4−61:VSフレイムデビル・後編
「"アクアスラスト"!」
『グッ、"ファイアスラスト"!』
――ガギンッ!!
ハートリーさんの水槍と、フレイムデビルの炎槍が交錯する。互いが互いの魔力を押し退けあい、水と炎の魔力が弾け飛び……やがて、趨勢は決した。
――バシュゥッ!
『グオッ!?』
「キャッ!?」
なんと、両者が同時に弾かれた。どちらかが、ではなくどちらも、だ。両者とも槍に纏っていた魔力は全て霧散しており、完全に互角であったことが窺える。
もっとも、前提としてハートリーさんにはシズクの援護と属性的有利があった。それらがあってなお互角まで持っていくとは、フレイムデビルも侮れない実力を持っているようだ。
――ザザザザザザ……
「クゥッ!?」
……そして、これは体重差が理由なのだろうか。フレイムデビルが弾かれつつも数歩後退しただけで済んでいるのに対し、ハートリーさんはだいぶ派手に吹っ飛ばされ、地面を滑っていっている。幸い、台地から落ちてしまうほどの勢いではないが……一時的に戦線を離脱してしまった。復帰には少し時間がかかるだろう。
だが、ハートリーさんは1人で戦っているわけではない。
「ざぶぅっ!」
――バシュゥッ!
シズクが水弾を辺りに撒き散らし、燃え残っていた炎を完全に消し飛ばす。間接的にフレイムデビルを守っていた残り火が消え失せ、辺り一面が水蒸気で白く煙った。
「っ!」
――ダッ!
そこへ飛び込む、1つの影。三条さんだ。
三条さんが抜き身の刀を手に、フレイムデビルへと飛び掛かっていく。一面真っ白な霧の中で、どうやってフレイムデビルの位置を把握しているのかと思ったが……よく見ると、特定の方向に規則正しく霧が流れている場所がある。風を用いた物体の検知は、どうやら霧の中でも有効なようだ。
『ムッ! "フレイ「ひゅいっ!」』
――ゴゥッ!
フレイムデビルも三条さんの接近に気付き、迎撃のため【火魔法】を唱えようとする。しかし、それに被せるようにしてコチが【風魔法】を唱えた。
水蒸気を吹き飛ばしながら、風の刃がフレイムデビル目掛けて飛んでいく。出の早いフレイムスパイクよりもさらに早く風の刃が放たれたが、早めに魔法を準備していたのだろう。さすがはコチと言うべきか。
『クッ!?』
――ダッ!
――ゴゥッ!
その攻撃をとっさに避けられる辺り、フレイムデビルも中々良い反応速度をしている。詠唱こそキャンセルできたものの、あのタイミング・速度の攻撃が当たらないとなると、フレイムデビルは俺がまともに打ち合える相手じゃないな……。
しかしこれで、三条さんは完全にフリーとなった。
「しっ!」
――ヒュッ!
ほとんどスピードを落とさないまま、三条さんが刀で突きを放つ。正確に喉元を狙った攻撃が、吸い込まれるようにフレイムデビルへと延びていき――
『ヌゥンッ!』
――ガギンッ!
――ドスッ!
『グゥッ!?』
またもやギリギリのところで、三条さんの攻撃は槍に弾かれて軌道を逸らされる。ただ今度は余裕が無かったようで、弾かれた刀の切っ先がフレイムデビルの左肩を深々と貫き通した。
これは、トドメを刺すチャンスか?
『グッ、コノッ!』
「!」
――ダッ!
追撃を仕掛けようとしていた三条さんだったが、何かを察知したのか刀を引き抜いて大きく飛び退く。三条さんがそうした理由は、この後すぐに分かった。
――ゴゥッ!
フレイムデビルが右手一本で槍をぶん回す。槍は再び爆炎を纏っており、凄まじい熱量を辺りに撒き散らしていた。いつの間に槍へ炎を纏わせたのか、全く分からないほどの早業だった。
……しかし、やはり左肩を貫かれた影響は大きいようだ。本来は槍を両手で持って振り回すべきところ、左肩のダメージが深刻なのか、フレイムデビルの左腕がダラリと垂れ下がっている。ゆえに右手だけで振り回しているが、さっきまでと比べるとパワーとスピードでやや劣っているように見える。
三条さんが放った一撃は致命打にならなかったものの、これまでで一番大きなダメージをフレイムデビルに与えているようだ。
「ふっ!」
――ブォンッ!
バックステップだけでは攻撃範囲外に出られなかったのか、なぎ払うように振り回される槍を三条さんは姿勢を低くして回避する。かなり大きめに回避しているのは、槍が纏う炎を警戒してのことだろう。
そうして安全圏へ逃れていこうとする三条さんを、フレイムデビルは血走った目で追った。
『オノレ、チョコマカト「ざぶぅっ!」』
――バシュッ!
フレイムデビルが怒りのまま一歩踏み出そうとすると、シズクが機先を制するように水弾を撃ち込んだ。
――バシャァッ!
『クッ!? コノォ……!!』
「ふう……ここまで離れれば、ひとまずは安心ですね」
弾速はあまり早くなく、フレイムデビルは余裕を持って回避する。しかし、当の三条さんは安全圏へと逃れることに成功した。
『グググ、ヤリニクイ……!!』
フレイムデビルが表情を歪ませ、ギリギリと歯噛みしている。攻撃に移ろうとすれば、毎回的確なタイミングで邪魔が入るからだろう。
三条さんたちはダメージを受けず、フレイムデビルにのみダメージが入っていく。こちらからすれば、理想的な展開となっていた。
……そういえば、フレイムデビルは【仲間呼び】をしないのだろうか? インプは出くわす度に初手で使ってきたが……。
『……数デ押スノハ我ノ好ミデハナイガ、コウナッテハ仕方ガナイ。来イ、我ガ下僕ドモヨ!』
「「「「!!」」」」
ふと、俺がそんなことを考えたのがいけなかったのだろうか。遂にフレイムデビルが、仲間を呼び寄せるような文言を口にした。
フレイムデビルの下僕……もしかしてインプか? "ドモ"ということは複数体で、そのインプが更に【仲間呼び】をすれば、たちまち数は逆転してしまう。処理速度が追い付かなければ、どこぞの黒くて速いアレみたいに物凄い勢いで増えていきかねない。
それは大変よろしくない。処理が追い付かなければ、俺たちが介入することも考えないとな……。
『………』
「………」
「「「………」」」
……だが、しばらく待っても誰も来ない。ド◯クエ風に言うなら、"しかし たすけは こなかった"というやつだ。増援の出現に備えて身構えていたのだが、全員見事に肩透かしを食らってしまった。
もしかして、フレイムデビルの欺瞞行動か? 不利に傾いていたところなので、時間を稼ぐための意図的な嘘行動かもしれない。フレイムデビルは頭も回るから、そういう小賢しいことを考えていても不思議じゃない。
「……騙しましたね? 誰も来ないじゃないですか!」
『チッ、違ウ! ナッ、ナゼ来ヌノダ!?』
フレイムデビルがオロオロと辺りを見回しながら、ガチで混乱している。どうやら本気で【仲間呼び】をして、そして見事に空振ってしまったらしい。
……その理由に、1つだけ思い付いたことがある。
「……フェルの圧か?」
「ぐぁぅっ?」
戦闘前、フェルの咆哮でザコモンスターはことごとく逃げ散っていった。台地に上がっても居たのはフレイムデビルだけで、他のモンスターは一切見当たらなかった。本当はもっと大群がお出迎えしてくるはずが、イレギュラーのせいでフレイムデビル1体しか残らなかったのだろう。
その威圧感が、未だこの場に残っているとしたら? 弱いモンスターに対する威嚇の効果が、【仲間呼び】スキルの誘引力を上回っていたとしたら? そう考えれば、フレイムデビルの【仲間呼び】が不発に終わった理由もある程度は納得できる。
「――ヤァッ!」
――ザシュッ!
『ガフッ!?』
そんな混乱の隙間を縫って、戦線復帰したハートリーさんが突きを放つ。槍の一撃は綺麗にフレイムデビルの背中へと突き刺さった。
……おそらくだが、ハートリーさんだけ状況がよく分かっていなかったのだろう。槍を突き刺した時の彼女の表情が『隙だらけなんだけど、何やってんのコイツ?』って感じだったので、さっきのやり取りが聞こえていなかったのかもしれない。
まあ、いずれにせよフレイムデビルが晒した隙は、あまりにも決定的だった。
「"スプラッシュ"!」
――ブググググッ!!
『ガァァァァァッ!?!?』
傷口に塩を塗るように、ハートリーさんが槍の先から水流を放つ。
……激しい水流が傷口を大きく広げていき、フレイムデビルの体内にも少なからぬダメージを与えていく。
『ギ……グググ、コノ、"フレイ「ひゅいっ!!」』
――ズバッ!
『ガァァァァァッ!?』
――カラン、コロン……
コチの【風魔法】が、フレイムデビルの右肩を深く切り裂く。そのダメージでフレイムデビルは詠唱をキャンセルされ、ついでに槍も取り落としてしまう。
「リンちゃん、伏せて!」
「ハイッ!」
そして既に、三条さんはフレイムデビルにトドメを刺すべく走り込んでいる。迎撃のフレイムスパイクも間に合わないタイミングだ。
……さあ、これで決まるか!?
『クソッ、コンナ小娘ドモニ、コノ我ガ――』
――ズパンッ!
三条さんの鋭い一撃が、フレイムデビルにクリティカルヒットする。
……そう、クリティカルヒットだ。RPGの始祖とも言われるゲームにおいて、クリティカルヒットは"会心の一撃"ではなく"一撃必殺"だった。そちらの意味でのクリティカルヒットである。
「全員、下がって!」
「リョーカイ!」
「ひゅいっ!」
「ざぶぅっ!」
同時に三条さんが鋭く指示を飛ばし、全員が弾かれるようにフレイムデビルから離れた。ファイナルアタックの警戒もきちんとできているな、俺も警戒しておこう。
『……ガ……』
中々ショッキングな光景が、目の前に広がる。
……しばらくして、ソレは地面に落ちる。同時に、フレイムデビルが少しずつ白い粒子へと還り始めた。
「「「「………」」」」
フレイムデビルの最後の一片が白い粒子に還るまで、4人は油断無く見据えている。
……そして、フレイムデビルは無事にドロップアイテムへと姿を変えた。
4人の完全勝利だ。
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
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