3−4:段取り八分と言う通り、事前の打ち合わせは入念にしよう
さて、いつの間にやらリーダーを仰せつかってしまったわけだが……任された以上は、責任をもって役割を果たす所存だ。
そのためには、何よりもまずやるべきことがある。
「では、最初に陣形と役割を決めておきましょうか」
「「陣形(ですか)?」」
朱音さんと陽向君から、すぐにリアクションが返ってくる。その後ろでは藍梨さんとガードマンの人たちが頷いてくれている。無反応だと聞いてくれているのか分からないので、俺としては非常にありがたいところだ。
「ええ。俺と朱音さんの2人だけで探索するなら、その辺りは臨機応変でも良いんですがね。大人数になればなるほど、そういう対応は難しくなるものです」
人間というのは十人十色、1人として同じ人はいない。ゆえに、放置していては進もうとする方向が全員バラバラになってしまう。
人数が少なければ修正はすぐ利くが、多人数になればなるほど方向修正は難しくなる。走りながらの修正などは、ほぼ不可能といってもいいだろう。
「なので、ここで大まかに役割を決めてしまいましょう。よほどの事が起きない限りは、皆さんにはその役割に注力してもらいます」
第3層までは、多分そのままいけるだろう。これだけの人数がいて、なおピンチに陥る場面が想像できないからな。
……さて、最初は分かりやすいところからいくか。
「まず、ガードマンの皆さんは6人全員で藍梨さんの周りを固めてください。やり方は全てお任せします」
これは決定事項だ。6人もいるのだから2人くらいは……などと思ってはいけない。彼らの雇い主が会社である以上、会社幹部である藍梨さんを守る以外の仕事は全て優先順位が低くなる。
それに、彼らは俺なんぞより要人警護のコツが分かっているプロだ。相対する敵が、暴漢の類いではなくモンスターだという点だけは若干の不安要素だが……色々と体験する中で適宜修正していくだろう。その辺りは全て任せてしまえば良い。
「次に、藍梨さんは本来の目的である情報収集に専念してください。
……ただ、先に申し上げておきますと、ダンジョン第4層はモンスターだらけで非常に危険です。道中でギフトを使った戦いに慣れておいた方が良いかもしれません」
「うむ、承った。戦いに参加する際は、恩田殿に声を掛けさせてもらおう」
「お願いします」
藍梨さんの目的はダンジョンの情報収集であって、戦うことではない。第2層、第3層は比較的余裕があるので、藍梨さんが一切戦わなくても踏破はできる。
……ただ、その状態で第4層に踏み入るのは非常に厳しい。ギフトを使った戦いがままならないようでは、いくら周りをプロのガードマンが固めていても危険過ぎる。
まあ、情報はしっかりと伝えたから、藍梨さんなら程よく動いてくれるだろう。
「次に、陽向君は……基本は自由行動でお願いします。特に後方を中心に気にかけてもらえれば、俺としても助かりますね」
「了解しました」
「朱音さんは先導役で、俺がその後ろに付くよ」
「分かったわ」
朱音さんと俺は、当然前方に立つ。そうすると後方がお留守になるので、【遊撃手】の陽向君にカバーしてもらおうと考えている。
「配置説明は以上ですが、今のうちに確認しておきたいことはありますか?」
「では、私から聞いてもよろしいか?」
藍梨さんがスッと手を上げる。
「どうぞ」
「では、私からは2点聞きたいことがある。
まず1点目だが、陽向を配置したとはいえ、ダンジョン未経験者が後ろに固まっている関係上少し後方が手薄に感じる。もしバックアタックが発生した場合は、どう対応すべきだろうか?」
「陽向君には後方警戒をお願いしていますが、万が一の場合は俺もフォローに動きます。魔法主体で射程距離が長いですし、補助魔法も回復魔法も使えますので。その場合でも、朱音さんには前方に注意を払ってもらいます」
「なるほど、了解した」
もっとも、初見ならばいざ知らず……ある程度ダンジョンに慣れた後のガードマンの人たちが、おめおめとモンスターの突破を許すとは思えないが。最初にフォローする必要があるかどうか、くらいでしかないとは思う。
だが、そんな些細なことでも認識のすり合わせは非常に重要だ。ほんの僅かな認識のズレから、致命的な結果を招いた例は過去にいくつもあるからな……。
「では、2点目の確認だが。第2層からは、ブラックバットという飛行型のモンスターが現れると聞いている。上空からの奇襲に対しては、どのように対処すべきか?」
「まずは守りを固めるのが肝要です。実際にブラックバットの体当たりを食らったことがありますが、備えていれば大きなダメージを受けることはありません。そうして攻撃を防いだ後、高度とスピードが落ちたブラックバットにカウンターを仕掛けるのが最も安定した倒し方になります。
……まあ、基本は陽向君の弓攻撃と俺の魔法で、近付かれる前に撃ち落としますが」
「それは本当にできるのか? ブラックバットは黒い体で視認しにくく、羽ばたき音も小さいと聞くが」
「できますよ」
なんせ、俺にはコレがあるからな。
「"オートセンシング・フォー"」
もはやコレ無しの探索など考えられないほどの、俺的傑作魔法を発動させる。アイテムボックスやライトショットガンなどと比較すると非常に地味だが、この魔法の有無で探索の難易度は大きく変わってしまう。それくらいに強力な魔法だと俺は考えている。
「それは?」
「いわゆる、測距センサーの魔法版です。遮るものさえ無ければ、例え頭上でも背後でも、すぐにモンスターの接近を検知できます。人が密集していると使えなくなるので、位置関係的に後方はどうしても検知し辛くなりますが」
それもあって、後方が手薄にならないような配置にしたつもりだ。
……まあ、俺の話を聞いたガードマンの人たちが後方を少し厚くするよう立ち位置を調整しているので、あまり心配はしていないが。
「ついでに、この魔法は常時発動型なので隙はありません。いつ、何時の奇襲にも対応可能です」
「……しかし、常に魔力を消耗するのだろう? 道中で魔力切れになってしまうのではないか?」
その懸念はもっともだが、もちろん大丈夫だ。
「それも問題ありません。魔力消費量より自然回復量の方が上回っていますので。休憩中の回復速度を上げるために切ることはありますが、別に切らなくとも魔力回復には支障ありませんし、道中で魔力切れになることもありません」
「そうか……」
それだけ言うと、藍梨さんが何かを考え始めた。彼女からは、これ以上の質問はなさそうだな。
「さて、他に質問があればどうぞ」
「では、僕から1つよろしいですか?」
「どうぞ」
次は陽向君か。
「敵を発見した時の合図はどうしましょうか? おそらく恩田さんから僕、あるいは朱音さんに伝えていただくことがメインになると思いますが、数、方向、空か地上か、が大雑把にでも分かるとありがたいですね」
……いいね。陽向君もしかしなくても、会社では結構な優良社員なのではなかろうか? まあ、そうでなければ藍梨さんから声がかかるわけが無いので、当然と言えば当然だとは思うが。
自身の役割を噛み砕いて理解し、その場その場で何が最も重要なのかを察する。この場合、情報伝達の"正確性"より"即応性"の方が重要だということを分かってくれているのは、俺としても非常にありがたい。
「そうですね……数字3つで合図するのはどうでしょうか? 最初の1つは敵の数、次の数字は方向、最後の1つは地上か空か。方向は進行方向を0時とした時の、時針の方向。地上は1、空は2で表現しようと思うのですが。陽向君は、どう思いますか?」
「……僕も色々と考えてみましたが、それが一番シンプルで覚えやすそうですね。一旦それで試してみましょう、朱音さんもガードマンの皆さんも、それでいいですか?」
「ええ、大丈夫よ」
「よし、ではそうしましょうか」
ガードマンの人たちが頷いてくれたので、しばらくはこの合図で行くことにする。だめならまた考え直せばいい。
「他に質問は……無さそうですね。というわけで早速、あっちが基準で『2、0、1』です」
「「!」」
ゲート前広場から伸びる3本の通路、その中央の通路を指差しながらモンスター接近の合図を告げる。中央通路からブルースライム2体が這いずってくるのが見えたが、ちょうど朱音さんと陽向君が後ろを向いていたので、練習がてらサインを出してみたのだ。
今日は他の探索者もかなりいたはずだが、倒しても旨味が無いせいかやはり無視されたようだ。
「なるほど、あれがブルースライムですか……戦ってみてもいいですか、恩田さん?」
「ええ、今のうちにギフトの使い方に慣れておいてください」
「分かりました、では行きます!」
流れるような手捌きで、陽向君がブルースライムに向けて弓を構えた。
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