4−45:恩田の策
――ドドドドドド!!
「よし、来たな」
遠くに見えていたヘラクレスビートル2体が、かなり近くまでやって来た。動き自体はそこまで機敏でもないのだが、歩幅が大きい分だけ早く動いているように見える。
――ブブ……ブブ……
「きぃ?」
ヒナタが「そろそろいい?」と声を掛けてくる。最初に攻撃していたヘラクレスビートルは、文字通りの虫の息……あと一押しで倒れそうなところまで来ていた。
さて、ヒナタの言う通りタイミング的にはそろそろかな? ヘラクレスビートルは知能も虫相応で、こちらの仕掛けに警戒するだけの判断力は無いからタイミングだけ合わせればいい。
「よし、そろそろいいぞ。トドメを刺したら防壁の中に戻っておいで」
「きぃっ!」
――パァァァァッ!!
――ブブ……
――ズゥゥゥン……
了解、と返答してから、ヒナタがホーリーブレスをヘラクレスビートルに吐きかける。それが最後の一撃となったようで、ヘラクレスビートルは地面へと勢いよく倒れ込んだ。
――グ……グ……
だが、倒れたはずのヘラクレスビートルが操られた糸人形のようにぎこちない挙動で立ち上がる。既に体力は底を付き、立ち上がる余力など残っていないにも関わらず、だ。
しかし、そう、これこそが俺の狙っていたこと……すなわち。
「さあ、ファイナルアタックが来るぞ!」
「きぃっ!」
防壁に小さな穴を開けて、ヒナタを中へと呼び込む。このまま外に居ては危険だからだ。
なにせ、ここから始まるのはヘラクレスビートルのファイナルアタック、巨岩の雨。周囲に大量の巨岩を降らせて、まさに絨毯爆撃のような攻撃を行う大技だ。巨岩は着弾後に砕けて破片を撒き散らすので、そのままでは全方位から十字砲火を食らう羽目になるが……それも見越して、防壁は半球状のドーム型にしてある。抜かりはない。
そして、モンスターの攻撃はフレンドリーファイアをしてしまう特徴がある。以前戦ったヘラクレスビートルの大岩転がし攻撃が、藪の中に潜んでいたモンスターを倒したように……あるいはゴブリンキングの魔法が、【仲間呼び】で出てきたゴブリン共を焼き払ったように。それを、今回は狙っているわけだ。
「恩田さん、魔力残量は大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ!」
これまでの反省から、魔力量を増やすためのトレーニングを毎日欠かさず行ってきた。わざと魔力を使い切っては回復した分も魔力を使い切り、時に魔力を消費し過ぎて体力を使ってしまい、鼻血を出しては朱音さんに怒られ……とにかく、結果として最大魔力量はグングン伸びていった。おかげで今では、ビューマッピング程度の魔力消費はもはや気にならないレベルにまで到達している。
こちらに来てから久々にビューマッピングを連発したのだが、まるで魔力が減らないその快適さにはひそかに感動したものだ。最初はビューマッピング用の魔力が切れる=ダンジョンから撤退だったから、今ならどこまでも進んでいけるかもしれないな。
……まあ、そんなわけでだ。
「あと30回くらいなら、ヘラクレスビートルのファイナルアタックは余裕で防げる! その代わり、俺の魔法攻撃にはあまり期待しないでくれ!」
いくらなんでも、敵の攻撃をノーコストで受け止められるわけじゃない。防壁で防いだ攻撃の威力が高ければ高いほど、それ相応の魔力が失われてしまうのだ。
しかし、ヘラクレスビートルのファイナルアタックくらいなら30回受け止めてもまだお釣りがくる。鍛えるにあたって俺が念頭に置いていたのはゴブリンキングのファイナルアタックで、それを数回止めても大丈夫なくらいには魔力量を増やしてきたつもりだ。
……ちなみに、攻撃魔法の威力だけは鍛えてもなかなか上がらなかったが、もはやそういうものだと割り切っている。【闇魔法】なら威力は出るが、さすがに魔力消費が大きすぎるので常用はできない。
「分かりました!」
――グググッ……
そんなことを言っているうちに、1度は倒れたヘラクレスビートルが頭を大きく持ち上げていく。始まったな、ヘラクレスビートルのファイナルアタックが。
――ドゴォッ!!
――ブォッ!!
角を地面に叩きつけると、大量の巨岩が大空へと舞い上がり――
――ゴガガガガガガッ!!!
――ブッ……!?
――ブグッ……!?
――ブブッ!?
最頂点に到達した後はそのまま自由落下して、辺りに降り注ぐ。巨岩は着弾後に無数の破片となり、辺りを満たしていった。
そして、哀れにも巨岩が直撃してしまったラッシュビートル4体ほどが魔石と装備珠に姿を変えていき……破片だけを食らったラッシュビートル共も、かなりの手傷を負っている。こちらへ走ってくるヘラクレスビートル2体にも破片は降り注ぎ、そのうち1体には巨岩が直撃していた。倒れるほどではないにしろ、それなりのダメージにはなったはずだ。
――グググ……
――ドゴォンッ!!
――ブォンッ!!
そして、巨岩攻撃は1回に留まらない。これがもう1度降り注いで、ヘラクレスビートルのファイナルアタックは打ち止めとなるのだ。
まさに初見泣かせの技だが、既に対策を確立している俺にとってはただの攻撃でしかない。むしろ、来ると分かっている攻撃ほど対処が容易なものも無いな。
――ゴガガガガガガッ!!
――ブッ!?
――ブグッ!?
呆れるほどに圧倒的な岩の嵐が、辺り一帯に吹き荒れる。2度目の岩つぶて攻撃をしこたま浴びたラッシュビートルは、そのことごとくが白い粒子へと還っていき……ドロップアイテムに次々と姿を変えていく。
そして、ヘラクレスビートル2体も無事では済まない。今度は2体ともに巨岩が直撃し、倒れはしなかったものの羽根が完全に割れてしまっている。その隙間からは、最大の弱点たる背中が覗いていた。
――ブ……ブ……
――ボフンッ!!
ファイナルアタックを終えたヘラクレスビートルが、大量の白い粒子を撒き散らしながらドロップアイテムへと姿を変えていく。これで第1波のラッシュビートル・ヘラクレスビートルは全滅し、後から来たヘラクレスビートル2体は戦うまでもなく既にボロボロ……ファイナルアタックを利用する策は、思った以上にうまくいったようだ。
「きぃっ!」
――パァァァァッ!!
――ブブブッ!?
ヒナタは即座に防壁の外へと飛び出していき、巨岩が2発命中したヘラクレスビートルに向けてホーリーブレスを吐きかけはじめる。こちらの方がより大きく羽根が割れており、ダメージも大きいので早く倒せると考えたのだろう。
――グググ……
「させないヨ〜! ソレッ!」
――バシャッ!
――ブブ!?
ヒナタに攻撃されていない方のヘラクレスビートルが、地面を角でかちあげて巨岩を飛ばそうとするが……顔面にハートリーさんの水球を食らい、驚いて攻撃がキャンセルされる。
もちろん、ハートリーさんの攻撃がそれだけで終わるはずもない。
「"フリーズロック"」
――カチカチカチ……
――ブブッ!?
顔面をカチコチに凍らされてしまい、ヘラクレスビートルがその場でジタバタともがいている。呼吸はできているようだが、どうも感覚器官か何かを塞いでしまったらしく、ヘラクレスビートルはこちらの存在をほとんど認識できなくなってしまったようだ。まるで見当違いな方向に向いて、顔をしきりに擦っている。
「ありがとうリンちゃん! トドメの一撃、行きます! "落風刃"!」
――ビュォォォッ!!
いつの間にか高く飛び上がっていた三条さんが、風を纏いながら高速落下してくる。刀の刃先を下に向けて……狙いは、顔を凍らされた方のヘラクレスビートル。その羽根が割れて、剥き出しになった背中だ。
ただし、狙うべき範囲はごく狭く、刀がギリギリ入るかどうかといったところ。加えて落下速度が速いので、正確に狙うのは非常に難しいはずだ。
「はぁぁぁぁっ!!」
――ドズゥッ!!
だが、三条さんはやり遂げた。技を見事に制御しきり、ヘラクレスビートルの背中に刃を深々と突き立てたのだ。
――ブブッ!?
「これで終わりです!」
――ズシャァァッ……!
――ブグッ……!?
ヘラクレスビートルの背中辺りから、空気を切り裂くような音が漏れ出てくる。どうやらヘラクレスビートルの体内で風の魔力が開放されたようだ。
いくら外殻が固くとも、体の中身まで全て固いわけではない。さしものヘラクレスビートルも、三条さんが放った内側からの攻撃には耐えられなかったようだ。
――ズゥゥゥン……
脚から力が抜け、ヘラクレスビートルが地面に倒れ込む。ここからファイナルアタックに移行するわけだが……おっ?
「きぃっ!」
――ブ……ブブ……
見れば、ヒナタが攻撃していた方のヘラクレスビートルも既に瀕死の状態だ。フラフラで今にも倒れそうになっている。弱点部位さえ突ければ、ヘラクレスビートルほどの強敵でも倒すのはそこまで難しくないようだ。
以前は1体相手にも苦戦していたものが、攻略法を見つけただけでこんなにもうまくいくようになるとは……これもダンジョン探索の醍醐味と言えるだろうな。
「ヒナタ、戻ってこい!」
「きぃっ!」
ヒナタを再び防壁内へと招き入れる。この時点でラッシュビートルやヘラクレスビートルの増援は無く、敵モンスターの全滅はほぼ確定した。
……ただなぁ。試練の間が、こんなにも簡単に終わるとは思えないのだ。きっと、ここから更に何かが起きるはずだ。
まだまだ気は抜けない。油断せず、きっちり確実に進めていこう。
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