4−74:ダンジョン第20層への挑戦
厳重な警備の下、官邸へと戻っていく岩守総理を見送った後。
その足で、俺たちは局長室へと来ていた。今、局長室には持永局長、嘉納さん、菅沼さん、三条さん、ハートリーさんがいる。
「きぃっ!」
「ぐぉぅっ!」
「ひゅいっ!」
「ざぶぅっ!」
「ああ、すまんすまん。もちろん忘れてないさ」
仲間モンスター4人もおり、ここにはフルメンバーが揃っていた。
……そして、このメンバーで話すことと言えば1つしかないだろう。
「さて、嘉納さん、先ほどの件についてですが……」
「あ〜、その前に恩田さん、1ついいですかね?」
「なんでしょう?」
このタイミングで改まって、なんだろうか?
「今さらこう言うのもなんですが、敬語は無しでいきません? 俺の方が年下ですし……」
なるほど、確かに年齢という観点で言えばその通りかもしれないな。ただし……。
「……そうだな、別に俺は構わないが、それなら嘉納さんも敬語は無しだぞ? 探索者歴は嘉納さんの方が長いし、最深到達階層も嘉納さんの方が深いんだからな」
「……そうか? それなら俺としてもありがたい。やっぱりどこか変になりがちでさ、すげぇ喋りにくかったんだよ。今後は普通に話させてもらうから、そこんところよろしくな!」
「全くもう……あ、恩田さん、私も普通に話させてもらうのでよろしくね?」
「もちろんだとも」
嘉納さんだけというのもおかしいので、当然のように菅沼さんとも普通に言葉を交わす。
「ふふ、確かにぎこちなさが無くなりましたね」
「三条さんは敬語を外さないのか?」
「私は、この話し方がしっくりきますので」
そんなものか。まあ、三条家はそれなりに格式の高い家みたいだし、ラフな言葉遣いの方が違和感があるのだろう。
……さて、そろそろ本題に入るとしますかね。
「さてと、嘉納さん。俺たちをここに呼んだ理由なんだが……多分だけど、俺たちに第20層アタックに同行して欲しいってことなんじゃないか?」
「正解だよ、恩田さん」
うん、やっぱりな。俺たちの留学期間も半分以上が過ぎ、そろそろ横浜ダンジョンに慣れてきたであろうタイミングを見計らって声を掛けてきたか……。
「実施日は恩田さん方に合わせて……」
「いや、それは俺たちが2人に合わせよう。ぜひ参加させてもらうよ。それでいいかな、三条さん、ハートリーさん?」
「ヘッ?」
「私たちも参加してよろしいのですか?」
「もちろんだとも」
留学時限定の臨時パーティとは言え、一緒に試練の間を突破した仲だ。第20層アタックという一大イベントに三条さんとハートリーさん、コチとシズクを加えないなんて選択肢は無い。局長室へ呼ばれているのだから、これで誘わないのは失礼にあたるだろう。
……あ、でも1つだけ確認しておくことがあったな。
「ただし、今回は日帰りは無理だ。必ずダンジョン内で1泊することになる。それでも大丈夫か?」
往路だけなら、第20層までは半日程度で到達できるだろう。マッピングしながら進んだとて、そう時間はかからないはずだ。
……ただ、ダンジョン探索は当然ながら帰るまでが探索だ。第20層のボス戦をこなし、そのうえで休憩時間と復路を考慮に入れると絶対に2日間コースになる。それを2人は許容できるのだろうか?
「いいですよ」
「ワタシは気にしないヨ〜」
「ん、そうか」
念のため確認してみたが、2人とも大丈夫なようだ。ハートリーさんはともかくとして、三条さんが平気なのはちょっと意外だった。
……そんな考えが俺の表情に出ていたのだろうか。三条さんがそっと補足してくれた。
「私自身はインドア派寄りなんですが、妹が生粋のアウトドア派でして……よく連れ回されたんです。そのおかげで慣れました」
あ〜、なるほどな。だからこそ、探索者として活動するのに躊躇が無かったわけか。
「よし、それなら一緒に行こう。第20層アタック、楽しみだな。
……あ、そうだ。持永局長にご相談があるのですが……?」
「……ふむ、なんだい恩田さん?」
「ここにいるメンバー全員で、第20層アタックを決行するのは確定なんですが……少し、呼び寄せたい人たちがおりまして」
「……何人いるのかね?」
「最大3人……いや、4人ですかね。確認次第で増減しますが」
「……ふむ、分かった。恩田殿は少し残ってくれ、詳細を確認したい」
「分かりました」
どうせ挑戦するのであれば、みんなでやり遂げたいからな。実現するかは微妙だが、そこは要調整というやつだ。
……果たして、どうだろうか。
◇
そして、4日後。遂に今日は、第20層アタック決行の日だ。
今日は朝早く、エントランスホールに参加者全員が集まった……のだが。そこに、俺にとっては見慣れた人たちも集まっていた。
「えっ、朱音さん!?」
「お久しぶりね、美咲さん」
「私もいるのです」
「……あわわ、わ、私がこんな所にいてよいのでしょうか……?」
「ぱぁっ!」
亀岡ダンジョンから、朱音さん、九十九さん、帯刀さん、そしてアキを呼び寄せていた。もちろん、全員フル装備である。
これができた最大の理由は、【空間魔法】のワープがあったからだ。【空間魔法】のワープは事前にマーキングした場所にしか遠距離転移できず、ダンジョン外では1往復で魔力が無くなってしまううえに自分しかワープすることはできないが……ダンジョン内なら、実は随行3人を連れてマーキングした場所を1往復できるくらいには、魔力消費量を抑えることができる。それを利用して、3人を亀岡ダンジョンから横浜ダンジョンに高速転移させたわけだ。
新幹線等を使わなかったのは、単純に法がそれを許さないからだ。武器を持ったままダンジョン外の公空間を経由することは銃刀法違反にあたるので、こんな回りくどい方法を取らざるを得なかったわけだ。
……だが、幸いなことに亀岡ダンジョンの権藤局長と、持永局長の了承を得ることができた。亀岡ダンジョンでは入場記録のみ、横浜ダンジョンでは出場記録のみが残ってしまうので、両局長に話を通す必要があったのだが……無事に了承を得ることができた。
「それにしても朱音さん、よく連休が取れたな?」
「私の本業ってサービス業だから、ゴールデンウィークはお休みが無いのよね……代わりに、前後で長めの連休が取れるのよ」
「そこはウチも同じなのです!」
そして好都合なことに、兼業探索者である朱音さんと九十九さんが揃って昨日から4連休を取っており……事前に横浜ダンジョンへと呼び寄せておき、朝から合流することができた。
聞けば、朱音さんも九十九さんもサービス業に勤めているがゆえに、ゴールデンウィーク中は休みが取れないらしい。代わりにその前後で休みを取るのだが、今回は2人とも偶然にもゴールデンウィーク前に連休を確保していたようだ。『なんとなく、そうした方がいいような気がしたのよ。だから九十九さんとも相談して、休みを合わせたの』と朱音さんは言っていたが……なんというか、直感とは凄まじいものである。
「それにしても、随分と大所帯になったな。俺に遥花、恩田さん、久我さん、九十九さん、帯刀さん、三条さん、ハートリーさん、ヒナタ、アキ、フェル、コチ、シズク……13人か」
「物資は足りるかしら、恩田さん?」
「余裕だな、なんなら100人単位でもいけるぞ?」
なんせ、アイテムボックスの容量はほぼ無限大だからな。時間経過はさすがに止められないが、保存の利く物を用意すれば解決可能なのだから……。
「……さて、このメンバーで第20層攻略を行うわけだが。リーダーは誰にする?」
「それはもちろん、嘉納さんだろう?」
なんせ、メインは嘉納さんと菅沼さんの2人なのだから。
……そう思って発言したのだが、当の嘉納さんは渋い顔だ。
「いやぁ、俺はちょっとそういう器じゃないんだよな。前線で武器を振るう方が性に合ってるんだよ。
これが、遥花と2人だけならまだいいんだが……さすがにこの大所帯だ。俺はちょっと自信が無いな」
「なら、菅沼さんは?」
菅沼さんにも聞いてみたが、こちらも渋い表情だ。
「亀岡ダンジョン組とは組んだことが無いですし、留学組とも少ししか組んでませんから……できなくはないですけど、ぶっつけ本番は少し不安なのが正直なところね」
「ん〜、まあ確かにそうか」
……となると、だ。
「俺か」
「賛成だな」
「「「「賛成!」」」」
結局、俺がリーダーになるわけだな……。
確かに、亀岡組も留学組も一緒に何度も探索したことがあるから、適任には違いない。
「……分かった、謹んでお受けいたしますよっと」
責任重大だな……まあ、さすがに慣れたけどね。
「よし、それじゃあ行こうか。第20層、絶対に攻略するぞ!」
「おう!」
「「「「はい!」」」」
日本トップクラスの探索者が集まっての、第20層アタック。果たして、どんな結果になるのだろうか。
リーダーの責任は重大だが、全員生きて帰ってこられるように頑張るとしようか。
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