たぶん……それ、ゾンビじゃないんじゃないwww
タカトは勢いよくハンマーを振り上げた!
どうやら、このハンマーで目の前のクロダイショウの頭をゴツンとやるつもりなのだ!
「ゾンビ撃退! 南無阿弥陀仏!」
……って、そのハンマー、どこから出てきたんや!?
知らんのか!
タカトのズボンのポケットには、金はないが道具がぎっしり詰まっている!
お菓子の食べかすや、使用済みティッシュなんかも一緒にね!
ちなみにこのハンマー、極め匠印「頑固おやじ」シリーズの高級品!
お値段なんと――大銀貨三枚(3万円)だぁぁぁ!
そんな高級ハンマーで蛇の頭を次々どつくもんだから、頭はパン!パン!と弾け飛ぶ!
その様子はまるでモグラ叩き……いや、ワニワニパニックに挑む作者そのもの!
ワニワニパニックを前にした作者は、家族から「宮本武蔵」と恐れられていたものだ。
そう!何を隠そう、ハンマー二刀流!
右手のハンマーと左手で、ワニの頭を同時に叩きまくる!
叩き出される得点は――最高52点!
もはや小学生の子供以下である!
だが、迫りくる頭たちは容赦なく悲鳴を上げる!
「ひでぶ!」
「あべし!」
「いしばし!」
「にかいし!」
そして、満を持して言ってやるのだ――
「お前はもう! 死んでいる!」
瞬間! 飛び散るクロダイショウの肉片! 撒き散るオオヒャクテの魔血!
もう、タカトが握るハンマーの取っ手まで血脂でべっとり……。
おそらく、その汚れは少々洗ったくらいでは落ちることはないだろう。
なんかもう……呪われそうだ。
もし家に帰って深夜に道具作りを始めたりしたら――
『まだ逝けぬ……』
血まみれのハンマーから、変な声が聞こえてくるかもしれない。
夜な夜な……机に向かうタカトの目の前で、赤紫の血脂からクロダイショウの怨念が蛇頭をもたげる!
『まだ逝けぬ……昇天にはまだ早い……!』
チロチロと舌を出しながら、タカトをにらみつけてくるのだ。
当然、ビビったタカトは
「ひぃぃいぃっぃぃい!」
と体を震わせることだろう。
そして必死に成仏させようと、亀頭をなで始める。
「あぁ~昇天してくれぇぇ! 頼むから昇天してくれぇぇ!」
やがて――ピクンッ、と成仏!
亀の口から吐き出された白い魂が、天に昇っていく……どぴゅ!
残されたのは、除霊に疲れ果て、賢者モードに入ったタカト。
こんなことが毎夜続いたら、道具作りどころじゃない!
(ていうか、いつものタカトじゃない! byビン子)
――というわけで。
これ以上ハンマーで叩くのは、もうやめたほうがいいと思うんだ……。
「というか、数が多すぎて叩ききれねぇぇんじゃぁぁぁぁ!」
タカトは、即座に音を上げた。
だが、そうはいってもクロダイショウの群れは容赦なく詰め寄ってくる。
しかも、頭を潰されたはずのやつらが、いまだに這い続けているのだ。
「ひぃぃいぃっぃぃい! こいつらゾンビじゃないのかよ!」
――本来なら「頭を潰せば止まる」はお約束だが、それを証明する学術論文なんて、まず見かけない。
いや、もしかしたら作者が知らないだけで、どこかにあるのかもしれない。
知っている人は、ぜひ一報を。お願いします(ガチで)。
今はそんなメタ話をしている場合ではない。タカトの脳内『ほしの本棚』がまたしてもガタゴトと動き出す。
ページがはためき、資料が飛び出し、棚が一丁前に忙しくなる。
――条件追加!
「頭をつぶしても死なないゾンビ!」
そして、ついにタカトの手に一冊の本が残った!
さすが『ほしの本棚』! フィリップじゃなくてもできたじゃん!
タカトは早速、その本のページをめくる。
『ほしの本棚』が導き出した検索結果!
それは――
『たぶん……それ、ゾンビじゃないんじゃないwww』
だったwww
……って、はぁぁぁあ!? なんじゃそれ!
「ゾンビじゃないって、どういうことだよ!」
タカトの大声が、大空洞の中に響き渡った。
だが、その声にミズイの耳がピクンッと反応した。
――もしかして――こいつらは……操物!
ゾンビではない、何者かの手によって操られているのではないか……
そう考えると、首が無くても、体が切断されても動くことに合点がいく。
ミズイの胸から吐き出された白い息が、天井に向かって昇っていく……ドクンッ!
疲れ果てたとはいえ、賢者モードに入ったミズイの視線が洞穴の天井に突き刺さった。
そこには微かな気配――まるで、獲物を狩る狩人が、こちらに気づかれまいと、息を潜めていた。
ミズイは迷わず、残された力のすべてを指に込め、天に向かって手を突き上げた。
指先が弾かれ、冷たい空気が裂けるように響く。
「未来鑑定! オープン!」
瞬間――洞穴に雷鳴のごとき轟音が轟き、岩陰に潜んでいた影が慄く。
タロットカード――「タワー」が光を帯び、空を切り裂き天井の敵に直撃した。
岩を砕き、魔物が打ち落とされる――ミズイの全力が炸裂した一撃だった。
胸が張り裂けそうな緊張に包まれる。
「……やったか……」
もう、ミズイの体に残る生気はない。
先ほどの攻撃が、すべてだった。
崩れ落ちる黒い影、焦げた匂いが洞穴に充満し、一瞬の静寂が訪れる。
これで終わり――そう思われた。
しかし、次の瞬間、焦げた影が微かに震えた。
蜘蛛の胴体から不自然に伸びる無数の足、猿のような上半身――異形の魔物が、黒焦げの体を不気味にうごめかせはじめた。
かつてオオボラやビン子を追いかけた“あの魔物”だ。
小門の入り口で真音子のクナイに阻まれ、いつのまにか大空洞の天井へと引き返してきていたようである。
そして今、死んだはずのクロダイショウたちを糸で操り、タカトを狙って牙をむいていた。
微かに光る猿の緑の瞳が、鋭くタカトを射抜く。
蜘蛛の足が地面を擦り、焦げた体から立ち上る匂い――煙と血が混ざった生々しい香りが洞穴中に漂う。
「痛いしこぉおおおおお……痛いしこぉおおおおお……」
呻き声が黒焦げの体を揺らし、糸に操られたクロダイショウたちは死者の群れのように、魔物の意思に従って動き続ける。
ミズイは全身の力を振り絞り、わずかな余力で次の一手を探す。
しかし眼前に立ちはだかる異形――蜘蛛の胴体と猿の上半身を持つ黒影――は、まるで絶望そのものだった。




