死んだな……
プぎゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!
そんな時、砂煙の中から女の子の泣き声が響き渡った。
それは紛れもない真音子の泣き声。
座久夜は、真っ赤に泣きはらした目をはっと上げた。
そして、今一度、真下の地面をのぞき込む。
明け方のうっすらとした闇の中に漂う砂塵が、徐々に晴れていく。
その中には一つの人影……
いや、一塊の人影が見て取れた。
それは白目をむいて転がるタカトと、その上で泣く真音子の姿であった。
オッサンの手から真音子の体が落ち始めた瞬間。
タカトは手に持つ女医棒を咄嗟に投げ捨てた。
そして、ビン子からひったくっていたカバンへと手を突っ込んだのである。
――あれがあるはず!
目的の道具を取り出したかと思うと勢いよく振りぬいた。
いきなり巻き起こった突風がビン子の長い黒髪を巻き上げた。
巻き上げられた小石が次々とビン子の頬を打つ。
咄嗟に目を背け髪を押さえたビン子は、その突風に必死に耐えた。
しばらく後、舞い上がった髪が、ゆっくりと額の上へと舞い戻ってきた。
――一体何が起こったの?
静かに目を開けたビン子の前には、先ほどまでいたはずのタカトの姿はすでになかった。
タカトの体は風になっていた。
いや、ものすごいスピードで移動していたのである。
というより、飛んでいたという方が適当か。
両手に持つ団扇から発せられた膨大な風力エネルギー。
そのエネルギーがタカトの体を音速の領域まで導いていた。
タカトが振るったのは2枚の団扇。
そう、この団扇こそタカトが女子学生のスカートをめくるために開発した『スカートまくりま扇』そのもの!
えっ!何? スカートをめくるだけの団扇にそんな威力があるはずがないと……
だけどね知ってた?
アルテラ専用の2.5世代の魔装装甲「アルテミス」のタービンに使われているのもこの『スカートまくりま扇』の技術なんだよ。
あの重い魔装装甲を瞬時に移動させ飛行させるだけの馬力。
貧弱なタカトぐらい、簡単に吹き飛ばすことなどわけないわ!
ワっハハハハ
って、なんで、タカトの技術がアルテラの魔装装甲に使われているのかだって?
もう、細かいなあ……それはね、実はこの過去編のお話しで分かるんですよ!
あっ! ネタバレしてもうた! しゃべりすぎ! しゃべりすぎ!
という事で、現場のタカト君! お願いしやぁ~す!
タカトは、再度、二枚の団扇を思いっきり振りぬく。
団扇から発せられた荒れ狂う風が、タカトの体をさらに押し出し加速させていく。
荒れ狂う乱気流の中、タカトの体は矢のようにまっすぐに飛んでいた。
これこそ『スカート覗きマッスル君』のなせる技!
どんな無理な体勢からも、コケることなくスカートの中を覗くことができる姿勢制御の優れもの!
『スカート覗きマッスル君』が、飛翔するタカトを真音子の元までまっすぐに導いてくれていたのだ。
あと少し!
タカトは正面に落ちてくる真音子の姿を捉えた。
落下する真音子の瞳から朝日に照らされる涙がキラキラと光ながら天に昇っていく。
その小さき手と足が凧の足のようにブルブルと震え真音子の体に引きずられて落ちていく。
そして、真音子の落下速度はどんどんと増していた。
この城壁の高さは四階建て。
そんな高さから落ちれば、最悪、頭が砕けて死んでしまうだろう。
いや、運良く死ななくとも骨はくだけ後遺症が残る体になりかねない。
だが、落下していく真音子にはなすべもないのだ。
迫りくる地面。
地面衝突まであと数秒!
いや、コンマ何秒の世界なのかもしれない。
タカトは叫ぶ!
「今度こそ! 届けえぇぇぇぇぇ!」
体をねじるタカト。
空を見上げるように反転したタカトの体が地面すれすれを飛んでいく。
地面との差は、わずか数センチ!
上向くタカトの視界に、真音子の姿が大きく見えた。
頭から落ちてくる真音子はまるで人形のように動かない。
いや、動けない。
真音子と地面の間に滑り込むタカトの体。
「とっ! とったどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
真音子をキャッチしたタカトは己が体で真音子を守るかのように丸めた。
だが、そこは地面すれすれの世界。
体を丸めた際に突き出されたケツが、当然、地面を激しくこすった。
――ぎょぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!
あまりの激痛!
悲鳴を通り越して声すら出ない。
高速移動をしていたタカトの体。
そんなタカトのケツと地面との間に巨大な摩擦抵抗が生まれたのだ
そこから発せられるエネルギーは、リンが駆け出すときの蹴り込み以上!
リンの蹴り込みのエネルギーすら制御できなかった『スカート覗きマッスル君』では、この摩擦抵抗に抗うことはまずもって不可能である。
当然、タカトの体は制御を失い激しく回転し始めた。
だが、タカトの移動スピードは全く落ちない。
たかがケツをこすったぐらいでは、その動きが当然止まる訳はないのである。
まぁ、タカト自身も咄嗟に団扇を振ったため、止まるときのことまでは考えていなかったのだから仕方ないといえば仕方ない。
地面をこすったことで若干スピードは落ちたとはいえ、それでも、現在もまだ高速移動中。
しかも、すぐ目の前には城壁の固い壁がそそり立っているわけですよ。
もう……書かなくても分かるよね……
どシーン!
激しい衝撃音が鳴り響いた。
激しく立ち昇る砂煙。
おそらく、あれは……死んだな……




