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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第五部 第二章 第七駐屯地

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第582話 キメれン組 vs. 万命寺三兄弟


 コウケンは城門から駆け出していく一之祐を確認すると、膝で押さえつけていたガイヤの髪を力任せに鷲掴み引きずり上げた。

 ガイヤの毛根が悲鳴を上げブチブチと抜けていくが、その口からは一切、悲鳴が聞こえてこない。それどころか、逆にコウケンを小バカにするかのような乾いた笑い声をたてている。

 ケケケケケ


 その気色の悪い笑い声にコウケンは咄嗟にその手を放し距離を取った。

 本能的に何かがやばいと感じとったのだ。


 目の前に立つガイヤの目は緑色。

 確かに緑色は魔物の証である。


 だが、どこかコウケンが知っている魔物とは違っているのだ。


 本来、魔物という生き物は人間の生気に飢えている。

 人の脳や心臓に宿る生気には、魔物を魔人へと進化させる力があるからなのだ。

 そのため、低能な魔物ほど本能的に人の生気を欲するのである。


 しかし、ガイヤは目の前にコウケンという人間が立っているにもかかわらず、飢えた様子を全く見せない。

 もしかしたら彼が進化した魔人と同等の知識を有しているからなのだろうか。

 いわれてみれば確かに、コンサートまでの彼の行動を見ていれば、普通に人と会話をしていた。

 だが、賢いかと言われると、賢いとはいいがたい……どちらかというとおバカ?

 なら、もっと高次の知識を欲してもおかしくはない。

 それが魔物と言うもの……

 しかし、今のガイヤからは魔物特有の人の生気への渇望が全く感じられなかった。


 そんなガイヤが突然、耳を抑えて頭を振り始めた。

「聞こえるヤ……聞こえるヤ……また、聞こえるヤ……」


 その変化はガイヤだけではなかった

 マッシュ達もまた耳を抑えてもがき苦しみはじめていたのだ。

「コロスっすしゅ! コロスっすしゅ! だから……アダムやめるっシュ!」


 ――アダム?

 コウケンはその名をかつて聞いたことがあった。

 それは遠い昔、この融合国ができる以前の話。

 だがその神話では、アダムは大門の向こう側の世界で荒神爆発を起こし消え去ったという。

 いまさら、アダムがこの世に出てくるとは思えない。

 というか、なぜ、こいつらの口からアダムの名前がでてくるのだ?


 先ほどまで耳をふさぎ抗っていたキメれン組の動きが、今度はピタリと止まった。

 あれほど狂ったように首を振っていたのに、うつむき微動だにしない。

 その異様な変化はキメれン組の三人同時におこっていたのである。


「コウセン! コウテン! 油断するな!」

 明らかに先ほどまでとは気配が違う!

 コウケンは構える拳に力を込めた。


 ゆっくりとキメれン組たちの足が前に出る。

 それに呼応するかのように、三兄弟の足は後ずさった。


 ケケッ!

 うつむいていたガイヤが顔をいきなり上がったかと思うと、見開かれた目が大きくカクンと傾いた。

 いや、傾くと言ったレベルではない、ガイヤのその大きな顔面が首から90度に折れ曲がったのである。


 ケケッ!

 それを合図にするかのように、オレテガとマッシュの首も傾いた。

 そして、二人の体が、いきなりのトップスピードで地面の上を滑るかのように動き出したのである。

 しかも、二人の向かう方向はまるで正反対。ガイヤを中心にするかのように左右に分かれて走っていくではないか。


「オホホホホホホホ」

 気持ちの悪い笑い声を上げながらオレテガは建物の入り口を目指す。

「シュ! シュ! シュ! シュ!」

 まるで蒸気機関車のように手を回すマッシュは、城壁上部にのぼる階段を目指していた。


 それを見たコウケンは声を張り上げた。

「コウセン! コウテン! 奴らを逃がすな!」


 コウケンの直感が命じるのだ。

 今、奴らを自由にさせればこの駐屯地は大変なことになる。

 おそらく奴らは、ただ単に人を殺すことだけを目的にしている。そんな気がしてならないのだ。

 いや、目的としているかどうかすらも分からない。

 おそらく、あの状況から考えて、何かの声に反応し、ただやみくもに動いているだけなのかもしれない。

 だが、それは言い換えれば、満足することのない魔物。

 人を殺しても殺しても決して満足することのない脅威。

 ハッキリ言って、たちが悪すぎる。


 だが、コウケンは動けなかったのだ。

 というのも、コウケンの目の前にはいまだ、頭を傾けたガイヤが薄ら笑いを浮かべて立っているのだ。

 今コウケンが動けば、ガイヤはきっと周りの守備兵たちを襲うことだろう。

 キメれン組のリーダー格のガイヤがである。

 ――こいつだけは、私がココで抑える……

 コウケンはそんなガイヤの一挙手一投足に目を光らせ、この広場に足止めしようとしていたのである。


 コウケンの声に一瞬おくれるもコウセンとコウテンも走りだした。

 二人は、コウケンほどこのキメれン組の脅威を理解しているわけではなかった。

 だが、ここで奴らを抑えなければ、駐屯地が壊滅的なダメージを受けることだけは瞬時に理解できた。

 というのも、いまだ騒がしい駐屯地は倒れたモーブの事件に気を取られ、キメれン組の騒動にまで気が回っていないようなのだ。


 ――俺たちでやるしか!

 そんなコウセンはオレテガを追って建物の入り口へ。

 ――俺たちで何とかするっす!

 そしてコウテンはマッシュを追って城壁へと向かった。


 コウセンはオレテガの後を追って、かがり火に挟まれた建物入口へと駆け込んだ。

 入り口をくぐった先には荷馬車が二台ほど並んで通れるほどの廊下。

 そんな廊下の壁には、何本もの松明が間隔をあけて掲げられ、その床石を赤く照らしていた。

 しかし、床に描かれる光の斑点は廊下全体を照らすには少々弱かった。そのため、まっすぐ伸びている廊下の先では、赤き光は暗闇に溶け込みその輝きを失っていた。

 そんなうす暗い廊下は少しひんやりとした空気を漂よわせている。

 それは廊下そのものが常に暗いせいなのだろうか……それとも、コウセンが何か恐怖を感じているためなのだろうか……


 不安にかられたコウセンの走るスピードはしだいに落ちて、ついに歩みへと変わっていた。

 先ほどから嫌な感じがしてどうにもならないのだ。

 というのも今、走る廊下は一本道。なのに先に入ったオレテガの姿が全く見えないのである。


「あのオカマ……意外に早いな……」

 そんなに距離を離されたのだろうか……いやそんなはずはない。

 オレテガが走りだした後すぐに追いかけたのだ。

 走るスピードもほぼ互角。


 ――なら……なんであのオカマはいない……

 しかも、コウセンが歩く廊下は先ほどから何も音がしないのだ。

 異様なまでの無音がいっそう恐怖を掻き立てる。

 そんな廊下にコウセンの歩く足音だけが一つ響いていたのであった。


 そんな時、コウセンの足先に何かが触れた。

 とっさに床に目をやる。

 松明が落とす赤き光の輪の脇に大きな黒い塊が転がっていた。

 その塊はどうやら守備兵の体のようである。

 しかも、よくよくみるとその額には丸い穴がぽっかりとくりぬかれているではないか。


 そっと、つま先でその肩を小突いてみる。

 だが、彼は動かない。

 おそらく、その額の穴は後頭部にまで貫通しているのだろ。

 地に転がる頭の下からはいまだに血だまりが大きく広がり続けていたのである。


 コウセンは手を合わせ目をつぶった。

 きっと、この傷なら苦しむこともなく即死だったに違いない。

 その証拠に守備兵の表情は驚きのあまり大きく目を見開いたまま固まっていた。

 ――それだけが唯一の救いか……


 だが、よくよく見ると、転がる守備兵の体は一つだけではなかった。

 廊下の先には、同じようなむくろが10体いやそれ以上も転がっているではないか。


 ――もしかして、これはあのオカマがやったのか?

 いかに守備兵たちが気を逸らしていたとはいえ、これだけの数をいとも簡単に倒せるものなのか?

 普通、一人が襲われた時点で、他の者はオレテガの存在に気づくはずである。

 だが、どいつもこいつも同じように驚いた表情を浮かべ死んでいる。

 それはまるで、振り向いた瞬間、無音の空間から突然何かに襲われたかのよう。


 ふいにコウセンは何かに気づいた。

 廊下の奥からコウセンに向かって闇が近づいてきていたのだ。

 よく目を凝らして見るコウセン。

 どうやら、壁にかかった松明が次々と消えていっている。

 一体誰が消しているのだ?

 しかし、なぜだか、その姿が見えない。

 いや、コウセンには何か見えているのだが、はっきりと分からないのである。

 ぼやける輪郭が視認される前に消えていく。

 もしかしてこれは高速移動の残像なのか?

 いや違う……松明が消えていくテンポから考えて、それは歩くほどのスピード。

 どうやら、コウセンの視覚がオレテガを認識できていないのだ!


 そうこうするうち、ついにコウセンの目の前の松明が消えさった。

 ――ヤバイ!

 咄嗟に身をひるがえすコウセン。

 本能的に頭の位置をずらした。


 そんなコウセンの頬をピンク色の何かがかすめて過ぎていく。

 ――もしかして、これは奴の舌なのか⁉

 やっとオレテガの攻撃を認識することができたコウセンの頬には、一条の赤き線が浮き上がっていた。


「オホホホホホ」

 コウセンの背後で不気味な笑い声がこだまする。

 同時に、消えていく背後の松明。

 いつしか、コウセンの体は廊下の闇の中に包まれていた。


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