4−82:VSオノドリム、横浜ダンジョンにて・前編
『マズハ、コテシラベダ』
――バサバサバサッッ!!
俺たちに先んじて、オノドリムが動く。その巨大な木の体を激しく震わせると、生い茂る枝葉の合間から拳大くらいの何か……おそらくは木の実を大量に飛ばしてきた。さすがにあの体では動けないようで、遠距離攻撃を主体に攻めてくるタイプのボスモンスターのようだ。
「……?」
ただ、ライフル銃のように木の実をまっすぐ高速で飛ばしてくるものだと思っていたので、いつでも防壁展開できるよう身構えていたのだが……実際は放物線を描きながら、ゆっくりとしたスピードで木の実が飛んでくる。上から降ってくるというのは避けにくくて少し厄介だが、弾速もさして速くないしよく見て避ければ大した脅威じゃなさそう……。
「……っ!? 盾展開!」
――ブォン
ゆったりと飛んでくる木の実を眺めていると、背筋に凄まじい悪寒が走った。急いでドーム状の防壁を張り、備える。
「あ、えっ、恩田さん? どうかしたのです――」
――バンッ!
――バババババババンッッッ!!
三条さんからの疑問の声を掻き消すように、地面へ着弾した木の実が大きな音を立てて次々と爆ぜる。そこから小さな種子が大量に飛び出し、四方八方へまるで散弾のように撒き散らされた。
――バヂヂヂヂッッ!
種子の弾丸は相当な速度で全方位から飛来してきたが、全てドーム状の防壁で弾き返した。防壁を貫通するほどの威力は無かったようで、俺たち全員無傷だった。
……ただ、威力自体はそれなりに高かったようで、俺の魔力がそこそこ目減りしている。さすがにヘラクレスビートルのファイナルアタックほどではないが、かなり凶悪な全方位攻撃だった。
……もっとも、強力な攻撃ゆえに弱点もあるのだろう。
「木の実手榴弾ってやつか。だが、あまり連発はできないようだな」
『………』
「沈黙は肯定とみなすぞ」
『……フン、ダカラナンダト、イウノダ? ワガコウゲキヲ、イチドフセイダ、テイドデ、チョウシニノルナヨ?』
オノドリムのこれは強がりなのか、それともまだ切り札を隠し持っているのか……引き続き警戒は必要だが、いずれにせよこの攻撃が、相当なリソースを消費するのは間違いない。あれだけ厄介な攻撃なのに、連発してこないのがその証拠だ。
戦闘開始直後でさあいくぞ、と意気込む探索者たちに冷や水を浴びせるための攻撃なのかもしれない。ファイナルアタックならぬ、ファーストアタックとでも言うべきだろうか。ボスモンスターらしい理不尽な攻撃だ。
……そういえば、ゴブリンジェネラルにも"【仲間呼び】を最初に使ってくる"という特徴があったな。しかも無敵時間中に行動してくるので、無理矢理接近して別行動でキャンセルさせる以外に止める方法が無かった。ボスモンスターは戦闘開始直後に、探索者にとって面倒な行動をとるようにパターンが組まれてるのかもしれないな。
『フン、ナラバ、コレナラドウダ?』
――ガサガサガサッッ!
再び、オノドリムが体を激しく震わせる。今度は紫色の実が枝葉から飛び出してきて、辺りの地面に次々と着弾して割れていく。
……その実から、実と同じ紫色の霧が噴き出してきた。見るからに体に悪そうな雰囲気を漂わせているが、俺たち亀岡ダンジョン組にとってはだいぶ見慣れた光景だ。
なにせ、アキの得意技でもあるからな。浴びた相手を毒状態に陥らせる技、毒霧攻撃で間違いないだろう。
「毒霧だ! 三条さん、ヒナタ、コチ!」
「すぐに吹き散らします! "ウインドブラスト"!」
「ひゅいっ!!」
「きぃっ!」
――ゴォォォォッ!!
徐々に濃度を増していく毒霧を押し返すように、激しい暴風が辺りに吹き荒れる。三条さんとコチ、ヒナタの合体技だ。
吹き散らされた毒霧は、毒の実ごとその大半が広場を囲う大木の向こうへと飛んでいく。その間も毒霧の噴出は続いていたが、毒の実の数がだいぶ減ったので毒霧の濃度もかなり薄まっている。これだけ薄まれば、俺たちが毒に侵されることもないだろう。
『フム、ナカナカヤルナ。デハ、コレナラドウダ?』
――ガサガサガサッ!!
再び、オノドリムが体を揺すり始める。今度は一体何を飛ばしてくるのかと思ったが……。
――カサカサカサッ!
「「「「ギチギチ……」」」」
オノドリムの枝葉から飛び出てきたのは、なんとフォレストスパイダーの群れだった。パッと見で15体くらいは居るだろうか、今まで見たことが無いほどの大群だ。
まさか、こいつも【仲間呼び】を使ってくるのか。しかもゴブリンジェネラルが呼び出すモンスターより更に手強いし、数も多い。さすがにゴブリンキングほどじゃないが、相当厄介だぞこれは。
「これ以上の様子見は危険だな」
ある程度、オノドリムの行動パターンを見極めてから攻撃に移ろうかと思っていたが……このまま受け身の態勢を続けるとジリ貧だな。こちらも少しは反撃していこう。
「【ファイアブレスⅡ】」
「ぐぁぅっ!」
――ゴォォォッッ!!!
わらわらと出てきたフォレストスパイダーごと、広場全体を薙ぎ払うようにファイアブレスを繰り出す。そこにフェルがうまいこと合わせてくれたので、炎は大きく勢いを増しながら広がっていった。
かつて試練の間で見た、ワイバーンの【ファイアブレスⅢ】に匹敵する炎がモンスター共に襲い掛かる。
――ゴゥッ!!
「「「「ギチチッ!?!?」」」」
炎は残っていた毒の実ごと、近付いてきたフォレストスパイダーを全て飲み込んだ。フォレストスパイダーの脚力なら跳んで避けることもできただろうに、火を見て本能的に身を竦めてしまったらしい。再起動を果たすより先に炎が到達してしまい、燃え盛る火炎の中から断末魔の声が聞こえてきた。
フォレストスパイダーを焼き尽くした炎は、そのままオノドリムにも襲い掛かり……。
――ゴォォォッッ!
『グッ……』
その体に引火し、激しく燃え上がる……かと思われたのだが。
――ゴォォォ……パシュンッ!
オノドリムを覆っていた炎が、なぜか一瞬で弾け飛んでしまった。後にはダメージを負いつつも、健在ぶりをアピールするかのように体を震わせるオノドリムの姿があった。
……そう、炎は"消えた"のではなく"弾け飛んだ"のだ。だいぶ不自然な挙動だったが、いずれにせよ俺が思っていたほどのダメージは与えられていない。枝葉が一部焼け焦げており、幹にも焦げ跡が付いているので効いてはいるようだが……。
『……フン、ヒヲハナテバ、カンタンニ、カテルナドト、オモッタカ?』
「まさか。ボスをそう簡単に倒せるとは思ってないさ」
『ドウダカナ』
オノドリムはその見た目通り、火属性が弱点なのは間違いないだろう。しかし、あの体に火を点けたところでいつまでも延焼してくれるほど甘くはないようだ。
……分かりやすい弱点に対しては、さすがに対策済ってことか。となると、もしかして他にも弱点があったり……?
『ソノママ、ミテイテ、イイノカ? ヨユウダナ』
「……!?」
――グググググ……
――パサッ
焼け焦げた枝の途中から、綺麗な枝が分かれるようにして少しずつ伸びてくる。その枝が長くなっていくにつれて、葉っぱも枝から次々と生えてきた。
……まさかコイツ、再生能力まで持ってるのか?
「さすがはボスモンスター、多芸だな」
第20層の時点でコレとはな。もっと深層のボスモンスターは、どれだけ面倒な相手なのやら……。
ただし、これくらいならまだ想定内だ。こちらは最大火力を温存している状況だし、まだ慌てるタイミングじゃない。
切り札は、確実に当ててこその切り札だ。勝負を決する一撃を確実に当てるために、もう一当てしてみようかな。
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