第109話 登校風景
第109話 登校風景
視点 神の視点 ※文法の視点名です。
場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市
日時 2033年 4月10日 午前 8時17分
イヴとりりすが朝食代わりのビスケットを食べ終わる頃には凪沙南市の商業区へと続くセキュリティーの為の検問所に辿り着いた。
凪沙南市は商業区、住宅区、特別要人保護区、皇族区、工場区に今、現在は分けられており、皇族区がない以外はだいたい、地下都市と同じ構造をしている。皇族区や特別要人区(貴族が多く住んでいる処)には必ず、検問所が存在する。検問所では身分確認の為、ステータスカードの提示が義務となっているが、日本の皇族だけが保つ銀の瞳の前ではそれをしなくても通れる。
その銀の瞳を保つ人物――――凪沙南イヴ、凪沙南りりすに検問員は90度に近いお辞儀での挨拶をする。
検問員「おはようございます、イヴ様、りりす様」
イヴ「おはよう。今日も検問を頼むのだ」
パンケーキに合いそうな蜂蜜のように甘い笑顔で検問員の誠意ある挨拶に応える。それに対して、りりすは面と向かってそのような仰仰しい挨拶になれていないようで……小さな声で検問員の挨拶を返す。
りりす「おはよう」
少々、ぶっきらぼうだが、仕方ない。皇女としての振る舞いを昨日、今日で繕えるはずがない。それを初々しく思ったのか、セリカが「まぁまぁ……可愛らしいわ」と呟いていた。
イヴとりりすがいる為、検問所を顔パスで通り抜ける。
それに対して真央が喋る。
真央「顔パスかよ。大丈夫か、日本。検問所の人達が持っていた自動装填銃って、日本の四津菱の最新でしょ。ブルジョアね……。イヴ、あんた、検問所の人の給金っていくらなの?」
目ざとく、真央は検問員が腰に巻いているホルダーに入った自動装填銃に目を付けていた。自動装填銃は第三次世界大戦 後期に船や飛行機製造で有名な四津菱が日本の皇族――――凪沙南未来の命令を受けて始めて制作した銃であり、超圧縮した空気で各装填銃専用の弾丸を撃ち出す銃である。また、小型で旧世界の火器と比べて反動等の負担がない為、急速に広まった。
銃本体の上部のエアタンク(ほ乳瓶ほどの大きさ)に空気を充填しすべく、エアタンクに付属しているプロセスレバーを下げる。すると、自動的に空気が溜まってゆく。尚、エアタンクのデジタルメーターに空気の残量が表示される。最大 APエアポイント999である。
引き金を引いて、APを消費して超圧縮空気で各銃専用の弾丸を撃ち出す。発射音は全くせず、敵に銃声が伝わることのない暗殺にも向いたクリーンな兵器である。
どの学園でも自動装填銃の訓練の為にそれぞれ自動装填銃保管室に約150丁程、備えている。専用の洗浄機――――ガンウォッシャー バージョンⅧに入れ、人の手を借りずに洗浄できる自衛の為には扱いやすい銃なのだ。だが、銃をメインウェポンとして使う学園生は少ない。昨今、異世界転生モノのラノベが大流行していて、剣や槍、何故か……日本刀が大人気なのだ。
そんな事を思い出しつつ、イヴは真央の疑問に応える。
イヴ「危ない仕事だから、検問員は20代でも基本給 40万円のお仕事なのだ。年齢が上がるにつれて基本給も上昇する。最終的には55万円辺りかな」
真央「へぇー、うちもいつか、軍隊にそれだけの基本給を保証できる体勢を創らない、と。その為には――――」
真央を除いたイヴ達が着ている皇立桜花学園のブレザーを着た男女や他にも真央が着ている私立藍心学園 初等部のセーラー服を着た男女が歩道を歩いていた。その中から、真央の見知った顔――――桃李ゆいを発見して、真央はその背中に飛びつく。
飛びついた瞬間、Dの破壊力を保持しているゆいの胸が揺れた。
真央「――――勉強をしまくって立派な女性にならない、とね。おはよう、ゆい」
ゆい「真央ちゃん、お、重いよー」
真央「んじゃあ、イヴ! あたしはゆいといつも通りに小学校に登校するからみんなとはしばしのお別れ! イヴ 妹、飛び級したからって変に厨二病発言を繰りかえしていると目を付けられるわよ」
と捨てて台詞を残して、真央とゆいは手を繋いで私立藍心学園のある方向へと歩き出す。
りりす「我は厨二病ではない。ただ、世界が我の認識に付いて来れぬだけ。ふっ、世界よ、その程度か」
アイシャ「厨二病、イヴの足を引っ張らないようにお願いします」
りりす「聖剣使い、我の戦闘力と威圧力は他を凌駕している。汝こそ、自慢の――――」
りりすはアイシャの腰に聖剣 ローラントがない事に気づく。イヴもりりすの視線を追うことで気づいた。
りりす「聖剣使い、聖剣は?」
アイシャ「聖剣は今の私には身に余る武器だとこの前のスカルドラゴン戦やそれ以前の戦いを通して認識した。強すぎる武器では己の武を高めることはできない。そこでイヴに頼みがあります。私にも召喚器を」
りりす「それならば、我も欲しいぞ、イヴお姉様。今日はさすがに天叢雲剣を持ち出す事を未来お姉様が許してくれなかった。ベルセルククロー(素手)でも我が実力は他を凌駕しているが…………武器がないのは心許ない」
セリカ「いいですね♪ これでお揃いです、仲良しグループって感じがします。いかがですか、イヴちゃん?」
イヴ「迷うことはないのだ。お昼を食べた後に召喚器作成に入ろう」
*
イヴ達の通う皇立桜花学園は女王の館から大体、徒歩40分の位置にある。この間、バス停もあるのだが……
未来『そんな距離、歩いて通え。お前達はお婆様ではないだろう? ついでに歩く時に気配消す練習をしろ』
前半のそれは可能であったが、後半の気配云々の実現は無理だった。何故ならば、メイシェを除くイヴ、りりす、セリカ、アイシャは有名だからである。
皇立桜花学園へと続く坂道には両端に桜の木が植えられていた。全部で123本、咲き誇っている。
桜の花びら達が風に吹かれてゆらゆら、とダンスを踊る中、イヴ達は周りの視線に気にすることなく、歩く。メイシェもこういう状態になる事は母 ナリスよりレクチャーを受けていたのでそれ程、驚くことはない。
初等部からエスカレーター式の皇立桜花学園の生徒のほとんどが第一種貴族、第二種貴族、第三種貴族、第四種貴族に当たる為、これで済んでいる。
尤も、この視線が苦手だと蓮恭二、蓮恋歌、池内桜花はイヴ達よりも早めに出掛けてしまった。この事にイヴは薄情だとは思っていない。
誰だって視線とそれに付随するイヴ達をテーマにしたひそひそ話は苦手だろう。
女子学生1「イヴ様の銀色の髪、1度で良いから触れてみたいわよね」
女子学生2「そうね、どんなトリートメントを行っているか? 聞いて見たいわ。その為にも一緒のクラスになりますように!」
男子学生1「りりす様、小さくて萌えるよね」
男子学生2「飛び級だから頭も良くて、噂だと古代魔法を使いこなすらしいぜ」
男子学生3「古代魔法って。俺達が知っている限りでは詩卯学園長くらいだろう、そんなの唱えられるの!」
男子学生4「イヴ第一皇女様が世界唯一の治癒魔法の使い手――――唯一者で、りりす第二皇女様は古代魔法の使い手。日本、最強過ぎない?」
女子学生3「セリカ様ぁー、我々、エルフ族の癒やしよね。ほんわかしていて、困った人がいたら助けずにはいられない人間愛の塊よ」
女子学生4「学園が春のお休み中、セリカ様がイヴ様、アイシャ様を連れて学園をお掃除したんですって。それを見た運動部の学生達もお掃除したらしいわ。何でも、日頃、学園にお世話になっているからって」
女子学生5「うちらの学校、他校と違って学生が掃除を担当することがないから、そういうのって新鮮だよね。大変だと思うけど」
男子学生5「やばっ、アイシャ様の人間では無く、豚を見る眼で見つめられてぇー」
男子学生6「お前、大丈夫か? 頭」
男子学生7「男子学生5、あなた疲れているのよ」
男子学生5「お前はFBIのス〇リーかよ」
勿論、イヴの登校に無関心な生徒達もいる。その生徒達は学生のマストアイテム 動物型のアクセサリーPCのホログラムウィンドウでそれぞれ、インターネット閲覧、読書、音楽、レポートの仕上げ等を行っていた。
第三次世界大戦前には大型のデスクトップやノートが一般的なPCだったが今や、アクセサリータイプが支流である。
また、携帯電話も第三次世界大戦後、腕時計型携帯電話が流行している。今ではスマートフォンを使っている人はお年寄りくらいであり、来年にはスマートフォンのサービスも終了する。
全ては第3次世界大戦による血と血のぶつかり合いによる技術革新の賜物であった。しかし、第3次世界大戦より後に産まれた彼らにとって、戦火によって流される血など、知ることはないのだ。
イヴ「願わくば、この平和の光景が続きますように……」
りりす「ん? イヴお姉様、何でそんな祈りを?」
セリカ「あっ! わたくし、解ります。綺麗な桜吹雪を観るとそんな優しい気持ちになりますものね」
アイシャ「さすが、イヴ。優しい子ですね」
メイシェ「それは……そうね、そうなると良いわね」
メイシェはどうしても、イヴの祈りが叶うとは思えなかった。
世界がもし、蘇生魔法の事を知ってしまったら?
世界がもし、華井恵里の狂気に対抗できなくなったら?
世界がもし、神様出現による宗教の混乱が今よりも酷くなったら?
……
………この他にも考えられる争いの種が芽吹き始めている……。
メイシェ「そのときはイヴ様を料理で励まさないと。それが皇族専属の料理人の役目」




