4−46:未知との遭遇
――ドゴォッ!!
――ガガガガガガガガガガッ!!
――バヂヂヂヂッ!
「………」
3体目のヘラクレスビートルを倒し、そのファイナルアタックとして放ってきた巨岩の破片が防壁に弾かれる音を聞きながら……俺は、次なる試練の内容について考えていた。これで終わりなら一番良いのだが、俺の直感がそうはならないだろうと告げているのだ。
なにせ、ここまでの戦いがあまりにぬるすぎる。真紅竜に追い回された第1回目、モンスターとの連戦となった第2回目……いずれの試練も未知の強敵モンスターとの戦いが含まれており、その攻略法を探りながらの戦いとなった。
それが、今回の試練の間はどうだ。ラッシュビートルとの戦い方はここにいる全員が知っているとして、ヘラクレスビートルとの戦い方も俺とヒナタにとっては既知の情報――しかも攻略法を前々から考え、イメージトレーニングを重ねてじっくり煮詰めてきた。今回はそれを一部実行したことで、ヘラクレスビートル3体を余裕をもって倒すことができている。
……このまま終わるはずがない。試練の間が、手応えの無いまま終わるわけがない。防壁の中に引きこもり、安全な場所から遠距離攻撃を撃ち込むだけでクリアできるような……そんな生易しい場所ではないことを、他でもない俺がよく知っている。
ここに入る前に、半ば冗談気味に言ったこと……すなわち、ゴブリンキングが再登場する可能性もあるかもな。あの規模の軍団を率いれるような存在と言えば、俺にはそれくらいしか思い付かないし……確かに既知のモンスターではあるけれど、まだまだ分からないことも多いモンスターだ。強敵なのは間違いないし、普通にあり得るかもしれないな。
――ブ……ブ……
――ボフンッ!
ファイナルアタックを終え、ヘラクレスビートルが地面に倒れ伏す。その体が大量の白い粒子へと還り、後にドロップアイテムを残していくのを眺めながら……俺の目は遥か遠く、夕陽で赤く染まる水平線へと向いていた。
さっきはそこから、甲虫の群れがやってきていたが……!?
「!!」
何かとんでもないものが見えて、思わず凝視してしまう。
――ガァ……ガァ……
……やはり、この程度で終わるはずがなかったか。
「恩田さん、あれは……!」
「ああ、俺にも見えてるよ。空を覆うモンスターの大群が」
「ン〜、どうやらダイブイーグルっぽいネ〜」
「きぃっ! きぃぃっ!!」
次なる相手は、飛行型モンスターの大群。ラッシュビートルのようなエセ飛行モンスターとは違い、大空を飛び回る本当の飛行型モンスターが相手のようだ。
……まあ、これで相手がダイブイーグルだけならまだ楽だったのだけど。
「確かに、あの群れの大半はダイブイーグルみたいだな。だけど、それだけじゃない」
「なるほど、あのモンスターはダイブイーグルという名前なのですね……それでは、一際大きな個体は特殊モンスターですか?」
「俺も見たことは無いけどな、その可能性は非常に高い」
――ガァァ……ガァァ……
元々大きな体躯を持つダイブイーグルだが、それより2回りも3回りも大きな個体が2体ほど群れに混ざっている。フォルムもなんだか遠目から違うし、あれがダイブイーグルの特殊個体なのはほぼ間違い無いだろう。
――グォォ……
だが、俺が驚いたのはそんなチンケなことじゃない。大空を埋め尽くすモンスターの大群の中に、ダイブイーグルの特殊個体よりもっとヤバそうなのがいるのだ。
「大群の後ろにいる、更に巨大なモンスターはなんでしょうか?」
「なんカ、翼の生えたトカゲっぽいネ」
そうだな、現実世界にいる生き物で形容するならば、アレはまさに空飛ぶトカゲだ。だが、そのフォルムはとてもトカゲなどとは言えないほど巨大なものだ。
ダイブイーグルの3倍、その特殊個体の2倍を超える巨大な体躯を持ち、灰色のフォルムは太く力強い。アジア的な龍ではなく、ファンタジー的な翼の生えたドラゴンが飛んでいるような感じだ。
もし俺が、あのモンスターに名前を付けるとするならば。
「ワイバーン……」
ゲームにおいては、ドラゴン系の末席として登場することが多いモンスターの名前だ。ダイブイーグルの特殊個体に飽き足らず、まさかこんな怪物まで出てくるとは……試練の間が、遂に本気を出してきたか。
『先ほどの戦闘状況を鑑みまして、第2波にワイバーン1体を追加いたしました。ラッシュビートルと超重殻甲虫の大群を軽く蹴散らしておられましたので、難易度を大幅に上げさせて頂いております。
その分、クリア報酬も増やしております。第2波を突破すればクリアとなりますので、皆さまぜひとも乗り越えてくださいませ』
唐突に、防壁の中にメッセージが浮かび上がってきた。そうか、あの飛竜の名前はワイバーンで合ってるのか……って。
「え? 難易度調整ありなのか?」
『はい。簡単過ぎては、試練の間の意味がございませんので』
シューティングゲームなんかだと、ノーミスで進めていくほどゲーム内でのランクが上がり、敵の攻撃が激しくなっていくものもあるが……まさか、試練の間もそんな方式だったとは。参加3回目にして初の事例だ。
もちろん、悪いことばかりじゃない。メッセージ曰く、難易度が上がった分だけクリア報酬も増やすと言っているのだから、よりハイリスク・ハイリターン側に振れたということだろう。
しかし、あのワイバーン……相当な強敵に見えるんだが、果たしてどれほどの強さなのだろうか? さすがに真紅竜のような、理不尽な強さは持っていないと思うが……。
『対峙するにあたり、少しだけアドバイスを差し上げましょう。ワイバーンはダンジョン第40〜50層台に出現するモンスターであり、戦う際の武具の適正ランクは6でございます。その鱗は生半可な攻撃を通しませんが、弱点がありますのでそれを見つけ、ぜひご討伐くださいませ。また、口より吐く【ファイアブレスⅢ】の火力は脅威の一言でございますが、ワイバーンの魔力量では計30秒程度放つのが限界ですな』
「……いやいや、ちょっと待て」
欲しかった情報と、あまり聞きたくなかった情報が入り混じってるな……。
とりあえず、ワイバーンに弱点があることはよく分かった。このメッセージの口ぶりからして、その弱点を突く方法を俺たちがちゃんと持っており、弱点を突けばワイバーン討伐に漕ぎ着けることができるのも分かった。ブレスに関しても【ファイアブレスⅢ】なら確かに高火力だとは思うが、ガス欠が早いことも理解できた。ここまでは良い情報だ。
……いくら試練の間だからって、ダンジョン第40〜50層クラスのモンスターをぶつけてくるのは、ちょっとやり過ぎなんじゃないか? 人類はまだ第30層にさえ到達してないんだけど……。
あと、あれだけデカかったら物理攻撃も相当脅威となるだろうに、そちらの情報は一切無かった。仮にあの巨体が突進攻撃を仕掛けてきたとして、ドーム型のまま受け止めるのはさすがに厳しい。うまく受け流さないと、最悪は防壁を割られかねない。
あと、ワイバーンの影に隠れてはいるが、ダイブイーグルの特殊個体だって未知の強敵だ。いつか相対するだろうとは思っていたけど、まさか2体同時に相手することになるとは想像もしていなかった。もはや災害みたいなもんだろコレ……。
「災害……ディザスター……ディザスターイーグルか。元のモンスターからして風を操ってきそうだし、名前としてはちょうどいいかもな」
仮称・ディザスターイーグル2体とワイバーン1体、そして大量のダイブイーグル。この全てが空中を自由に飛び回り、そしておそらくはブレスを吐いてくるのだろう。こちらはヒナタを除いて地上しか移動できないので、圧倒的に不利な状況だ。
……だがな。俺も飛行型モンスターとの戦い方について、かなりシミュレーションを重ねてきた。それがどれほど通用するのか、試させてもらうとしようか!
◇□◇□◇読者の皆様へ◇□◇□◇
なろうに数多ある小説の中から、私の小説を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
読者の皆様へ、作者よりお願いがございます。
皆様の率直な判定を頂きたいので、ページ下部より☆評価をお願いいたします。
☆1でも構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。




