4−72:もはや負け筋の見えない戦い
「ギイイイイイイッッ!!」
――ドドドドドドドッ!!
最初に突っ込んできたのは、やはりというべきかヘルズラビットだった。その双眸に強い害意を宿しながら、一番前にいた俺に角を向けて一直線に突き進んでくる。
このままでは横に逃げ場が無いのも、以前と同じだな。あの時はとにかく攻撃しまくって足を鈍らせ、更に足を狙って体勢を崩させたうえで横をすり抜けた。それでダメージを蓄積させた後は、九十九さんの魔法でトドメを刺したっけな。
……ただ、今回はあの時と同じやり方ではダメだ。
「「「「………」」」」
俺たちの後方には、撮影班と岩守総理がいるからだ。ヘルズラビットを後ろに通すなど、今回に限ってはあってはならないことなのだ。
ならば、どうするか。
「……来い、ヘルズラビット!」
「ギイイイイイイッッ!」
――ドドドドドドド!
角を閃かせ、巨体を揺らしながら轟音と共にヘルズラビットが迫る。そして――
――ドゴォッ!!
――バヂヂヂヂッ!!
「っ!」
真正面から、ヘルズラビットの突進を防壁で受け止めた。衝撃は防壁の特性で吸収できたが、圧力は消せないので吹き飛ばされる……こともなく。
――ガゴォッ!!
「……よしっ、計画通りだな!」
防壁の形を階段の段差と噛み合わせていたので、圧力もうまく地面に逃がすことができた。魔力消費量も大したことはなく、これなら1000回突進されても魔力は尽きなさそうだ……いや、その場合は魔力の自然回復量の方が上回るか。
それなら、ヘルズラビットにこの防壁を突破することは不可能だな。向こうは距離を取って溜めを作る必要があるが、こちらはただ防壁を出して突っ立ってるだけでいいのだから。
「ギッ、ギイイイッ!?」
自慢の一撃が全く通じず、ヘルズラビットが困惑の声を上げている。
『はぁっ!?』
『マジ、かよ……!?』
『あの大迫力の突進を、軽々と受け止めただと……!?』
『まあ、それくらいはねぇ?』
『クレセントウルフの攻撃も余裕でいなしてたし、驚きは無いわな』
視聴者さんも大半は驚きに満ちているようだが、亀岡ダンジョン初回ライブ配信を見たことがある人はあまり驚いていないようにも見える。クレセントウルフ戦で散々攻撃を捌くところを見てるから、さもありなんといった感じだろう。
俺としても、これならまだワイバーンの方がよっぽど攻撃が重かったな。いくら特殊モンスターとは言えど、所詮は序盤モンスターの強化版……深層に出てくる通常モンスターよりは、いくぶんか弱いらしい。
――ドスッ、ドスッ、ドスッ……
そして、ホブゴブリン3体を置いてきぼりにしているのがもう致命的だ。こいつら4体が同時にかかってこれば、まだこちらも多少は手こずったものを……自ら有利になるかもしれない状況を手放し、個別に攻撃を仕掛けてくるとは、多少知能が上がったとはいえ結局は序盤モンスターの特殊個体止まりでしかないか。
ならば、こちらも各個撃破だな。
「今だ、みんな!」
「いきますよ、"アイシクルフォール"!」
「重ねます、"ダウンバースト"!」
「ひゅいっ!」
――ゴォォォォ!!
まずは、菅沼さんが氷の刃を降らせる魔法を唱える。そこに三条さんとコチが即興で【風魔法】を重ね、氷の刃が吹き下ろしの風で更に加速させられてヘルズラビットへと降り注ぐ。
……ヘルズラビットの魔法耐性は比較的高い。今より俺が弱かった頃だとはいえ、生半可な【光魔法】や【雷魔法】の攻撃を無傷で弾いたくらいなのだ。そこはゴブリンジェネラルを超えており、さすがは特殊モンスターといったところだろう。
――ドスドスドスッ!
「ギイイイイイイッ!?」
しかし【賢者】たる菅沼さんの魔法攻撃を受けて、無事でいられるほどの耐性は持っていなかったようだ。今回は【風魔法】によるブーストがあったが、仮にそれが無くても通じていただろうな。
「……ギ……ギッ……」
――ズゥゥゥン……
体にいくつもの氷杭を打ち付けられ、更に傷口を凍らされて追加ダメージを負ったヘルズラビットはそのまま地面に倒れ伏す。ドロップアイテムに変化しない辺り、まだヒットポイント的なものは残っているみたいだが……あの様子では、それも時間の問題であるように思える。不用意に近付くのは危険だが、戦闘不能状態であるのはほぼ確実だ。
「さすがの威力だな、俺には中々出せないよ」
ブーストがかかっていたとはいえ、ヘルズラビットをたったの一撃で戦闘不能状態へと追い込んだ攻撃魔法だ。強化マシマシにしたところで、俺にはどう転んでも出せない火力である。
純粋な威力は【焔の魔女】九十九さんの方が上だと思うが、菅沼さんの場合は属性を問わないので手札が多い。この人ならワイバーンも軽々と撃ち落とせるだろうな……。
ただ、魔法攻撃力が高いだけでは簡単に攻略できないのも、ダンジョンの厄介なところではあるのだが。実際に今、嘉納さんと菅沼さんはそれで足止めを食らってるわけだしな……。
「……タオス」
「……ツブス」
「……ナグル」
そんなことを考えていると、倒れたヘルズラビットの向こうからホブゴブリン3体がゆっくりと迫ってくる。目の前でヘルズラビットをボコボコにされているのに、巨大な棍棒を掲げて戦意は十分だ。
……あまり賢くないモンスターが相手だと、こういうところが厄介なんだよな。恐怖や畏怖で行動が鈍らないから、特に数が多いと厄介な相手になりがちだ。
「よっしゃ、次は俺たちの番だな!」
「任せてヨ〜!」
「ざぶぅ!」
意気揚々と、嘉納さんとハートリーさんが前に出る。嘉納さんは当然のことながら、ハートリーさんもホブゴブリンくらいなら余裕を持って制することができるだろう。シズクもいるのだから更に余裕がある。
……さて、そろそろ出番かな?
「よし、ヒナタ、フェルも頼んだぞ!」
「きぃっ!!」
「ぐぁぅっ!」
――グググ……
ヒナタとフェルが嬉々とした様子で飛んでいき、同時にフェルの体が大きくなっていく。
そして、その大きさは成人男性くらいの身長でとどまった。二足で地面に下り立ったフェルが、腕を組んで仁王立ちする。
「「「………」」」
それを見たホブゴブリンの進撃が止まる。さすがにフェルの威圧感を感じ取り、棍棒を構えて警戒し始めたようだ。
……対峙する両陣営。間に戦闘不能状態のヘルズラビットがいるので、お互い迂闊に近付けないようだ。本来ならここで魔法でも撃つのだろうが、既に見せ場を終えた菅沼さんと三条さん・コチは静観するようだ。
「俺が真ん中の1体、ハートリーさんとシズクで左の1体、ヒナタとフェルで右の1体だ。いいな?」
「いいヨ、それでいきまショ」
「ざぶぅ」
「きぃ」
「ぐあぅ」
小声でこちらがサッと役割分担を済ませた……次の瞬間だった。
――ボシュウッ!
ヘルズラビットが白い粒子を大量に撒き散らしながら、ドロップアイテムへと姿を変えていく。氷杭が刺さったことによる継続ダメージで、遂に力尽きてしまったらしい。
視界を覆う白い粒子に、ホブゴブリンの姿が掻き消える。しかし俺のオートセンシングが、急に視界を遮られて困惑するホブゴブリンの挙動を捉えていた。
「ホブゴブリンは戸惑ってるぞ、ヒナタ、フェル!」
「きぃっ!」
「ぐぁぅっ!」
――ゴォォォォ!!
とっさに指示を出すと、ヒナタとフェルが同時にファイアブレスを吐き出した。狙いはもちろん、こちらから見て右のホブゴブリンが立っていた場所だ。
――ゴォォォォォォッ!!
「ガァァァァァッ!?」
「俺たちも行くぞ!」
「いくヨ!」
「ざぶぅっ!」
炎が燃え盛る音と共に、ホブゴブリンの断末魔の悲鳴が耳をつく。それを合図に、嘉納さんとハートリーさん・シズクも白い粒子の中へも飛び込んでいった。
――ズシュッ!
「グギッ……!?」
――ドスドスッ!
「ざぶぅっ!!」
――バシュゥッ!
「グガァァッ!?」
交戦の音……というより、一方的にホブゴブリンだけが攻撃を受ける音が、白い粒子の向こうから響いてくる。オートセンシングが無くても、もはやどちらが優勢なのかは一目瞭然だった。
……そして白い粒子が晴れた後には、ホブゴブリンは影も形もなかった。既に3体とも、ドロップアイテムへと姿を変えてしまったようだ。
うん、余裕の勝利だったな。
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