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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第2章 1000キュリアの祈り
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第48話 卑弥呼

 第48話 卑弥呼


 視点:時雪卑弥呼

 場所:地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市

 日時:2033年 4月4日 午後 4時30分


 宮内庁の機能が集約された姫屋敷ひめやしきと呼ばれる場所でわたくしは皇族の安全を祈り続けている。

 鏡に映される姿は未来。遠くない日の出来事。

 この鏡は凪紗南天皇家が少女神 リンテリアより、初代天皇 卑弥呼ひみこが戴いた八咫鏡やたのかがみ

 卑弥呼本人の転生者が言うのだから間違いない。


 その鏡によくない未来が映った。そういう役割のある鏡であるから当然だが……数年に1度しか映らないのが常である。この鏡が映すのは皇族の者が対象であるからだ。

 少女神 リンテリア様は来る人類にとっての、最後の審判の時にわたくしを転生者として再び、この日の本に遣わせると仰いました。

 それは現実になり、凪紗南天皇家を守護する十の家の一家 時雪ときせつに生を受けました。


 故に時雪卑弥呼はある意味、子孫でもある凪紗南未来や、凪紗南イヴが可愛くて仕方がない。

 当然、凪紗南りりすについても同様ですね。


 卑弥呼【そこの職員】


 とわたくしはいつものようにプラカードを掲げる。当然、黒板消しで消せるタイプだ。わたくしは環境にうるさい女。決して、時代遅れのロリババではない。まだ、60歳。そう、まだ、60歳。まだ……。


 宮内庁職員「………」


 わたくしがプラカードを掲げているのに、スーツをびしっと着込んだ直立不動の男は全く気づいてくれない。

 何が卑弥呼様のお手伝い係だ。全く、昨今の若者は真面目離れしているな。


 そこでわたくしはある事に気が付く。

 暗すぎて自分の書いたプラカードの文字が見えない。

 しまった神託の義の為、灯りを蝋燭のみにしていたのだ。これでは読めないはずだ。

 わたくしは慌てて、蛍光ペンでプラカードの文字を書き直した。

 いと時間、惜しいと、素早く、書き記す。


 卑弥呼【そこの職員、凪紗南イヴ皇女様が大変だ。美麗幼子びれい ようこを呼べ、はよう、手遅れになるぞ!】


 しかし、どうしたことか、全く、気が付かない!

 くそ、これが世に伝わる若者のコミュニケーション離れ。


 わたくしは手段を選んでいる場合ではないと思い直して、プラカードを宮内庁の職員の後頭部に投げつけた! 手加減にしてやったので……大丈夫であろう。まだ、青年といってもカテゴリーエラーにはならないであろう職員ときせつ 時雪良介りょうすけ、最近白髪が生えてきた。かなり、~離れが進んでいるが……の様子を窺う。


 良介「何だよ、ママ。まだ、呆けるのは1億年と、5000万年、早いぜ」


 わたくしはプラカードを自ら、回収して、馬鹿息子に押しつける。

 そのプラカードを読んだ。

 馬鹿息子はようやく、血相を変えて、携帯電話を操作して、幼子を呼び出そうとしてくれる。

 わたくしはもう1度、何かの間違えではないか、と八咫鏡を覗き込む。


 鏡が映し出しているのは……

 場所は木が多く生えている事から、自然の豊かな森であろう。老木に背を預け、眠るように気を失っている少女は小学生のような低身長であり、銀色の珍しい髪は木と木の合間に降り注ぐ光に満たされて輝いている。その少女は人を殺しそうな形相の犬耳少女に肩を揺すられていた。

 揺すられる度に、腹部からの出血が銀色の少女――――凪紗南イヴ皇女の着ているドレスを汚す。鮮血の勢いは止まらない……。



 十分後……。


 卑弥呼【皇女……。無事でお願い……】


 と、わたくしはプラカードで自分の心情を表す。何もプラカード好きだからこうしているのではなく、わたくしは生まれつき、喋る機能が失われているからだ。そんなわたくしを小さな頃から……いや、今も小さいですけど、小さな頃から『いーちゃんがいつか、治してあげるのだ』と元気よく、わたくしに言ってくれた少女を失うわけにはいかない。

 わたくしは早く、来い、酒を飲み過ぎて全裸でマラソンした幼子ぉぉおおお! と……心の奥底で叫んだ。


 幼子「てめぇ! プラカードに人の失態! 書いてるんじゃあねぇー! この南国肌のコギャル風ロリ婆! ヤシの実、口とあそこに入れんぞ!」


 酒の入った瓶を腰に四つ、ぶら下げて、医療道具の入った大きな鞄を持った凪紗南天皇家を守護する十家の一家 美麗の当主 美麗幼子が大きな足音を響かせて入室して来るなり、わたくしにそう怒鳴りつけた。

 わたくしはうっかり、自分の心情をプラカードに書いてしまっていたらしい。


 幼子「で、イヴがまた、やらかしたらしいなぁ。んー、そいつに映ってるのか。んー」


 わたくしの背後から覆い被さるようにして、八咫鏡を覗き込む。

 ふざけんなぁよ……と言う声を耳元で聞いたような気がした。気のせいだろう、幼子の性格上、そんなことは言わない。


 ここで言う台詞は――――

 幼子「こりゃあ、傑作だなぁ、おい」

 ――――だ。


 卑弥呼【何がおかしい? 無礼だ】


 幼子「悪い、悪い。イヴが眠れる森の小学生だったからな。生意気にも尊大な口を聞く唇も閉じてたし」


 卑弥呼【とりあえず、日本軍の最新鋭機 三日月みかづきで飛んでもらう。完全ステルスの機体、バレない】


 幼子「バレたらどうすんだよ、おい」


 鬱陶しそうに黒髪のお下げを手で払い、幼子はそう反論した。

 それはそうだろう。異世界 リンテリアへの最新科学でのアプローチは世界天秤条約違反だ。

 皇族に迷惑がかかるということで、長身 180cmの幼子が右往左往、狭苦しい室内を歩き回り、珍しく……決断に迷っている。


 卑弥呼【誰のおかげで世界が未だにあるって脅す】


 と、幼子の眼前に示してやった。

 そうすると、幼子は満面の笑みを浮かべて、わたくしの長い黒髪を犬の毛にシャンプーを泡立てるように撫でてくる。


 幼子「いいね、ロリ婆、傑作だぜ。そいつは怒るに、怒れない。イヴの父ちゃんの春明さんがいなけりゃあ、みんな、お先、真っ暗だったもんな。そんであたしは何処から飛び立てば良い?」


 卑弥呼【ファクトリー】


 幼子がしばらく、フリーズして、唾を飲んでいる。

 当たり前だ。関係者以外に社内に入れるのは、皇族か、イヴの婚約者――――セリカ、アイシャ、真央くらいなものだろう。


 幼子「そいつはまた……ってことはおいおい、その三日月って」


 卑弥呼【ロールアウトしたばかりの”裏”の日本の武力です】


 裏という隠語は日本が危機的状況にならないと姿を見せない兵器を意味する。対面的には存在しない兵器だ。誰も知らない。そして、機密文章にすら載らない。


 幼子「魔法と化学の融合機か。SOULを大量に消費するディスターとは全く異なるイヴのみが調整可能なエンジン。魔力炉装備の化け物。くうー、誰がパイロットだよ、おい」


 痛い。わたくしの肩を強烈に打っ叩いた。

 他の人が見たら、幼女虐待に見えた事だろう。


 卑弥呼【ガッツ】


 幼子「あのガキか。自分は2017年のこことは違う地球から来ましたって言っていた異邦人。おい、イヴに会わせて良いのかよ」


 卑弥呼【意外と過保護】


 幼子「うっせぇー、未来に怒られたくねぇーんだよ。予防線、予防線。未来はイヴのこと、猫かわいがりしてんのに。本人の前ではクールだからな」


 卑弥呼【時間がない。行きなさい、ファクトリーに。公用車は好きなの、使っていいわ】


 そのプラカードを横目で読んで、もう、お前に用はないとばかりに後ろを向いて、幼子は襖に手をかけた。


 幼子「よっしゃ。ベンツ式の飛行車に乗るぜよ」


 卑弥呼【遊びじゃない!】


 襖を引いて、出て行こうとする幼子の後頭部にプラカードをぶつけた。


 幼子「痛てぇーな、後で覚えていろ、ロリ婆」


 そう、野生の瞳をした幼子が恨みがましく、そう言った。

 だが、すぐに忘れる事だろう。

 幼子は脳離れなのだ。






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