4−64:前日
「――というわけで、報告は以上になります」
「……そうか、あの台地の上に試練の間らしき構造物があったのか。それはありがたい情報だ」
ゴブリンジェネラルを討伐し、第11層でしばらくモンスター狩りをこなした俺たちは……ダンジョンから出たその足で、持永局長へ調査結果を報告しに行った。
まるでギリシャの神殿のような見た目をした、白い大理石のようなものでできた構造物……近付くだけで試練の間に挑戦するか聞かれるおそれがあったので、遠巻きにしか確認できていない。ただ、その入口に扉は無かったので、入るのに鍵が要らない試練の間であることも併せて伝えている。
「……しかし、まさか無条件で変異モンスターが現れるような場所があるとはな。しかもそれがインプの変異種で、【鑑定】のスキルスクロールをドロップするとは正直驚いた」
「しばらく経てば、また獄炎悪魔がリポップする可能性は大いにあります。台地に上る方法さえ見つかれば、トップクラスの探索者パーティなら余裕を持って仕留められるかと」
フレイムデビルこと獄炎悪魔と戦ったことや、【鑑定】のスキルスクロールをドロップしたことももちろん伝えた。【鑑定】は既に使ったので手元に無いことも伝えたが……今回のようなパターンなら、フレイムデビルがまた台地の上にリポップする可能性は高い。戦うチャンスは何度もあるだろう。
ただ、現状では台地を上る方法に乏しいのも事実だ。俺たちはフェルの飛行能力に頼ったが、それ以外の方法が正直思い付かないのだ。
……まあ、そこは要請があれば運び屋になるとしよう。幸いなことに第5層ワープを使えば、徒歩1時間くらいで亀岡ダンジョンから横浜ダンジョンへ来れることが判明したからな。クイックネスも併用すればもっと早く着くこともできるだろうさ。
「……まあ、その方法は追々考えていくとしよう。
……それにしても、まさか変異モンスターの大魔石や高ランクの赤色装備珠、複数のスキルスクロールまで卸してくれるとは。国外持ち出しはできないが、国内なら持ち帰ってもらっても良かったのだぞ?」
余ったヘラクレスビートルの大魔石2つは普通に売却し、武器珠ランク4と【羽音】のスキルスクロール、あと【ウインドブレスⅠ】のスキルスクロール2つは横浜ダンジョンからオークションに出すことになった。武器珠ランク4は普通に売れば1万円で買い取ってくれるが、今はオークションに出した方が高くなるとのことでそうしたのだ。
……まあ、何年かすれば探索者のレベルも上がって、ランク4装備が当たり前になっていくんだろうけどな。今は一部の探索者しか装備者が居ないからこそ、標準買取価格よりも高く売れるわけだ。
そして、高く売れれば横浜ダンジョンに入る手数料収入も増えていくわけだ。俺たちも嬉しいし、横浜ダンジョンとしても嬉しい。
「横浜ダンジョンの実績に多少なりとも貢献できるのであれば、俺としては幸いです。制度を利用してタダで別ダンジョンに留学させてもらっているのですから、少しは利をもたらさなくては制度自体が消えてしまいかねませんので」
「……そのもたらされる利幅があまりに大きすぎて、私としても非常に悩ましいところではあるのだがな」
「うーん、そうですかね……?」
持永局長がほんのり苦笑している。常にポーカーフェイスを貫く人だが、俺にもほんの少しだけ表情の変化が分かるようになってきた。
……まあ、それはともかくとしてだ。トータルで考えると、俺は結局のところあまり横浜ダンジョンに貢献できていない気がするわけだ。
確かに、俺の魔石の売却数はとても多い。第4層の分だけ、他の探索者とは数的優位が生まれているのは自分でも分かっている。
だが、その魔石は大半がホーンラビットやゴブリンといった、弱いモンスターのもので占められている。いくら数が多くとも、1個1個の価値がそこまででもない以上は大きな利益になりにくいのではないだろうか。
そしてなにより、俺たちは個数制限があるかもしれない試練の間を1つ使っている。試練の間が時間経過でポコポコ湧いてくるものだったらいいんだが、そうでなければ貴重な機会を1つ潰してしまったことになる。それは大きなマイナスだ。
……幸いなのは、持永局長がそのことをあまり気にしていないことか。
「……なんというか、恩田殿は不思議とレアケースに遭遇する率が高いのだな?」
「確かにそうかもしれません。もっとも、単に俺がトラブルメーカー体質なだけかもしれませんが……」
「……その割には、誰も害を被っていないがな。己の力で対処できる分はきちんと対処しているし、対処し切れないのであれば被害が広がらないよう差配しているのだろう?」
「まあ、それが探索者として最低限果たすべき責任だと思っていますので……」
例えば、特殊モンスターが特定の階層に居ることが分かっていてそれを無視するのは絶対にダメだ。間接的な◯人に他ならない。倒せるのならばきっちり倒すし、無理なら情報を早めに上へ持っていくようにしている。
……まあ、情報を聞いた上でそれでも現地に向かうというのなら、それは自己責任だがな。さすがにそこまで面倒は見きれないよ。
「……ふむ、謙虚であるな。恩田殿はトラブルメーカーとまでは言えないだろうな。なにせ本当のトラブルメーカーというのは――」
そこまで言うと、一瞬持永局長の顔が歪む。その瞳に浮かんだのは――地の奥底で煮え滾るマグマのような、深く暗く激しい怒りだった。
そのあまりの迫力に、俺はもちろん三条さんやハートリーさん、そしてヒナタやフェルでさえも息を飲む。俺たちではない、他の誰かに向けられた怒りであるのは確かなのだが……その余波でさえ、ドラゴン種であるフェルを怯ませるほどの圧を伴っていた。
「……む? すまない、驚かせてしまったか」
「……いえ、問題ありませんよ」
一瞬後には、その圧は霧散していたのだが……よほど、持永局長には腹に据えかねていることがあるのだろうか。その"本当のトラブルメーカー"さんとやらに対して。
もっとも、あまり踏み込んでいいことでもなさそうだ。今のもつい出てしまっただけのようだし、なるべく気にしないでおこう。
「……さて、明日はいよいよライブ配信の日だ。恩田殿、この後時間はあるだろうか?」
「大丈夫ですよ。機器の最終動作確認ですかね? すぐにでも行きましょう」
「……うむ、話が早くて助かる」
最初からそのつもりだったので、装備を外さずに局長室まで来ている。準備は既に万端、すぐにでも入ダンできる。
……ただし、今日のところは撮影機材の動作確認だけだ。俺は絶対に行く必要があるが、三条さんとハートリーさんに無駄な時間を使わせるわけにはいかない。
「三条さんとハートリーさんはどうする? 今日は確認だけだから、無理はしなくてもいいぞ?」
「せっかくですので、私は行きますよ」
「私も行くヨ〜!」
そう思って尋ねてみたが、2人ともついて来る気満々のようだ。
ちなみに、ライブ配信には三条さんとハートリーさんも参加することになった。三条さんは所属している鶴舞ダンジョンの猪崎局長に連絡を取っていたようで、『構いませんよ。三条美咲さんの勇姿を、ぜひ日本に……いえ、世界に見せつけてあげてください』と言っていたそうだ。なお、ちゃっかり『鶴舞ダンジョンでもライブ配信できるように、恩田氏に掛け合ってもらえるとありがたいです。もちろん、恩田氏のご意思は最大限尊重します』とも言っていたそうだが。
一方で、ハートリーさんは特に連絡は取っていないそうだ。組んでいるチームはあくまでもビジネスパートナーであり、個別で動くにあたっては全て自己責任ゆえ、別に許可も何も取る必要が無いのだそうだ。この辺は個人主義色の強いアメリカらしいな……と思った瞬間だった。
「それじゃあ、今日はもうちょっとだけよろしくな」
「はい」
「いいヨ〜!」
「……では、私は撮影班に声を掛けてくる。3人はダンジョンゲートの前で待っていてくれ」
「「「了解です」」」
全員で局長室を出て、各々行動を始める。明日のライブ配信を、絶対に成功させるために。
俺自身、今回の留学で横浜ダンジョンに愛着が湧いてきた部分がある。やはり拠点は亀岡ダンジョンであるが、縁のできたダンジョンのためにやれることはしっかりやっていきたいと思う。
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