4−85:オノドリム戦を終えて……
――ゴゴゴゴゴゴ……
「おっ、下り階段が出てきたな」
オノドリムが居た場所から、少し奥に進んだ辺りの地面が左右に開いていく。そこから、さらなる下り階段が姿を現した。
……これで、まずは今回のダンジョン探索の目的を果たすことができた。第20層ボス討伐、完了だ。
「いや〜、面倒な相手だったな、オノドリム」
大戦斧を背中に背負い戻しながら、嘉納さんがしみじみと呟く。どこかホッとした様子なのは、日本の一般探索者としては初めて第20層のボスを倒すことができて、肩の荷が下りたからだろうな。
……嘉納さんと菅沼さんは、日本一の一般探索者として界隈では有名だ。その分プレッシャーも半端なかっただろうし、立場的に第20層突破一番乗りはマストだったはずだ。それが達成できたなら、肩の荷も下りるというものだろう。
「一撃で幹を3割斬った人の言葉とは思えないな」
「むしろ、3割しか入らなかったんだよ。ラッシュビートルなら確実に両断できてた一撃だぞ? それを耐えるんだから、さすがはボスモンスターだなって感心してたんだぜ?
……しかし、オノドリムとは不思議な名前だな。あの見た目だったら、エントとかトレントみたいな名前になるのが自然な気もするが」
「確かに」
そういえば、第15層から森林地帯だったのにそういう通常モンスターはついぞ出てこなかったな。まんま木の姿をしたザコモンスターなんて、RPGでは定番の存在だと思うのだが。ド◯クエにも"じんめんじゅ"とか居たりするしさ。
……まあ、ダンジョンオブジェクトの木と見分けが付かないとそれはそれで困ってしまうし、ボス限定ならそれでもいいか。
「恩田さん、オノドリムが落としたのはランク4の装備珠のようですよ」
「ひゅいっ!」
いつの間にか、三条さんとコチが魔石と装備珠を拾ってきてくれた。器用にも風の魔法で浮かせて運んでくれたようで、【仲間呼び】2回で大量に出てきたフォレストスパイダーのドロップ品を含め、結構な数の魔石と色とりどりの装備珠が宙を舞っている。
その装備珠の中で、オノドリムがドロップした物だけは別にしてくれていた。理由は、おそらく……。
「……なるほど、ランク4か」
武器珠を1つ受け取り、中を覗く。そこに浮かぶ"4"の数字は、この武器珠が間違いなくランク4であることを物語っていた。
続けて防具珠と装飾珠を覗き込むと、同じく"4"の数字が踊っているのが見える。どうやらオノドリムは、ランク4の装備珠3種を確定ドロップするようだ。
「ここで、これがドロップするということは……」
ここから先、第21〜30層の攻略にはランク4装備を揃えていく必要があるってことだろうな。もちろん、そう考えた根拠はある。
第11〜14層で初登場したモンスター……オークやリザードマン、ダイブイーグルといったモンスターには、ランク3装備でないと苦戦する程度の強さがあった。第15〜19層は出てくるモンスターの毛色が多少違うものの、それでもグリズリーベアやヘビータートルといった強敵枠のモンスターには、ランク3装備がマストとなるくらいの強さがあった。ボスのオノドリムは言わずもがな、ランク3フル装備でようやくまともな戦いになる……といったところだろうか。
そして、その前の第10層ボスのゴブリンジェネラルは、ランク3装備珠を確定ドロップした。ボスモンスターがドロップする装備珠のランクは、その次の10層を戦い抜くのに必要な装備ランクの目安になっているのかもしれない。スキルやギフトでカバーできる部分は多々あるが、安定して戦うならやはりそれくらいのランクの装備は必須なのだろう。
「それで、ここから先はどうなってるんだろうな?」
これまで、洞窟、渓谷、山道、森林とダンジョン環境は変遷していった。この第20層を越えれば、また新たな環境が待ち受けているだろう。
……ただ、そこには少し気になる情報が含まれている。
海外……正確にはアメリカだが、かの国の一般探索者勢の最深到達階層は第26層だ。俺たちもだいぶ迫ってきたが、向こうは更に先へと進んでいるわけだ。
……だが、アメリカの場合は3年先行したうえでのそれなのだ。特に第20層を越えてからは、1層進むのにかなりの時間がかかっているらしい。
ここから、ダンジョンの難易度が第21層から大きく上がっているのではないかと思うわけだ。
「あ、ワタシ知ってるヨ〜。なんかネ、次は砂漠地帯なんだってサ」
「砂漠?」
砂漠か……。
「暑そうだな」
「昼はすごく暑いケド、夜はすごく寒いヨ」
「昼夜が切り替わるのか?」
「うん、そうだヨ。外の時間と一緒かもって、誰か言ってタ」
外が昼なら砂漠も昼モードで、外が夜なら砂漠も夜モードってことか。それはまた厄介な。ダイブイーグルやステルスネークのような、環境を味方に付けてくるモンスターだけでも対処が大変なのに……今度は環境そのものが敵に回るのか。
第20層までは、極端に人が過ごしにくい環境にはなってなかったからな。ここから、ダンジョンも本気を出してくるってことか。
「次のテーマは、悪環境への適応か……」
「うぇ〜、暑いの苦手……」
「冬場じゃなくて良かったな。熱順応が大変になるところだったぞ」
朱音さん、暑さには弱いもんな。
「寒さもあるじゃないの」
「そういえばそうだった……」
……聞いたばかりなのに忘れてたよ。砂漠と聞くと灼熱のイメージがあるから、夜は寒いってことをすっかり忘れてしまうんだよな。
暑さも寒さもある程度は【付与魔法】で対策できそうだけど、長時間となると魔力切れが怖いな。他に何かしら対策を考えておこうかな……。
「ああ、そうだ。ドロップ品の分配なんだけど、どうしようか、嘉納さん?」
「あ〜、それなんだがな。第19層までに得たドロップ品は全てそちらで、オノドリム戦でドロップしたアイテムだけ俺たちに貰えないか?」
嘉納さんが即座に提案してきて、菅沼さんもしきりに頷いている。オノドリムの魔石にランク4の3色装備珠、後はフォレストスパイダー31体分のドロップ品か。確かに、ランク4の装備珠は貴重品だが……。
「嘉納さんと菅沼さんが損してないか?」
いくらなんでも個数が違い過ぎる。ボスモンスターならドロップテーブルにスキルスクロールが含まれていそうなものだが、今回はドロップしなかったしな。その点でも、俺たちに有利すぎる分配だろう。
……とは言うものの、俺の場合は少し感覚がおかしくなっているかもしれない。やたらと特殊モンスターに遭遇し、そいつらが高ランクの装備珠をドロップしたせいで、今さらランク4の装備珠程度にそこまで魅力を感じないのだ。
……ラッキーバタフライという入手先もあったしな。わりと早い段階からランク5の装備珠を手に入れることができていたし、他の探索者とは違ってラッキーバタフライを狙って倒すこともできるしな。ランク4装備珠の価値が余計に低く感じられてしまうのかもしれない。
「俺らだけじゃ、第20層までは来れなかった。今回の探索で俺たちに足りないものがよく分かったし、攻略方法を考えることの大切さも身に染みてよく分かった」
「その足りないものを補ってくれそうな人まで紹介してもらえるのだから、私たちからすれば至れり尽くせりよ。だから本当は、全部差し上げたいところだけど……それだと恩田さんが納得しないでしょ?」
「まあな」
ここまで一緒に探索してきて、嘉納さんと菅沼さんの実力が光る場面は何度もあった。そうしてちゃんと活躍しているのに、タダ働きなんて絶対にあり得ないだろう。
オノドリム戦のドロップ品限定なら、分配も楽だからな。まだアイテムボックスに入れていないのだから、外に出ている物をそのまま渡せばいい。
「……みんな、オノドリム戦のドロップ品は嘉納さんと菅沼さんに渡してもいいか?」
「「「「賛成」」」」
「きぃっ!」
「ぐぁぅっ!」
「ひゅいっ!」
「ざぶぅっ!」
特に反対意見は無さそうだったから、その方針でいこうかな。
……そうだ、これも確認しておかないと。
「……ところで、第21層、少し覗いていくか?」
今、外は夜の時間だ。もしハートリーさんの情報が正しければ、砂漠は極寒の世界となっているはず。せっかくここまで来たので、確認がてら軽く足を踏み入れてみようと思うわけだ。
「私は賛成よ。そのうち挑戦するのだから、1度見ておきたいわ」
「私も賛成なのです」
「私も、見ておきたいですね」
「きぃっ!」
「ぐぁぅっ!」
「ぱぁ」
とりあえず、亀岡組は賛成と……アキはちょっと嫌がってるが。植物からしたら、砂漠は過酷極まりない環境だからな……その反応も当然か。
長居するつもりは全く無いから、少しだけ我慢して欲しい。
「ぜひ行きましょう」
「私も見てみたいネ〜」
「ひゅいっ!」
「ざぶぅっ!」
留学組も賛成か。後は嘉納さんと菅沼さんだけど……まあ、答えは分かりきってるよな。
「俺も賛成だ。できれば1戦くらい交えておきたいが、疲れもあるからそこまでは求めない」
「そのまま階段で長めの休憩かしら。帰途につくのはその後ね」
「ああ、俺もそのつもりだ」
無事に帰るまでがダンジョン探索だからな。オノドリム戦をこなして、皆多かれ少なかれ疲労は溜まってるだろうし……帰り道に備えて、長めの休憩は必須だろう。
一流登山家の人が何かの番組で冗談混じりに言っていたが、登頂を果たした後に涙を流しているのは達成感を味わっているからではなく、下山のことを考えると怖いからだそうだ。実際、山岳事故は下山中の方が多く発生しているそうだから、体力気力を消耗した帰り道こそ気を付けないといけないのだろう。
ダンジョンもそこは同じだ。第20層のボスモンスター討伐を達成したからとて、無事に地上へ帰れなければ意味が無いのだから。
「よし、それじゃあ軽く第21層だけ見に行こうか。それから、休憩だ」
「「「「了解」」」」
全員で階段を下りていく。心なしか、少しヒンヤリとした空気が下から上がってきているように感じた。
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