「アタックNo.1」
改造手術を終えるや否や、ケテレツとデスラーは検体への興味を完全に失った。
「お前……その、”根アン♥出るタール神”とやらに帰っていいぞ」
と、早々に義雄を追い払おうとする。
だが、義雄は裸のまま床に正座したまま微動だにしない。
そしてぽつりと問いかけた。
「あの……その”根アン♥出るタール神”って何ですか?」
「あほか! 俺たちが知ってるわけないだろうが!」
当然である。デスラーたちが、”根アン♥出るタール神”がホストクラブであるなど知る由もない。
だが、肝心の義雄本人もまた、言葉だけは覚えているのに、それが何のことだったのか思いだせなかった。
どうやらソフィアに頭を潰されたせい……いや、おそらくは、ケテレツたちに別の頭へ取り替えられた結果、記憶そのものが吹き飛んでしまったのだろう。
しかし、記憶は消えても“思い”は残る。
強烈な願望というものは、魂の奥に刻み込まれるのである。
そのとき義雄の奥底から――なぜか「アタックNo.1」の歌が流れ始めた。
『苦しくたって……悲しくたって……
コートの中では平気なの……』
――コートってなんだ? ああ、服のことか……。
確か、”根アン♥出るタール神”のステージの上の義雄はコート姿だった……思いだせないけどwww
『ボールが唸ると、胸が弾むわ!』
――いや……俺、確かゴールデンボールがなくなったんだよな……。
義雄には股間にあるはずのなじみの感触もなかった。
そう、”根アン♥出るタール神”裏の惨劇によって、義雄の股間はホストたちによってえぐり取られていたのである
『レシート!鳥栖!スパイク!』
――なんだそのワード……ああ、コートの中にレシート入ってた気がする……あれ、シュールストレミングも買ったような気がするが……会計を忘れたのか? もしかしてそれが気になってたのか? 俺?
『パンツー! パンツー! アタック!』
――そういえば俺、今パンツはいてるのか?
義雄は自分の股間をそっと覗き込んだ。
――パンツー! パンツー! アッタァ!
『だけど涙が出ちゃう! 女の子だもん!』
念のためパンツの中もチェック。
やはりない。
ゴールデンボールは何もない。
――涙が出ちゃう……女の子だもん!
『涙も汗も クレオソートで!』
……そう、義雄の股間からは、ケテレツたちにより融合加工されたクレオソートがコンコンと湧き出していた。
ちなみにクレオソートとは、古くから電柱や鉄道の枕木を腐らせないために使われてきた強力な木材防腐剤である。
それでもって、とにかく臭い。
ケテレツたちは、義雄の尻から立ち上るシュールストレミングの悪臭に打ち勝つため、強力かつ“強烈に臭う”防腐剤を穴にブチ込んだのである。
だが、結果として、義雄は腐らない動く死体となった。
この点において言えば、ゾンビのサンド・イィィッ!チコウ爵すら凌駕している気がする。
『青空に遠く叫びたい!』
――なぜ青空なのかは分からんが……叫びたいのは事実だ。
そして次の瞬間、義雄は突如として天井を見上げ、絶叫した。
「アタックゥゥゥゥウ! アタックゥゥゥゥウ! ナンバー――ワン!」
「アタックゥゥゥゥウ! アタックゥゥゥゥウ! ナンバー――ワン!」
当然、横で作業していたケテレツとデスラーは飛び上がるほど驚いた。
――こいつ……危ない奴じゃね?
――おいおい、やっぱりアンマンの頭にしといた方がよかったんじゃ……
二人が呆然と見守る中、義雄は何かを思い出したように拳を握りしめた。
「そうだ! 俺はナンバーワンになりたいんだ! 俺は……ならなくてはならないんだ!」
理由は分からないが、強烈な“使命感”だけは残っているらしい。
「だから俺をナンバーワンにしてくれ!」
義雄はケテレツの足にしがみつき、必死に懇願した。
「ああ! うっとおしい!」
ケテレツはその義雄を振り払う。
「この国のナンバーワンと言ったら“王”だぞ! お前なんかがなれるわけないだろ!」
だが、義雄は諦めない!
「それでもナンバーワンになりたいんだ!」
「……まぁ、ナンバー1は無理でも、ナンバー2の“騎士”になら、ワンチャンあるかもしれんな」
「なに!? ナンバー2にはなれるのか!? どうすればなれる!? 教えてくれ!」
「そんな事、俺が知るか!」
「知りたいんだ! どうしてもナンバー2になる方法を!」
あまりのしつこさに、ついにケテレツは折れた。
「……そういえば、アルダイン様が自分の子飼い騎士を増やしたいって言ってたような……。忠誠でも誓っておけば、そのうち騎士にしてもらえるんじゃね?」
ただの思いつきである。
だが、義雄は本気だった。
「そのアルダイン様とやらに取り次いでくれ! 俺はナンバー2になる男なんだ!」
「あほか! お前ごときがアルダイン様に会えるか!」
拒絶するが、義雄はケテレツの足にしがみついたまま離れない。
このままでは研究どころか日常生活にも支障が出るレベルだ。
仕方なく、ケテレツは後日アルダインに提案することにした。
謁見の間。
「一つ面白い実験体が出来まして……」
ケテレツの報告を聞くアルダイン。その横には、いつものように美しいネルが控えていた。
――しかし、いつ見てもイイ女よな……。
と、ケテレツがよだれを垂らしたところで、アルダインの声が飛ぶ。
「で、どんな実験体だ?」
「それが、動く死体でして。ある意味、不死者に近いかと」
「ほほう。それは面白い」
アルダインはニヤリと笑い、命じた。
「その実験体を魔装騎兵にして、第六の駐屯地へ送れ。
そして第六の魔装騎兵たちを――すべて密かに抹殺させろ」




