第97話 天糸(てんし)の心
第97話 天糸の心
幼い頃、聖心は盲目の身であった為、世界はとても、恐ろしく、黒一色だけのつまらない場所であると思った。
しかし、1歳のイヴ皇女様の可愛らしい声――――
1歳の頃のイヴ「いーちゃんです。よろしくおねがいします!」
――――その声が幼い聖心の胸に微かに芽生えていた母性を開花させた。顔も、髪も、身長も、笑窪さえ、解らないが理屈では説明できない引力が舌足らずな声にはあったのだ。
それから紆余曲折もあったが、一度もその母性が陰った事はない。生きることを半ば、惰性のように考えていた聖心は分家という立場に甘えずに……イヴの近くにいる為に努力をした。それで生み出したのは魔力の大きさ(才能)、色で人間を判断する聖心だけが習得できた特殊魔力察知によるあらゆるモノの認識である。それをたった6歳で習得した瞬間、世界は変わった。
そうするように促してくれたのは凪沙南イヴ皇女様の声だった。
視点 神の視点 神の視点 ※文法の視点名です。
場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市
日時 2033年 4月9日 午後 4時19分
~凪沙南イヴ班~
だからこそ、聖心は率先して、お姉ちゃんとして着物の裾を振り乱し、魔力で構築された糸をスカルドラゴンの巨体に絡ませる。
すぐにスカルドラゴンは抜け出そうともがくが……もがく程にその巨体の骨に食い込んでゆく。食い込んだ部位から鮮血が流れた。どうやら、骨の中に血管が走っているようだ。珍しいという感想を持ったが、それ以外に感情の揺らぎはない聖心は魔力の糸に魔法を伝わせる。
心「魔法剣 フリージングスノウ」
氷の威を伝うべく、糸が凍り付いてゆく。その凍り付いた糸の箇所から食い込んだスカルドラゴンの骨へと氷の威が伝染してゆく。まるでタチの悪い伝染病のようだ。
数秒でスカルドラゴンは氷の彫刻になった。
聖心は仕上げにスカルドラゴンの身体に食い込んだ魔力の糸を力一杯に引いた。すると、意図も簡単に……スカルドラゴンはバラバラになった。
…………絶命の悲鳴すら、上げさせない見事な手際だった。
実はそのスカルドラゴンは凪沙南イヴの方を目指していて、イヴが凪沙南流 瞬陣斬で切り込もうとしていたのだが……聖心がイヴに対して過保護なのでスカルドラゴンを倒してしまった。
当然、分家筋のお姉ちゃんに自分の成長を見てもらおうと思ったイヴは激怒した。イヴが怒りで味方に気分を表すのは珍しいことだ。
イヴ「ひーちゃん! 予が倒そうとしていたスカルドラゴンを倒した! そういうの横取りと言うのだ」
心「いーちゃん、違うわ。これはお姉ちゃんが危ない危険種動物さんを駆除してあげたの。解る! これは危ないのよ!」
これは、と凍り付いて絶命しているスカルドラゴンの頭部を叩いた。
イヴ「もはや、予は童ではないのだ。これ、くらい倒せる」
これ、と凍り付いたスカルドラゴンの胴体を深淵の刀でちょんちょんと突いた。
心「もう! 五月蠅いドラゴン」
がぁああああ! と仲間を殺された怒りに叫んでいたスカルドラゴンを魔力の糸で絡め取る。
聖心はすぐに絡め取ったスカルドラゴンを魔力の糸による氷魔法剣 フリージングスノウで凍らせてから、スカルドラゴンの四肢を分割した。
崩れゆくスカルドラゴンの頭部を魔力の糸で分割する。
恭二「凄い一歩も動かずに……」
恋歌「魔力の糸で簡単に倒している」
池内桜花「並みの技量ではああ、までは……」
蓮恭二、蓮恋歌、池内桜花が感心して、聖心の糸の舞を見ていた。黒髪のおかっぱ頭に着物と和を凝縮したような聖心には似合う優美な攻撃方法に脚まで止まっていた。
その止まっていた処を他のスカルドラゴンが狙わないはずはない!
すぐに目をつけた一体のスカルドラゴンが突っ込んでくる。
明日葉「お前ら、何、ぼっーとしているんだ! 避けろ!」
三人が明日葉の叫びを聞いてスカルドラゴンを見てももう、襲い、三人が相当のダメージを覚悟した時、三人の目の前に魔力の糸で構築された盾が出現する。その盾にスカルドラゴンが頭から突撃した。だが、盾はびくともしなかった。
心「天子 第3楽章 守護の曲。急いで保たない! いーちゃん、そこまで言うのならば、お姉ちゃんに魅せてあなたの力を!」
イヴ「了解なのだ!」
イヴは聖心の言葉を受けて、空高く、飛ぶ。
そして、空気を右脚で蹴り、加速する。深淵の刀を構える。
イヴ「凪沙南流 瞬陣斬!」
スカルドラゴンの頭部の骨を削ったが……猛々しい叫びをそこら中に響かせている通り、まだ、絶命には至らせていない。
イヴはスカルドラゴンの頭部に着地して、息を整える間もなく、同時に7カ所の斬激をスカルドラゴンの頭部に見舞う。
イヴ「猛虎連撃殺」
スカルドラゴンは絶叫してなんとか、イヴを振り落とそうとするがなかなか、振り落とせない。もはや、頭部から血が溢れ出ていた。
イヴはトドメを刺すべく、両手をスカルドラゴンの頭部に向ける。両手には銀色の魔力が集約し始める。
イヴ「光魔法 フォトンオーラ」
スカルドラゴンは闇属性な為、光魔法に弱い。
その弱点をついた光の奔流がスカルドラゴンの頭部を襲う。
光の激しい流れにスカルドラゴンの首の骨は折れた。イヴは足場が不安定になる前に心理詠唱式で風魔法 エアを唱えて、空へと逃げた。
HPはまだ、整っていたが首が折れてしまえば…………生物としての死を終えてしまい、幾ら、HPが残っていても意味がない。
もはや、スカルドラゴンは首の皮によって辛うじて、頭をぶら下げているオブジェに成り下がった。
イヴは喜びを表現すべく、地上にいる聖心にVサインを送る。
そして、他のスカルドラゴンへと攻撃対象を変えた。
イヴは右手に――――
イヴ「セイントランス」
左手に――――
イヴ「セイントランス」
神化したイヴだからこそ、可能な同時魔法で具現化した光の槍を携えて風魔法 エアを維持しながら、違うスカルドラゴンへと対峙する。
スカルドラゴンの手の爪と、二本の光の槍が激突する。
イヴ「さすがに堅いのだぁああああああ」
心「いーちゃん、サポートします!」
イヴ「お願いする!」
心「はっ!」
聖心はイヴと対峙しているスカルドラゴンの四肢を魔力の糸で縛り上げると、スカルドラゴンの手の爪が二本の光の槍から離れてゆく。全く、動くことができなくなっていた。
イヴはそれを好期である! と考えて二本の槍を剣のように使い、スカルドラゴンの骨を無造作に何度も斬りつける。
空が飛べるのを利用して、頭部、胴体、両腕、両足と何度も切り刻んでゆく。
やがて、スカルドラゴンは痙攣を起こし、動かなくなった……。HPが0になったのだ。
イヴ「妹と――――」
心「――――お姉ちゃんの勝利!」
だが、未だ、スカルドラゴンの群れは健在である為、すぐにイヴと聖心は気を引き締める。
その圧倒的な戦闘を見て、蓮恭二は焦っていた。
恭二「弱いままではイヴ様を護れないんだ。姫乃を護れないんだ……」
その呟きを聞いている者は――――
恋歌「お兄ちゃん……」
――――恭二の妹 恋歌しかいなかった。




