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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第49話 僕の娘がこんなに可愛いわけがある

 第49話 僕の娘がこんなに可愛いわけがある


 視点:美麗幼子

 場所:地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市

 日時:2033年 4月4日 午後 4時45分



 あたしは意気揚々と姫屋敷ひめやしきって大層な名前の付いた日本の武家屋敷みたいな家屋を出て、宮内庁のお役人の何人かにお辞儀(あたしは奴らにチィースと言って言葉を返した。苦虫を喰った顔をしていたが、意味は通じるだろう。同じ日本人だろう、なぁ)をされながら、砂利道を進んでゆく。

 その砂利道の中盤に差し掛かった処であたしはくそ真面目な爽やか野郎に出会ってしまった。こいつは口を開けば、イヴの為に、と五月蠅い九官鳥のように囀るイヴが認めるお父様代わりの侍みたいな奴だ。


 奴の忠誠心を表すように、ワイシャツのボタンはきっちりと上のボタンまで留められていて、ずっと前にイヴからプレゼントされた桜の花がちりばめられたネクタイを締めている。

 カラス色のモーニングコートを着込んだ奴はあたしを確認するとやぁ! と片手を挙げて、爽やかに笑った。

 人をたらしめ込める笑顔、それを無意識にイヴに教えたのはこいつだ。みんなが左眼眼帯と近づきにくいオプションが付いているのにも関わらず……奴――――凪紗南天皇家を守護する十家のリーダー 雨雲英あまぐも すぐるに頼る。


 異世界 リンテリアにて、勇者なぎさな 凪紗南春明しゅんめいに巻き込まれる形で召喚されて、勇者と共に世界を救った異邦人ではない普通の人間でありながら、最強……には見えない少女漫画の王子様野郎(38歳なのに……王子というワードが似合う)が口を開く。


 英「やぁ、奇遇だね。幼子君」


 幼子「なぁにが! 奇遇だ。この獣耳にしか性的興奮を覚えられないインポ野郎。お前――――」


 あたしは英の両腰に装備された武器を眺める。

 右腰に妖刀 竜水翔りゅうすいしょう軌跡きせきの剣。

 左腰に銃剣 ディスゴッド、イヴの守護者の証である刀 銀縁ぎんえん

 完全にフル装備だろう……。呆れた。


 英「――――る気だよ、僕は。親友の娘を傷つける俗物は剣の錆びにすらならないよ」


 幼子「まぁな、悔しいけど……よ。お前には他の十家当主同士で力を合わせてやっと、互角だからよ。しかし、年々、強くなるね。底がしれねぇー」


 英「日々鍛錬だよ、幼子君。しかし……」


 英は自分の顎に指を添えて、人をじろじろと見始める。

 言いたいことは解る。また、真面目野郎のおしつけか……。

 革ジャンを引っ掛け、ワイシャツの裾をズボンに入れず、レザーパンツ。これがお気に召さないんだろう。


 英「イヴが真似するからあまり、不良みたいな格好は止めてほしいなぁ」


 幼子「しみじみ言うな。てめぇは若者のファッションを少しは研究しろ」


 そう言って、あたしは砂利道を歩き出す。それに英も続く。

 しばらくすると、敷石が詰められた駐車場に続く道へと出る。両側に植えられた立派な松を年老いた職人さんが枝切り鋏で手入れしている。

 あたし達が通るのを目で確認した職人さんは被っていた帽子を取って挨拶する。


 職人さん「どうも、英様。この前はありがとうございます、道場に通っている孫が喜んでいました。あ、イヴ皇女様にもお伝え下さい」


 英「いいえ、後進を育てるのは先達の義務ですよ。尤も、僕は、イヴ様もですが、楽しく子ども達と剣道を通してふれあいました。日本の未来は明るい」


 これから、修羅場が待っているかもしれないのに、英は爽やかに職人さんに対応する。てめぇ、その爽やかスポーツドリンク笑顔でCMにでも出演してろ。あ……税金を納めて下さいってCMに出演していたか……。

 英の爽やかを演出しますとばかりに微風が優しく、英の黒髪を揺らす。


 いらねぇーよ、そんなの。こいつは主人公じゃないんだよ。


 職人さん「英様のお屋敷に羊羹の詰め合わせを贈りますね。皇居にも贈りたいのですが……」


 英「これはどうも、丁寧に。そうですね……その戴いた羊羹をイヴ様と一緒に食べるとしましょう」


 職人さん「ありがとうございます。女執事さんのチェックが厳しくて……」


 英「あの子は真面目だけですよ、それでは失礼します。仕事がありますので」


 職人さん「頑張って下さい!」


 その声援に対して、英は片手を挙げて、和やかに応える。

 英の隣に並んで、話しかける。


 幼子「イヴ様も手広く、やってるね」


 英「刀を持って、武装しなければならない地域での活動はなるべく、控えてほしいんだけどね。親友……勇者様はいーちゃんの自由にさせたいんだって生前、僕によく話してくれたから、育児書を読みながらね」


 幼子「ったく、勇者さんはビブリオマニアだからなぁ。笑っちまうぜ」


 そう言っているあたしの頬は早速、緩んできた。


 幼子「勇者って言えば、先頭に立って果敢に敵と戦う熱血漢って感じだろう。でもよぉ、イヴのお父様は後陣で英さん達が闘っているうちに敵の弱点を解析。それを鉄砲の一撃で倒す分析屋な勇者。笑えるだろう、違いに」


 心なしか、英も笑顔でそれに同意して頷く。


 英「春はね、勇者になりたくなかったんだよ。天皇にもなりたくないって言ってた。あいつの夢は世界を気ままに冒険すること。奇しくも、それは異世界で叶ったけどね……。春は万が一があった時、娘を頼むって僕に言ってたよ」


 幼子「そいつはヘビーだな……」


 英「僕は春を助けたかった。助けたかったんだよ……幼子君。だから、僕は重責である天皇の最期の剣であり、盾である雨雲の当主の運命を引き受けた。死んだ僕よりも優秀な兄さんの代わりに……ね」


 幼子「てめぇより……って当たり前か」


 英「沖田総司の転生者だからね。無敗の天才剣士」


 幼子「……だったな、すばるさん」


 英「兄さんはイヴ様誕生を邪魔する邪神と闘って死んだ。いずれ……仇を取るさ。いずれ、ね」


 こいつが爽やかにそう言えるまで、春明様は英を支えた。勿論、こいつの嫁 ベル・リーブベルトも。だからこそ、こいつは誰よりも強い心を保った大人だ。だからこそ、あたしは独り言を零してしまった。


 幼子「……てめぇがいれば……イヴ様は無敵だな」


 英「え、何か、言った?」


 飄々とした顔であたしの目を覗き込み、そう質問した。


 幼子「………」


 良かったぜ。

 あたしらしくない真面目な話をしてしまった。顔から火が噴き出しそうだぜ、とあたしは髪を掻き上げる。


 英「そう、ありたいと思っている。そして、いつか、ららにこの役目を継がせますよ」


 幼子「てめぇ、聞こえてたな!」


 英「ええ」


 幼子「ちくしょう、恥ずかしい……。こうなったら、車内で自棄酒だ!」


 英「止めて下さい。子ども達が真似をしてしまいます」


 幼子「え……。待てこらっ」


 思いがけない言葉を残して、さっさと早歩きで駐車場に英が入ってゆく。

 あたしも急いで駐車場に入ると……その子ども達が黒塗りのベンツタイプの飛行車付近で待っていた。

 何やら、そこらにあった木の棒を使って、勇者ごっこをしていたらしい。


 ちなみに勇者役はあまり、子ども達に人気が無い。

 銃を構えて、敵を狙撃する。そんな動作の少ない勇者役は不人気なようだ。勇者ごっこなのに、イヴや未来が登場するのはやはり、日本の皇族の人気の高さを感じる。全く、スーパー〇ボット大戦かよ……。

 そのうち、勇者ごっこにスーツなガン〇ムとか、日本の漫画界で有名なスナイパー ゴ〇ゴとか、出てきそうだな。


 マリア「今日はわたくし達、魔女っ娘同盟がイヴ様やお姉様をお救いするんですね」


 わくわくと、ランドセルを背負った7歳児のピンク色髪の女児 マリア・シーリングがあたしを見つめている。

 キラキラした蒼い瞳があたしの首を縦に振らせた。

 どちらにしても、あたしの身分でエルフの国 シーリングの第二王女であるマリアを従わせるのは無理だろう。

 マリアはあたしの了解を得て、その場でぴょんぴょん、跳ねた。ショートヘアがふわりと広がる。尖った耳がチャーミングだ。


 らら「そうだぁ。らら達は危険種動物に負けない常勝の魔女っ娘だぁ」


 そう、自分と同じお揃いのエプロンドレスを着たマリアに言う。


 ※あたし達、凪紗南天皇家を守護する十家がイヴの命令により、夜な夜な危険種動物退治にゆくらら達を影から護衛し、危険種動物が出現したら、すぐにらら達が倒したと見えるように危険種動物を駆除している。


 イヴ『子どもの自尊心は傷つけては可哀想ではないか、なぁー、セリカ』


 セリカ『はい、イヴちゃん。わたくし、お姉ちゃんとしてマリアちゃんの危険種動物駆除のボランティア精神を応援しますわ』


 ………あたしら半数が、一応、世界で最強Levelなのにお守りですか……。

 冷めていた。ららの父親 雨雲英だけがる気だった危険種動物を。



 勿論、マリアはららの言葉に頷いた。

 くるりと、身体を回転させて、犬耳をぴくぴく動かしてららは英におねだりを開始する。


 らら「ららもマリアちゃんとイヴ様をお救いするぅ。良いんだよね、パパぁー」


 英にとって絶体、抗えない黒い瞳が英の心を射貫く。

 この7歳児の黒髪美幼女 雨雲らら、英の操縦法を心得ているのではないか……今はランドセルを背負うただの幼女だが、十年後が恐ろしい。

 数秒も満たないうちに、英は満面の笑みを浮かべて、膝を曲げて、ららを抱きしめる。


 英「勿論です、らら。出掛ける時も言いましたよ。共にイヴ様を救出に向かいましょう、と。偉いです、さすが雨雲の子ですね」


 すげー、笑顔で38歳の男が7歳幼女の頬をすりすりしている。大好きなパパに可愛がってもらっているから、ららの尻尾は嬉しそうに揺れている。

 だが、他者のあたしから言わせれば――――


 幼子「どうでもいいけどよ。気持ち悪いぞ、英」


 英「家族のスキンシップですよ。未来様もイヴ様に、と推奨したのですが丁重に断られました」


 幼子「未来は素直じゃないからなぁ。でもよぉ、未来はいつも、お尻ペンペンの刑でイヴと熱いスキンシップを取ってるぞ」


 そう言って、あたしは助手席に乗り込んだ。

 それに続いて、英達もベンツタイプの飛行車に乗り込む。


 数分後、大したエンジン音も無しに浮き上がるように飛行車はその場で上昇して、2階建ての家程の高度を維持し、ファクトリーを目指して発進した。


 マリア「わたくし、おやつを持ってきましたわ」


 らら「うわぁー、ケーキ」


 英「らら、三時のおやつにバームクーヘンを食べましたよね。今日は止しなさい」


 らら「パパ、らら、ケーキ食べたいよ」


 英「………程々に食べなさい」


 らら「うわぁーい! パパ、らら大好きぃ♪」


 幼子「弱っ」





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