ、真央の顔を見て、少し、思案した後……言葉を紡ぐ。


 イヴ「引き返すのならば――――」


 真央「嫌よ」


 セリカ「嫌ですわ」


 真央「ここまで来れば、一蓮托生よ」


 セリカ「わたくしと真央ちゃんはイヴちゃんと一緒に、一蓮托生だって出逢った時から決めてましたわ。それが好きってことですわ」


 イヴ「では、好いている者同士、同じ道を行くのだ」






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