4−41:圧倒
「きぃっ!」
――ゴォォォォ!
『グギッ!?』
開戦直後、まずはヒナタがホブゴブリンの顔に向けてファイアブレスを撃ち込む。先手を打たれたホブゴブリンは、手や棍棒をかざして顔を守ろうとするが……。
「きぃ、きぃ、きぃ!」
――ゴォォォォォォォ……
『グ……ギガッ!?』
ヒナタはホブゴブリンの周囲を飛び回りながら、ずっと顔に向けて炎を放ち続けている。目まぐるしく変わる発射地点に、かざした手と棍棒では防ぎきれなくなっていき……やがて、ホブゴブリンはまともに炎を浴びてしまった。
『グゥ……!』
棍棒を落とし、痛む両目を押さえながらホブゴブリンがヨロヨロと後退していく。その間もヒナタの炎は止まることなく、ホブゴブリンの手を焼き続けていた。
……うん、こちらは既に勝負あったな。ヒナタは遠距離からブレスを撃ち続けてもいいし、タイミングを見計らって急降下突進攻撃を仕掛けてもいい。もはや早く勝つか、少し長引きつつも勝つかのほぼ2択でしかない。
「………」
――ゴロゴロ……
それでも念のため、ホブゴブリンの棍棒はしっかりこちらで確保しておく。反撃に使われないようにするためなのはもちろんのこと、特殊ドロップのトリガーになってるんじゃないかと少し期待していたりするからだ。
……それにしても、この棍棒なかなか重いな。特殊モンスターの中では最弱クラスと言えども、その膂力は侮れないものがあるようだ。
「はっ!」
――ズバッ!
『グッ!? コノ、小娘ガバァッ!?』
――ドズッ!!
「あらあら、どちらを狙っておられるのです?」
「ワタシの水、冷たくて気持ちいいデショ?」
一方のゴブリンジェネラルVS三条さん・ハートリーさんペアだが、こちらも三条さん・ハートリーさんペアが優勢だ。ゴブリンジェネラルは足へのダメージがかなり蓄積しており、機敏に動くことができなくなっているようだ。
それは、大槍の振りの鈍さからも分かる。足の踏ん張りが利かないので、どうしても攻撃の速度や威力が落ちてしまうのだ。そこにハートリーさんの的確な妨害が入るので、まるで見当違いな方向に攻撃が流されてしまっている。
もはや、三条さんが攻撃を避ける必要すらも無いほどにボロボロの状態だ。
「きぃ!」
――キラキラキラ……
『……グ……ゥ……』
――ズゥゥゥゥン……
そして、ここでホブゴブリンがダウンした。ヒナタは途中からホーリーブレスに攻撃方法を切り替えていて、ガードの上から着実にダメージを稼いでいた。かなり安定寄りの戦法をとったみたいだけど、思ったよりも倒れるのが早かったな。
……もしかして、ファイアブレスやホーリーブレスの威力が上がってるのか? いや、それなら俺の【ファイアブレスⅡ】も威力が上がって然るべきだが、そんな気配は微塵も無い。
これは、検証の余地がありそうだな。またヒナタに協力してもらって、機会を見つけて確認してみるとするか。
――ボフン……
『ヌグッ、小癪ナァッ!』
白い粒子とドロップアイテムに変わっていくホブゴブリンを見て、ゴブリンジェネラルが焦りの表情を見せる。セリフがどこかワンパターンに聞こえるのは……まあ、流暢な言葉を話すゴブリンキングも怒った時はそうだったしな。多少言葉が拙いゴブリンジェネラルなら、なおさらそうなるだろうな。
……さて、これで次の【仲間呼び】までは多少時間が空いた。その間、ヒナタは手持ち無沙汰になる。
「三条さん、どうする? 俺とヒナタも加勢しようか?」
「いえ、こちらは大丈夫です。お2人には引き続き、【仲間呼び】で出てきたゴブリン種のご対応をお願いしたいです」
「了解」
三条さんに聞いてみたが、援護は不要との返答だった。何やら手応えを掴んでいるようで、その目に迷いは全く無い。
……ただ、決定打となり得る攻撃手段が無ければゴブリンジェネラルの討伐は叶わない。ゴブリンジェネラルは物理攻撃には強いが、三条さんはどうするつもりなのだろうか?
「リンちゃん!」
「はいヨ〜!」
三条さんと並んで、ハートリーさんも前に出る。2人で武器を合わせ、何やら仕掛けようとしているようだ。
……そういえば、昨日一昨日でこっそりなにか練習していたっけか。内容は一切教えてくれなかったが、もしかしてこれが……?
「"風竜閃"」「"水竜撃"」
2人が順番に技名を叫び、武器を構えた。
……もしかして、これは!?
「「2人合わせて、風水竜撃閃!」」
――ゴヴッッ!!!
ほんのり顔を赤くする三条さんと、楽しげな笑みを浮かべるハートリーさん。2人が同時に武器を振るうと、そこから竜の形をした風と水が飛び出し……複雑に絡み合いながら、ゴブリンジェネラルへと飛んでいく。
足を攻撃され、動きを封じられたゴブリンジェネラルに……この攻撃を回避する術は無かった。
『ヌォォォッ!?!?』
――ドシュッ!!
ほぼ一体化した風水竜が、ゴブリンジェネラルのお腹に直撃し……鎧ごと綺麗に貫いた。まるで戦隊ヒーローの必殺技のような、超ド派手で高威力な合体魔武技……そうか、そういう方法があるのか。思いつかなかったなぁ。
ただ、攻撃自体がまだ少し安定していないように見えた。練習時間が明らかに足りていないので、うまく重ね合わせることができていないのかもしれない。その状態でもこれだけの威力を出せるのだから、将来性抜群の技術と言えるだろう。
『ガ……フ……』
――ズゥゥゥゥン……
正中に風穴を開けられ、ゴブリンジェネラルが地面に倒れ伏す。明らかに致命の一撃、既に勝負はあった。もうヤツは立てないだろう。
――ボフンッ!
予想通り、ゴブリンジェネラルがそのまま白い粒子とドロップアイテムとに変化していく。3色装備珠に魔石、どうやら今回は【鼓舞】のスキルスクロールは出なかったようだ。
……あと、たまにゴブリンジェネラルが使っていた大槍もドロップするのだが、そちらも見当たらない。確定でドロップするものだけが、ゴブリンジェネラルが倒れた後に残っていた。
「勝利です、やったねリンちゃん♪」
「ブイ、だよミサキ!」
――パンッ!
2人がハイタッチを交わす。いつの間にか仲良くなっていて、ここまで息を合わせられるようになって……これなら、試練の間もきっと乗り越えられる。
「きぃ」
「ん? そうだな……」
合体魔武技……単に属性エンチャントを掛けて放つよりも、遥かに強力な一撃を放つことができる技術。なぜそうなるのかは不明だが、非常に有用な技術と言えるだろう。
これを例えば魔法同士、あるいはもっとシンプルに、スキル同士で重ねたらどうだ? もしかしたら、そちらも同じように強力な攻撃となるのかもしれないな。
……いや、ちょっと待てよ? ヒナタとアキの合体技"ポイズンミスト (仮)"や"パライズミスト (仮)"でラッシュビートルを一網打尽にしたことがあるし、なんなら俺とヒナタで超強力な炎ブレスを放ったこともあるな。気が付いてなかっただけで、俺たちも以前からそれらしい技を使ってるな。
今度、時間があれば色々試してみるか。ヒナタとならピッタリ合わせられるし、亀岡ダンジョンに戻れば朱音さんや九十九さん、帯刀さんもいる。相性の良い組み合わせも見つかるかもしれないしな。
「………」
そういえば、自分が放った複数の魔法同士が一切干渉し合わない、ということが前にあったな。あの時は確か、暗闇を作り出すダークネス越しにライトショットガンを放っていて気付いたんだったか? 闇と光なのに打ち消し合わないのはなんでだろうって……。
その理由も、1人で合体技を放てないようにするためかもしれない。自分が放った魔法同士が干渉し合うのなら、1人でこの威力を出せてしまう。それはマズいとなったのかもしれないな。
「……ん?」
ふと、ホブゴブリンがドロップしたものを見る。大魔石に装備珠2つ、装備珠はどちらも黄色……装飾珠だ。偶然かもしれないが、これだけで三条さんの装備が一式更新できるな。
――ゴゴゴゴゴゴ……
「なあ、三条さん――」
下り階段への道が開くのを横目に、三条さんの説得に入る。ゴブリンジェネラルを倒すよりも難しいことだが、さて、素直に受け取ってくれるだろうか?
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