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⑤俺はハーレムを、ビシっ!……道具屋にならせていただきます1部4章~ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編  作者: ぺんぺん草のすけ
第一部 4章 ダンジョンで裏切られたけど、俺の人生ファーストキスはババアでした!~美女の香りにむせカエル!編

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タカトのファーストKISS♡

 ミズイの体は小刻みに震えていた。

「くっ……」

 唇を硬くかみしめる。


 目の前の得体のしれない魔物への恐怖――それだけではない。

 ミズイはすでに体内の生気を使い果たしていたのだ。

 全身を激痛が襲う。まるで体中にひびが走り、崩れ落ちていくような感覚。

 少しでも気を緩めれば、すぐに意識を手放してしまいそうだった。

 そして、自分が自分でなくなった瞬間、荒神爆発が訪れるのだろう。


 その目はすでに赤黒く染まりきっていた。

 本来、神の瞳は金色に輝く。

 だが生気が枯渇すれば、その輝きは濁り、赤へと変わる。

 その果てにあるのは、周囲を巻き込む大爆発――荒神爆発である。


 かつてのミズイは、爆発を避けるため、生気を失うたび肉体を老化させてきた。

 だが今は、目の前の敵を滅ぼすためにあまりにも急速に生気を消費し、老化でカバーする余裕すらなかった。


 ――ここまでか……。


 この大空洞は、かつてミズイと共に暮らした神アリューシャが、荒神爆発を起こした場所。

 その同じ場所で、ミズイもまた爆発の縁に立たされていた。


 ふらつくミズイは、背後のタカトに必死に呼びかけた。

「おい……そのスライムを連れて、早くここを離れろ……」


 だがタカトは耳が追いつかないらしい。

「離れろって、じゃあお前はどうするんだよ?」


 ミズイは得体の知れない魔物を睨みつけ、鼻で笑った。

「知れておるわ……あの魔物を、徹底的に滅するだけよ!」


「いやいや、一緒に逃げればいいだろ!」


「この魔物が、そう簡単に我らを見逃すと思うているのか……」

 大空洞の出口は、クロダイショウの死骸で作られた壁と化していた。

 どうやら魔物は、この大空洞にタカトとミズイを閉じ込めるつもりらしい。


「私の残る力で、あの壁を打ち破る。その隙に、お前はそのスライムを連れて走れ──」


「だから言ってるだろ! その後お前はどうするんだよ!」


「だから言うておるだろうが! あの魔物を完全に滅する、と!」


「違うだろうが! その目! ミズイ、お前……荒神爆発を起こすつもりだろうが!」


「ぐっ!」


 その言葉に、ミズイの顔が一瞬揺れた。

 真意を見抜かれたのだ。もはや、この生気が枯渇した肉体は長くは保てない──そう彼女もわかっていた。

 ならば、せめて道連れにしてやろう。そう思っていたのだ。


 だが、胸の奥に引っかかるものがあった──アリューシャ、あのスライムのことだ。

 離れ離れになって以来、力不足の自分を責め続けてきた。

 もっと早く気づいていれば。もっと賢ければ。あのふたりは失われなかったかもしれない。

 そして、アリューシャがスライムになることも、避けられたかもしれなかったのだ。


 それでも──今、目の前にいるこの小さな存在が、仮にアリューシャの成れの果てだとしても、そこに在るという事実。

 ――やっと見つけた。アリューシャ……。


 ミズイにとって、それは言葉に尽くせぬ喜びだった。

 死を前にした今、彼女の願いはただ一つ。

 ――せめて、アリューシャだけは、生き延びてほしい。


 魔物の攻撃は苛烈を極めていた。

「お前はあの時、鶏蜘蛛を連れて行った神かぁぁぁあ! クソ! 死ねシコォォオオオ!」


 黒焦げの口から滴る粘液が、焼けただれた岩盤をじゅうじゅうと溶かす。

 直後、蜘蛛の足が叩きつけられ、洞窟が地鳴りのごとく震えた。

 その混乱に乗じて、糸に操られたクロダイショウの骸が押し寄せる。――まるで死者の軍勢だ。


 魔物は苛立っていた。

 人間の生気を食らおうと戻ってきてみれば、待ち受けていたのは神。

 しかも、よりにもよって――忌々しいあの神シコぉ!


 蜘蛛の体に猿の上半身を持つ魔物、その名は猿蜘蛛(制圧指標50)。

 かつて“6つ子忍者戦隊ガッチャマンボゥ”の一体、シコマッチョ5の成れの果てである。


 あの時――アダムが東京に姿を現す直前。

 シコマッチョ5は最後の術を放った。

『6つ子忍法! リゼロノスバル!』

 

 だが、その直後に降り注いだ高斗のレールガンにより、“ガッチャマンボゥ”は全滅。……したはずだった。

 けれどシコマッチョ5は死に戻った。受精卵の状態で。


 卵はアダムが解放した大門を漂い、魔人世界へと還る。

 そして長い年月をかけ、猿蜘蛛へと進化した。


 だが、唯一の雌“ジュウシマッチョ4”はすでに死んでいた。

 代わりを求め、見つけたのが鶏蜘蛛だった。

 もし進化を遂げれば――「ニワトリマッチョ7」となり、夜な夜なあんな交尾やこんな交尾ができたはず。

 もう自分でシコシコマッチョする必要もなくなる。そう夢見ていた。


 それを奪ったのが、今目の前にいる女神ミズイ。

 鶏蜘蛛を聖人世界へ連れ出した張本人だった。


 ――絶対に許さないシコぉ!


 欲求不満にも似た渇望と怒りが、ミズイへと突き立てられる。

「死ねぇぇぇ! シコぉおおおおお!」


 咆哮とともに振り下ろされる牙と爪。

 その殺意をまともに受け止めるのは、他ならぬ女神ミズイだった。


 牙の雨、爪の嵐。

 一撃ごとに、金色の神の盾がかろうじて防ぎ続ける。

 だが、その輝きはすでに揺らぎ、乱れた映像のように輪郭を失っていく。

 ついにミズイの皮膚も切り裂かれ、血がにじみ始めていた。


「ぐっ……まだだ……!」

 全身を蝕む痛みに耐え、ミズイは最後の力を振り絞って詠唱する。

「未来鑑定! オープン!」

 瞬間、出口を覆っていた死骸の壁が閃光に弾け飛ぶ。

 わずかに、逃げ道となる隙間が開いた。


「行けっ! 今のうちに!」

 振り絞った声は、もはや掠れていた。

 生気は枯渇し、瞳は深紅に濁りきっている。

 荒神爆発はもう目前――ミズイはそれを覚悟していた。


 だが、背後から返ってきたのは予想もしない声だった。

「ふざけんな……俺は逃げない!」


 次の瞬間、タカトは血煙の中で彼女の肩を力強く抱き寄せた。

「な、何を――」

 言葉を継ぐ間もなく、唇を重ねられる。


 衝撃。

 荒ぶる生気が、一気に彼の身体から流れ込んできた。

 熱い。甘い。苦しいほどに真っ直ぐで……優しい。


「……っ!」

 ミズイの心臓が暴れる。

 止まるはずだった鼓動が、狂おしいまでに高鳴る。

 胸の奥から溢れる感情は、もう抑えきれなかった。


 ――な、なにをしておるのだ……! 馬鹿者が……! こんな……こんなことをされてしまったら……!


 荒神爆発に向かっていた力が、タカトの生気によって静められていく。

 しかし同時に、彼の体は急速に冷えていった。

 生気を根こそぎ奪われ、タカトの瞳から光が失われていく。


「やめよ! これ以上は……! 早く万気吸収で命の石から生気を吸収しろ! さもないと、本当に死んでしまうぞ!」

 必死に口を離そうとするが、タカトの腕は強く彼女を抱きしめたまま離さない。

 少しでも多く。少しでも早く。

 目の前の彼女に、自分の生気をすべて注ぎ込もうとしているのだ。


 その姿に、ミズイの胸は引き裂かれるように痛んだ。


 ――なぜだ……なぜお前はそこまで……!


 生涯で初めて、己の存在すべてを揺さぶるものに出会ってしまった。

 それが、ミズイにとってのタカトだった。

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