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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第50話 ファクトリー

 第50話 ファクトリー


 視点:雨雲英

 場所:地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市

 日時:2033年 4月4日 午後 5時00分



 第三次世界大戦の最中、核により、放射能汚染が世界に蔓延し、人間は地上に住めなくなった。人々は日本の偉大なる建築家  流士優ながし ゆうがデザインした地下都市へと移住した。

 それから用済みになった人間が住まなくなれば、廃墟の街は敵兵の隠れ蓑に利用されることを恐れて、多くの国が自分の揺りかごであった数多くの街をあらゆる軍事オプションで徹底的に破壊し、更地にした。

 そう、しなければならない程の3回目の人間の大戦は厳しく、歴史上一番……愚かな行為だった。


 僕の世代 30代から、第三次世界大戦の記憶をはっきりと覚えていることでしょう。今でも夜、眠る時……ふと、規則正しい人間ではあり得ない足音が聞こえてきます。

 昔、親友の春明や病床にあった妹分の未来を暗殺しに皇居に入ってきた人間タイプの機械兵を思い出して、咄嗟に一緒に眠っていた妻と娘を護るべく、刀を構えることがあります。

 神経が闘いへと完全シフトした瞬間、音が聞こえてこない。あれは幻だったのだと気が付く。

 妻のベルや娘のららは何してんの? と不思議な顔をしているので、僕はよく、イヴ様を護る為にちょっと、剣を振るうって来ると言い訳に使う。

 そんな戦争の傷跡を誰もが意識、無意識と限らずに胸に抱いている。


 ハンドルを握りしめるのを右手に任せて、左手ではリズムを取る。娘のららがベンツタイプの飛行車内で歌を唄っている。その歌のリズムに合わせているのです。

 第3次世界大戦の影響で更地になっていた土地は僅か、十年程で緑の中に凪紗南天皇家に関わる施設やそれを支える商いをしている店等が見える。

 凪紗南市、ここは皇族の為に在ると言っても過言ではない。


 目の前には、スカイツリーが建っている。唯一、日本の旧東京がここに在ったんだという証の為に僕の親友 凪紗南春明(当時は皇子)の願いで残された建物だ。今では、空から凪紗南天皇家の最大機密情報を手に入れようと飛行するドローン等の飛行物体や地上の不審者を監視する塔の役割を担っている。勿論、これだけがスカイツリーの丁度、横に在る真っ白い円形箱のような巨大な施設 ファクトリーの防衛機能では無く、芝生のみに見える場所の下にはびっくり箱のように開くミサイル発射台がファクトリーを囲むように数百台、存在している。そこで使われるミサイルは非常に強力な日本の軍事企業 エンブレムの対空ミサイル JMー2908だ。機械の発する熱を感知するので例え、自動式の戦闘機では表向き一番優秀な米国のシャークでも100%の確率で破壊できる。日本の企業は大変、手先が器用だ。

 その企業全てが力を合わせて、皇族の機密を護るべく、建造された無敵の盾 獅子王の盾と呼ばれる巨大な鏡がファクトリーの職員用の駐車場に建っている。それは太陽光を掻き集めて、貯めておき、進入してきた非常に強力な太陽熱を戦闘機群にぶつける自然にとても優しい兵器だ。

 その他にも自動式の戦闘機 ラーシ(日本軍スタンダード機)が何体もファクトリー上空を飛行している。


 そのラーシは横に解りやすく小型のミサイル 通称:毒針を積んでいるのだが、僕達の乗車したベンツ式の飛行車が撃破されることはない。

 ファクトリーの管理部が僕達が保っているステータスカードをスキャンして、身元がしっかりとしたモノであると既に証明されているからだろう。

 ステータスカードはイヴ様が発明したモノだ。ステータスが見られる他に、身分証明書としても使える。他人が操作した瞬間、ステータスカードのコア部分は自壊するようにプログラムされている。

 そこまで厳重な施設だが……ここが凪紗南天皇家の中枢 ファクトリーだと知る人間は少ない。一般職員の半数も知らない。


 ”凪紗南イヴの代”のファクトリーは表向き イヴの揺りかごという同性同士でも赤ちゃんが産めるポットを開発している。

 そして、表向き、関係者以外はイヴの揺りかごの開発情報を他社に秘密にする為に入場できない。しかし、皇族や、イヴの婚約者、イヴの関係者だけは例外である。

 ここの工場に通う人々は知らないが、世界中で最強の防衛能力を保持している施設だ。


 ファクトリーの駐車場に飛行車をゆっくりと止める。

 ららが元気よく飛行車から飛び出してきて、僕の腰に抱きつく。犬耳がふわふわで可愛い。僕はいつものように自然とららの黒髪を撫でる。


 らら「わふっ」


 英「ここが軍事施設だって事は言っちゃ駄目ですよ」


 らら「はい、言わない。ららはイヴ様が困るのしない!」


 元気よく、ぴょんぴょん、飛び跳ねて約束を守る宣言というよりも、これから、イヴ様に会えるのが嬉しくて仕方ないのだろう。

 7歳児だからこれが普通です。まだ、雨雲家の次期当主としての心替えはなくとも良いでしょう。


 心構えが必要なのは、黒髪のお下げの30代女性 美麗幼子君でしょう……。飲むな、と言ったのに……腰にぶら下げた4瓶のうち、ウィスキーを飲んでいる。

 僕が恨みがましく、幼子君を視ていると気づいた幼子君は……悪びれることもなく、ウィスキーを一口、飲む。


 幼子「大丈夫、大丈夫ー、こんなの美麗幼子が医療行為を行う為のガソリンだぁよ。ガソリン。インポ野郎、おめぇが気にすることは何もねぇー」


 酒臭い息がこちらまで、伝わってくる。下戸の僕としては苛立ちを禁じ得ないです。しかし、娘のららやエルフの国第二王女 マリア様の前で烈火の如く、怒るのは少々、大人として余裕がないように思えます。

 僕は人に烈火の如く……怒ったことがあるでしょうか?


 ………ないですね。


 できないことはすべきでは無く、今の優先はイヴ様の救出、僕は飛行車に鍵をかけて、イヴの揺りかご製造工場の皮を被ったファクトリーを目指して歩を進めます。

 マリア様が大きな欠伸をしながら、ららに半ば、腕を引っ張られるような感じで僕の後ろをついてくる。


 幼子「お、眠いのか? マリア様。負んぶしてやろうか? 特別だぜぇ、普段は母性溢れる行動なんてしねぇーからな」


 マリア「酒臭いのでお断りしますわ」


 ばっさりとマリア様の小さなお口が幼子の提案をバッサリと斬りました。当たり前です、王族の方が品のない幼子君に負ぶってもらいたいなんて命令を出すはずがありません。

 しかし、マリア様はゆっくりと目を瞑ると……上下に1度、首を曲げて、その振動ではっと起きて驚いて周りを見回している。


 マリア「一瞬、世界が黒く塗りつぶされましたわ」


 らら「それ、眠っているだぁ」


 マリア「あ、そうとも言いますわ」


 らら「もう、うっかりだなぁーあ、マリアちゃん」


 はははっ! と笑うマリアとららの笑い声が道すがら、響き渡る。

 眠いらしく、マリア様は何度も小さな手で蒼い瞳を擦っています。

 僕はその場でしゃがみ込むと、自分自身の背中を何度か、叩いた。


 英「マリア様、お運び致しましょう。乗り心地は良いですよ。イヴ様の幼少の頃、よく載せていました。今も……ですが」


 そう、我らが主 イヴ様はハヤトシーリング王様や僕に父親の……今は亡き、勇者 春明の面影を見ていて、15歳とは思えない幼女のような甘えっぷりを見せる。それが嬉しくもあり、悲しいのです。

 幼子もそう感じているのでしょう。ウィスキーの入った瓶を腰に戻した。


 幼子「あ……一瓶、開けちまったぜぇー。まぁ、いいか。イヴのクイーン王国でイヴ女王の知り合いですーって言えば、酒くらい出してくれんだろう」


 北庄でしたら、きっと、そう気軽いに言った瞬間、不敬罪になり、その場で首をはねられるでしょう。無論、穏やかな優しい人達が多いクイーン王国でも失礼なことには変わりはありません。

 ………幼子君を殴って修正していいですか? と自分の理性に問いただした。答えは……今はとにかく、イヴ様優先と下すのですが。

 イヴ様の異常さをまだ、理解できないマリアとららははしゃいでいた。


 らら「マリアちゃん、イヴ様も時々、パパぁのお背中に載せてもらってるぅ。そこで勇者様のお話を聞くのがイヴ様は好きなんだぁ」


 マリア「まぁ、自分のお父様の英雄譚を誇るのは当たり前の事ですわ。では、失礼しまして……英さんに乗車しますわ」


 そう言って、マリア様は僕の背中に飛び込む。

 子ども一人分の体重が僕の背中に突然、重荷として加わった。しかし、僕は鍛えているので何ら、問題なく、マリア様を負ぶって立ち上がる。


 マリア「うわぁー、世界が変わって見えますわ。let's goですわ、英さん!」


 英「あ……」


 いーちゃん『let's goなのだ! お父様!』


 春明『よーし、行くぞ。いーちゃん! お父様は速いぞ』


 リン『あんな感じで良きお父様をやってます』


 英『あの知りたい病男の春がですか……凪紗南イヴの、いーちゃんの時代が楽しみですね。春はいーちゃんをどうやって育てるのか』


 リン『育成方針は優しい世界を創れる子です』


 そんな会話を僕は思い出してしまった。

 早歩きで、白い建物を目指しつつ、僕は呟く。


 英「春、君達の教育方針がイヴ様に刀を握らせている。僕はいつか、イヴ様に刀を置いてもらいます。そして……イヴ様だけの幸福を」


 そんな呟きが聞こえたようで、幼子君が僕の肩を叩く。


 幼子「当たり前だろう……イヴは誰よりも幸せになる権利があんだ。助けるぞ、この生涯をかけて」


 英「勿論です」


 そんな僕達を待っていたのだろう。


 ニコラ・テスラの転生者、イヴ様と共に蘇生魔法の極致を研究した科学者であり、天才ハッカーの少女 テスラ・リメンバーが玄関の柱に背を預けて待ち受けていた。

 水色の滑らかなセミロング少女 テスラの瞳は冷たく光っていた。その光に僕達は睨まれる。


 テスラ「私もイヴを助けにゆく。イヴが死んだら、後を追って私も死ぬ。だから、私と、イヴを助けろ、藪医者」


 その言葉に幼子は獰猛な歯を剥き出しにした笑顔で応える。


 幼子「何言ってんだよぉ、18歳の処女臭いガキが。美麗幼子は第三次世界大戦における最高の軍医だぜぇ。助けられないってのは、童貞病と処女病と、恋の病しかねぇーんだよぉ」


 そして……地下 30階へと専用エレベーターで下ってゆく。

 到着した先は……


 *


 テスラ「ようこそ、地上は隠れ蓑のイヴの揺りかご製造工場、本体は……人間の知の限界 ファクトリーへ」


 エレベーターを出た先は水晶の床の輝きをLEDの人工光が彩る異質の広々としたフロアだった。

 そのフロアの先に各部署へと続くエレベーターが独立して存在している。情報漏洩を防ぐ為の一種の防衛でしょう。


 らら「ここはいつ来ても秘密基地だぁ」


 マリア「わたくしはお姉様から来て良いと言われていましたけど……初めてですわ……凄く、水晶の光が綺麗」


 テスラ「マリア様、それは水晶は水晶でも魔法水晶です」


 マリア「魔力水晶?」


 テスラ「ええ、完全に理解して制作できるのは私と皇女様を含める数十人の専門スタッフだけです。魔科学の中核を成しています」


 一つ、一つの独立した部署に続くエレベーターはどれも人間の欲の果てを、進化したいという欲を示している。






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