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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 4章 ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編

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「押すな」は「押せ」。それが鉄のルール。

 話は戻って――権蔵の道具屋。

 あの後、1か月ほど万命寺に通うも、全くオオボラを見つけられなかったタカトは、今日も相変わらず、権蔵にこき使われていた。


 外はアホみたいに晴れている。

 「無駄に!」という言葉がぴったりなほど、どこまでも澄み渡る青空!

 乾いた風があぜ道を吹き抜けていく。


 その道の上を、一匹のアリが大きな餌をくわえてヨッチラヨッチラと歩いていた。

 木陰で休んでいた老馬・忌野清志子が、そのアリに向かって「頑張れ! 頑張れ!」と言わんばかりに鼻息をふんっと吹きかける。


挿絵(By みてみん)


 清志子の背には、いつものように古びた荷台が繋がれており、今日もまた――ビン子が一人でせっせと荷物を運んでいた。


 えっ⁉ タカト?

 タカトはどこに行ったのか?


 ぐるりと見渡してみると……いた!

 いたいた!

 道具屋の入り口の横で、雪崩を起こした荷物の下敷きになっていたwwww


 こいつ……おそらく、下の軽そうな荷物を取ろうとして、上の重いのを崩したんだな。

「たすけてくれぇぇぇ! ビン子ぉぉぉ! ヘルプゥゥゥゥゥ!」

 腕をバタバタさせて泣き叫んでいる。情けない。いや、マジで情けない。


 だからだろうか――権蔵もビン子も助けない。

 まるでアホでも見るような冷めた目で、その横をせっせと通り過ぎていく。


「もう……だめだ……」

 タカトの伸ばした手がピクンピクンと痙攣を起こし始めた。


 もしかして……これ、ほんとに死にそう?

 というか、上に乗ってるの……あれ、全部鉄製の防具と武具じゃね?

 あー、これ、確実に圧死コースだわwwww


「早く運べ!」

 権蔵がタカトの上に積み重なっていた防具をひょいと持ち上げると、足でタカトの頭を軽く小突いた。


 ドサッ。


 だが、時すでに遅し――。

 タカトの手が力尽き、だらりと地面に落ちた。


 ……が、やはり、誰も声をかけない。


 まるで何事もなかったかのように、権蔵はその重そうな防具を荷台へと運んでいく。

 そして、ドシン!

 荷馬車の車輪がギィーッと重い音を立て、荷台の板がシーソーのように傾きを変えた。


 その様子を――チラリと確認するタカト。


 おいおいおい……コイツ、死んだはずじゃなかったのかよwwww


――誰が死んだって? あほか! これは高等な作戦だ!


 そう、あえて「死にそうになる」ことで、きつい労務から逃れようという――

 タカトが必死に考えた(つもりの)作戦だったのだ。


――見ろ! 誰も、俺に荷物を運べと言わなかっただろうが! わははははは!


 ……いや、それ多分、権蔵もビン子も、ただあきれてるだけだからな。


 そんな勝ち誇ったタカトに、権蔵がぼそりと声をかけた。

「タカト、これは別件だ。これを金に換えてこい」


 荷物を運び終えた権蔵は、一度店の奥へと引っ込む。

 しばらくして戻ってきたその手には――小さな小瓶が握られていた。


挿絵(By みてみん)


 瓶の中では、青く光る液体がゆらゆらと揺れている。

 まるで今日の空のように、どこまでも澄み渡る青。


 それを見た瞬間――タカトの全身がピキーンと反応した。

 まるでドラクエの復活の呪文でも唱えたかのように、タカトは直立不動で立ち上がった!

 そして――猛ダッシュ!

 勢いのまま権蔵の手から小瓶をバシッと奪い取ったのである。


「お、おい! タカト!」


 そんな権蔵の制止など聞こえていない。

 タカトは興味津々、瞳をらんらんと輝かせながら、瓶の中をまじまじと覗き込んでいた。


「じいちゃん、これ何だ!? まじで何を融合したらこんな綺麗な色が出るんだよ!」

 道具おたくのタカトの興味はもうその液体に移っていた。


「それは、スライムから作った万能毒消しじゃ」

 権蔵は深いため息をつきながら、荷馬車の脇に腰を下ろした。

 そして、もう一度、タカトをにらみつける。

「いいか! タカト! それは絶対に盗まれるなよ。絶対に! 何度も言うが盗まれるなよ!」


 だが当のタカトは、まるで聞いていない。

「分かってるって」

 小瓶を空にかざして、光の加減で透ける液体を眺めている。まるで理科の実験に夢中な中学生のように。


 そんなタカトに苛立ったのか、権蔵は肩を怒らせて再び叫ぶ。

「もう一回いうぞ! それは絶対に盗まれるな! 分かったか!」


「俺を馬鹿扱いするなよ。大丈夫だって!」

 ようやく振り返ったタカトは、意味もなく胸を張る。その無邪気な表情が逆に不安を誘うのか、権蔵の眉間には深いシワが寄った。

「それ1個しかないんじゃぞ……タカト、お前……ほんまに分かっとンのか……」

「大丈夫、まっかせなさい!」


 胸を張るタカトと、心配で胃を痛めそうな権蔵を見比べるビン子。

 どうにもこの会話、引っかかる。

 権蔵がここまでしつこく言うなんて、珍しい。まるで――。


 そう、あの“鉄板コント”を思い出す。

 熱湯風呂の上で上島さんが「押すなよ! 絶対押すなよ!」と叫ぶあの瞬間。

 でもって隣の二人が、ニコニコ顔で背中を押す。

 つまり「押すな」は「押せ」。それが鉄のルール。


挿絵(By みてみん)


 であれば……。

 ――もう、じいちゃんも素直じゃないんだから。

 ビン子は口元を押さえて笑いながら、権蔵ににっこり向き直った。


「分かったわ。その毒消しはケイシーさんのコンビニに売りに行けばいいんでしょ?」

 ケイシーさんのコンビニとは、ビン子たちがよく食材を買いに行く馴染みの店である。

 そして、あの双子の姉妹――蘭華と蘭菊がアルバイトをしている店でもあった。


「そうじゃ。ようわかっとるの、ビン子。」

 権蔵は目尻を下げ、やっと安堵の表情を浮かべる。

 皺だらけの頬がほころび、どこか嬉しそうでもある。


 だが一方で――。

「あれ、あの店って……買取なんかしてたっけ?」

 まだ話の筋をまるで理解していない、ボケ顔のタカトであった。

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