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創世する世界のイヴ # Genesis to the world's Eve  作者: 遍駆羽御
本編―――― 第3章 眠れる天賦
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第89話 キズアト

 

 第89話 キズアト


 視点 凪紗南りりす

 場所 地球 旧世界 東京都 千代田区、地球 新世界 東京都 凪紗南市 女王の館

 日時 2033年 4月9日 午前 5時03分


 今まで身体を包んでいた暖かみが急に消えて何故だか、身体が軽くなった。意識がすっーと覚醒してゆくのを我は何処か、自分の事だとは思えず、客観視していた。

 我はその違和感の正体が知りたくて……目を開いた。


 我の視界に何かに驚いて我の着ていた黒猫着ぐるみを白い素肌の胸に押しつけるように抱きしめている凪沙南イヴお姉様と、いつもの如き人を見る目ではなく無機物を観るような冷たい目でこちらを観察しているアイシャ・ローラントの姿が映る。

 抜け殻のような黒猫着ぐるみに目の焦点を当てて、ああ……背中の無数の傷とお尻の火傷を見られたのかと思った。


 我はイヴお姉様に今のような悲しい表情をしてほしくないから、ここへ来てもイヴお姉様達と一緒に入浴することを断り、1人でここ、イヴお姉様とその婚約者達や未来お姉様専用の露天風呂に浸かりに来ていた。


 イヴお姉様が黒猫着ぐるみを床暖房の効いた床に投げやって、我のイヴお姉様とは寸分違わないサイズの身体を首に両腕を回してぎゅっと、強く抱きしめてくれた。

 ほんわかとした熱がイヴお姉様の素肌から、我の素肌に伝う。


 イヴ「何故、予に! 予に早く言わなかった、りりす。予ならば、りりすの背中の傷やお尻の火傷をすぐに治せるのだ」


 りりす「我は……イヴお姉様に今のように泣いてほしくなかった」


 銀の宝石と金の宝石のようなオッドアイからぽろぽろと零れる真珠大の涙に、我がこの傷を如何に負ったか? 話すべきではないと思い――――


 *


 華井恵里の我とよく似た顔がサディスティックに歪む。我の背中にはいつものようにお母様の期待に応えられなかった傷が刻まれる。

 我は我の中に在る勇者 凪沙南春明……お父様の優しさに従っていた。牢屋の鉄格子に手錠で繋がれたお父様はいつも、我の事をイヴお姉様と勘違いしていた。お父様は妻であるリン・クイーン様を目の前で妹のように慕っていたお母様に焼き殺されて……精神が病んでしまっていた。


 恵里『りーちゃん、どうしてお仕事を真っ当にできない?』


 お母様が素肌を晒している我の背中に鞭を入れた。背中の皮が破れて、赤い肉からそれよりも赤い血が流れた。それにも何ら感情を動かさずにお母様は鞭を振るう。


 恵里『裏切り者を惨たらしく処理するのがりーちゃんのお仕事』


 鞭が振るわれる。

 我は当時、応える気力がなかった。

 何に?

 お母様の望む裏切り者への処置?


 恵里『教えたでしょ? 女は優秀な種馬に無理矢理犯させて”使い捨ての兵士”となる子を産ませなさい。男は性器を折って痛みに苦しむ顔に唾を吐き捨ててやりなさい』


 鞭が振るわれる。

 我は当時、応える気力がなかった。

 何に?

 お父様が我に語る理想の“いーちゃん像”に。


 恵里『ふふふっ、さすが出来損ないでも私の子。痛みに強い。悲鳴一つ上げない。でもね、りーちゃん、私はドS、それじゃあ、満足しないのよ』


 鞭が振るわれる。

 我は当時、応える気力がなかった。

 何に?

 我に世界が求めているであろう役割に……だろうか?


 我は解らずにただ、耳を塞いでいた。暗い暗いお仕置き部屋を蝋燭達が灯す世界で。


 お母様はその世界を照らす蝋燭の一本を取ると……我の顎に手を添えて無理矢理、お母様の黒い瞳と目を合わさせた。

 いつも、お母様の瞳には暴虐的な憎しみの炎が宿っている。その瞳を間近で観ることは我の中では一番の恐怖であり、いつか、その瞳が晴れて……娘として我を愛してほしいとも思った。

 我の銀色の両眼が蝋燭の炎に戸惑うのを認めて、お母様はにやりと微笑んだ。


 恵里『そう、そうよ! いい顔になったわ、りーちゃん。今度、裏切り者の首を一撃で吹き飛ばすなんてつまらない死刑執行をしたら、りーちゃんのすべすべお尻がカチカチ山の刑よ』


 普通の母親ならば、可愛い娘にそんな事はしないだろう? しかし、我のお母様 バベルの塔のリーダーである華井恵里はそれを簡単にやってのけた。


 *


 ――――我はその懐かしくも、怖い過去を優しいイヴお姉様がお母様と同じ憎しみの色に染まってほしくないので……そっと、貧乳にしまいこんだ。


 りりす「否……。我はただ、イヴお姉様に嫌われたくない」


 イヴ「誰が嫌う? 可愛い妹を嫌う理由なんてない。予はずっと、りりすと共に生きていくのだ」


 生きていくのだという悲鳴にも似たイヴお姉様の言葉が胸に響く。しかし、それはできない。


 我はバニッシュ ヒューマンであり、そのバニッシュ ヒューマンとは原因は不明であるが……徐々に身体が透明になるのが早まり……やがて、消滅する治癒不可能な体質である。今は辛うじて、我は経験値を存在の糧に変えて生き長らえているだけのお母様の言う通り、出来損ないだ。


 我はその事実にいっそう、悲しみの海に身を沈めた。


 イヴ「大丈夫なのだ! こんな傷跡はそれを負った過去と共に予がキレイキレイしてあげるのだ」


 アイシャ「近親相姦希望厨二皇女、安心してイヴの治癒の加護を受けると良いですよ」


 イヴお姉様の手のひらが優しく、我の烏色の髪を撫でる。それは泣き虫な幼女を慰めるような慈愛に満ちていた。

 だから、我は自然と微笑んでいた。本当の笑顔は、本物の感情は弱点になるから常に感情を偽れとお母様に教えられていた我には難しいことだった。

 イヴお姉様の身体が銀色に輝く。その光は膨大な魔力の才能の光。人間の可能性を越えている輝きはイヴお姉様の一つの言霊に集約されてゆく。


 イヴ「治癒魔法 エンジェル ヒール」


 治癒魔法の効果が我の無数の背中の傷とお尻の火傷を消してくれる。我はその効果を知るべく、イヴお姉様の慎ましやかな胸元から抜け出して、脱衣所の鏡へと急いで確かめに行った。


 驚いた……。


 唯一の治癒魔法の使い手 イヴお姉様のエンジェル ヒールの効果は無数の背中の傷とお尻の火傷を消しただけではなく、肌を赤ちゃんのような潤いにまで戻してくれた。12歳と若い我の肌でもこのような実感があるのだから、美容マニアの熟女世代には羨ましがられる効力であろう。


 イヴ「どうであろうか? これが予の治癒魔法なのだ! えっへん」


 お姉様らしいことができたのが嬉しいのだろうイヴお姉様がはしたなくも、両腕を腰に当てて立っていた。


 りりす「完璧ぞ、我がお姉様。これが治癒魔法。恐るべき効果……」


 アイシャ「さぁ、これで恥ずかしがり屋のりりすは改善されたはずです。さっさと露天風呂に入りましょう。涙はシャワーで洗い流して下さい。心優しい私には涙は毒なんです」


 心優しいという部分には、目が常につまらないと語っているにカスタマイズを施したかったが確かにアイシャの言う通り、いつまでもここで治癒魔法の効力を実感している訳にはいかない。


 我はイヴお姉様の両手を取って、礼を言う。


 りりす「イヴお姉様、ありがとう」


 イヴ「お礼はここに」


 そう言って、イヴお姉様は自分の艶やかな唇を指さす。


 イヴお姉様の望む通りに我はそっと、口づけを交わした。

 アイシャが恨めしそうにしていたので、我はそんなアイシャに意地の悪い言葉をいつもの無表情&棒読み仕様で言う。


 りりす「ここからはずっと、我のターン」


 アイシャ「な! まさか、近親相姦希望厨二皇女! 貴様っ」


 だが、アイシャの言葉よりも早く、我はもう一度、イヴお姉様の唇を堪能する。

 好きな者同士のキスがこんなにも心が癒されると我は思いもしなかった。

 さらにもう一度、イヴお姉様にキスをする。


 イヴ「予の妹は甘えんぼうさんなのだ。仕事が終わったら今日も一緒に朝ご飯を食べるのだ。今日は献立表通りならば、納豆なのだ」


 りりす「我は納豆が好きぞ。ネバネバ地獄に雁字搦めにされる豆達を掬い、地獄から抜け出したと歓喜する豆達の身体を我の白き歯で噛み砕く。くくくっ……最高の催しよ」


 イヴ「りりすは大げさなのだ。予は納豆の頭が良くなるとこが好きなのだ」


 我とイヴお姉様は仲良く手を繋いで、露天風呂へと続く扉を開いた。


 もくもくと上がる煙は全て、露天風呂の湯から発生している。

 露天風呂はとんでもなく、広い。湯は500人以上、一遍に入れそうだ。

 身体を洗う場所も同様か、それ以上のスペースが取られていて、全て、天然の岩で構築されている。足をケガしないように、色合いはどうか? と厳選された岩には圧巻だ。


 イヴ「りりす、知ってる? ここの効能」


 りりす「知らぬ」


 イヴ「ここの効能は切り傷、あらゆる病、ストレス、あがり症、悪阻、成人病、皮膚病、口の悪さまで効く」


 りりす「さすが、露天風呂。チートな効能。我は露天風呂のスペックを侮っていた」


 アイシャ「全ての露天風呂がこんなにも豪華なわけではありませんよ、と付け加えておきましょう」


 りりす「今日から我は正式にりりす第二皇女か……。責任重大だ」


 イヴ「難しく考えることはないのだ!」


 両手を広げて、イヴお姉様は我の皇族入りを歓迎するように話を続ける。


 イヴ「日本の頂点 皇族として規範になるような人物像を思い描いて、それに近づくように日々、励む。それで国民の声をよく聴き、その意見を吟味して、政治の世界に関わってゆくのだ」


 りりす「我はイヴお姉様を規範にして頑張るぞ」


 イヴ「嬉しいことを言ってくれるのだぁー」


 アイシャ「イヴ、頑張らないといけませんね?」


 イヴ「おう! なのだ」


 イヴお姉様は高々と拳を上げて頑張るぞ! と自分に誓いを立てる。

 本当に凛々しくもあり、無邪気でもあり、強くもあり、弱くもあり……と様々な心の有り様を我に万華鏡の色合いの如く、魅せてくれるお姉様だと……温泉の湯が出るシャワーを浴びながら、我はそう思った。


 一時間後、入浴の済んだイヴお姉様は宣言通り、とても、素早い筆運びで異世界 リンテリアにあるクイーン王国の女王様としての書類仕事をわずか、1時間で終える快挙を成し遂げた。


 イヴ「どうだ、りりすよ? これが姉の力」


 りりす「我のお姉様に相応しい。これならば、クイーン王国の民は幸福の道を未来永劫、歩み続けるでありましょう」


 イヴ「まだ、予は恐ろしいことに力の半分しか出しておらぬ」


 りりす「な、なんだって………」


 イヴ「予が全力でやれば、どうなることか……」


 りりす「どうなるんです。我、混沌より舞い降りた漆黒のプリンセス りりすの姉 イヴお姉様」


 真央「なんで、この2人、揃って微妙に厨二病入りしてんの?」


 セリカ「そうですか? 和やかな姉妹の会話に見えます」


 アイシャ「雌豚がイヴに媚びを売っている」


 真央「あー、観る人によって印象が変わるって奴ね。ノーマルが好きな奴もいれば、百合が好きな奴も、勿論、BLが好きな奴もいる。価値観の差か」






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