4−86:第21層、夜の砂漠地帯
「よし、拠点設営完了っと」
「多めにテントを持ってきて良かったわね」
「ああ、そうだな」
第21層への下り階段に並ぶ、カラフルな屋外キャンプ用テント。1張あたり2人寝られるそれを4張並べ、全員がテントの中で寝られるようにした。寝袋も人数分――もちろん、仲間モンスターの分も含めて――用意して、準備は万端整えた……つもりだったのだが。
「なんか、段差の外にちょっとはみ出てるな」
「下に滑っていかないわよね?」
「さすがに大丈夫だと思うけど……」
ダンジョン床面にペグが刺さらないのは分かっていたので、自立式のテントを持ってきたまでは良かったのだが……ステップよりもテント幅の方が大きく、やや外にはみ出るような形となってしまった。それでもステップ自体が広いので、見た目はちゃんと水平を保っている。
……ただ、やはり若干の不安感はある。
「段差に合わせて平らな用地を確保できる、スペーサーみたいなのが要るかもな」
「どちらにせよ、ブルースライムが寄ってきそうね。テントとかスペーサーとか、食べ物と勘違いして来そう」
「うーん、やっぱり見張りは必要か。それか、ブルースライムでも溶かせない材質の物を作れたらいいんだけどな……」
戦闘力という観点では、ブルースライムは全く脅威になり得ないが……ダンジョン内に拠点を築くとなると、一気に厄介な存在と化す。
何でも溶かすし、どこにでも現れるし、接近音が小さいしで3重に最悪の存在だ。強いモンスターほど体が大きく、歩くだけでもかなりの音を辺りに撒き散らすものだが……ブルースライムの場合は、ほんの少し這いずる音が聞こえるだけ。壁も天井も構わず移動し、金属だろうとなんだろうと容赦なく溶かしていく。
ダンジョンオブジェクト以外の物体がダンジョン内に長く存在できないのも、全てブルースライムのせいだからな。前衛型探索者にとっても嫌な存在だし、隠れた厄介者と言えるかもしれないな。
「あ、そう言えば姉様がダンジョン探索者向け道具の開発を始めたんだって。社員の声を拾い上げて、探索者の役に立つツールを作っていくつもりみたいよ?」
「え、マジ?」
おいおい、どんだけ手広くやってくつもりなんだ? 凄いな藍梨さん、まさに行動力の塊みたいな人だな……。
「テスターを是非、って言ってたわ」
「ああ、楽しみにしてますよって伝えてくれ」
藍梨さんのことだから、下手な物はよこしてこないだろう。
「よっし、拠点の設営も終わったことだし……そろそろ、第21層に行ってみないか?」
「そうだな……っと、その前に……」
離れた隙にブルースライムが来てしまっては、せっかくの拠点設営が無駄になってしまうからな。索敵は念入りにやっておく。
「……うん、居ないな。よし、第21層に行ってみようか」
「了解、楽しみね〜」
「どんなモンスターが出てくるのでしょうか……」
ここから先にたどり着いた探索者は、3年間でごく僅かしか居ない。当然情報も少なく、完全に手探りでの探索になる。
果たして、鬼が出るか蛇が出るか……あ、どっちももう出てきてるか。ゴブリンは小鬼だし、ステルスネークは蛇だし。
ならば、砂漠の狐か虎でも出てくるのかな。少なくとも、リザードマンやオークより強いモンスターが出てくるんだろうさ。
◇
「……うぉ、すげぇな」
「なんだか海外に来た気分ね」
初めて下りた第21層の光景に、全員が息を飲む。日本ではなかなか見れないような風景が、目の前に広がっていた。
「鳥取砂丘よりデカくないか?」
「あれも結構凄いらしいわよ? 残念ながら、まだ行ったことはないんだけど……」
ハートリーさんから聞いた通りの砂漠地帯だったが、外が夜だからか砂漠地帯も夜であり、極寒というほどではないがかなり寒い。体感的には摂氏10度いかないくらいの気温、といったところだろうか。
後ろを振り返ると大きな岩があり、くり抜かれた中にさっき通ってきた上り階段が見える。鶴舞ダンジョンの第5層でも大岩の中に階段があり、それと同じような見た目をしていた。
……大岩の上空に階段が見えない点も同じだ。大岩の中を覗くとちゃんと上まで階段が続いているのに、大岩を外から見ると階段が消えて無くなっているように見えるのだ。空間が捻じ曲がってるのかは分からないが、ダンジョンの不思議を感じる光景となっている。
あと、砂漠は一見するとどこまでも行けるように見えて、実際は断崖のように高くて急な砂丘が俺たちを囲うように存在している。ハイジャンプの魔法を使うか、あるいはフェルに頼めば簡単に飛び越えられる程度の高さでしかないが……果たして、そこまでする必要があるのか。
宝箱や試練の間を探すとかであれば、そういうムーブも必要かもしれないのだが……さすがに第21層は深すぎる。万が一のことがあった場合に、地上までの距離があまりにも遠すぎるのだ。仮に何か見つけたとて、リスクを考えると躊躇せざるを得ない。
……ポーションを隠し持ってる俺とて、決して他人事じゃない。使う前に命を落としたら、意味が無いからな。
「………」
第21層も階段前は広場になっており、周囲を背の高い砂丘に囲まれている。広場の出口は一方向にしか無く、他には砂漠の定番・サボテンが3本ほど広場内に生えている以外は、特に目に付くものは無い。
「……盾、展開」
――ブォン
だからこそ、そのサボテンがすごく怪しい。サボテンに生えた棘があまりにも長く、そしてあまりにも太すぎるからだ。その見た目からして、こちらを害しようとする意思をヒシヒシと感じる。
「【鑑定】」
防壁をドーム状に展開して安全を確保し、【鑑定】を行使する。残魔力はあと半分くらいか……オノドリム戦で思ったよりも使わなかったから、まだ魔力には余裕があった。
☆
名前:ニードルカクタス
種類:通常モンスター
スキル: なし
属性耐性:火 (半減) 水 (半減)
状態異常耐性: (スキルレベル4が必要)
弱点: (スキルレベル2が必要)
説明:砂漠地帯に生息するサボテン型モンスター。過酷な環境に適応し、植物でありながら肉食獣のような好戦的な意思が宿っている。
近くを通るか、遠距離から攻撃を受けると地面から出てきて動き出す。通常の打撃攻撃の他、突進攻撃や針飛ばし攻撃を使用してくる。
(スキルレベル5が必要)
☆
「う〜わ、やっぱりモンスターだったよあのサボテン。ニードルカクタスって名前で、近付くか攻撃したら動き出すらしい」
「うん、さすがに怪しすぎたのです」
単なるダンジョンオブジェクトかどうか判断が付かなかったから、試しに【鑑定】を使ってみたのだが……どうやらモンスターだったらしい。不用意に近付かなくて正解だったよ。【鑑定】はその辺りの判別もできるようだ。
……それにしても、オノドリムの時とは情報の充実度が微妙に違うな。属性耐性は最初から開示されてるし、他の情報も要求されるスキルレベルが低くなっている。モンスターの手強さに比例して、各種情報の得やすさにもどうやら違いがあるらしい。
追加説明の開示には、なぜかスキルレベル5が必要らしいが……それだけ重要な情報が隠れてるってことか? 弱点属性や状態異常耐性の情報よりも重要度の高い情報なんて、そうそう無い気はするが……。
「火属性と水属性は、両方とも効果半減らしい。そうなると、弱点属性はなんだろうな?」
相反する属性が両方とも半減されるとなると、弱点属性を想定するのが非常に難しくなる。火属性だけ無効、とかなら水が弱点だとすぐ分かるんだがな……。
その他の属性となると、例えば氷属性だろうか? ただ、夜の砂漠は結構寒いからな……それにも耐えられるなら、案外雷属性とか闇属性とか、そういったマイナー属性が弱点なのかもしれない。
「とりあえず、俺は雷を落としてみるか。棘飛ばし攻撃と突進攻撃がくる可能性があるから、みんな注意してくれ」
「了解よ。それなら私は、風の刃あたりを飛ばしてみようかしら」
ここは、全属性の攻撃魔法が使える菅沼さんの出番か。弱点を早めに押さえておけば、倒すのに手間がかからなくなるしな。
……周囲に怪しい影は無い。とりあえず、ニードルカクタスに一当てしてみるか。
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